【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【side 幾野】
俺はビルの屋上にいた。
何でここにいるんだろう。
逃げるつもりなんて全然なくって。
でも、みんなの顔を見て急に怖くなって。
思わず逃げ出しちまって。
「……何やってんだろ」
でも、みんなと離れたくなくて。
少し離れたところのビルで、今度こそ周囲の注目を『無視』するようにしてバレないようにして。
緑谷たちの様子を遠くから見下ろしていた。
今、麗日ちゃんと爆豪ちゃんが何かを緑谷に伝えて……緑谷がそれに驚いたような顔になって。
そして、やはりみんなは俺たちを止めに来たのか……それを緑谷が抵抗しようとしているのか、お互いに構えた。
A組のみんながそれぞれ一気に位置を移動する。連携の為にそれぞれが動きやすい位置取りを取ったんだ。
透ちゃんは隠れて、常闇は空から奇襲できるポジションを、百ちゃんはビル内で創造を始めて、轟は広範囲攻撃ができるように。
何も言わずとも最適な連携が出来るのが俺たちA組なんだ。
ああ、何度も見た光景だ。
俺たちが放課後にいつもやってる光景。
今日は緑谷VS18人か────いや。
一人足りない。
俺と緑谷を抜いた18人から、更に一人あの場の人数は減っていて。
そして、俺が周囲を確かめるよりも速く、そいつは俺を追ってやってきた。
きぃ、と。
屋上に続くドアを、そいつが開ける。
「────────」
記憶がリフレインする。
屋上から地面を見下ろす俺と、その背後の扉を開けるあいつが。
峰田実が、そこにいた。
「っ……!!」
思わず声をかけそうになって堪えた。なんで堪えた?
いや……違う。今は峰田に見つかっちゃまずいんだ。なんで?
そもそも気付かれるはずがない。今は周りの注目を俺の方から意識して無視している。
さっきA組のみんなと出会ったときは驚いて思わず無視を切っちまったんだ。きっとそうで。どうしてそんなことした?
でも今は、俺の事を世界の誰もが見つけられない。ここに俺がいることを見えるやつはいない。
峰田だってたまたまこのビルに来ただけかもしれない。跳峰田するにも遠いこのビルに?
わからない。
俺はなんで、コイツがここに来たことを恐れちまってるんだ?
「…………」
峰田の目は俺の方に向いていない。
なんで。
やっぱり俺の事は見えてないんだ。俺が無視してる。俺が峰田を無視してる?
どうして。
峰田がドアを閉じてこっちに歩いてきた……いや、違う。屋上のヘリから緑谷を観察するつもりなんだ。
俺を見て。
俺はその峰田の動きから目が逸らせない。
真っすぐに歩いてきた峰田は、俺の隣、ビルのヘリに立って……緑谷ではなく、朝焼けを迎えようとする空のほうを見て。
「──────そこにいるんだろ?」
その一声で。
俺の目から、涙がこぼれおちてしまった。
「……見えてねェけどさ。声も聞こえてねェけど……でも、イクノ。お前はそこにいる」
なんで。
なんで、お前は。
「ここ最近お前がいなくてつまんなかったからよ。まだオイラの前に顔見せられるようなら……見せてくれ」
いつだって。
俺の隣に、いてくれるんだ。
「……峰、田……」
俺はぽろりと涙を屋上に落としながらも、注目の無視を解除した。
個性のコントロールが暴走していたが、峰田の前では驚くほど素直に、見てもらえるように意識できた。
峰田。
お前の前にいる俺を、お前はまた見つけてくれるかな。
「──っうおっ!? 急に出てきたからビビッたァ! 近っ! 想像以上に近くにいたじゃねぇかよお前ェ!! 予想じゃオイラの後ろにいるかと思ったのにすぐ隣じゃねーか! びっくりして落っこちるところだったわオイラぁ!」
「……ふふっ、なん、だよっ……バカみてぇ、じゃっ。ねぇか、ぐすっ……それでっ、落ちちゃったら……っ」
嗚咽で上手く喋れない。
峰田が、いつもの峰田過ぎて……それを見た瞬間に、俺の中の何かが決壊して。
俺は、いつしか滝のように涙をこぼしていた。
「よかったァ一発目でビンゴで! ここにいなかったらオイラあらゆるビルの屋上で独り言呟くマンになるところだったわ!」
「……なんでっ、だよ……」
「お前の行きそうなところくらい分かるわ。お前高いところ好きだしよ。辛いときは
「違うっ……なんでっ、俺を、追って……ぐすっ、きたんだよ……」
「ん? そっから? はーぁ、仕方ねぇなぁ」
涙ににじむ視界の中で、やれやれといったふうに峰田がため息をついて腰に手を当てて。
そして、今度こそ俺の目を真っすぐ見据えて、言った。
「……お前がマジで泣いたのは、
……そうだった、だろうか。
そうだった、かもしれない。
「お前に言いたいことがあって来た」
「っ……!」
続く峰田の言葉は、俺の心臓を再び跳ねさせるのに十分なそれで。
今のこんな体たらくの俺に、なんて言葉で怒られるのかが怖くって。
でも峰田は、そんな俺に笑顔を見せてきて。
「────頑張ったな」
「────ッッ……!」
褒めてくれたんだ。
俺の行動を、否定しなかった。
お前の、お前たちの隣にいるのが辛くて逃げた俺の事を……怒らなかった。
「いや、ホントによ。個性が暴走して不安なときに、よく緑谷を支えてダツゴク捕まえて……すげーわ。クラスのみんなはまぁ怒ってたんだけどよ。オイラはお前ならそうするだろーなって思ってたし。まず褒めるわ。偉い。お疲れさん。めっちゃヴィラン捕まえてAFOも今頃ケツに火が付いてんじゃねーか?」
「峰田……俺はっ……!!」
「あ、でも怒ってねェわけじゃねぇんだぜ? そもそもオイラにだけ手紙置いてってよォ! あれで葉隠と八百万からめっちゃ圧かけられたしよォ! すぐにでも飛び出そうとするみんなの事を止めるほうに気ぃ遣ったわマジで! やりてえことは分かるけどせめてオイラに相談してからいけよなぁ! お前そういう所があるからよぉ!」
「ぐすっ……ご、べぇん……!」
もう、言葉が言葉として作れない。
4年ぶりに流す涙は、溢れる量の限界を無視したように無限にこぼれ出てきて。
峰田が俺の行動を否定しなかったことで。
受け入れてくれただけで、こんなにも涙を流してしまうことが、恥ずかしくて、温かくて。
ぺたんと腰が抜けたようにその場にしゃがみ込んでしまい、峰田の目線と俺の目線の高さが合う。
「峰田……!」
「……でも、絶対に忘れんなよイクノ。
「────オイラが、ずっとお前の隣にいたいんだ」
「────オイラが、ずっとお前の隣にいてやるよォ!!!」
想い出した。
私の
私が………俺が、幾野潜になった瞬間の言葉を。
「────お節介だって言われても、ずっといてやる」
「────お節介だって言われてもずっとずっと、死ぬまで隣にいてやるからよォ!!」
「────だってヒーローだからな、今のオイラは」
「────だから絶対に死ぬんじゃねぇ!! オイラがお前を安心させられるようなヒーローになってやるからよォォォ!!!」
そうだ。
峰田が、私のヒーローになってくれるって言ったから。
私は、俺は、そんな峰田の隣にいてもいいように、ヒーローを目指したんだ。
峰田のように。
泣いてる誰かの隣にいてやれるような、ヒーローを。
「うっ……ぐっ、う、あ、あぁぁ……あぁぁぁっ……!!」
「だからよ、個性がちょっと調子悪くなったからって怖がらなくていいぜ。ヒーローであるオイラが絶対になんとかする。それに今はオイラだけじゃねえ、お前が頑張ったから……みんながいる。葉隠も八百万も、A組のみんなも、B組だって、発目だって、先生たちだって……ヒーローたちだって、みんなお前の隣にいてやりたいって思ってる」
「わぁぁぁ……!! ああぁぁぁん……!!」
「だから……戻ってきていいんだ。一人で苦しむことなんてねぇ。イクノ、お前はお前なんだ。オイラがお前の隣にいたいと願うように、お前がみんなの隣にいたいと願うなら……いていいんだ。お前の頑張りはみんなが分かってる」
「あぁぁぁ!! わぁぁぁぁん!!」
「だから戻って来いよ。オイラがついてってやるからさ。…………お前と緑谷がいねぇと、オイラの作ったジオラマが寂しそうでいけねェや」
伏せる顔の、幾つも涙の跡が作られた屋上の床に写る、峰田の影が形を変える。
顔を上げれば、そこには俺に向けて峰田が手を差し伸べていて。
「───────っ!!」
俺は、その手にすがるように、両手で掴んだ。
眩しい。
ヒーロースーツを着た峰田の笑顔が、逆光に照らされるように光を浴びて。
─────夜明けだ。
夜明け前を超えて、俺という迷子の手を取ってくれた峰田が。
俺の目には、世界一カッコいいヒーローの姿に見えていた。
使用楽曲
『ぼくらの』
『ピースサイン』