【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
今日も平和なA組寮。
共用スペースでは授業を終えたみんながのんびり夕方の時間を過ごしていた。
午後の授業のヒーロー訓練って内容次第では早く終わる事とかもあって、放課後訓練してもまだ時間ある日もあるのよね。
毎日頑張り続けても大変ですし。こういう軽い息抜きDAYはとても大切。
「こないだの他校合同訓練のレポート終わらねぇ~……」
「そろそろ一週間経つだろ上鳴。まだ終わってなかったんか」
「インターンでの書類もそうだけど俺何か書くのが苦手過ぎるわ……助けてイクえもん!」
「はいはい。後でなんか奢れな」
レポート課題に苦労してた上鳴に手伝いをお願いされ、思考の言語化が苦手な上鳴がスムーズにコメント書けるようにコツなど教えてると……上鳴がガリガリとレポート書いてる机の上にふと気になるモノを見つけた。
「……なぁ、この映像ディスク……上鳴のか? なに、エロ動画でも入ってる?」
「んぁ? いや俺のじゃねーよ?」
「それ、さっきB組から送られてきたんだよ。中が何なのか知らないんだけど……」
緑谷が話に入ってきて、どうやらさっきB組から貰ったディスクだったと。
ふーん。なんやろ。
「とりま再生してみるか」
「エロ動画の可能性あるな」
「B組でそういう事する人はいないんじゃないかな……」
レポートの休憩がてらそのディスクを再生してみる。
切島とか他のクラスメイトもなんだなんだと集まってテレビを見る。
再生ボタンを押して映像を映すと、そこには。
まず、今の時代にほぼ消失した砂嵐から始まって。
画質の悪い映像……森の中で、なんか、暗くて、井戸みたいなものがあって……
そこから手が見えたと思ったら……ずるずると、中から何か、人みたいな影、が……
「にゃあああああああああああ!?!?」
「幾野くん!?」
「抱きしめるなァァァ!??!」
「メス声悲鳴ッ!!」
ホラービデオじゃねーか!!!
やだぁ!! 俺こういうの駄目なのぉ!!!
思わず恐怖で叫んでしまい、近くにいた上鳴に抱き着いてしまった。
その影響で上鳴の脳が破壊され近くにいた緑谷と切島の耳と脳も破壊してしまったが……なんだよこれぇ!!
嫌がらせかよぉB組がよぉ!!!
「幾野のリアクションの方がホラーだった」
「A組だから耐えられた……A組以外では恐らく耐えられなかっただろう」
「センちゃん、大丈夫ー!?」
「センさん、落ち着いてください。大丈夫です」
「透ちゃぁぁん……!! 百ちゃぁぁぁん……!!」
「イクノはマジでホラー駄目だからなぁ」
「ケロ。C組の心霊迷宮はひどかったわね」
「上鳴アンタ大丈夫……?」
「ゥェィ」
「ウェイってしまったか」
「被害がデカ過ぎる……」
彼女たちの胸に包まれて俺は安堵感を覚えて震えが止まった。
ホントにビックリするのとか怖いのとか! 無理! やでーす!
これはもう克服できる気がしないわ。明確な弱点。
「今夜は一緒に寝ようね」
「大丈夫ですよ、怖いのを思い出さないくらい人肌で温めてあげます」
「風紀は守り給え」
彼女たちがそんな俺の様子に性欲漏れ始めたところで委員長が止めてた。ちょっと面白くてメンタル回復したわ。
しかしこんな映像を準備した下手人は誰なのか……と思っていたところへ。
「おやおやァ? 顔色悪いねえ! 特に幾野くぅん!! ビビってるようだけど怖いものでも見たのかなァ!?」
「物間! このDVDお前の仕業か!?」
「お前なんてことしやがる!? こっちが幾野の様子にビビる所だったわ!!」
「反省しろ!!」
「土下座だ土下座!!」
「豆腐の角に頭ぶつけてアホになれ!!」
「想像以上に責められて驚いたまであるよねぇ!? でもやはり噂は真実だったようだね。幾野くんが実はビビりであるという……」
「びびびビビりじゃねーし!!」
「どうしてそこで意地を張るんだイクノお前」
「へーえ? じゃあ証明してもらおうかな?」
どうやら物間が下手人だったようで。
俺がホラー苦手ということを誰から聞いたか……あ、いや心操か。アイツもB組に1月から編入したもんな。
それでこんなお手製のホラー映像まで作って。コイツホントマメなやつ。
でもホラーは怖い……正直そこはお前に負けてもいいよもう。怖いよぉ……。
「……夏合宿の時の約束を覚えているかい。僕たちのレクリエーション。結局ヴィランの襲撃でうやむやになってしまったが……ちょうどいいじゃないか!! B組とA組の肝試しバトルを開こう!! ビビりじゃないなら当然参加するよね幾野くぅん!!」
「肝試しか! そういえば鉄哲とも病室でそんな話したな」
「どうする幾野くん? 君の様子を見れば無理にとは言わない、僕から断ってもいいが」
「やる」
「やるんか」
「怖いのはヤだけどみんなで肝試しはきちんとやりたかったからやる」
「ハムスターみたいに震えてるがやるのか」
「やる!」
「駄々っ子か?」
「想像以上にビビられて困惑が凄い。……まぁいい機会じゃないか。B組の皆もいつかまた、と言っててね……特に鉄哲が。レクリエーションさ。準備をするものもないし、実はすでにミッドナイト先生に声までかけてる。やるなら30分後、USJ裏においでよ!! まぁどうせA組はB組よりもビビりが揃ってるから僕たちの勝ちだろうけどねェ! ハハハハ!!」
A組も未だ透ちゃんと百ちゃんの腕を離せない俺を心配してくれたが、しかしクラス対抗の肝試しと聞けばそれは前からちゃんとやり直したいなと思ってたイベントだ。
クソヴィラン連合に潰されたあの勝負。やりてぇよ。季節は変わっちまったけどやっぱそういう思い出ちゃんと作りたいじゃん。
怖いけど! そういうのは楽しみもあるの! だからやる!
「幾野がビビるぶん俺たちが堪えねーといけねぇな」
「得手不得手はある。たまには俺たちが頼られよう」
「ウチもちょっと自信ない……」
「耳郎の分も頑張ってやるよ俺達でよ!」
「爆豪も来いよ。お前こういうの強ぇだろ」
「アァ? なんで俺がこんなクソめんどくせぇイベントに付き合わなきゃいけねェんだ」
「お、爆豪ももしかしてビビりか? 意外だなお前がホラー苦手だったなんて……」
「ビビりなわけねェだろうがァ!! 逆にB組ビビらせ殺したるわボケぇ!!」
「A組全体に爆豪くんの扱いが周知されとる」
イベントということでみんなでヒーロースーツに着替え、B組が待つUSJ裏の森林ゾーンへ行くのだった。
「ふっ、来ると思ったよA組ィ!」
「あんだけ煽られりゃあな! ミッナイ先生もお疲れ様っす!!」
「こんな青春イベントは見逃せないからね! さてじゃあ早速ルールを説明するわ!!」
これから始まる肝試しに既に及び腰になってる俺の手を峰田が握ってくれながら、俺たちはクラス対抗で対峙した。
ミッドナイト先生が監督してくれて今回のルールを説明してくれた。
とりまセンサー内蔵のお化けみたいな形のバッジを胸につけて全員で挑む。
バッジにあるセンサーが装着者の心拍数を常に測ってくれており、ビビって心拍数が高くなるほど相手の組にポイントが入る仕組みだという。
で、お互いに脅かしあって最終的に多くのPを集めた方の勝ちと。
物凄い俺が足を引っ張る予感があります。
「脅かす側は直接攻撃にならないレベルで個性使用OK! 脅かされる側は個性使用無し! 幾野くんもオート個性気を付けてね!」
「はいぃぃ……」
「ヤダすっごい可愛い。……っと、思わず真顔になったわ。それじゃ早速スタートよ!! 先行B組、後攻A組でおどかしあいなさい!!」
ひんひんと泣きそうになりつつ返事したらミッドナイト先生から性欲の籠った眼差しを向けられた。
いけませんいけません。襲われたら泣いてしまいます。
ミッドナイト先生のおっぱいと太ももを見てもこのビビりは治らねぇんだ。前は夏場で合宿中のテンションの高さも合ってごまかし切れてたが二度目になるともう怖い。
あと周りに峰田も透ちゃんも百ちゃんもいるからなんか……甘えちゃって怖いの我慢できないです。ひんひん。
「とりあえず幾野くんが心拍数ヤバいだろうから僕たちでカバーしないとね」
「脅かす側になった時にどんだけ心拍数あげられるかだな」
「ガンバロー! センちゃんは私達が守るから!!」
「怖くなったらいつでも抱き着いていいですからね」
「甘やかすなこのイクノガールズ」
みんなの脚を引っ張ってごめんな……でも俺も頑張るから。
途中でおもらしとかしないように頑張るから。さっきちゃんとトイレ済ましてきたから……。
【side 取陰】
物間が言いだして開催されることになった肝試しリターンズ。
まぁこれ自体は私も楽しみにしてたんだよね。前ん時はガスでやられて気を失って何にもできなかったし……A組もB組も不完全燃焼だったのは間違いなくて。率先して企画してくれる物間はやっぱマメだわ。
で、しかも後から心操が仕入れた情報だとあの幾野がガチでホラー苦手らしいじゃん。アイツに目にもの見せられるなら、って理由でやる気出してるB組の生徒も多いしさ。
そんなわけで先行のウチらB組で脅かす準備を進める。
「俺どうすればいいかな。洗脳はあんま脅かすって感じじゃないから、捕縛布弄るのと黒いヒーロースーツで闇に溶けるくらいしかできねぇけど」
「そうね。木の上から捕縛布垂らして風に揺らしてみる?」
「ポルターガイストで揺らしてみても面白いかもね。暗い所に白い布。いい雰囲気出そう」
「ペルソナコードでおどろおどろしい声を出すのもいいんじゃないか。洗脳はするほどではないだろうけど」
「OK。それでいくか。あの幾野に一泡吹かせられるんだから楽しみだよ。心霊迷宮にもアイツ来たらしいけどそん時俺シフトじゃなかったのか、
「日頃の恨みを晴らす時さァ! 頑張ろう心操くん!!」
脅かす準備をしながらもB組の新メンバー、心操の役割を決めつつ……で、その話を聞く。
心操もまぁ夏合宿以降はA組にもB組にも訓練でよく顔出してたし、仮免試験ではコイツの活躍で助かったシーンも多々。まぁ気心知れてて随分馴染んでいる。
元々いた普通科とも仲良くやれててたまに向こうの寮に戻って夕飯食べたりしてるみたいでそっちも安心と。
そんな心操もこのイベントを随分と楽しんでるようだ。まぁアンタは幾野によく絡まれてからかわれてるしね。仲がいいのは見てわかるけどだからこそ一泡吹かせたいってか。
物間も同じく凄いやる気だ。あんま幾野イジメるとあとで彼女たちが怖いぞー? 知ーらね。
さて、そうして私達脅かす側の準備も完了。
少し待っていると……A組がやってきた。
みんなでまとまって……幾野が透明になった葉隠にひしっとしがみついて既に涙目で……なんだいマジでビビりなんだな。
苦笑と共に、私たちはさっそく脅かすことにした。
日頃の恨みを味わいな!!
…………はっ。
え、何? なんか記憶が飛んで……うっ、頭が。
頭が……何か思い出してはいけない事を忘れているような……
『───にゃああああああ!!』
『───やぁぁ!! もうやぁぁ!!』
『───うわぁぁぁぁぁん!!』
幾野。
あいつの泣きそうな顔がフラッシュバックする。
心底怯えて、内股になってぺたりとお尻をついて、涙のにじむ瞳であんな、可愛い、怯えた顔で……はっ!? 記憶が飛んでた!?
嘘でしょアイツあんな可愛い顔すんの!? いや確かに顔はいいけど!! でも男言葉だしスケベだしそういう目で見てなくて……でもあんな……あんな女の子みたいに怯えられて……。
いや、嘘。あの顔が脳裏から離れない。
どちらかというとサドっ気のある私にとって、あの顔の幾野は───余りにも魅力的だった。
「……起きたか取陰さん」
「う……心操?」
「俺もアレみて思い出したよ、自分に洗脳かけて忘れてたんだ……ゴメン、注意喚起できなかった。幾野がガチで怯えると脳破壊されるから気を付けろって言っとくべきだった。B組全滅したよ」
「ウソでしょ」
「肝試しでこんな死屍累々になることってある? すごいわよ、脅かす側のB組全員の心拍数がマックスになったからA組で特に幾野くんが怯え切ってたのにポイントは今A組が勝ってるわよ。どういうことなのあの子」
目を覚まして辺りを見渡せば、さっきまでの私と同じように脳破壊されて突っ立ってるB組のみんなが見えて。
一度に複数方向から驚かしてやろうぜー! ってやって同時攻撃したからこそ全員が幾野の怯え顔で脳破壊されてしまっていた。
物間の脳破壊が中々治らない。アイツに普段から茶化されるような付き合いがあればあるほどダメージは深くなるのかも。
そしてB組全員が何とか復活して、いったん集合する。
幾野は……まだ駄目だ。多分葉隠がそこにいるんだろうね、透明な空中に顔を埋めてる。
赤ちゃんみたいな顔しやがってムラムラするわ! 誘ってんのかよ……!!
「……うん!! この後はA組が驚かせる側なんだけど!! 既にB組のポイントが負けちゃってるから勝負見えてるわね!!」
「肝試しすら破壊するってマジでどうなってんだよ幾野」
「ごめぇん……!! ホントにこわくってぇ……!!」
「やめろ脳が揺れる!!!」
ミッドナイト先生の大岡裁きにより肝試し勝負はまたしても延期になった。
私らB組はホラーに対する耐性をつけて勝負に挑んだわけだけど、幾野の怯え顔に対する耐性もつけてこないと勝負にすらならないわけだ。
A組は日頃から幾野と過ごしてるからまだ耐えられたらしい。アイツらすげー。
「いやぁ……ひっでぇオチになっちまったけど。でもB組の脅かしは結構マジでビビったな!! 悔しいけどよ!」
「すごい演出だったね……幾野くんほどじゃないけど怖かったよ」
「なー! 特にアレヤバかったよな、暗闇で布被った小さい奴がこっち見てたの!!」
「あーアレな! 私も声あげちゃったわー! サイズ感がありえねーからマジビビり!」
「ハハハ! それは柳の個性、ポルターガイストだろうねぇ。ウチには峰田くんの様な身長はいないからね」
「ん? いやウチじゃないけど。布被らせてなんて……取陰がやったんじゃないの」
「え。私もやってない」
「B組は誰もやってない……? じゃあA組……っていっても僕たちは驚かせる役じゃなかったし」
「だとしたらおかしいぜ。オバケか?」
「ちょっと……おかしなこと言わないでよー!! もう終わったんだし!! 正直に手あげよ!! やった人!!」
まぁでもA組もだいぶ怯えてくれたみたいで、その辺素直に楽しんでもらえたのは良かったかな。
次は幾野抜きでやろーよ。それならすべて解決じゃん……なんて思ってたら、なんか心当たりない演出について急にA組が語り始めた。
小さい布から目が出てのぞき込んで……? え、それ出来るのB組じゃ私と柳くらいだけど私はやってないし。柳もやってないらしいし。
芦戸がやった人挙手、って言うけど……誰も手を上げない。
「……じゃああの布と目は本当に……何だったの?」
ゾッと背筋が冷える様な感覚。
え、もしかしてマジで……幽霊? 嘘でしょ?
思わず絶叫が私たちの口から零れそうになった、次の瞬間。
「───いやただの猫だよ。子猫……被ってんのはアレ相澤先生が普段使ってるブランケットだな。あの人猫好きだもんな」
幾野が葉隠に支えられながらだが、明らかに森の方を見てその正体を看破した。
「えっ……幾野お前なんでわかんの!?」
「ウォールハックで普通に見たから……今も向こうにいるよ。ちょっと捕まえてくる。ブランケットも回収しないとな」
「あ、センちゃん私も行くー!」
そうして全然平気な様子で幾野がすたすたと夜の森に歩みを進めて。私らはぽかんとした顔でそれを見送って。
1分もせずに片手に猫と、もう片手に穴の開いたブランケットを抱えて戻って来た幾野。
……アンタビビりじゃなかったんかい!?
「ビビりじゃなかったのかい幾野くん!? どうしてそんな平気な顔してるのかなァ!?」
「いやウォールハック使えば全部どこに何がいるか見えるんだから分かるだろ普通に……見えてれば怖くねぇよ。でもそれやるのはお前らB組が脅かしてきてるのに失礼じゃん。だからさっきはビビり散らかしたわけで……いやビビってねぇし!!」
「まだ意地張るのか」
「律儀だなそういう所マジで」
「幾野くんの真面目さがみんなの脳を破壊してしまったのね……まぁでも一番みんなが驚いたところで唯一驚かなかったってのも味のあるオチでよし!! それじゃあ肝試しはこれでおしまい!! もうずいぶん遅いし今日はこれで解散! 寮に戻りなさい!!」
「うぃーっす!」
「まぁなんだかんだ楽しめたわ」
「B組がみんな放心してたのちょっとウケた」
「私ら被害者だかんね!」
「ごめんな。あとでまた蜜丼オゴるわ」
「蜜丼! たすかりマス!」
「ん!」
「ああ幾野くん、ブランケットは私が相澤くんに返しておくから……その猫と一緒に渡しなさい。ね? ほら早く」
「おいたわしやショータ先生。まぁ面白そうなんで渡しますけどね」
幾野もウォールハック使いだしてから回復したようで、そんなオチで肝試し勝負は終わりだってさ。
私ら生徒はそれぞれ寮に戻っていって。葉隠とヤオモモがずっと幾野に付き添ってたから今夜はアレなんかな、噂の。
……ってか、幾野の顔がまだ脳裏から離れない。夢に出そう。
あの顔忘れられるかなぁ……脳が灼けたわ、マジで。