【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【3月下旬 X day】
【蛇腔総合病院】
【side 殻木】
今日も平和な一日じゃった。
ワシの本拠地たる蛇腔総合病院で
他事一切は分身のワシに任せておる。地下室でカプセルに入った死柄木が一日ごとに成長していくのを見るのが老いぼれの楽しみよ。
あと半月というトコロじゃの、完成まで。
まぁ今日は山荘の方で異能解放戦線の会議が行われ、日本中が混沌に陥る始まりの一日ではあるのじゃが……ワシはそっちは特に気にしておらん。
死柄木のいないチンピラ共が勝手にやっておる事じゃ。せいぜい暴れてヒーロー共を混乱に陥れ、ワシの仕事がやりやすいように頑張っとくれ。
────────!!!
しかしそんなワシの耳に僅かな騒動の音が響く。
地下室……数多の個性ストックの培養、および複数の脳無を制作したカプセルのあるこの地下まで響くような騒動が病院で起きたのじゃ。
なんだとモニターを見れば……忌々しいヒーロー共の群れ。
ムム。とうとうここを本拠地だと嗅ぎつけて来たか。明らかに人数がただの調査ではない。見ればエンデヴァーにミルコ……大物ヒーローも勢ぞろいと言った所じゃ。
「フン! とうとう来おったか!」
こんな日がいつか来るかとは思っておった。
なにせヒーロー側にはアイツがいる。トゥワイスの金玉と荼毘の肺を潰したガキ。
─────
もしこの病院まで嗅ぎ付けられれば、ヤツが見ればこの地下も丸わかりじゃろう。
ワシが何かやっていることも分かっているはず。
こういう日が来るかもしれないことは分かっておった。
だからこそワシはこうしたときの備えもバッチリ準備しておる。
まずもってこの地下室をこれだけ広く作ったのは、イグジストが万が一進入して来てもすぐには全てを壊せないようにするためじゃ。
ヤツは奇襲や襲撃に特化しておるが、攻撃力はたいしたことはない。
一瞬で全てを壊すような攻撃はできんのじゃ。
だからこそ、壊される前に全ての脳無、および死柄木を起動すればよい。
その上でワシと死柄木をワープさせ、脱出すれば安泰じゃ。
その起動ボタンは地下の全てを管理しているスパコンに繋がれておる。
ワシの意識が不意に落ちるか、ワシ自身が起動ボタンを押すことで一気に脳無と死柄木が目覚める。
悩んではいられない。
わしは一瞬で決断し、ボタンに向けて走り、それを押そうとした。
だが、次の瞬間。
「─────なっ!?」
唐突に停電が起きた。
あたり一面が真っ暗になる。
バカな。この地下は地上の病院ともまた別の電力を引いておる。
それも地下深くに感づかれないように発電設備を作り……いや、ソレこそイグジストに見つかるのか!
おのれ。どうしても常人に向けた対策で満足してしまう部分がある。そこを狙われたか。
しかしまだ問題ない。
こんなこともあろうかと、急な停電に備えて、すぐに予備電源に切り替わるようになっておるのじゃ。
数秒程度で電源は復旧し、次の瞬間には全ての脳無を起動するボタンを押せばよいのじゃ。
幸いにしてまだヒーロー共は地上の病院の
地上が襲撃に遭った場合の脳無は自動で放たれるようになっておるから、時間稼ぎも十分に行われる。
問題ない、はずじゃった。
しかし。
───ガガガガガガガッ!!!!
まるで削岩機が耳元で稼働しているような、マシンガンの銃撃音にも似た破砕音があたりに響いた。
なんじゃ!? 誰も地下までは進入していなかったはず!?
イグジストか!? いや、あの男にこのような攻撃手段はないはずじゃ!
いくら『無視』の個性と言えどもこれほどの音を立てる様な激しい力任せの攻撃はできないはず……!!
何が。
何が起きたのじゃ。
暗闇の中で震えるワシが、数秒の恐怖に耐えて。
そして、予備電源に切り替わり。
普段よりも暗い非常電灯に明かりがともり、周囲の景色を映し出した。
─────
緊急ワープ用の、黒霧の個性を持たせていたジョンちゃんは頭をえぐられて死んでおる。
トゥワイスの二倍の個性を持たせていたモカちゃんも潰れて血反吐を吐いて死んでおる。
まだ起動していなかったハイエンド脳無は全てカプセルが割られ、脳幹からえぐり取られて死んでおる。
個性をストックしていたカプセルも手当たり次第に壊れておる。
増産していた個性破壊弾を保管していたケースも見事にぶち壊されておる。
死柄木のカプセルも─────ああ、お、おおお。
割れて、お、る……!!
「────俺は常に思ってるんだよね」
暗い光がともる先、心臓が止まった死柄木の亡骸のそばにしゃがむように、下手人がおった。
ビルボードチャートには載っていなかったヒーローじゃ。
ワシの知らないヒーロー……いや、待て。見覚えがある。
「脳無の脳ミソってなんで露出させてるのかな。
そして、
「ま……もうぜんぶ壊したからどうでもいい事かな。死柄木の改造も止めて、脳無も潰して……あとは地上の白脳無たちをヒーローが制圧したら全員ここに乗り込んでくる。チェックメイトだよね!!」
────ルミリオン。
イグジストの血縁上の従兄。
一人の男が、ワシの生涯をかけた研究を、数秒の間に全て壊してしまった。
【side 群訝山荘】
【side 常闇】
「フゥ……!!」
必勝の策をもって始まった大規模掃討作戦。
わが師であるホークスが命がけで得た情報と、我が教師である相澤先生が友の死を越えて得た情報と、わが友である幾野がその力をもって得た情報により……必勝の布陣を整えた。
山荘の襲撃部隊に指名された俺と上鳴は、時間となり、周囲の凄まじい人数が集まったヒーローの群れに混ざって突撃していた。
「チクショーー!! みんなといたいよーー!! 響香ァーーーーーーー!!!」
「事前に了承してくれたじゃない上鳴くん。あなたの
「いや皆さんを不甲斐ないとは思ってないスけどぉ!! こんな大規模な襲撃だとは思ってなかったっすよミッドナイト先生ぇ!!」
「ここで我々が万が一にもミスを犯せば……後詰めに害が及ぶ可能性がある。大丈夫だ上鳴。お前はすごいやつだ」
「後詰めにも峰田がいるから響香を守ってくれるだろうよぉ!! 俺も向こうにいてぇよぉ!!」
「俺が見ている。お前の活躍を俺が耳郎に語り継ごう」
「やってやるよチクショォォォ!!!」
共に向かう上鳴が少々元来のビビり癖を発症していたが……ミッドナイトの激励と俺の言葉で気を取り直した。
実を言えば、心配という意味では一切していない。上鳴はすごいやつだ。共にギターを爪弾く中でも……また、普段の訓練やチームアップでもこの男の素晴らしさは見せてもらっている。
キメるときはキメる男だ。耳郎もお前のそういったところに惚れたのだろう。
女を守るために戦う。ヒーローとして全く恥じる物ではない。お前はそれでいい。
それに、この作戦は電撃作戦による必勝の策。
全員が全力で己の力を発揮すれば勝てる。そう、未来が定められているのだ。
「さぁ……行くぞ!! セメントス!!」
「開けます!!」
山荘に向けてセメントス先生の個性が炸裂した。
数万人のヴィラン、超常解放戦線の主要部隊がすべてそろったこの山荘……地上にも地下にも大量の人数が配置されていることだろう。
ここからはヴィランの反撃がある。それをいなしつつ、いかに迅速に被害を出さずに全員を無力化するか。
────そのような作戦だと、聞いた当初は思っていた。
だが違った。
ヒーローたちはそれ以上の策を練っていた。
ヴィラン連合の烏合の衆を一網打尽にする作戦が。
広範囲制圧に富む個性の使い手が集まった我らヒーロー集団が。
「───では楽章を始めよう。運命の
マジェスティックの個性で今空高く浮かび上がっている、我らが学友……
この男の凶悪な個性の組み合わせで、敵をすべて無力化する。
今回、物間が準備した個性で、俺が知らされているのは二つだ。
【無視】。
【抹消】。
かつてクラス対抗戦でも見せたその組み合わせ。
どこにでも動ける幾野の無視と、相澤先生の抹消の個性。
その恐ろしさはA組生徒は身を以て味わっている。この二つを持つだけでも5分間は最強だったが……しかしこの男は11月の対抗戦以来、更なる成長を遂げていた。
個性許容量を地獄のような鍛錬を乗り越えて伸ばし続けた結果、個性使用の限界時間を10分まで伸ばし……そしてとうとうその高みへ至った。
一度無視する視界を広げてしまえば、後の維持はそこまで許容量の消費は激しくないらしい。
それゆえ、10分間は見る事だけに集中する。
この男の視界には今、山荘とその地下の巨大神殿に集まっている全てのヴィランが映っている。
そしてその全てのヴィランの個性を【抹消】する。
ああ、あえてここで断言しよう。
10分間だけならば、幾野を超えてこの男が一番えげつないヒーローだ。
「さぁ、踊ろうか異能解放戦線。君たちを退治した最大の立役者として教科書に僕の名前が載るだろうねェ……アハハハハハハ!! 幾野くんを超えて僕が一番名前が売れるヒーローになるのさァ!!」
相変らず発症している。あれくらいがアイツにとっての理想のテンションなのだろう。
当然俺たち学生の誰もがこの男の実力を疑っていない。想像を絶するほどの負担となるだろう10分間のウォールハックと抹消の維持に、しかしこの男ならばやり遂げるだろう信頼がある。
異形型個性だけは抹消ができないが、そこはヒーローたちの質と量でカバー。一気呵成に畳みかける。
あとは蹂躙するのみ。
この場にいる広範囲攻撃を得意とするヒーローたちの、その個性が存分にヴィランたちに放たれて行く。
「キャニオンカノンッ!!」
「ガアアアアアアアッ!!!」
「ウルシ鎖牢ッ!!」
「千枚通し──!!」
「130万ボルトォォ!! 今なら連発余裕だぜェェ!!」
「おやすみなさい─────!」
「地面を柔らかくするだけでも効くっしょ!」
「胞子を巻き散らすノコ!!」
「
次々と放たれる必殺技の数々。
各々が己の得意を押しつけて、ヴィランたちを瞬時に拘束、駆逐していく。
そして気を失わせたヴィランたちの捕縛、拘束、運搬は……このヒーローが一手に引き受けてくれていた。
「────違法デニムの群れか。このベストジーニストの復帰戦、相手にとって不足なし!! 服を着ている者は全て私が捕えよう!!」
ベストジーニスト。
ビルボードチャート3位のヒーローは、重傷により休業していたが……つい先日復活を果たした。
治癒系個性によるものか、手術が上手くいったのか……はたまた、
事情は子細にはわからぬが、しかしこの場においてこれほど心強い男はいない。
見る見るうちに山荘からヴィランが繊維で飛び上がり、縛り上げられ、意識を落とされ、一か所にまとめられていく。
相手の個性を発動させず、広範囲個性による強制拘束。
これを蹂躙と呼ぶなら呼べばよい。
貴様らが市民に同じことをやろうとしていた時点で、俺たちに躊躇いはない。
社会を混乱に陥れないためにも、一切の情け容赦なく。
物間の個性が続く10分の間に山荘にいるヴィランを全て制圧するために。
俺たちヒーローは息を合わせて破竹の勢いで攻め込んだ。
【山荘内】
【side ホークス】
『どうなってんだよ……なァ……!? おい、おいって!! なァ!!』
山荘の、窓のなく明かりもついていない暗い部屋。
そこに俺と分倍河原は存在した。
『待てよ……くっそぉ……!! 俺はいっっつもこうだあ……!!』
ああ、アンタならきっと───
己の甘さを後悔しながら涙を零したことだろう。
でも、アンタのそんな声が聞こえることは
最速のプライドにかけて、最速でアンタを無力化させてもらった。
常にマークしていた。
二倍の個性を持つあんたに少しの猶予も
ヒーロー側の電撃作戦、襲撃のタイミングに合わせて二人きりにさせてもらって……喋る間も、抵抗する間も与えずにアンタの意識を刈り取った。
いい見本を見たんですよね。100連撃ヒーロー『クロオビ』って見た? アンタたちは地方でちっちゃくバズったヒーローなんて見てないか。
でも俺はイグジストくんが絡んでたんで映像で見たんですよ。首の後ろに一瞬で100発打撃を与えて気絶させるってアレね。
アレ見て思いついたんです。俺ならアレ、もっとうまく出来るんじゃないかなって。
一瞬で100発の羽根による打撃は難しくない。気絶点だってそもそも普段から一本の羽根で狙える。
じゃあ一瞬で100発気絶点にブチ込めば、深い深い眠りに落とすことができるんじゃないかって。
ま、練習すら不要でしたね。割と余裕だったよ。
アンタは俺の事を信頼してくれてたから。仲間想いのいい奴だったから……だから、少しでも会話しちゃうと情が湧きそうだったんですよね。それが俺は怖かった。
だから一瞬で堕とさせてもらった。もっとも今はファントムシーフのお陰で異能解放戦線メンバーのほぼ全員がウォールハックによる透視からの『抹消』を受けているから『二倍』も発動できないんだけど。念には念を。
この場面を万が一にもひっくり返すとしたらアンタの個性が一番可能性が高い。
だから深い眠りについてもらった。そうじゃないと殺すしかないから。
殺さなかったことを甘えと言われたらその通り。でも、ヒーローはヴィランを殺すのが仕事じゃないからね。
「さて……もうすぐ制圧完了かな。地下神殿の人数もヤバいけど、常闇くんが頑張ってくれるだろうしね」
ここにどれだけ強力な個性の持ち主が集まっていたとしても、個性を抹消されれば烏合の衆。
鳥仲間の加勢に向かうために、気絶したトゥワイスを公安から預かっていたメイデンで念入りに拘束して剛翼で捕縛したヴィランを集めている一角に飛ばして。
そして改めて、俺もヒーローとしてこの施設内にいるヴィラン共を殲滅するべく羽根を広げた。
病院にもエンデヴァー、ミルコ、イレイザーヘッド、そして奥の手のルミリオンがいる。
そっちの後詰めは緑谷くん、爆豪くん、幾野くんがいる。
こっちの山荘では襲撃メンバーは今まさに活躍している通りで、拘束役にベストジーニストも来ている。
後詰め部隊には山中ならば俺よりも速い峰田くんも存在している。
そして、サーナイトアイの未来視によれば俺たちの勝利は既に確定している。
零さないよ。
結局のところアンタたちは、人を殺してでも社会に混乱を巻き起こしたいっていうヴィランだから。
悪いけど滅びてもらう。
人々が笑って平和に暮らせる社会を目指しているから。
ヒーローが暇を持て余すような社会にしたいから。
「だからさよなら、分倍河原さん」
誰に聞かせるでもなく呟いて、俺は個性を抹消されたヴィランの群れに飛び込んでいった。