【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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160 手に入れた夜明け

 

【side 幾野

 

 

 峰田に手を握ってもらって、俺は戦いが終わったA組みんなが待つ広場に歩いてきた。

 己のバカさ加減を反省する涙は未だに止まっておらず、腕で何度も拭うけれどもスーツの袖を濡らすばかりで。

 麗日ちゃんに膝枕されてる緑谷と、それを見守るみんながいて。

 

「お、緑谷も捕まえたか? お疲れさんな。イクノももう大丈夫だ、ようやっと自分が見えるようになったからよ」

「みんな…………ごめんな、俺、バカで……っ」

 

 峰田が声をかけて、みんなが俺の方を振り返る。

 みんなの視線が俺に向く。

 まだみんなには俺の事が見えている。個性が暴走している俺の事が。

 それだけでも、溢れるように涙がこぼれた。

 緑谷家の涙腺を受け継いだかのように、ぽろりぽろりと涙が溢れてきて。

 

「センちゃん!!」

「センさん……っ」

「お前も無事だったかよ!? ホント無茶ばかりしやがって……!」

「個性の調子が悪いって話だけどよ、どうなんだ今は」

「僕たちにはまだ君が見えているが……今もキツいのか?」

「…………」

 

 俺は飯田の言葉に無言で頷く。

 己の無神経を自覚し、暴走を反省し、峰田に再び心を救われた身ではあるが……個性の暴走は収まっていない。

 まだ気を抜くとみんなを無視しちまいそうだ。

 A組みんながここにいるから、俺はまだなんとか俺を保てている。

 

 俺はやっぱり……このままみんなの前から消えちまうのか?

 俺は─────

 

 

「─────幾野」

 

 

 だが、哀しみで顔をゆがめかけた俺に声をかけてきた男がいた。

 爆豪ちゃんだ。

 緑谷のそばにしゃがみ込んでた姿勢から立ち上がり……透ちゃんと百ちゃんを止めるように手で示し、俺の前に近づいてくる。

 峰田もそれを見て一度俺の手を離して、俺と爆豪ちゃんは互いに向き合った。

 

「……お前にも、俺は謝らなきゃならねェ事があんだ」

「爆豪、ちゃん……」

 

 俺の顔を見る爆豪ちゃんの顔は、クソ下水だった頃とは違う、一人のヒーローとしての真っすぐな視線を向けてきて。

 その優しさと切なさが同居したような瞳に、俺は何も言えなくて。

 

「……神野での事件の後によォ。寮に入った初日に俺はお前に言ったんだ。AFOはテメェの個性を狙ってる……だから、『オート個性は二度と切るんじゃねェ』ってよォ。あン時はお前を心配しての言葉だったがよ……今にしてみりゃ、俺はお前にかける言葉を間違えてた……ごめん」

「……っ……!!」

 

 爆豪ちゃんの口から零れるのは、寮生活になった初日に、爆豪ちゃんの部屋で話したことで。

 AFOが俺の個性を狙っていたことを教えてくれて、気を付けろって言ってくれて。

 その時に、確かに───俺は爆豪ちゃんから、オート個性を切るなと言われた。

 もちろん俺も切るつもりはなくて、その時は心配してもらえたことが嬉しくて。

 

「あの言葉が呪いになっちまってんじゃねェかって、お前に一人で全部抱え込ませちまったんじゃねェかって思った。今お前が個性を暴走させても……切ろうとしてねェのを知って、あの時言った言葉がずっと俺の頭ン中に引っかかってた」

「それは……違……」

「違わねぇ。違わねぇんだ……俺も、俺たちA組も……お前にみんな助けてもらってよォ。お前がみんなの隣にいてくれたから……俺たちは前を向けるようになって、強くなれた。()()()()()()()()。でもよ……お前に全部押し付けちまってたんだ。お前が無敵の個性をもってるから、なんてクソみてぇな理由でよ。みんなお前に甘えてたんだ……」

「違うよ……違う、ぐすっ、俺は、みんなにっ、謝りたくてぇ……!!」

「違わねェ!! 俺はよ、あの時テメェにこういうべきだったんだ!! 『ヤバくなったら頼れ』ってよォ!! お前ひとりに押し付けんじゃなくて、俺らにも頼れって言うべきだった……!! いいんだ幾野、お前が今まで俺たちにそうしてくれたように、お前も俺たちに頼っていいんだ!! ……だから、幾野」

 

 爆豪ちゃんが一歩、俺に向けて歩を進める。

 そして俺の両肩に手を置いて、正面から俺を見据えて。

 

「────個性を解除していいぜ。何があっても、俺らがお前を守る」

 

 俺の個性を、解いてもいいと。

 俺が今まで隣にいたように、今度はみんなが隣にいてくれるから。

 俺を守ってくれるから……俺は、過去の個性事故からずっと続けていた個性の維持を解除してもいいと。

 

 そう、爆豪ちゃんが言ってくれて。

 みんなもその言葉に続くように、確かに頷いてくれて。

 

 

「……うっ……く、ふっ……!!」

 

 

 両頬に流れる涙はその熱を増して。

 

 かしゃり、と地面に何かが落ちた音がした。

 ダイブワイヤーを埋め込んでいた個性の調整を弄り、俺の両腕から落として。

 

「くっ……う、ぁぁっ……っ……!!」

 

 ダイブブースターを脚から外して。

 

 ダイブセンサーをそっと頭から抜き取って。

 

 他にも体に埋めていたもの全てを……腰のバックパックも全部、地面に置いて。

 

 

 そして俺は。

 

 

 

【side 幾野

 

 

 

 己の個性を、解除できた。

 

 


 

 

 深く己が世界に存在する感覚。

 俺という存在が、この世界(ヒーローアカデミア)に認められたような認識。

 長い悪夢から目覚めたような開放感。

 

 ずいぶんと、ああ……そうだ、個性事故が起きる前の自分が感じていた自分の感覚を想い出した。

 峰田と初めて出会ったとき、震えながら個性を解除したときのそれも、USJで脳無と相対したときの記憶も、心操と運動場γで相澤先生の監督の下で訓練したときも……

 

 ……でも、もう怖くない。

 

 俺には、みんながいてくれるから。

 

 

「……ケッ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「うん……ありがとう、爆豪ちゃん……俺、もう、大丈夫……」

「そうかよ。───ンじゃツケを払ってもらうか」

「えっ」

 

 しかしそこでオート個性を解除した俺の胸倉をぐわしっと掴んでくる爆豪ちゃん。

 えっ。急に何。

 俺すごい今感動してエモい涙流してるところで急に雰囲気変わったな?

 

「キッチリワビはいれたからなァ……あとはテメェを叱る時間だ。相談もしねェで勝手に飛び出して行きやがってよォ!! てめェが逃げたせいでOFAの説明俺一人ですることになってみんなにクッソ怒られたんだよォ!!」

「えっえっ」

「これまでもテメェには一発も入れられてねェしよォ……思い出せば模擬戦のたびにバカにしやがって、日常でも茶化しやがって……殴り殺してェところだがよぉ、この一発で許してやらァ!!!」

「んげっふ!?」

 

 そして個性を解除した状態の俺の腹に、爆豪ちゃんの拳が突き刺さった。

 

 ……()()

 

 久しぶりの痛みだ。いつぶりだろうか……それを忘れてしまうくらい久しぶりに、痛みを味わった。

 腹に突き刺さる爆豪ちゃんの拳を、避けられるはずもなくて。

 

 思えば。

 誰かに本気で叱られるっていうのは初めての経験かもしれない。

 こんなにも申し訳なくて、情けなくて、温かくなるものだなんて知らなくて。

 

「ケッ!! 次だァ!!」

「えっ」

 

 そして首根っこ掴んでた爆豪ちゃんが雑にぶんっと俺の体を投げ渡して……それを受け取ったのは飯田だ。

 メガネをかけたいつもの顔が、間近で俺の顔を見下ろしている。

 

 

「……幾野くん」

「飯田……」

「あえて聞こう。君は僕や峰田くんや緑谷くんが、大切な友人が個性を暴走させて危ういと聞いて、そのうえ視野が狭まって無茶ばかりしていて、でも彼らが選んだ道だから知りませんって言うのか? 言わないだろう?」

「っ……!! それは、あの時……」

 

 飯田からかけられた問いかけは、かつて、いつか。

 ああ……そうだ。ステインにインゲニウムさんがやられちまったときに、メガネが曇ってた飯田に対して俺が言った言葉で。

 その言葉は余りにも簡単に答えは出て。

 当時の俺が出した答えを今の俺が出せていなかったことに、恥じらいすら覚えて。

 

「……だからこそ僕はこの言葉を贈れる。幾野くん、キミは視野が狭まっていたんだ。だからそれを峰田くんが、爆豪くんが、僕たちが正す。そして共に、()()()()()()()()()()()()()()()

「っ!!!」

「だからこれは私刑ではない!! 教育的指導だこの大馬鹿者ッ!!!」

「ぐっへぇ!?」

 

 当時の俺が言った言葉を飯田から言い返されて俺は何も言えなくなって。

 そして教育的指導として放たれた飯田の膝が、気持ちよく腹に突き刺さった。

 痛みの中に……思いやりを感じられるほどの熱い一撃を受けた。

 

 口からなんか胃液とか血反吐とか出て来てるんですけど。

 威力もうちょっと抑えられなかったかなぁ!? 俺タフネスにかけてはクラスドベまであるんすよね!?

 

 

「次だ」

「おぅ」

「……轟」

 

 再びパスされて次は轟に胸倉掴まれた。

 イケメン顔が至近距離にある。しかしその目は出会った頃の様な冷たい瞳をしていて。

 

「……幾野、俺はよ。お前と緑谷に救われた。緑谷が俺が抱えてたもん全部ブッ壊してくれて、お前が道を示してくれた。俺がこうしてここにいられるのは……お前たちのお陰なんだ」

「轟……」

「あんとき、お前は俺に言ってくれたよな。()()()()()()()ってよ。その言葉通り、お前は俺の……俺たち家族の隣にいてくれてよ。お前にどんだけ助けられてるか言葉にもできねェよ」

「……」

「そんなお前が……俺らに何の相談もなしに!! 寮を飛び出してった時の俺の気持ちが分かるか!?」

「ひっ! ご、ごめ……」

「俺も!! 母さんも!! 親父も!! 冬姉も!! 夏兄も!! 死ぬほどみんな心配したんだぞ!! これは家族代表の一発だ……このクソボケ義兄さん!!!」

「義兄さん!? ぐぇーッ!?」

 

 そうだ……俺は、俺がみんなに言っていたことを自分で出来ていなかった。

 俺が隣にいると、頼れと言っておきながら……みんなが隣にいられないように逃げちまって、頼るのを恐れて。

 怒られて当然というものだ。思いっきり胸に赫灼熱拳パンチを食らい、胸元の強化装甲付きバックパックを貫通して胸骨にヒビが入った。かも。

 痛い。でもその痛みが、今はなぜかいとおしい。

 

 

「次」

「うっし、次は俺だ!!」

「切島……」

 

 その後も、みんなから。

 クラスのみんなが、俺に想いを痛みという形で与えてきて。

 

「お前によ、林間合宿の後の病室で言われた事……ずっと俺の心に残ってんだよ幾野!! 俺を諭してくれたお前が()()()すんのはズリぃだろうが!! 頼れよ!! 俺たちダチだろうが!!」

「ごめん……マジで俺、焦ってて……バカな事、しちゃって……」

「わかってんじゃねぇかよ……!! くっそ、馬鹿野郎、ホントに心配させやがってよぉ、このバカがっ!!」

「ぐふっ……!!」

 

 切島の硬化による一撃。腕が折れてませんかねこれ。

 こいつの体の硬さは知ってたけど攻撃されるとこんなに痛いんだ。知らなかった。

 

 

「次は俺だ。幾野……」

「常闇……」

「貴様のせいで俺は色々と捻じ曲げられた。貴様に入試会場で出会わなければ……今の俺がここまで強くなることもなかっただろう。恨み言は幾らでも述べられるが……それでも、あの場で会えたことは感謝している」

「ハツコイダモンネー」

「えっ」

「黙れ五月蠅いぞダークシャドウ」

「ピェー! デモデモ、ボクモフミカゲモホントーニシンパイシタ! バカイクノ!」

「……友として。貴様が止まったことの安堵よりも、相談せず飛び出した愚かな貴様への怒りが勝る。この一撃は我が黒歴史たる想いの決別と知れ……ッ!!」

「んげごほっ!?」

 

 常闇の初恋を実は奪っていたという驚愕の真実を知って、両わき腹に常闇とダークシャドウから拳をプレゼントされた。

 

 

「じゃあ次は俺だな! 全く心配させやがってよぉ!!」

「上鳴……」

「いっつも俺ばっかりからかいやがってよぉ!! 体育祭で見たお前のチアとか未だに夢に出るし、風呂入るたびに試練だし訓練じゃ勝てねぇし……色々言いたいことはあるけどよ!! お前がいたから今の俺がいるのは間違いねぇんだ!! お前のお陰で強くなれてよ!! 彼女も出来てよ!!」

「よかったじゃん……」

「よかったよ!! でもそんなお前が無理してんのが見たくねぇのよ! お前はいつもみてぇにバカなことしてよ!! アホみたいに笑って、前向いててほしいの!! だから……もう二度と一人で突っ走ろうとするんじゃねぇぞ!! 13万ボルトォ!!」

「ごごごごご!!」

 

 上鳴からは電撃をプレゼントされた。

 全身に電流を浴びるのはこれが初めてだ……手加減はされたようだが初めての経験に俺の体はビクンビクンと震え、長い髪が一気に逆立つ。

 髪へのダメージはやめたってくれんか……あと顔も……。

 

 

「じゃあ俺も言いたいことを言うよ」

「尾白……」

「ぶっちゃけ幾野!! お前がやった女装大会のせいで俺色々目覚めちゃって!! 女形に興味持ったんであとで相談乗ってくれ!!」

「マジかよ」

「半分は冗談!! 半分は……やっぱお前はA組に必要なヤツなんだよ。だから勝手に飛び出したお前にキレてる! お前が企画し始めてくれた放課後の訓練のお陰で、地味な個性の俺も相当強くなれて……通形先輩にも指導してもらって!! あと葉隠さんの素顔見た時思わず一目惚れしそうになったのにお前の彼女だって言われて色々脳破壊されて……ああクソ全部言葉にできないな!! とにかくお前が無事でよかったよッ!!」

「ぎゃんっ!?」

 

 尻尾による重い一撃を腹に食らった。

 気を使って顔に攻撃してないんだろうけどこうも腹にばかりやられると結構キツい。細い腰が折れそうだ。

 そろそろ喉をせり上がってくる血反吐を堪えるのもきつくなってきた。

 

 

「次は俺だ」

「障子……」

「……入学当初、お前が男だと知って……そしてその外見を恥じぬ姿に、俺は希望を見た。方向は違えど、本質にそぐわぬ外見に……恐らくはお前も様々なことを言われたことがあるだろう、その外見を受け入れて前を向いていたお前に、俺は羨望を感じていた」

「……俺は、そんな……」

「……寮生活になり、俺と轟とお前で過去を語った後に……お前が俺たちを気遣って、みんなを笑顔にしてくれたこと……嬉しかった。誰よりも気を配れるお前が眩しくて……そんなお前が迷ったときは、俺はお前を助けてやりたい」

「障子……俺は……」

「だがやはり普段の性癖弄りで迷惑をこうむっているのは事実だしお前が勝手に逃げたことには怒っている。なので拳は果たさせてもらおうッ!!」

「ンゴーッ!!」

 

 複製腕によるトリプルパンチが俺の正中線を貫いた。

 ちんちんにも遠慮なく殴ってくるじゃん……。

 

 

「じゃ、俺な」

「瀬呂……」

「幾野、お前がさ……ダイブワイヤーで立体機動見せた時に俺、マジでヤベーってなったんだよ。俺のアイデンティティじゃんその辺。だからお前にだけは負けたくねぇなってなって……めっちゃやる気出てよ。鍛えに鍛えて……んで今や緑谷よりもお前よりも速く動けるようになっちまった。スパイダーマンなんて目じゃねぇぜ。俺が世界最速だ。そうなれたのは……やっぱお前がいたからなんだよな。インターンにも誘ってくれたしよ。ホント、恩しか感じねぇわ」

「……違うよ、お前がすごいんだ。マジでさ……頑張ってて……」

「だから俺はお前に恨み言なんていわねぇ……なんていうと思ったかバーカ!! 勝手に飛び出したこともそうだし性癖揺らしに来るのもそうだしよ!! 夜食ボックスに俺の好きなお菓子あんまり入ってねぇし!! いっくらでも言いたいこと出てくるわ!! だからこれから少しずつそれ、言っていくからなッ!!」

「がはっ……!!」

 

 瀬呂は俺への感謝を込めた正拳突きを繰り出してきた。

 もう俺の胸骨は限界です。絶対ヒビ入ってるってこれ。呼吸が痛い。

 

 

「次は僕だよ、幾野くん……!」っっっ ←汗の表現

「口田……」

「本当に怒ってるよ……!! キミに、そして相談してもらえるくらい信頼を築けなかった僕に!! 誰よりも優しくて……僕が角を開いた時も、一言目に褒めてくれるような……ウサギの結ちゃんの世話を進んで手伝ってくれるくらい優しい君に辛い思いをさせてしまった僕が許せない……!!」

「違うよ、口田……俺が悪いんだよ……」

「いや、僕が悪い! そして僕にそう思わせてしまったことを君は反省するべきなんだ……!! お互いにわるいところがあるんだよ、みんなもそうだ! だから……! だから、仲直りしよう!! 僕はまだ、A組のみんなと一緒にいたい! みんなならできない事なんて何もないよ!!」

「……ごめんな、ありがとう……お前、優しいな……」

「でもやっぱり許せないから本気で行くよ!!」

「逞しくなったなお前も」

【小さき者たちよ、幾野くんの脚に群がるのです!! 彼をぞわぞわさせるのです!!】

「ってマジ!? うわ!? きゃあああああああ!??!?!」

 

 口田は拳ではなく個性で攻めてきた。

 俺の両足にぞわぞわぞわ、と虫が群がり出して。思わず号泣して叫んでしまった。

 個性も解除してるからその感覚から逃れられないよぉ!! やだぁ!! 無視を使う俺が虫トラウマになっちゃうよぉ!! ムシだけに!!

 

 

「……じゃあ男子の最後は僕だね☆」

「青山……」

「…………いつも君は優しいんだ。緑谷くんも……こんな僕だって、受け入れてしまうんだ。僕は……それに、救われてしまっている」

「……お前……?」

 

 男子が一巡する最後、青山が俺の体を手で支えて……しかし、雰囲気が何だか、他の奴らとは違うような。

 俺を心配するでも、俺を怒るようなそれでもなく……なんだろう。何か別の想いを抱えているような……。

 

「今の僕には、緑谷くんも幾野くんも叱れない。その権利がない…………だから僕はあえて拳で語らない。…………そして、もし僕が僕を許せるような時が来たら、その時に改めて君を殴ろう」

「お、おう……?」

 

 ちょっと言ってることが良く分からなかった。

 え、何? 原罪とかそういう話のやつ?

 まぁでも青山ってわりとこういう所もあるからな。それに顔を見れば、俺の事を想ってくれているのはわかるから。

 殴られないことの痛みを抱えて、そして俺は女子の方にパスされた。

 

 

「センくん」

「ごめん」

 

 一言目に謝罪が出てしまう俺の弱さよ。

 俺の胸倉をはっしと掴んだのは麗日ちゃん。目がガンギマリです。

 まぁ……キレてますよね。はい。本当に申し訳ないと思っている。

 キミの彼氏を4日間独り占めしたのは俺です。

 

「……うちのがお世話になったね」

「はい……」

「センくんのお陰で助けられたところもあると思うんよ。デクくんを助けるために行ってくれたこともわかってる……でも、それでセンくんもデクくんも無茶するのは違うよね? おかしいやん? なんでキミら二人はいっつもそうなん? 私らが悪いんかなこれ? もっと拘束する女であった方がええんかな?」

「返す言葉もありません。ごめんなさい」

「歯ァ食いしばれッ!!」

「顔はやめてぇ!?」

「ガンヘッドマーシャルアーツッ!!」

「ガッハ!!!」

 

 本当にブチキレておられた。

 仕方ないね。俺も仮に透ちゃんとか彼女たちが他の男と数日二人きりでいたとか言われたらキレますわ。

 でも俺は男なんですがそれは。

 いや男だから顔に躊躇いなく掌底を叩き込んできたんですね。本当に……ごめん。ごめんな麗日ちゃん。

 顎関節がオシャカになりそうだけど、反省の証として受け止めます。

 

 

「ケロ。次は私よ」

「梅雨ちゃん……」

「心配したわ……ほっとして、涙が止められないくらいに。実ちゃんもずっとあなたの事を心配していたのよ。本当に……罪な男だわ、あなたは。みんなを助けるだけ助けて、自分が助けられようとしないんだもの。ズルい男」

「……ごめん」

「ダメ、許さない。実ちゃんが許しても私は許さないわ……口だけでは許さない。私の実ちゃんを泣かせた責任を取ってもらうわ」

「俺の」

「抵抗するわね」

「やだぁ……峰田は俺の隣にいてくれるのぉ……!」

「急にメスになるじゃない……はぁ。一番罪作りな男は実ちゃんなのかもね……いいわ、今回の件については許してあげる。でも実ちゃんの事は負けないから。ケロッ!!」

「ひぃん!!」

 

 梅雨ちゃんが襟首をつかんで……その丸い瞳に涙をためながら、許さないと。そして、峰田が俺の事を心配していたと伝えてきた。

 峰田に辛い思いをさせてしまったことが心から痛い。

 けど梅雨ちゃんだけのモノにはさせない。俺の隣にずっといてくれるって言った……!

 って抵抗したらちょっと怒られた。ごめん。俺は梅雨ちゃんが峰田のそばにいてあげてくれてるのホントは嬉しいから。

 で、彼女の想いは俺のケツを思いっきり引っぱたくことで為された。

 ああ、この痛みは味わったことがあります。体育祭が懐かしい。

 

 

「んじゃ次はウチね。イクノガールズは最後に回すわ」

「耳郎ちゃん……」

「色ッ々! 言いたいことはあんだけどさァ! 結局のところ緑谷もアンタも勝手にやりすぎなんだよ!! 困ってる人がいたら見捨てられないくせに、自分が困っても頼ろうとしなくて……ああもう! ホンットアンタたちはバカだよ!! こんなに、ウチらが心配するまで自覚しなくてさぁ……っ!!」

「……ホント、ごめんね……」

「ぐすっ……アンタたちがさ、文化祭でサビの所やってくれてさぁ……良いもんになって! 助けられて……そんなアンタたちが、辛い思いしてんの……ほっとけるわけないじゃん!! バカァッ!!」

「んがっ……!!」

 

 耳郎ちゃんのコードに束縛されてピンを刺されて。

 涙を目に浮かべる彼女が優しい恨み言を述べて音撃をぶっ放してきた。

 こんなに響くものなのか……知らなかった。なんかビリビリまでするし。

 女の子を泣かせないって峰田と誓ったはずなのに。みんなを泣かせてしまってる。

 ……本当に俺ってやつは度し難い。バカでごめんな。

 

 

「もう……ホントに心配させやがってよぉ! イクノぉ!」

「芦戸ちゃん……」

「馬鹿! ほんっとアンタも緑谷もバカでさ!! いっつも夜食ボックス管理したり飯メニュー考えたり、寮長やってるあんたがいなかったからもう夜食ボックス空っぽだよ!! ダイエットん時だって真剣に相談乗ってくれて……文化祭のミスコンだって……っ、そんな、アンタがさぁ!! 辛い思いしててほっとけるわけないだろォ!!」

「ごめん……マジでっ、ごめん……!!」

「アタシも顔面だァ!! このチート顔面偏差値バカァ!!」

「ぐふっ……!!」

 

 黒い瞳に涙をいっぱい貯めながら、襟首をがしっと掴んでくる芦戸ちゃん。

 いつも笑顔でみんなのムードメーカーになってる君に、そんな表情をさせてしまったのがつらい。

 麗日ちゃんが殴らなかった左頬を差し出して、甘んじてその拳を受け止めた。

 口の中を切るほどの衝撃だったけど……多分みんな手加減してくれてる。

 

 みんな、力も心も強いから。

 俺や緑谷なんかよりずっと強いから。

 みんなで強くなっていったから。

 

 

「センさん」

「百ちゃん……」

「なにか言い残すことはありますか」

「殺されるの俺!?」

 

 続いて残る二人の内、先に俺の襟首をつかんだのは百ちゃんだ。

 俺の彼女の一人。想いを伝えあい、愛し合い、ずっと一緒にいると誓った仲の女の子を置いて……俺は飛び出した。

 ……ホント、今更だけど何で俺は相談できなかったんだろう。

 怖かったんだ。みんなに、峰田や透ちゃんや百ちゃんに……俺を見つけられなくなったらと思うと怖くて。

 俺は俺の力が怖くて、みんなから逃げちまってた。

 

「……本当にごめん。怖かった……俺の個性が暴走してて……でも、緑谷を一人に出来なくて。みんなのそばにいるのが辛かったんだ。俺がみんなを無視したくないのに、無視しちまうかもって思うと……怖くて……」

「……わたくし達が!! 貴方を無視できるはずがないではありませんか!!」

「っ!」

「誰よりも周りを見て、思いやれる貴方を!! わたくし達が無視するはずないではありませんか……!! わたくしは貴方のそんなところを好きになったのです! そんなわたくしが、貴方を心配しないはずがないではありませんか……っ!!」

「……ごめん、百ちゃん、ごめん……! 俺、バカで……ごめんね……!!」

「謝っても、っ、許しません、からね……!! ぐすっ……本当に、おバカな人……っ!」

 

 彼女の切れ長な瞳から涙の雫が零れて、それを見上げる俺の頬に熱が伝わる。

 本当に……謝っても謝りきれない。

 愚かな俺を許してほしい。

 みんなを心配して、己を恐れて、一番バカなことをしてしまった俺を。

 

「ぐすっ……わたくしは、皆様のように想いを拳では伝えられません」

「いいよ……っ、殴ってくれても……見捨てられても、文句は言えないよ……」

「絞り取ります」

「アッハイ」

「今夜は覚悟してください」

「あっはい……」

 

 ガンギマリの顔で搾り取られる宣言をされた。

 コワイ。

 これもしかして俺今夜腎虚で死ぬ奴かな。嬉しいはずなのに恐怖が勝って来た。

 

 

「……セン、ちゃぁん……!」

「透、ちゃん……」

 

 最後に、透ちゃんが百ちゃんが掴む襟首ではなく、俺の両肩を抱きしめるように手を乗せた。

 手袋でそれが分かるが、しかし、()()()()()()()()()

 そうだ。今俺は個性を解いてて……そうすると俺は、最愛の人の顔が見えなくなるんだ。

 俺の視線が、自分の目を真っすぐ見返していないことに気付いたのだろう。

 入学してから一回たりとも逃さなかった君の瞳を、俺は今見つめられていなくて。

 

「ッ……う、うう、ううう~~~~!!!」

「!! 透ちゃん!?」

「っ、なんと! 今この瞬間に個性を伸ばしたのか、葉隠くん……!」

「愛のなせる技か……見えている。俺たちの目にも葉隠の顔が」

 

 でも次の瞬間に、透ちゃんは己の個性に力を込めて────光を操って。

 己の透明化を解除するという、新たな力に目覚めて。

 自らその体を俺の前に現した。

 

 そうして、ようやく俺とまっすぐ目を合わせる。

 彼女の瞳は、随分と充血してしまっていて……今日だけじゃない、これまでも泣いてしまっていたことがありありとわかる泣き疲れた顔をしていて。

 それを見て俺も……申し訳なさと情けなさと、色んな感情がごちゃ混ぜになり……また、涙が溢れてきてしまう。

 

「っ……ご、べぇ、ん……!」

「センちゃん……センちゃんっ、ひくっ、せんぢゃん……!!」

「うっ……ごめぇぇん!! ほんと、ごめん……!!」

「センちゃぁぁぁっ……!! わぁぁぁぁ…………!!」

「ぁぁぁあん……!! あぁぁぁぁ………!!」

 

 お互いに言葉を紡げず、ただ涙を零して抱きしめあって。

 涙も鼻水もないまぜのごちゃ混ぜになって。でも、それだけで気持ちは伝わって。

 彼女の、久しぶりに感じる体温にお互いの想いをすべて溶かして。

 

 そこに百ちゃんも混ざり3人で……いや、みんなで大粒の涙を零して。

 

 

 

 俺は────────A組に帰って来た。

 

 

 

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