【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
「────────ん……」
何か体が揺れた感じがして意識が覚醒した。
……と言うことは、俺はどうやら寝ていたらしい。
ぼんやりと覚醒し始めて……思い出すのは、透ちゃんの泣き顔で。
ああ、そっか。
A組のみんなに止めてもらって、助けてもらって……で、最後に透ちゃんと抱きしめあって大号泣して、泣き疲れて意識が落ちたんだな。
「あ、センちゃん起きた?」
「ん……透ちゃん」
声に目を開けると、目の前には透ちゃんの下乳が広がっていた。
ははーんなるほど。これは透ちゃんに膝枕してもらってる状態だな?
体育祭の時に初めてやってもらったやつだ。ちょっと懐かしい。
で、目覚めたと同時に体に染み渡る感覚があって……どうやら俺は寝てる間にまたオート個性を張り直してたらしい。
俺の体に個性が走っている。間違いなく。
でもそれはつい今朝までの危うい暴走した感じじゃない。ちゃんと手綱が掴めている確信もある。
みんなが隣にいてくれるって、ようやくわかったから。
本当の意味で、もう俺は自分の個性を恐れなくていいんだってわかったんだ。
俺が限界を超えたってみんながすぐ追いついてぶん殴って止めてくれるんだ。これほど心強いことはない。
もう恐怖はない。完全に個性を俺のものとした。
「……ここどこ? いまどんな感じ?」
「うん、ここは校長の私物の大型ヘリの中。みんなで雄英に帰ってて……で、今着いたところだよ」
「イクノも緑谷も疲れて寝ちまってたからよ。あれから30分くらいしか経ってねーけど一旦起きときな」
透ちゃんと峰田に言われて状況を把握する。
なるほど。まぁA組20人で俺と緑谷背負って歩いてても目立つしな。校長先生がヘリ手配してくれてたのか。
膝枕された状態で俺が首を横に向ければ、向こう側の座席にも同じように麗日ちゃんに膝枕されてる緑谷がいた。
アイツの場合膝枕慣れしてないから目が覚めたら白目向きそうだな。
「デクくん、デクくん……起きれる?」
「ん、ん……」
俺が体を起こしたあたりで麗日ちゃんが緑谷を起こすためにゆさゆさともじゃ頭を揺らす。
身嗜み気にしててよかったな(渾身)。
これで臭かったらお前膝枕されてなかったぞ。
どれだけ忙しくてもお互いの体の清潔を保ち続けた俺を褒めてもろて。
「ん……うわぁ!? わぁ!? お茶子さん!?」
「起きた。おはよ、もう雄英に着いたよ」
「えっ、え!? 膝枕!? ええ!?」
「美味しい思いしてんな二人とも」
「今日くらいは許してやろうぜ」
緑谷があたふたしながら身を起こして、麗日ちゃんが緑谷のもじゃヘアにくすぐったそうにしてた。面白。
さて、俺も緑谷も起きて……雄英に帰れるとなって、ヘリを降りて。
しかしふと俺は思い出した。
「……ってか、さ。みんなが優しくしてくれたからさっきは全く考えが及んでなかったけど。今の雄英って避難した人たちが相当集まってるよな?」
「ん、まーな。周辺住民は殆ど集まってるな」
「だよね。……大丈夫、かな」
「……俺と緑谷はAFOにハッキリ狙われてる。アイツの口から確かめた……いいのかな、俺達が戻っても。避難した人にとっちゃ俺らは……」
中には生徒や先生たちだけじゃない……避難している人々がいるはずなんだ。
俺と緑谷がAFOにはっきりと狙われて、アイツの口から雄英を狙うという言葉すら漏れている。
狙わせないためにダツゴクを、ヴィランを捕まえ続けてきたわけだが……でも、俺達が中に入ることを、人々は快く思わないんじゃないか。
俺達が狙われていることを知らなくても、そういう噂は流れてるかもしれないし。
……やっぱり──────
「─────だあああ!! 言いだすと思ったわボケ共が!!
「大丈夫。デクくん、私達が迎えに来たのは……大丈夫だからなんよ」
「お茶子さん……?」
「センちゃん、大丈夫だよ。センちゃん達がやってきたことは間違ってなかったんだから」
「センさん、お手を。ご安心ください、わたくしたちが守るといったではありませんか」
「え、透ちゃん、百ちゃん……え?」
「行こうぜイクノ、緑谷。お前たちは頑張ったんだ。大丈夫だ……胸張って行こうぜ」
「峰田……」
「……うん……」
しかし俺たちがそこを危惧する前に、彼女たちに手を引かれて俺たちは雄英の正門に連れていかれる。
なんか普段の雄英と比べてクッソ堅牢なシェルターみたいな壁が聳え立つ雄英がそこにはあって。
13号先生が待っててくれて、正門を開けて……暗い通路を歩いて、その先の隔壁の向こう。
────ワアア…………
なにか、騒がしい、人々の声がしていて。
その声の正体を、俺たちはすぐに知ることになった。
帰って来た!! 帰って来たぞ!!
イグジストとデクだ!! お帰り!! お疲れ様ー!!
お前ら凄いぞ!! 本当に頑張ったなー!!
ダツゴクをもう殆ど捕まえちまったんだろ!? 二人だけで!!
あんなにぼろぼろになって……!!
ゆっくり休んでけよヒーロー!!
キャーー!!! イグジスト=ノワールよ!! 黒カッコいいー!!
二人の英雄の帰還だ!!
頼んだぜ!! ゆっくり休んで平和を取り戻してくれよな!!
イグジスト!! 偉いぞ!! 本当に……偉い!!
オールマイトの意志を継いで!! 頑張れ、デク!!
イグジストー!! お疲れ様ー!!
───デーク!! デーク!!
───イグジスト!! イグジスト!!
イグジスト!! デーク!!
イグジスト!! デーク!!
イグジスト!! デーク!!
──────そこには。
人々の、歓声が。
俺たちを称える大歓声が。
朝日を背にする俺たちに向けられていて。
「あっ……」
その声は俺からだったか、緑谷からだったか。
分からない。どんな声もかき消えてしまうほどの大歓声の中で、ただわかることは。
俺も、緑谷も、頬を伝う熱を抑えきれなくて。
俺は全身の力が抜けてしまって、ぺたりとしゃがみ込んで。
緑谷は溢れる感情を抑えきれずに、青空を見上げて。
ただ、歓声の中で涙を零す事しかできなかった。
俺たちの旅路は間違いだけじゃなかった。
人々の希望になれていた。
────ヒーローに、なれていたんだ。
【since 三日前】
【side ラブラバ】
「……で、話ってなによ?
「貴女よね。……荼毘のジャック放送をさらにジャックした犯人は」
雄英に設備を移し、小さい事務所を構えたマウントレディ事務所内で、私はマウントレディと二人きりで話していた。
例の事件の後……退院したマウントレディと、
すべてはAFOの追跡を……人質にとられることがないように、迅速に避難は進められ、私たちマウントレディ事務所の面々も早急に居を移して。
で、勿論マウントレディは退院後にヒーロー活動をするために、この小さい仮設事務所で働いてたってわけ。
そして予想はされたけど早速カマをかけられた。
まぁね。マウントレディなら気づくでしょうね。幾野くんと峰田くん、他のインターンの子には私が映像編集関係の仕事についてからPCは弄らせてない。中に保存してあるデータも、詳細な編集の様子も見せてない。
私がよく使う素材ばかりあの映像に流れていたのだもの。映像に乗ったマウントレディなら気付いてもおかしくないわ。
「何のことか全く心当たりがないわ」
「腹を探りあう時間も勿体ないの。別に咎めるわけじゃないわ……貴女が時折幾野くんのダイブセンサーにアクセスして色んな所の情報を抜いてるのだって、まだ黙っててあげられる」
「……ふん。詳しいじゃない」
「監督役の立場も考えてほしいわね。証拠は掴んでるけど、貴方に悪意が見えない限りは言うつもりはないわ。……荼毘が本当に流そうとしていた映像、まだある?」
「ローカルに保存してあるわ。ネットに絶対繋がらないところに」
「見せて」
「アイアイ」
しかしなんとまぁ、マウントレディは私がこれまで自由にやっていたことも察していたということで。監督役と言ってもそれなりに気安い関係でやらせてもらってたけど……その辺は流石プロヒーローって所かしら。抜け目ないわね。
全部バレてて、その上で泳がせてもらってたのなら私もこれまで世話になっていた恩義はある。それに応えるためにも、荼毘が本当に流すはずだった映像をマウントレディにも見せた。
エンデヴァーの過去、ホークスの過去、そして幾野くんの過去を血生臭く紹介する荼毘の映像を。
何度見ても吐き気がするわ。これをギャグに出来て本当によかった。
「…………反吐が出るわね」
「同感。間に合って本当によかったわ。あの後ネットにスキャン通してあって、もしまたヴィラン連合が同じようにハッキングしようとした時点で逆探知して居場所分かるようにしてあるけど。それが判明したらすぐ連絡した方がいい?」
「状況が変わったのよ。貴女の力も必要になったの。いえ、必要としている……私が」
「ふーん?」
マウントレディがその映像を見て顔をしかめながら、続く言葉は状況が変わったというモノ。
まぁ
「ダツゴクが世間に溢れて、緑谷くんが雄英に戻らずその撃退に出て……幾野くんもそれを追った。二人が今、凄まじいスピードでダツゴクを捕捉してくれてるの」
「あら、流石ねあの二人。ジェントルと私を捕まえただけあるわ。……で、それが?」
「二人とも、力をAFOに狙われている」
「……それで?」
「じれったいわ。私が言いたいことくらい分かるでしょラブラバ。……あの二人が何の心配もなく戻って来られるようにしたいのよ、雄英に。貴方の力を貸してちょうだい」
「…………」
そして予想通りの話が零れて来た。
緑谷くんと幾野くん……デクとイグジストがオールマイトらヒーローと連携し、ダツゴクを次々と捕らえているという事実が。
知っている。なにせ、ダイブセンサーの余剰演算力がガリガリ削られていたから。
ハッキングして接続すると、前までは2割くらいしか使われてなかった演算力が8割ほどの使用率になっていて。幾野くんがどれほどの個性を使っているか恐怖すら覚えるほどのそれになっていて。
そして、ダイブセンサーのカメラもハッキングして、二人が何をしているのか見ていたから。
でも、続くマウントレディの言葉がはっきりしない。
そこに苛立ちを覚えて、聞き返した。
「帰ってくればいいじゃない。疲れたら帰ってくれば。まだ社会に犯罪が溢れるというほどじゃない、緊急事態宣言がしっかり効果出てて、市民たちはちゃんと避難して……二人がヴィランを凄い勢いで捕まえてるんでしょう? いいじゃない、このままで何か問題があるの?」
「……避難してきた人たちの中に噂が立ってる。複数の個性を使う謎の存在が事件に現れて……AFOの回し者じゃないか、って。イグジストも、荼毘の映像が流れた後にネットで彼の過去を知っている誰かが零したのか……両親を殺したんじゃないか、なんて噂が流れ始めてるの。……このまま不安が広がる可能性もあるのよ。私はそうしたくないの」
「ちょっといい?」
「……何よ」
そこで私は一度マウントレディの言葉を止めて聞き返す。
私の顔を見下ろすマウントレディの目を真っすぐ見返して確信する。
その目の色に覚えがあるから。
「もっとはっきり言いなさい。手伝わないわよ」
「……はっきりもなにも、言った通りよ。二人の悪意ある噂を吹き飛ばすために知恵を貸して……」
「違うわ。なぜあなたが警察にも他のヒーローにも相談しないで私に話してきたのか、その理由を聞きたいのよ。相談するなら私よりも警察か公安の方がいいんじゃないの?」
「…………」
「もっとはっきり言ってやった方がいい? ……マウントレディ、貴方……
「──────ッ!!」
まず何よりもそこをはっきりとさせたかった。
マウントレディの言葉、眼差し。何をどう見ても、堕ちた女の面をしていた。
私が落ちた後のそれにそっくりだからわかるわよ。貴女ともそれなりに長い付き合いだもの。
「幾野くんね? 助けてもらってたものね、貴女。余りにも劇的なギガントマキア制圧……あれは惚れるわね、女なら」
「……五月蠅いわね。幾野くんは7つも年下のエロガキなのよ。私よりも美人で、そんな、惚れるなんて……」
「あら、こっちは11歳差よ? 二桁も離れてないのに余計な意地張らないで。女ってのはね、
「っ……年下の癖に、分かった風に……!」
「違うの? 幾野くんが心配で、彼の個性が暴走しているから助けたくて、でも自分が飛び込んでも止められなさそうだから、葉隠さんや峰田くんが止めるだろうから、せめて自分は出来ることをしようとしているんでしょう? ぞっこんじゃない。認めなさいよ」
ああ、だいぶ溜飲が下がった。
マウントレディとの関係は決して悪くはない……が、じゃあ仲が良かったかと言われたらそれも微妙だった。
悪友とでもいうべきか。向こうは私がジェントルに全てを捧げる愛を持っているのをワケわからんって顔してたし、私は24にもなって男の一人もいないマウントレディの事をワケわからんって思ってたし。
でもようやくこの女も堕ちたらしい。こっちの水は甘いわよ。
「~~~~……!! ええそうよ!! ホレたわよ認めるわよこんちくしょー!! あんなカッコよく助けられたらホレるに決まってるでしょ女なら!! 好きになっちゃったわよどうしろってのよ!!」
「ぷっ……あはははは!! 気に入ったわマウントレディ!! 今のあなたが一番素敵よ!! だから気に入った……いいわ、やってあげる。私もとっととこの事態を解決して、
「っ……その情報も掴んでたの!?」
「勝手に語るに落ちないでくれる? ジェントルが収監されていた水葛刑務所……ヒーローの支援が届かなかった刑務所の中で、
「……そして今、警察に再び身柄を捕らえられているけれど……その功績によって恩赦を検討されている。ビルボードチャート8位のヒーロー、異能解放戦線襲撃の立役者が口利きすれば刑を軽くして執行猶予にもできるでしょうね」
「お互いにウィンウィンって事ね。手段は真っ黒だけど。いいわ、お互いの男の為にやりましょうか」
「アンタの気持ちが今ならよくわかるわ」
己の気持ちを認めた途端にすっきりした顔になっちゃって。
嫁ぎ遅れる事が無くてよかったわね。幾野くんは懐が深いからもう一人くらい女が増えても余裕でしょ。
お互いの利害が一致した。
私はこの騒動を早急に収めるために幾野くんたちを守る。そしてジェントルに早く会いたい。
マウントレディは愛する男を守りたい。そして平和を取り戻したい。
手段は選ばない。
「……世論を動かしたいの。緑谷くんと幾野くんが不当に糾弾されないようにしたい……どうすればいいと思う?」
「そんなの簡単よ。バカな市民が喜ぶものを見せればいいの。普段の動画と一緒よ」
「アンタ普段の動画作成でそんなこと考えてたの……?」
「間違ってないでしょう? 荼毘の映像だってそのまま流れてたらソース何もないのに信じたバカは多かったと思うわよ? つまり……バカ市民がすんなり受け入れられる英雄譚をドラマチックな映像で流せばいいのよ。貴女や私が……ヒーローたちが、雄英の生徒達があの二人を愛する理由は簡単で、あの子たちのバックボーンを知っているから。幾野くんなんて……本当に、頑張ってる。本当の意味で彼はヒーローになろうとしている」
「……つまり、二人の過去をあえて公表すると?」
「劇的な英雄譚にしてね。いいじゃない、シンプルで分かりやすくて。オールマイトが歴代より継承した力を受け継いだ少年と、両親を悲しい個性事故で失った少年が、人々が笑えるように頑張る話。鉄板じゃない」
「でも、二人に相談しないで勝手に流しちゃ……」
「逆よ。ここで私達の手でそれを光の物語にすることで、ヴィラン連合がどれだけ後出ししても何も言えないようにしてやるんじゃない。あの二人の過去と今の努力を正しく知って、それでも叩くようなやつは何でも叩く病気の人だから気にすることないわ。幾野くんは過去の話は特に気にしてないって言ってたし、緑谷くんの力はいずれバレる……いいんじゃないの、その辺は雑で。ノリと勢いで行きましょ」
「幾野くんみたいなこと言うじゃない」
「影響受けてるかもね。私も貴女も……でも私はあくまであなたの監督下の従業員。決定権は貴女にあるわ。どうする、ボス?」
「─────────やりましょう」
結論は出た。
私はダイブセンサーの映像からリアルタイムで戦っているあの二人の活躍を編集して、過去の話を美談にして流す。
それを日本で一番登録が多いマウントレディらチームラーカーズのチャンネルで動画として流し、今の日本を救う二人の英雄が存在していることを世間に知らしめる。
彼らが恐怖の存在ではなく、平和の象徴と思われるように。
そして、彼らがAFOすらいつかは打倒するであろう、真の英雄であると信じられるように。
なんとなくだけど。
私がジェントルと出会って、でもあの二人に捕まって。
そしてマウントレディの事務所に配属になって、
それが全て、一つの運命だったようにも感じてしまうの。
……ジェントル。最愛の人。
私が貴方の隣にいられるようになるまでもう少し。
また会えたら色々話したい。
まず友達を紹介するわね。
初めてできた女友達なんだけど。
「早速作りましょうか。映像データはイグジストのセンサーの映像からブン取ってくるわ。かっこいいヴィラン撃破シーンをマシマシ。日常シーンも足しましょうか。過去については情報もっと詳しくある?」
「幾野くんから聞いた内容くらい……でも正確に流しすぎても悲劇的だから多少脚色しましょ。悲しい事故だった、落ち込んでた、助けてくれたヒーローがいた、その人のように自分もヒーローに……ってところ強調すれば細かい所はいいわ。後で恨まれたくないし。今の身元引受人である通形家には確認取っておきましょう」
「そうね。あと緑谷くんの方はオールマイトにインタビューしておきたいわね。できる?」
「やるわ」
「いい覚悟よ。そういえば今イグジストは黒いスーツだっけ……名付けてイグジスト=ノワールって所かしら。最終装備ってロマンよね」
「ウケそうな要素は全部ブチ込みなさい」
「ラジャー。あとは……そうね、動画のタイトルだけれど」
「シンプルな方がいいわよね。日本を救う──────」