【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【side Another】
異能解放戦線に対するヒーロー連合の襲撃は、最適な手段で行われた。
イグジストの精密調査とサーナイトアイの未来視を用いた完全なる制圧。
蛇腔総合病院にはイグジストに次いで無法の個性を持つルミリオンを切り札として投下。地下の研究室を一瞬の間に破壊しつくして。
群訝山荘にはイグジストの個性とイレイザーヘッドの個性、二つの無法の個性を掛け合わせることができるファントムシーフを切り札として投下。ベストジーニストを含めた範囲制圧型個性の持ち主を大量投下することで1万人以上のほぼすべてのヴィランを無力化、束縛する。
施設内部の構造や敵対するヴィランもすべて事前に情報を抜かれていた異能解放戦線に抗う術はなかった。
敗北の未来は既に確定しており、これによってヴィラン連合の企みは、AFOの企みは全て無に帰すはずであった。
─────だが、一つだけヒーロー側が見落としていたことがあった。
それはたった一つだけの、知り得ざる不確定要素。
サーナイトアイの未来予知を覆す可能性が、イグジストの介入のみだと理解してしまっていたこと。
強い信念は時に運命すら覆すという事を現実として認識しておらず、予知の成就を信じていたこと。
無論、万が一の可能性を考慮してヒーロー連合も後詰めを準備していた。
襲撃部隊の後詰め兼避難誘導の為に学生を主体とした部隊を配置し、何かあった時には更なる増援が受けられるように手配していた。
それでも、万が一は起きてしまい。
そして起きてしまった万が一は、全てをひっくり返す最悪の駒の目覚めであった。
【side 殻木】
備えておった。
ヒーロー共がここを嗅ぎつける未来を。イグジストに見られる未来を。
だが、それでもここまで一瞬にして全てを壊されるとは思わなかった。ヤツへの対抗策を練った研究室を作りたかったが、その時間もノウハウもなかった。
「オラァ、だらだらしてねェで歩けェ!! テメェには償わなきゃならねぇ罪が山積みなんだよォ!!」
ワシは拘束され、老体に敬意のかけらもない扱いをされてプレゼントマイクに連行されておった。
もうワシは駄目だろう。二倍で増やした分身も全て潰れておる。研究室も後詰めで突入してきたヒーローが跡形もなく壊してしまった。
ワシの野望も命も潰えた。もうワシは諦めた。
ただ、唯一、この一つだけ。
この一つだけは結果を見届けさせてもらいたい。
さきほど、ワシはイグジストへの対策をしていると言ったな。
出来ることはしていたのじゃ。ここまで一瞬でやられても、研究が途中で妨害されたとしても、死柄木弔があのお方の依り代になれるように。
覚醒できるために、布石を打っておいたんじゃ。
ヤツへの改造を施す際に一番最初にそれを仕込んだ。
イグジストの透視能力は異常な能力じゃ。無視によるものだから透視自体を感知も出来ん。範囲もヤツの視界、しかも地中に潜ればどこまでだって見られてしまう。
地下の構造もすべて見通された事じゃろう。その証拠に、重要な脳無のカプセルや厳重に保管しておいた個性破壊弾まで壊されておる。
ヤツの透視に抗うような装置は設置できなかった。
だが、ワシは知っておるぞ。
ヤツが二度、脳無と相対し……二度目はその体の構造を知り脳を躊躇いなく狙ったが、一度目はそうはしなかったのじゃ。人間であることを疑っておった。
脳無が死体である事を理解していれば学友を守るために1回目の戦いでも脳を狙ったはずじゃ。無敵の個性なのじゃから。
ではなぜ1回目の雄英襲撃ではあの時期の脳無と死柄木程度の相手に苦戦したのか?*1
答えは一つじゃ。
そう推察できる。
そう推察するしかない。
そう推察した場合に、可能性として打てる手がある。
死柄木弔の体内に、ワシは羽化に必要のないパーツを一つだけ埋め込んでおいた。
それは心臓のすぐ下に、最小の大きさで最大の効率を発揮できるように。
不慮の事故、襲撃で死柄木弔の改造が完全ではない状態で、生命維持装置であるカプセルから放出されて心臓が止まった場合。
停止時間が10分を超えた時に一回だけ、心臓を動かすためのカウンターショックの電撃を放つというものを。
これは正直に言えば念のため程度で組み込んだ装置じゃった。
改造途中の死柄木がカウンターショックの電流で目覚めるかはワシにも分からん。
だが、お前が運命を憎むなら───魔王の夢を継ぐ男ならば。
奇跡を起こせ。
目覚めてみせろ、化物。
────────!!
……ホホ。
【side 幾野】
蛇腔総合病院の周辺の避難誘導を緑谷たちと共に行いながらも、俺はダイブセンサーの機能による望遠ウォールハックで病院の様子を確認していた。
作戦成功の報告がインカムで流れたからだ。無事に患者は全員避難し、白脳無も全て撃退し、ミリオ兄さんが突撃した地下室は見事に死柄木もハイエンド脳無も全滅させていて。
死柄木の遺体を地下から運ぶ段になり、ミリオ兄さんがその体に触れた瞬間に……それは起きた。
「……っ!?」
死柄木の体がビクンと大きく痙攣したのだ。
まるで電流が流れたような。
こんな事が起きるという未来はなかった、と聞いている。サーの予知に俺が映らないようにしながらも情報は聞いていた。この後は死柄木もジジィも無事拘束し、死柄木はその命を失って目覚めぬまま荼毘に付されるはずだったのに。
そして同時に、ウォールハック越しに見る死柄木の目が開いた。
全身の毛穴から嫌な汗が零れる様な感覚と共に……俺は周囲全域に無視のテレパシーを飛ばしていた。
「死柄木が起きた!! 崩壊が来るかも!! 全員脱出を!!!」
「え!? 幾野くん……!?」
「何だァ!? 作戦失敗しやがったのかァ!?」
「分からない!! けど急に起きて……来た!! 急いで逃げて!!!」
ミリオ兄さんが目覚めた死柄木の顔面に全力で拳を振るったが、しかしそれを意に介さずに死柄木が超極大範囲の『崩壊』をぶっ放した。
泥花市の悲劇と同じだ。周囲500mくらいまで広がる異様な崩壊が……始まってしまった。
ミリオ兄さんは全身を透過してその被害から逃れ、地中まで落ちていき……ファントムメナスで病院内の他のヒーローに合流、脱出の支援を実施。
俺のテレパシーが事前に聞こえていたこともあり、脳無たちも全て撃退していたことからヒーローたちの避難も早かった。崩壊に巻き込まれたヒーローはいないようだが……しかし崩壊の余波が病院を超えて街にまで向かってきている。
サーの見た未来が変わってしまっている。
どこかで俺が映ってしまったのか……いや、そんなことはなかったと言っていた。俺もサーもそこに注意をしていた。
クソ、理由は分からないが……とにかく今はもう最悪の事態になってしまっている。
市民の避難先まで崩壊を届けるわけにもいかないが、今はとにかく退避。
「60%ッ……セントルイス・スマッシュ・エアフォースッ!!!」
「ストレイフパンツァー!!」
「穿天氷壁っ!!」
「っ……止まらない! 衝撃とかの類じゃない!」
「ケロ……全部塵になっていくわ」
「走れ!! 逃げるぞ!! 崩壊は触れたモノから広がる! 飛べるやつ飛んで、他は触れないように急げ!!」
「イグジスト!! 病院は!? エンデヴァーたちは!? 状況を伝えろ!!」
「死柄木覚醒!! 襲撃組のヒーローは退避間に合ってます!! ここから死柄木が襲撃してくる可能性大!! エンデヴァーが交戦に向かってる!!」
緑谷たち範囲攻撃持ちで崩壊の波に向けて攻撃を放つが、それすらも崩れていく。
泥花市の事件で知っていたが、あのクソ手マン野郎マジで個性伸びてやがった。余計な成長しやがって。
逃げ遅れた人がいないか周囲をダイブセンサーで索敵しつつ、俺だけは崩壊に巻き込まれてもなんともないのでみんなの一番最後を走りながら……バーニンの声にテレパシーを広げながら答える。
俺自身のウォールハックも、ダイブセンサーの性能も伸びているので、周囲5キロくらいならダイブセンサーで把握できる間合いになっていた。
ある程度広がったところで崩壊は止まったが……死柄木が完全に目覚めやがった。何故か崩壊に巻き込まれてなかったアイツの足元にあるスマホみてぇな道具を拾い上げてなんか喋ってる。
ミリオ兄さんが壊し損ねたのか。いや、あれほどのカプセルや脳無がある空間で全てを壊し切ることは難しかった。通信端末の一つが壊れず残っていたか。
『おいでマキア、みんなと一緒に。今ここから全てを壊す』
遠くの音だがダイブセンサーには聞こえている。距離を無視して声を届けるだけでなく、遠くの音を聞くことも今の俺は難しくない。
しかし今の発言……まずい。危惧されていた可能性の一つ、ギガントマキアが目覚めた可能性がある。
アイツだけはメイデンによる拘束を超えて個性を発動する可能性がある。作戦通りに物間が個性を使っていたとすれば、今頃は抹消も10分の打ち止めを終えて……全員ヴィランを捕まえていたところでマキアが目覚めでもしていたら。
しかし、それ以上の思考を死柄木の言葉が許さない。
『満ち足りない────ワン・フォー・オールを……』
『ワン、フォー、オール?』
死柄木に突撃し、その歴戦の技術で手に触れぬように戦うエンデヴァー。
それをいなす死柄木が放った一言が、またしても懸念要素を増やした。
緑谷のOFAが狙われている。
しかも今のエンデヴァーの呟きがインカムに乗って周囲のヒーローに、緑谷の耳にも入ってしまった。
俺が思わず緑谷のほうを見れば……決意を込めた眼差しで俺たちから距離を取るために動いた。
────思わず体が動いていた。
「あ、おい!? 緑谷!? 爆豪も幾野も……どこ行くんだ!?」
「あっとゴメン! ごめん忘れ物!! すぐ戻るから!!」
「言い訳ヘタクソかボケが」
「緑谷一人に出来ねぇから俺と爆豪ちゃんついてくわ!! みんな飛べるし! 何かあったら声飛ばすから!!」
フルカウルで跳ねる緑谷に、俺と……そして俺と同じ考えで爆豪ちゃんもついていく。
死柄木は緑谷の能力を狙っている。ともすれば、ヤツがこの後に向かってくるのは緑谷の方向だ。
「町の人たちの安全を最優先……!」
「
「OFAって呟いた直後に死柄木がこっち向かってきてる。ラグドールの『サーチ』か……無数の個性を持ってると考えられる。とにかく今は自分が囮になるしかない……ってお前なら考えるだろ」
ダチを一人にさせないために俺と爆豪ちゃんが付いていく。
死柄木がエンデヴァーを置いてこちらに飛んでくるとしたら理由はOFA。だからこそ緑谷は自分が囮になり、避難所やヒーローたちの方に向かわせないために飛び出した。
この行動に意味が生まれているかを、俺のダイブセンサーが把握する。
「……間違いないな。今緑谷に向けて死柄木が軌道を変えた。来てる。来る」
「ケッ。こりゃ当たりかハズレかどっちだ畜生」
「このまま引き付ける……!! もっと遠くへ!!」
『みんな聞け!! 死柄木が跳躍し、南西に進路変更!! 『超再生』ほか複数の個性を持っている!! 最早以前の奴ではな……!! ザッ……くっ、電波障……ザザッ……』
予想通りだ。死柄木は緑谷の個性を狙ってきている。
となれば個性を奪う個性も当然その身に宿しているだろう。俺の存在まで感知しているかは不明だが……オート個性は解けないな。
死柄木の進路変更を見たエンデヴァーもインカムで叫ぶが、直後に電波障害が起きた。死柄木の個性の仕業だろうな。
いいだろう、決戦だ。ここでケリつけてやる。
緑谷の力も伸びてるし、それに爆豪ちゃんも追いつき、追い越してを繰り返してる。
俺も二人の速度にダイブブースターも利用して何とか追いついている。置いてかれたりはしない。
USJで震えてた頃の、神野で何もできなかった頃の俺たちじゃないんだ。
やってやる。
「……ん!? かっちゃんも幾野くんもなんでついてきてくれたの!?」
「ブッ飛ばすぞ!?」
「そんな!?」
「全部終わったら際どい自撮り送るね♥」
「やめて!?」
見当違いの事を緑谷が言い出したので俺も爆豪ちゃんもキレ気味だ。
理由なんてシンプルだろうに。
「あん状況でノータイムで事情納得して行けるやつなんざ俺と幾野しかいねェだろうが」
「あっ……そうか、ありがとう……!!」
「それにさっきミリオ兄さんビビらせたからなあの野郎。万死に値するわ」
「いつも思うけど家族愛重いね幾野くん!?」
口にこそ出さないが。
お前を心配しねぇわけがないだろうが。俺も爆豪ちゃんも。
クラスのみんなだってきっとそう。でも、今は俺と爆豪ちゃんしか事情を知らないから。
だから、お前を一人にはしない。
隣にいてやりたい。
「─────来る!!」
「ブッ殺したらァ!!」
「俺がまず両手塞ぐ!! したらボコれ!! 死んでも油断すんなよ!!」
災禍との戦いが始まった。
……戦況は五分五分と言ったところ。
「がァ……!! クッソ、そんなナリになってもカッコよすぎだろイレイザーヘッド……!!」
「ヘイヘイショタコンまで拗らせたか手マン野郎!! 相変らず性癖終わってんなお前!! どーせ俺でシコってたんだろ!! あ、手が使えないのか! ちんちん崩壊しちまうもんなァ!! 床オナでしかシコれないんだな哀れなやつ!!」
「てめぇはいつも俺の邪魔をしやがって!! しつこいんだよ変態!! お前の個性も奪いたいのに奪えねぇし……このクソチート変態が!!」
「変態って言った方が変態なんだよバーカ!! 変態バーカ!! 裸の王様気取りかよきったねえ肌晒してよぉ!!」
「殺す……!!」
とにかく俺はダイブワイヤーとダイブブースターをフル活用し、ワープを織り交ぜて死柄木へ嫌がらせをやり続ける。
超再生持ちと確認しているので目を潰すまでは躊躇いなくやる。が、コイツもコイツで俺が体に潜り込んでもトカゲの尻尾みたいに自切して脱出しやがる。九州の脳無よりも頭が回る証拠だ。脳味噌直撃は殺しちまうからできない……いや、隙があればやろうとしてるけど脳無よりもこいつは動きが速い。隙が無い。
だがその嫌がらせで十分な隙を生めている。煽り耐性は相変らずゼロみたいだし。
さらにはイレイザーヘッド……相澤先生が遠くからコイツの個性を抹消してくれているのだ。コレが大きい。超再生や超パワーなどの能力は体に据え置きになっちまったんで消せてないんだけど、それだって崩壊が封じられてるのはマジでデカい。
突入組にいたマニュアルさんが脚をケガしてしまった相澤先生を抱えた上で、目元を水を操る個性で常に潤しているから瞬きも無くなっており、遠距離から常に死柄木を見れている。
そして俺が作った隙をついて緑谷が、爆豪ちゃんが、エンデヴァーが、強力なヒーローたちが必殺技を叩き込んでいる。
「スマアァッシュ!!!」
「グ……!!」
「ジェットバーンッ!!」
「ガハッ……!!」
行ける。このまま押し切れる。
俺が煽りながら攪乱を繰り返しつつ、コイツ自身の体力を削り切る。無限という事だけはあり得ないはずだ。
そう思い、再び俺は死柄木にとりつこうとしたところで────俺のダイブセンサー宛に、衛星回線を通して無線が届いた。
なぜ俺に。
インカムを使えば……いや、そういえば先程このクソ床オナ手マン野郎が電波障害を打っていたから、通常のインカムは使い物にならなくなった。
だが俺のダイブセンサーだけは別物だ。俺の無視の個性を通せるこいつは、あらゆる電波障害に左右されずにバリ3で電波が通じる。
だが衛星回線を通してきた通信となると相手が限定される。
この回線は通常のインカムでは繋げない。そもそもこれは緊急時等の連絡を想定された機能であって、この回線を知っている者は僅かしかいない。
まず開発者である明ちゃん。メリッサさん。雄英高校に通信機器が一つある。
そして俺が世話になってるラーカーズの本部。そこにも一つ通信機器。
あともう一人。
あらゆるものを創造して衛星通信装置も作れる、俺のダイブセンサーにも造詣の深い……俺の彼女のうちの一人。
『センさん……!!』
百ちゃんから、縋る様な声が響いた。
「……クリエティ!! 用件は!!」
『っ……ギガントマキア覚醒! 現在そちらに向かい爆走中、あと30分もせず到達見込み!! 巨大化の個性も発現し止められません!! ヒーローたちが足止めしていますが背中に連合の幹部をのせ、抵抗が厳しく……!!』
「ギガントマキアが!? ……クソッ!! こっちで死柄木が目覚めたせいだ!!」
『やはり……!! これから私達も迎撃に入りますが、確実な迎撃の為にイグジストもなんとかこちらに来れませんか……!? 貴方が来てくれれば私に必勝の策があります!! 必ずギガントマキアを止める策が!!』
簡素に状況を確認し、最悪であることを理解した。
やはり先ほどの死柄木の声でギガントマキアが目覚めたのだ。死柄木が覚醒したことでギガントマキアが目覚める可能性が高い事は事前の情報で確認していたが、しかし未来視には死柄木覚醒の現在の状況はなかったため優先度は低かった。
だが、物間の抹消も使い果たしたであろう今、80km離れた向こうの山荘ではギガントマキアが目覚めて大混乱を引き起こし……ヴィラン連合の幹部を連れてこちらに走ってきているという話だ。
グラントリノが以前に見た個性使ったギガントマキアのサイズはマウントレディを上回る。
最悪の光景が脳裏によぎり……しかし、あの
決断を迫られた。
ここに残り、死柄木を確実に潰してからギガントマキアを迎え撃つか。
先にギガントマキアの方へ向かい、百ちゃんと合流してあちらの被害を抑えてギガントマキアを撃退し、その後にこちらに合流するか。
どちらも一手間違えれば余りにも被害が大きくなる。
死柄木は俺たちがこうして足止めしているから避難民に被害が向かっていない。これのパワーバランスが崩れ、後塵を拝することがあれば……被害は広がる、終わりだ。
しかしギガントマキアが万が一包囲網を突破し、この町にたどり着いてしまえば、まだ避難していない地区を横切ることになる。最悪の被害が出るだろう。
どちらだ。
俺はどちらを選べばいい。
一瞬の逡巡。
そして答えは、余りにも簡単に、耳に届いた。
「──────幾野くん!! 行って!!」
緑谷の。
俺の信頼する友からの声が、俺の背に向けられて。
「聞こえた! ギガントマキアが目覚めて……こっちに向かってきてるなら止めないと!! 死柄木は僕たちが止める!!」
「こんなクソ手マン野郎俺一人でもなんとかなンだよ。てめェはてめェにしかできねェことしてこいやァ!!」
エンデヴァーが死柄木を火炎に包み時間を稼いでくれている中で、緑谷と爆豪ちゃんから、事情を察して声をかけられた。
こっちの戦場は任されたと。
お前は先に行けと。
悩んではいられなかった。
「任せた!! すみません、俺山荘の方に向かいます!! エンデヴァー、イレイザー!! みなさんあと任せます!!」
「何!? ……何かあったか!! 了解だ!! この男は俺たちで止める!!」
「いけ、幾野……!! 俺の生徒たちを頼む!!」
「ハッ……お前にマキアが止められるかな幾野潜。いいのかよ俺をほっといて」
「お前に俺は役不足だよ、哀れな操り人形」
「──────!!」
俺は百ちゃん達、山荘組に合流する決意をした。
百ちゃんが必勝の策を持っているというならばそれに賭ける。俺があの場に行くことで生まれる勝利に賭ける。
あそこには峰田も、マウントレディも……みんなもいるはずで、それぞれの力を百ちゃんも把握している。
そんな百ちゃんが俺を頼ってきたということは、俺がいなければ厳しいという判断をしたということだ。
万が一にもギガントマキアを野に放つわけにはいかず、連合の幹部共も止めなければならない。
その重要性を理解したからこそ、こうして衛星通信で俺を呼んだ。ならば俺はそれに応える。
さあ、じゃあすぐにでもワープ……と行きたいが、お互いの距離があり過ぎる。
山荘はここから約80km先。百ちゃん達の配置も山荘から5キロと離れていなかったはず。
俺のワープの距離は最長でも20km。そもそもこれだけの距離は跳べない。連発ワープでの合流という手段はとれない。
ダイブワイヤーとダイブブースターでカッ飛んでいくとしても時速200kmくらいが最速だろうか。ブースターも連発はできないし……時間がかかり過ぎてしまう。
だからこそ、俺は頼ることにした。
ホークスを超え、峰田を超え、最速の名をほしいままにする友の力を。
「─────テンヤ!!」
「っ!? イグジスト!? 死柄木と戦っていたのでは……!?」
一瞬で飯田の下へワープ。
こいつの速度を借りて、俺はギガントマキアの下へ跳ぶ。
「説明する時間が惜しい!! 緊急事態!! 俺を背負ってお前の出来る最速で駆け抜けてくれ!! 方角は指示する!!
「─────
ここに至れば一瞬の時間すら惜しく、俺は飯田の顔を正面から見て……簡潔に事情だけ話した。
そして飯田も、俺の顔を見るだけで察し、その行為に頷いてくれた。
以心伝心。
俺がここまで言うってことはそれほどの緊急事態であると飯田が察してくれて。
そして飯田ならそう理解してくれるだろうと俺も信じているからこその、一瞬の決断だった。
「乗ってくれ!! 最速のレシプロを使う……サードシフトを超えた一発限りの奥の手だ!! 持続時間は
「スマン!! 絶対にタイミングは外さない、やってくれ!!」
「ああ!! ではいくぞ!!」
大きな飯田の背中に、俺がまたがる様に乗りこんだ。
こいつの背中に乗るのも懐かしいな。体育祭で、あの時はチョークスリーパーを仕掛けたけど……コイツの背中は何か知らんけどいつも安心を与えてくれる。
迷子の手を引けるヒーロー。
お前の導きで、俺が迷子を助けてくるよ。
「レシプロターボ──」
「──ゼロシフト・
マッハ3を超える速度で飯田が大通りを疾走し、一秒も立たぬ間に1キロの距離を駆け抜けた。
その瞬間に俺は全ての物理法則を無視。空気抵抗も遠心力も位置エネルギーも全部無視して飯田の体から振り落とされることはなく。
そして飯田が失速する前に、その両肩に脚を乗せて前方に跳躍。重力を無視して落下しないように、速度を落とさないように。
一筋の赤い流星となり、ギガントマキアの下にはじけ飛んでいった。