【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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136 裁縫用の直針と絹糸で素人が血管縫合を…?

 

 緑谷の震えるような叫び声。

 全域に響いただろう、自分の位置を自ら知らせるかのような行為───だが、その声色が尋常ではない。

 何かあった。俺は訓練レベルの思考から、実戦レベルの思考に一気に切り替える。

 瞬時に緑谷に向けてワープを発動。一瞬で緑谷との距離をゼロにした。

 

 そこには。

 

「カッ……情け、ねぇッ……!!」

「出血性ショックが起きかねない出血量だ……!!」

「かっちゃん!! しっかりして!!」

 

 おびただしい出血が腕から見られる爆豪ちゃんと、それを必死に止める真堂パイセンと、緑谷と。そのチームメンバーたちが周囲にいて。

 余りの光景に一瞬、くらりとくるが……トラウマは克服してるんだ。

 目の前のダチがヤバいのに倒れてられるか。

 俺はすぐに倒れている爆豪ちゃんの元にしゃがみ込み、ウォールハックで鮮明に見える出血点……動脈だ。上腕動脈。一番太い血管だ。そこを素手で抑える。

 まず出血を止めなければ。しかしこれは……とんでもない重傷だ。

 

『緊急事態発生!! 爆豪が重傷、大量出血!! 訓練中止!! 百ちゃん大至急来て!! 倒壊ゾーンにいる!! 運べる人は運んで!!!』

『こっちでも確認した!! リカバリーガールをすぐに呼ぶ、幾野は応急処置を!!』

 

 USJ全域にわたる様に俺はテレパシーで訓練中止を提言。同時に百ちゃんを呼び出した。先生たちも映像でその様子を見ていたようで、続いてUSJ全体のアナウンスが流れた。

 出血が多すぎる。リカバリーガールに治してもらうにせよ、血液を補充する必要があるだろう。

 百ちゃんなら輸血用の血液も創造できる。この……吹き飛んだように損壊した肉片、血管も創造して埋め込めるかもしれない。でも火傷も伴った広範囲の挫滅創だからな。この場でのそれは厳しいかもしれない。

 ひとまずこれ以上の出血がないように太い血管を片手で圧迫し、俺はもう片手で腰のバックパックに入れてる医療器具を取り出して応急処置を続けながら、事情を聴く。

 

「どうしてこうなった! こんなダメージ……自爆か!?」

「俺と緑谷のコンビで爆豪と戦ってた。俺が隙ついて振動をぶつけて……その後緑谷がパワーで攻めたんだが……」

「かっちゃんが僕を警戒してオーバーフロウで対抗したんだけど……爆発の火力をミスったのか、二の腕から爆発させた衝撃で腕が吹き飛んで爆ぜちゃったんだ!!」

「マジかよそんな素振りなかっただろうが爆豪ちゃんよ……!!」

 

 とりあえず医療用カンシで出血してる太い血管は全部抑え、肩に近い二の腕の止血点を圧迫してこれ以上の出血は抑えたが……吹き飛んだ範囲が広すぎる。血管を縫合できない。肘関節まで挫傷している。

 そもそも血管縫合なんてプロの医者の領域。リカバリーガールしかできない。大雨の中で初見で縫い針使ってやるような高校生はこの世界には存在しない。

 爆豪ちゃんの意識はもうなくなっている。それほどの出血量だ。

 迅速な輸血が必要だ……しかしこの広範囲の腕の損傷。

 筋肉も関節もかなりヤバい……リカバリーガールの治癒でも完治するだろうか。運動機能に障害が残るかも……

 

「レシプロバースト……!! 待たせた!!」

「センさん!! 先程のテレパシーで事情は把握しています!! 輸血パックを複数準備しました!!」

「助かる!! 腕と脚から輸血して!! 血圧計もよろしく!!」

「はい!! ……っ、挫滅創が火傷して……すみません、この場での安易な創造での治療は困難ですわ! 神経障害が残るかも……!」

「やっぱりか……いや、とりあえず今は出血止めて輸血を! 血が足りれば出血性ショックは抑えられる!」

 

 そこで飯田のレシプロで超スピードで運ばれてきた百ちゃんが応急処置に当たってくれる。

 俺と一緒に医学知識勉強してたもんね。百ちゃんは既に知識量なら医師にも負けない。

 血管に針を通して輸血も開始。血圧計で血圧も見ながら輸血を続けると、徐々に爆豪ちゃんの顔色がよくなっていった。

 最悪の事態、命……という点ではもう心配はないだろう。

 あとはリカバリーガールを待つ。腕の損傷だけが不安だが……と、そこでさらに増援が。

 

「幾野!! 爆豪は無事か!?」

「先生!! 命の危機は脱したと思います、けど傷が深い……火傷もある。広範囲の挫滅創です!」

「筋肉の損傷が深すぎますわ。普段の爆発でもここまでは……!」

「……多分、俺の振動のせいだ。俺の振動は叩き込んだ後に筋肉をほぐして力が入らなくなる効果がある。筋肉が緩んでる中で爆豪くんが負荷のかかる爆発をしたからコントロールが利かなくなって……クソッ!!!」

「自分を責めんな真堂、アンタのせいじゃない。事故だ」

 

 捕縛布でぶっ飛んできた相澤先生と、続いてミスジョーク。士傑高校の先生もやってきた。

 13号先生はリカバリーガールを呼んでるということで、飯田がそれを迎えに走っていた。少しだけかつての襲撃事件の時を思い出す。

 真堂先輩が原因について心当たりを零すが……もちろん悪意のあったそれじゃない。爆豪ちゃんも振動でそこまで筋肉が緩んでたのに気づかずオーバーフロウを使っちまったところもあるしな。誰が悪いって話でもない、事故だ。

 容体は安定してきたが、しかしリカバリーガールが来るまで時間が無限に思われるような。周囲に集まったクラスのみんなも他校のみんなも心配そうに様子を眺めて。

 

 しかし、そこに最後に現れた二人が。

 

「イグジストお姉さん!! バクゴーお兄ちゃん、私が助ける!!」

「っ、エリちゃん……!?」

「私が連れて来た。どうしてもと言って聞かなくてね……相澤くん。君も幾野くんもいる……任せてみてはどうかな」

「マジで言ってますかオールマイト。エリちゃんはまだ7歳です、命を背負えるほどは……」

「やる!!」

「っ……エリちゃん」

「ショータお兄さん、私がバクゴーお兄ちゃんを助けたいの!! れんしゅうもしたの、こういう時のためなの!! 私、やれる!!」

「エリちゃん……」

 

 オールマイトが連れてきたエリちゃんが、自分の個性で爆豪を治すと。そう言って聞かなかった。

 確かにここにはイレイザーヘッドも俺もいる。万が一暴走しても何とか出来るメンバーは揃っている。

 肉体の治癒能力を高めるリカバリーガールとは違い、エリちゃんは巻き戻す個性だ。今の爆豪ちゃんより重傷だった相澤先生を治してることからも、適切な巻き戻し時間ならば完治させることも出来るだろう。

 しかし爆豪ちゃんは若い。今の相澤先生のように巻き戻し過ぎたら万が一もある。

 

 でも、エリちゃんは既に決意を固めていた。

 俺たちが何て言ってもやりとげるであろう、どこまでも純粋に誰かを助けたいという意志がその両目になみなみと映っていて。

 個性の蓄えを示すエリちゃんの額のツノも……その意志に呼応するかのようにぐぐっと伸びた。個性のコントロールができている証拠だ。

 

 ……人を助けたいという強い意志。

 まるでヒーローのような眼差しを、エリちゃんは見せていた。

 

「……先生、僕からもお願いします。かっちゃんをエリちゃんに治させてあげてください! 今のエリちゃんならきっと……!!」

「先生……!!」

「……………………幾野以外は離れろ。プロヒーロー・イレイザーヘッドの名に於いてこの場でのエリちゃんの個性使用を許可する。エリちゃん、君に任せる。すこしだけでいい、爆豪の体を巻き戻して……治してやってくれ」

「っ、うん!!!」

 

 相澤先生もその眼差しに決心したようで、その号令で周囲の生徒が爆豪ちゃんから距離を取る。

 倒れた爆豪ちゃんと、個性無視できる俺と、そしてエリちゃんだけが残り……爆豪ちゃんの腕にエリちゃんがその手を重ねる。

 血まみれの、夥しい場面だが……その恐怖をエリちゃんは強い意志で呑み込み、手は震えることなく。

 その目にはただ人を救う崇高な光があって。

 

「……やれる。バクゴーお兄ちゃん……!!」

 

 エリちゃんが個性を発動。

 かつて八斎會の事件の時に見たような全身からの発光はなく、その手に光が生まれて……それが爆豪ちゃんの体全体に広がる。

 見る見るうちに挫滅創が修復されて行く。それに合わせて俺が止血用に使ってたカンシ類に無視を通して、修復を阻害しないようにして。

 そして腕が見事に元通りに治った瞬間に……エリちゃん自身の意志で個性は閉じられて、角が僅かに短くなった。

 相澤先生もいつでも抹消を放てるように準備していたが、その必要はなかった。

 俺はウォールハックをダイブセンサーに通して精密調査を実施。

 

 ……爆豪ちゃんのバイタル、オールグリーン。

 腕部の怪我もきれいさっぱり無くなって。

 今朝の元気な爆豪ちゃんの体に戻っていた。

 

「……バイタルオールグリーン!! 完治してる!! すごいよエリちゃん!!」

「成功か……!!」

「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

「や、った……!!」

 

 成功だ。

 俺がそれを告げたところで大歓声。小さな天使に喝采が送られる。

 慈愛の奇跡を成した天使はそれで安心したのか、すっと目を閉じて眠ってしまったが……こっちもバイタル問題なし。熱もないから、極限の緊張が解けたせいでってところだろう。

 それを相澤先生が優しく抱きとめてその頭を撫でていた。

 ……ロリコン発症したか?

 なんてね。そんくらい茶化せる思考が出てくるくらいには俺も落ち着いたよ。いやマジでよくやったよエリちゃん。肝が冷えたわ。

 

「……ん、む……こりゃァ……」

「お、起きたか爆豪ちゃん。よかったなエリちゃんがいてよ。バッチリ治してもらってるぜ」

「幾野……っ、そうか、ジャリガキがあの怪我治したんか……チッ。悪ィ、面倒かけちまった」

「一先ずは安静にしていろ。精密検査も必要だ、リカバリーガールが来たらお前は病院へ行け」

「ウス」

 

 爆豪ちゃんも意識が戻った。血液も輸血してたし、出血性ショックが疑われたけどそれすら巻き戻されてるわけだしな。相変らずバイタルは全くのオールグリーン。さっき自分がケガしてることも覚えてて記憶の欠損もないし……問題ないと思いたいね。

 エリちゃんの活躍で、こうして唐突な事件は無事の解決を迎えたってわけだ。

 

 


 

 

 その後の顛末。

 

 まず爆豪ちゃんは病院で検査した結果まったく問題なかったって。若返りも起きてない。鍛えた個性も磨いた肉体もそのまま。

 1日くらい巻き戻ったって感じなのかな。エリちゃんが個性のコントロールができるようになってる証だ。

 エリちゃんが個性の訓練を始めてから、凄まじい伸びを見せている。特にここ最近は与えられた課題をすごい勢いでこなしてたけど……何かきっかけがあったのかな。でもコントロールが出来るようになってるのはいい事だ。

 エリちゃんの方も問題なし。ツノが伸びてたのもその後個性訓練の中で落ち着いて縮められるようになってたし。マジで第二のリカバリーガール爆誕の日も近いぞコレ。

 

 で、バトロワ訓練の方は少しインターバルを空けてから爆豪ちゃんを抜いて再開、その後も密度のある訓練を行えた。

 無事に回復した結果があってこそではあるが、急な重傷者が出た時のバイスタンダーとしての経験も積めた。周りに助けを求めた緑谷、第一応急処置した真堂パイセン、第二応急処置した俺と第三の百ちゃん、および百ちゃんを連れて来た飯田あたりはそこも評価されて。

 これだけの事故が起きても訓練続けるのかと他校の生徒は驚いてたけど、入学翌日の戦闘訓練で腕バッキバキのボッキボキにした緑谷がいてもその後訓練してた学校だからねウチは。慣れたもんよ。

 まぁお互いにいい経験を積めました。今後もチームアップする機会もあるだろうし、仲良くしていきたいね。

 

 さて、そして爆豪ちゃん。

 オーバーフロウについては特段禁止を言い渡されたりはしなかった。まぁこの辺もな。体ブッ壊しかねない力の使用を禁じられなかった先駆者(緑谷)がいるし。俺や轟もそういう時期あったし。

 爆豪ちゃん自身も自分の体がケガや疲労でダメージある時はオーバーフロウが使えないってのも自分で理解したし、相澤先生もその辺を注意しつつコントロールできるようになれっていう話で済ませた。

 今後は放課後訓練の時には必ず誰かが付き添うようにケアをして、その上でもっと効率よく危険なく爆破出来るように鍛錬を積むって話だ。

 

 最後に。

 

「よォ、()()。……面倒かけたな」

「あ、バクゴーお兄ちゃん! もう腕、へいき?」

「アァ。……助けられた。この借りはいつか必ず返す。テメェのために一回は俺のタマ使ってやる」

「……? ん、んー……?」

「爆豪ちゃん。エリちゃん7歳ぞ。もっとわかりやすく伝えたまえ」

「チッ、わぁったよ…………ありがとよ、小さなヒーロー」

「ん! どーいたしまして!!」

 

 俺が付き添って職員寮に来たツンデレが、小さな天使にデレ発揮してたってさ。

 

 

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