【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【side 幾野】
ドスケベお姉さんと別れて街を1つ2つ移動して、雨宿りできる屋根が設置されてるビルの屋上を発見してそこで休憩をとることにした。
「この辺もダツゴクすくねーな。それなりの街の大きさなのに」
「そうなんだ?」
「ああ。ちょっと違和感あるな……メシ食べ終わったら調べる時間くれ。危機感知は?」
「今の所大丈夫。夜に暴れ出すヴィランやダツゴクがいるかと思ったけど……意外とそうでもないね」
「緊急事態宣言もそれなりに効果出てるってことなんかな。……ん。このカツなかなか悪くない」
「オールマイトの手作りだとしたらプレミアつくよね……食べずにとっておきたいな」
「腐るわ」
さっきオールマイトから貰った弁当をもぐもぐと食べながら、しかし周囲への注意も切らすことはない。
個性許容量の限界はもう超えた。一日中……いや、永遠に個性を広げててももう俺は疲れないだろう。
5キロ以内のダツゴクもいないことを確認してからの休憩だ。
これまで食事とか最低限だったからな。俺は空腹も疲労も無視できるから大丈夫だけど緑谷はOFAついてるとはいえ生身。気を使ってやらにゃならんだろう。
またどっかでセルフレジのあるコンビニ見つけて買い出ししておかなきゃ。俺の腰のバックパックにメチャクチャ食料とか水とか生活用品を無視しまくって詰め込んである。俺が緑谷のママです。
─────ああ、でも。
もうそろそろその時なのかもな。
以前から感じていた。
いつか言わねばならない事。
誰にも、どうしようも出来なくて……それでも、どうしてもそれは既に起きてしまっていた。
申し訳ないとは思うよ。
ごめんとも思うよ。
でもさ。
俺ももう、目を逸らし切れなくなった。
悲しい現実を、緑谷に伝えなきゃならなくて。
「ごちそうさん。……緑谷」
「ごちそうさま……ん、なに?」
「急にスマン。一つ……すごく重要な話がある。俺達のこれからの活動にもかかわってくる話だ」
「え……何? ……ッ、もしかして幾野くん、キミの個性が……!」
「いや、俺の話じゃない。俺はどうにでもできるから……どうにでもなるから。でもお前には伝えなきゃいけない話だ。俺も心苦しいけど……言わなきゃならないと思った。お前の事を想って話す。お前にとって辛い話になるかもしれないけれど……聞いてくれ」
「……うん。大丈夫、幾野くんのこと信じてる。聞かせて、話を」
俺が真剣な表情で緑谷を見据えると、緑谷も意志を籠めた瞳で返してくれた。
ああ……すまない。本当にごめんな。
お前にとって辛い話になるとは思う。けど、俺はお前の事を想って、伝えてやりたい。
いいか緑谷。
良く聞いてくれ。
「───お前くっせえ!!」
「ン゛ン゛!!」
くっせぇのよ今のお前!!
この雨のせいもあってお前から洗ってない犬の匂いがし始めてんだよ!!
仕方ねぇんだけどさ!! 俺もお前も着替えなんてしてないし風呂なんて入る暇ないし!! メチャクチャ一日中走り回ってるし!! 血と汗と泥と埃と塵と砂まみれになりながら走り抜けてるから!! 仕方ないんだけど!!
「臭いです。はっきり言えば濡れた犬の匂いがし始めました。このままだとOFAの力を受け継いだお前が助けた人々から『すごい臭うヒーローに助けられた!』って話になりかねないので問題提起させていただきます」
「すごい心が痛い!! いや……でも仕方ないじゃん!! お風呂入る暇なんてないし!!」
「仕方ないけどね? でもよく考えて?? オールマイトだって絶対匂いとか対策してたと思うよ? エンデヴァーも加齢臭気にするように最近はなったしさ。やっぱヒーローって英雄であり象徴じゃん。助けられて駆け寄った時に臭かったら終わりだと思う。その辺どう思いますか緑谷の中にいる継承者の皆さん」
「ッ……ッ…………!! 初代と二代目と四代目は匂いなんて気にするなって言ってくれたよ!! 四代目は仙人みたいな生活をされてたから特に!!」
「他は?」
「三代目は無口な方だからため息一つ! 五代目の万縄さんは爆笑してるよ!! 六代目は煙幕で燻せばマシになるぞってアドバイスくれて七代目の菜奈さんは母さんみたいな困った笑顔浮かべてちゃんと洗えってさ!! すごいねOFAの継承者たちからおもしれー男認定されたよ幾野くん!!」
「光栄の極み系男子」
「っていうか幾野くんはどうなの!? キミもお風呂入れてないよね!?」
「俺は俺の体ごと無視して汗も汚れも落とせるから。髪もコンディショナーの効力を諸々無視してずっと有効にしてるから匂いも甘い香りキープしてるだろ? 雨もずっとすり抜けてるしな」
「生活に便利すぎる個性……!!」
まぁ俺が我慢できないんすよね。継承者の皆さまが総出で止めても無理矢理洗うよ俺は。やだよ親友がくっせぇままでその隣にいるのは。
今は周囲にダツゴクもいないし緑谷の危機感知も発動してない。チャンスである。雨も降ってるから泡も落とせるし。頼もしい道具もあるし。
「ってなわけで提案です。まず緑谷のヒーロースーツは俺が個性通して汚れを全部すり抜けさせて洗うとして」
「ぎゃあ!! いきなり引っぺがさないでくれる!?」
有無を言わせる暇も与えず俺は緑谷のスーツに手をかけて個性を通し、いつかの女装大会の時のように服を引っぺがして個性を通して汗やら汚れやら匂いやら全部無視させて落とした。
とりま服はこれでOK。背負ってるリュックも一緒に汚れ落としといてやろ。
さて目の前で全裸になった緑谷。寮で共同生活してるからまぁ見慣れたものだが、しかしビルの屋上でいつまでもこのままだとストリップ罪で捕まるかもしれない。
なので俺はこれからの案を出す。
「悠長にはしてられねぇ。お前に与えられた選択肢は三つだ緑谷」
「いいから服返して!?」
「一つ。この雨を使ってシャワー代わりにして俺が持ってる洗剤で体を洗う。ただしそんな本降りって程でもないから時間がかかる懸念がある」
「僕の話聞いてない!!」
「二つ。俺と一緒に無人カウンターのラブホテルに入ってそこで俺が洗ってあげる♥ 俺もシャワー浴びれるからかなり推しです♥」
「すごいよいま君に対して危機感知が発動したよ!?」
「三つ。先ほど俺がウォッシュから預かって無視を通して保管してある大量の『バブル』で体を消毒して洗う。スッキリはしないかもしれないけど多分一番洗えるのがコレ」
「それでいい!! それでいいから早く!!」
「四つ」
「第四の選択肢!?」
「明ちゃんが開発した体を洗うベイビー『全自動人体洗濯機』を借りて来てるのでこれで洗う。コンデニウムで圧縮されたこの装置のボタンを押すだけで出てくる洗濯機に入ることで30秒で99%の汚れを落とせる便利な道具だ。服着たままで乾燥までやるらしい」
「洗濯機の中でなにが起きるか怖すぎるよ!?」
「イヤ……やっぱり明ちゃんが普段使ってるコレを穢れたお前に使わせるのは業腹だわ!! やっぱ使わせねぇわクソが!! 俺が使うわ!!」
「狂ってるのかな!? いいから……もうウォッシュのバブルでいいから!! 早く服着せて!! ここでAFOに襲われたらマジで愚かの極みになるから僕!!」
「しょうがないにゃあ」
割と二番目の選択肢がベストだとは思うんだけどな。いや体は洗ってやらねぇけど。せいぜい背中流すくらいだけど。
でもホテルで少し休むってのは全然アリだと思う。緑谷も仮眠くらいしかとってないし。OFAって疲労も耐えられるようになるんかな。
まぁ緑谷がそんなにウォッシュの個性を味わいたいなら仕方ねぇな。
俺はウォッシュから貰っておいた『バブル』をバックパックから取り出して、泡が割れないように無視して持ち、緑谷の体にぽんぽんと投げつけた。
「わっ、わっ……おお! すごい! 流石ウォッシュの個性……!! その泡はあらゆる汚れを消毒して清潔に保つというある意味概念系の個性でもあるんだけど、バッチリ汚れが消えてる……感じがする! 肌が風呂上がりみたいにスッキリだ!! 匂いはちょっと自覚してたけどそれもバッチリ落ちてるって感じ!! なんてすごい泡なんだ……あのサイズでここまでの洗浄効果があるなんて! やっぱりビルボードチャート11位に入るだけはある!! マウントレディのCMでのブーストが無かったら10位以内もあり得たかも」
「ここでも早口になるのかお前。でもそんなにさっぱりするのか……俺もやっとこうかな。ここで脱いでいい♥?」
「脱ぐな。幾野くんは発目さんの洗濯機使いなよ服ごと入れるんでしょそれ」
「人殺しの目をしている。まぁ俺もこれ試したかったしこっちに入るけどね。あ、ヒーロースーツ着直す前に髪にコンディショナーはつけとけな。俺の貸すから」
「幾野くんとコンディショナー御揃いになる事に凄い恐怖がある僕。貰うけど」
「んじゃ30秒だけ待っててなー。俺も明ちゃんのコレ自分で使うの初めてだから楽しみ」
バブルに続けてコンディショナーもぴゅっぴゅ♥と緑谷の手に出してやってから、俺はその場に展開した明ちゃんのベイビーである『全自動人体洗濯機』に入り込んでスイッチを押す。
どばばーっと洗剤が出てきて……目と口をふさいでればいいって言ってたけど……いやなんかこれ物凄い勢いで回転し始めてオゲーッ!!
30秒後。
そこにはバッチリ体を洗い終えて服も髪も乾燥したけどめっちゃ目を回した俺の姿が。
「無重力の特訓なんて比じゃないくらい目が回った……」
「自業自得だよ。コンディショナーありがと」
「ん」
洗濯機から出てくれば緑谷もヒーロースーツに着替え始めてたので、俺も髪を整えてコンディショナーつけてお互いにウォッシュのバブルで髪を洗い流して清潔な体になった。
「どれどれ。すんすん……」
「その顔で至近距離まで匂いを嗅ぎに来ないで!?」
「照れてる? 可愛いね♥ やっぱホテル行く♥?」
「殺すぞ」
「ごめん」
緑谷の匂いも確認したけど洗ってない犬のようなにおいはさっぱり無くなって俺の髪のように甘い香りが漂うようになった。
よしよし。これならしばらくは大丈夫だろ。
ついでにからかったらマスクを被って黒目になった緑谷が殺戮者のような眼で見てきたので謝った。峰田みたいに逞しくなってきたなコイツのツッコミも。
「んじゃ汚した屋上をちゃんと後片付けして……指示貰って次に向かうか。夜はまだ長いし。3時越えたら二時間は仮眠とるぞ」
「うん、それまで頑張ろう。それにしても……まぁ屋上だしヴィランが襲ってこないのはいいとして、ダツゴクが一人もいないってのは本当に変だね」
「な。この町の大きさでってなると……ん、そろそろオールマイトの車も追いついてくるな」
「そっか。じゃあ連絡とるね」
さて、実を言えばここでちょっとのんびりしてたのには事情がある。
俺と緑谷の移動速度が速すぎて、他のヒーローや監督役のオールマイトが追い付けないことが多々あるのだ。
俺らは信号も交通ルールも関係なくブッ飛んでいくけどオールマイトは車だしな。先ほどのドスケベお姉さんを雄英に送り届けてもくれてたのでちょっと距離が空きすぎる恐れがあった。
基本的に俺らの動きは警察や公安と連携したオールマイトが指示をくれている。俺らの判断で動くこともあるけどね。
さてそんなわけで。
次の移動先の指示を貰うために緑谷がGPS付きの携帯端末を操作し、耳元に当てようとしたところで───それは急に来た。
「ッ!!」
「なッ────」
緑谷の手にあった携帯端末が急に吹き飛んだのだ。
同時に危機感知も発動したらしい。緑谷がその方角を見る。
だが俺の5キロ圏内のセンサーには何の反応もない。つまりはその外からの超々遠距離狙撃を受けたということで。
それで相手はほぼ察せた。放たれてビルの壁面に突き刺さった弾丸についたスピーカーから響く声が確信を深める。
『───緑色の……少年。着替えは済んだな? これから
レディ・ナガンだ。
「……来た!!」
「AFOの刺客か……ってことは計画性のある襲撃!! デク!!」
「イグジストはこっちに向かってくるオールマイトの支援を先に!! 敵がレディ・ナガンだと伝えられてない……狙われてる可能性がある!!」
「お前だけで行けんのか!!」
「行ける!! 行って!!」
「っ了解!! 声飛ばしてきたのは悪手だったなレディさんよ!
「確認した、サンキュ! 現役時代よりも狙撃距離が伸びてる、何かAFOから貰ってるか……オールマイトの方急いで!」
「すぐ行く!! 向こうの安全確保したら合流すっからな!!」
緑谷と最低限のやり取りで情報を共有する。
レディ・ナガンの情報はホークスから聞いていた。最長で3キロの狙撃と聞いてたので俺ならいつでも位置を捕捉できると思ってたのだが……俺の索敵範囲を超えて狙撃して来やがった。
何故俺のセンサーの距離が分かったのかだけが不明だ。さっきのスピーカーからの声では緑谷しか見えてなかったような発言だったし、俺がいることは向こうにはバレてないと思うんだけど。スナイパーの勘みてぇなもんか。
だが声を飛ばしてきたってことはそこに電波が流れてるってことだ。俺のセンサーならそれを逆探知できる。
そこから追い、現在のレディ・ナガンの位置は確認して緑谷に伝えた。この情報であとは緑谷なら危機感知とOFAの力で行けるだろう。
距離を詰めるのに5キロ駆け抜ける必要があり、その間常に狙撃に晒されるが……今のコイツならきっと行ける。
「オールマイト……!!」
なので俺はもう一つの懸念、こちらにやってきてるオールマイトの援護に向かうことにした。
レディ・ナガンの射程が五キロってんなら、緑谷だけを狙わずに周囲を狙うという選択肢も考えられる。人質代わりに……オールマイトが狙われるかも。
この周辺は避難が完了してる地域なので人は少ないが、それでも家にこもってる人もいるし。大至急止めなければならない。
迅速な拿捕は緑谷に任せる。初対面のレディ・ナガンへは短距離のワープしかできないからな。
俺は意識を集中し、こちらに向かってきているオールマイトに向けて距離の無視によるワープを発動した。