【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【数時間前】
【side 幾野】
緑谷はハイツアライアンスに帰って来なかった。
その事を察したのは────深夜だ。
「────────」
透ちゃんと百ちゃんとの、お互いを慰めあうような情事を終えて部屋に戻り、久しぶりに自室での睡眠を貪っていた時に、オート個性が発動した。
ハイツアライアンスに侵入者が来ていたのだ。
しかしそれはヴィランではなく……日頃よりお世話になっている先生で。
「────オールマイト先生」
「うおっ!? ……幾野少年か。そうか、君は常に個性を発動しているから……しかも己の身に直接危害が加わらない事象すら感知できるようになっているとは」
その人の背後にワープして声をかけた。
オールマイト。緑谷と一緒にいたはずの……OFA継承者が、なぜか一人で普段は顔を出さないA組の寮に来ていて。
そしてその姿で俺は察した。
僅かに懸念していたこと……緑谷がはっきりとOFAを死柄木とAFOに狙われている事実を知り、俺たちに迷惑をかけまいと考えてしまった、それが起きたのだ。
俺も狙われているのに。
俺は、みんなと離れるのが寂しいという甘えた考えで、ここに戻ってきてしまったというのに。
「……緑谷は、戻ってこないんですね」
「…………君は本当に察しが良すぎる……ああ、そうだ。緑谷少年はOFAを狙われている。誰にも傷ついてほしくないと願った彼は……雄英に戻らないことを選んだ。AFOが、死柄木が自分におびき寄せられることを考えて……だが、無論私も彼に同行する! ヒーローたちの厚い支援も準備している! 君たちには手紙だけの通知になり申し訳ないとも思うが、どうか緑谷少年を待っていてくれないか……!」
オールマイトの手にあるものを見ればそこには手書きの手紙があって。
続くオールマイトの言葉にも、俺は答えを返さなかった。
この時、俺が……異能解放戦線襲撃前の俺であれば、ふざけんなとオールマイトをぶん殴ったうえで緑谷を探しに出かけたことだろう。
あのアホなーに一人だけ悲劇のヒロインぶってやがんだと。爆豪ちゃんと一緒にキレながら速攻で探し出して、ぶん殴ってでも雄英に連れ戻して……その上で、みんなで一緒にAFOに立ち向かおうとしただろう。
だが、今の俺は。
緑谷の気持ちが強く分かってしまうから。
「……オールマイト」
「幾野少年。気持ちは察する……が、緑谷少年の望んだことでもある。どうか彼の想いを……」
「いや……それ、
「なに? 君もここを出て緑谷少年と共に戦うというのか!? 駄目だ、危険だ……!!」
「無敵の俺が危険だって言うならなんで緑谷が無事な前提なんすか。贔屓しすぎでしょ。……そもそも俺だってAFOに狙われてる。ダツゴクを探して捕まえるのもヴィラン連合からの襲撃から身を守るのも俺ならより効率よくできる……緑谷の邪魔はしない。連れ戻すことも……今はしない。アイツが満足するまで隣にいてやりたいんですよ」
「幾野少年……」
「……
「ム。……ああ、会った……目が覚めた緑谷少年と共に、彼の個性のあらましについて全て伝えている」
「
「…………泣いていた。その上で緑谷少年の言葉でご納得はなされたが……」
「してるわけねぇでしょブン殴りますよ?」
「ムム」
「言っても止まらないって分かってるからその場では言わなかっただけです。強い
「幾野、少年……」
オールマイトから話を聞き出せばやはり予想通り、アイツまた引子さんを泣かせてやがった。
そんなお母様を目の前にして止めないオールマイトもオールマイトだと思うけど。
まぁでも緑谷はホントマジでそういう所に無頓着だからな。そこはちゃんと俺が注意したったろ。
ま、今だけは気持ちが分かるからな、俺も。
大いなる力を持ってしまった者の責任……とでも言えばいいか。その力に振り回されてしまっている。
きっかけは恐らく『個性』の『限界』を『無視』したこと。
あの瞬間から、どうにも自分の存在が濃くなりすぎたというか、ずれが生じたというか……普段から張っているオート個性のピントがずれて広がってしまっていた。
気を抜くと、
病室のベッドで目覚めた時。エンデヴァーの病室の前にいた看護師さんに気付かれなかったとき。ホークスたちがエンデヴァーの病室に来た時。
その人への意識をしていないと、向こうが俺に気付かないのだ。そこに俺はいるのだけれど、向こうが俺を見て俺の声を聞いても、それに気づくことはない。
石ころ帽子でも被った気分だ。
……思えば、他人の注目を無視するような個性の使い方も無意識に避けていたような気がする。
こうなりたくなかったから。
随分と懐かしい感覚……そう、まるで峰田と出会う前のあの頃の俺のような。
ここハイツアライアンスに戻ってきて、普段通りの日常を過ごしてみても……それは治らなかった。
A組の仲間を常に意識していないと、俺がそこにいることに気付かれない。
──────辛い。
この個性の暴走を抑える個性のコントロールを磨くという意味でも、今はそばにあまり人がいない方がいい。
また、逆に言えば注目されないということで戦闘においては有利に働く面もある。
そういった個人的な事情も込みで……俺は緑谷についていくことにした。
アイツの隣にいて、アイツが疲れて諦めるまで……もしくは目的を達成するまで、俺が隣にいてやって。
その中で、俺も個性のコントロールを取り戻して。
そんな風にイメージしていた。
……俺の中にも焦りがある事を否定はしない。
けど、今はA組に、ここにいるのが少し辛い。
俺の事情で、俺だけが辛い思いをするならまだマシで……俺に気付けないなんていう事をA組の誰かにでも知られれば、周りまで辛い思いをさせてしまうだろう。
なんで逃げます。
俺がいなくなることの責任とかみんなの苦情とかは最終的に緑谷に全部押し付けて。
今一番泣いているであろう引子さんにも安心してもろて。
俺も個性のコントロールの特訓が出来て。
んでもってヴィランを迅速に捕まえて社会に平和を取り戻す。
うんうん。完璧なアイディアだ。一石四鳥。
さて、そんなわけで手紙をみんなのドアに挟んでいくオールマイトを見逃してやり、俺は俺で準備を進めることにした。
【開発室】
「……やっぱりね。いてくれると思ったよ」
「おや!? どうしたのですかセンさん、こんな時間に!?」
スーツケースをもって開発室に立ち寄れば、明ちゃんが一人、いつも通りの楽しそうな表情で色々開発をしてくれていた。
雄英に戻ってきてから聞いている……ここを避難所にして、さらに防衛システムを強化すると。
であれば色々な機構を開発しなければならないわけで、そうなったときにこの子なら寝ずに作り上げているだろうなという確信があった。
相変らずな彼女の様子に、少しだけ安心してしまう。
「ゴメンね急に。お願いしたいことがあってさ……スーツの改造をしてほしくて」
「ええ、それは構いませんが……深夜にそんな、急ぐほどの事ですか?」
「うん……ちょっと緑谷が今大変なことになっててさ。助けに行くんだ」
スーツケースを机の上に置いて、簡単に明ちゃんに事情を説明した。
明ちゃんも緑谷との縁は深い。そんなやつが大変なことになってて、助けに行く……と言う話を聞けば納得してくれるだろう。
と、まぁざっと説明したのだが。しかし明ちゃんはその説明を聞いても真顔のままだ。
「……事情は分かりました。けれど、センさんは……いつ頃戻って来られるのですか?」
「……どうだろね。そんなに長くはかけない見込みだけど。まぁ俺だけはいつでも帰って来ようと思えば帰って来られるしね。大丈夫だよ」
「大丈夫なお顔をされておりません」
「鋭い。……まぁでもホントに大丈夫だから。俺が無敵なのはよく知ってるでしょ?」
にへっと笑ってごまかしてみたが通じなかった。そりゃそうよな。俺の彼女だもん。
でもここで色々調整してもらえないとそもそも緑谷の助けに行けなくなって、それはよくない。
引子さんの為に……いや、俺が緑谷の隣にいたいんだ。この気持ちは嘘じゃない。
「お願い、明ちゃん。一生のお願いでもいい……俺の我儘を聞いてほしい」
「…………」
むすーっとした顔で睨んでくる。可愛い。
けど今だけは……ごめん、明ちゃん。お願いを聞いてもらいたい。
「………………わかりました。センさんの事はよく知っています。私がここで止めても止まるはずがない人でした。とっとと戻って来られるように全力で改造した方が早そうですね。どのような改造を希望ですか、センさん」
「助かる! ごめんね……それじゃまず変装用のベイビーをスーツそのものに組み込んでもらって、服の色とか変えられるようにして……あとは出来るだけ資材が積めるようにしてほしくて。……となると偽乳いらなくなるな? 俺だって気付かれないようにしたいんだよね。あとはダイブワイヤーとダイブセンサーのバッテリー容量めっちゃ増やしてもらって、予備のバッテリーもお願いして……ダイブブースターの出力も上げてもらって……あ、あとセンサーにこういう機能を組み込んでもらいたくて……」
「ムム。なるほどなるほど……変装もするのですね。色は何色にするおつもりで?」
「黒一色の予定。かっこよくない?」
「闇落ちカラーじゃないですか。私は白いセンさんのほうが好きです」
「ごめんて。出来る限り早く戻ってくるから」
むすっとした顔は変わらないが、しかし明ちゃんは俺の願いに折れてくれて……俺がお願いすると同時にスーツなどの改造を果たしてくれた。
見た目の要素が強かった偽乳は取り外して、小物を搭載できる胸部装甲を増設。
ダイブブースターは今の緑谷の速度に追いつくためにも出力強化。空気のチャージの限界はもう無視できる。
ワイヤーとセンサーも同様に強化を入れて、こちらは電力で動いてるのでバッテリー増設。予備のバッテリーも腰のバックパックに収納。
同時にバックパックには容積を無視しまくって携帯食料や生活用品、医療キットを積めるだけ積んだ。100キロを超える重さになってるけど当然俺は重さを無視できるので問題なし。
フル装備ってところだな。これ装備した状態なら俺一人で国一つと戦えるレベルまで積み込んだ。
さて、そうして明ちゃんにお願いした改造が完了し、スーツを身に纏おうと服を脱いだところで……明ちゃんが作業用の手袋を外し、その手を俺の手に重ねてきた。
しっとりとした手のひらに触れて、それだけで彼女の求めることは分かる。
「……もう少しだけ、私にお時間を頂けますか?」
「……うん。わがまま言ってるのは俺の方だから……少しだけなら、いいよ」
「有難うございます。では、次また会う時まで私が寂しくならないように……キスしてください」
「……わかった」
「ん……っ……」
服を脱いだ状態で、明ちゃんの体を抱き寄せて……その唇に唇を重ねて。
そこからしばらく、俺は明ちゃんと愛を交わし……朝日が昇ったころに、一度ハイツアライアンスに戻ることにした。
壁を潜って一度自室に戻り、ルーズリーフを手に取って手紙を書く。
もうみんな起き出していて、緑谷の手紙を見つけているころだろう。
俺は今みんなに意識を集中していないので気付かれることはないと思うが……緑谷への合流もしなきゃならないし、あんまり時間はかけられない。
見つかったら絶対緑谷の個性の事で問い詰められるしな。その辺は爆豪ちゃんに任せとこ。
「とりあえず峰田あてに書くか」
手紙にはそんなに重要な内容は書かなかった。
緑谷の手紙読んで、心配で俺もついていてやることにしたと。
俺が必ず緑谷を守り、連れ戻すと。
ただ、アイツの想い自体は否定しないし、確かにAFOに狙われててヤバいだろうからしばらく様子は見てみると。
あとちょっと俺の個性も変な調子なんでそれも克服してくると。
峰田には透ちゃんと百ちゃんへの説明と言い訳をよろしく頼むわ、と。
で、俺らがどこで何してるかみんなが知ったら飛び出してきそうなので、連絡は出来るようになったらこっちからするから心配しないで……いやこれどう考えても心配するな?
定期的に連絡入れようかな。いや、でもそれやり始めたら絶対みんなから帰って来いって言われまくりそう。俺もさみしくなって決意鈍りそう。
この辺は緑谷も鈍感だよなぁ。うん、やっぱ俺が付き添ってとっととAFOやヴィランぶっ殺して早くみんなの所に戻って来よう。
ちょっと隣にいるだけだから。浮気とかじゃないから心配しないでいいからね透ちゃん、百ちゃん、明ちゃん……と。
あ、あと引子さんにはラインしとかないとな。
『事情は聞きました。俺が緑谷のそばにいて守るんで大丈夫です、安心してください』
……っと。よしOK。
「だいたいこれでいいか……あとは峰田と爆豪ちゃんがなんかいい感じに説明しといてくれるやろ」
俺は書きあがった手紙を峰田の部屋の扉に挟んで。
とうとう征くことにした。
対象は緑谷。
今アイツがどこにいるかは分からないけど……
確信がある。
今の俺は、隣にいてやりたいと思う親しい友が対象ならば、
「行ってきます」
誰にも気づかれない呟きを残して、俺はハイツアライアンスを後にした。
ヒロアカ全てのOP・EDとリンクするような話を描きたい。
終章開幕。見届けてやってください。