【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
※第三者視点になります。
【side 太平洋上】
「───賭けは俺の勝ちだアメリカぁ!!!」
死柄木弔がスターアンドストライプの顔面を掴んでしまった。
先行して日本への応援に駆け付けていたスターアンドストライプの情報を掴んだAFOが、日本のヒーローが出迎える前に死柄木弔を迎撃に向かわせ、洋上での戦闘が行われていた。
飛行型脳無が全てルミリオンに破壊されていたため、死柄木は己の個性による飛行で駆けつけ……人知を超えた個性の二人による、幾つもの音速戦闘機が飛び交う超常の戦いが行われ、結果は死柄木弔に軍配が上がった。
エンデヴァーの加速も間に合わず、ファントムシーフによる事前の策も洋上では座標が特定できず、日本のヒーローはこれに駆けつけることが間に合わず──死柄木の手がスターアンドストライプの顔を掴み、個性を奪い取った。
「【私】は!! 【崩れない】!!」
「ハッ! 崩れぬように堪えたか……だが
咄嗟にスターアンドストライプは自分の個性で己が身が崩壊するのを防いだが、その個性自体を死柄木弔が奪い取っている。
新秩序の効力は長続きせず、そのままスターアンドストライプは己が身を崩壊させる……はずであった。
そう確信していた。
死柄木弔は、この女の執念と覚悟をまだ見誤っていた。
死柄木弔の全身が爆発し、割れ始めた。
(何が起きてる……!? 俺の中の個性が破裂していく!? まさか!! コイツ直前に『新秩序』に他の個性と反発するような条件付けをして……!?)
これは今の死柄木弔にとっては極めて危機的な状況であった。
もし個性のストックとしても使える脳無が現存していれば、多少の個性は壊されても問題なかっただろう。しかしアテに出来る脳無はもういない。今はAFOと死柄木弔、二人の体の内にある個性は破壊されたら取り戻す手段がない。
『超再生』や『飛行』の個性が壊されたら、完全に死柄木弔の体は潰える。この太平洋上で海の藻屑と消えてしまっておかしくはなかった。
判断は速かった。
「クッソ……!!」
「おや……返してくれるのかい坊や……!!」
スターアンドストライプに個性を与えて返す。
それしかなかった。戦闘機のパイロット共に新秩序を与えられればスターアンドストライプの万が一の再復活の可能性もなかったが、生憎にして向こうが距離を取っている現状、個性を与えられるのは目の前の崩壊寸前のストライプしかいなかった。
個性が戻ってきたことでスターアンドストライプが再び【自分】が【崩れない】ように個性を張り直して体の崩壊を止めるが、しかし崩壊自体を無効化したりはできなかった。精々が進行を食い止める程度。それでも徐々に崩壊が広がっている。
個性を解除した瞬間に崩壊で死ぬだろう。であれば死柄木弔も再び新秩序の個性を狙って再度奪い返すようなことはしなかった。
スターアンドストライプは自分の命を代償にこちらの力を奪おうとしている。
この個性を喪失するのは心から惜しまれるが、欲をかいて己の絶対性を喪失してはさらなる業腹となる。
「……なら皆殺しにして溜飲を下げるとしよう」
死柄木弔が冷静さを取り戻した。
破壊されなかった個性で飛び回り、周囲の戦闘機の翼を破壊し無力化させた。
『く……!! 翼がやられた!! 飛行を維持できねェ!!』
『ファック!! せめてストライプを守れ!! 体当たりしてでも─────!!』
死柄木弔も崩壊を堪えるストライプを前にしてこのまま撤退するつもりもない。
アメリカから、他国から増援を寄越せばこうなるということを世間に知らしめるために、今ここにいるスターアンドストライプおよび戦闘機は全て堕とす。
日本のヒーローがそれを守れなかったことが世界に叩かれるし、エンデヴァーら他のヒーローが増援に来たならばそれも一緒に潰せばいい。
万が一それにイグジストがついてきた場合でも、海上ならば無視による絶対性はかなり削れる。ワープよりも速く、向こうの個性が尽きるまで海の上で超高速で飛び回れば撒ける可能性もある。隙があれば無視の個性も奪えるかも知れない。
その程度の認識で死柄木は戦闘続行を選択し、塵になろうとしているストライプを戦闘機諸共破壊しようと、個性を籠めて腕を伸ばしたところで。
「ん─────」
感知能力に、何かが引っかかった。
日本から来る増援のヒーローか──────否。
イグジストか──────否。
OFAの力を持つ緑谷か──────否。
それは、
『Star and Stripes took off on its own!*1』
『Catch them ASAP and tell them to come back to the US once with the whole fighter plane!*2』
『I entrust you with presidential authority! You understand!?*3』
(───逃げろ)
死柄木の中のAFOが叫ぶ。
(は?)
死柄木が思いがけない感情に動揺を覚える。
一つに融合しかけていたAFOと死柄木の意識が一度分断するほどの衝撃をもって、そのヒーローは現着した。
「……っわぁ!? なんかすっごいボロボロになってる!? 戦闘機も堕ちてる!? スターさん大丈夫!? あ、日本語分からないですか!? えっと、アーユー……オーケー?」
「Do I look safe? You're the one who came to reinforce us, of all people……」*4
「…………なんだ、お前?」
その男。
その男は、大して目立つ要素のない無難なプロテクターで固めたヒーロースーツを身にまとい、頭にオールマイトパーカーの様なフードを被った、どこにでもいる様な男で。
まるで門限に遅れてしまう学生の様な気楽さを思わせる顔で、この地獄の様な戦場に飛び込んできた。
死柄木弔はその男を知らない。
AFOはその男を余りにも知っている。
(逃げろ弔。ここであの男とやるのはリスクが高すぎる)
(は? そんな強い個性なのか……だったら奪えばいいだろ)
(やめたほうがいい。
(ほざけよ)
思考が分離する混乱のままに死柄木は個性による超スピードで吶喊し、その男に拳を振るった。
場違いな増援に来たその男は、スターアンドストライプの体を海に落下しないように抱きとめて距離を取った。
「…………は?」
───過程と結果が一致しなかった。
死柄木弔がその光景に余りにも違和感を覚えて、そうしてようやく何が起きたのか理解した。
いや、理解はできていない。何が起きたかは分かったが、何故そうなったかが分からないのだ。
間違いなく誰にも見切れない突撃だった。
先程戦っていたスターアンドストライプも、周囲を飛び回る
その速度で、こちらに意識を向けていないその男を狙い突撃し、ビル一つは軽く粉砕する拳を放ったのだ。
普通はそれで胸の下が吹き飛ぶ。
その後、死ぬ前に顔を掴んで個性を奪えば終わりだった。
だが─────その男は避けた。
こともなげに、慣れた風だといわんばかりに、世界最悪の存在に先制攻撃を放たれたはずのその男は、後手に回りながらも謎の個性を発揮して音速を軽く超える拳を回避したのだ。
余りにも自然にそれを成し、ここにきてようやく死柄木弔はその男の異常性を認識した。
(だから言ったんだ。その男は僕たちや、僕たちと相対するヒーローとは全く異質の存在なんだ。経験の質が特殊過ぎる……先制攻撃に対して絶対の防御を誇る男。『後』の『先』を常態とする条件反射の怪物。4年前の
(なんなんだよ次から次へと……!!)
死柄木弔の中のAFOの意識が、その男への警鐘を鳴らして止まなかった。
AFOがかつて遭遇したその男の危険性を十全に認識していたからだ。
まとまらない脳内の思考に辟易としながら、死柄木弔は超スピードでその場を離れることを選択する。
「……あ、そっちの人もボロボロで! 大丈夫ですか!? 自分なら運べると思うんで! スターさんと一緒に運びましょうか!」
「…………はぁ?」
「あっいや! 多分ヴィランなんだと思うんですけど! それでもやっぱり命は大切だと思うんで! あっでもここまで来てるのなら飛べる個性なのかな……? じゃあその……お大事に?」
「────~~~~!!」
しかしその場を離れる寸前に、その男からかけられた言葉に死柄木弔は憤った。
この男はあろうことか、魔王たる己の体を、ただ純粋に
そんな経験は初めてだった。状況の読めないスットボケな発言なのに、その言葉が何故か胸に突き刺さる様な重みを与えて。
怒りと、説明できない感情を抱えて……しかし、死柄木弔はその場からの離脱を選択した。
こちらに向かって来ているエンデヴァーに索敵されないようなルートで飛んで逃げる。
未知との遭遇。
その出来事は、死柄木弔の心にこれまでのどれとも想像の出来ない謎の棘を突き刺していった。
「……行っちゃった。あの人も大丈夫かな……あ! ってかそんな場合じゃないや、スターさんもアーユーオーケー!? 生きてます!?」
「Just go after it……! Don't let him get away!!」*5
「えっと、逃がすなって言ってます!? でもスターさんがなんかヤバそうだしここは一旦仕切り直しってことでどうでしょう! えっと、病院ってどっちだ……アメリカに戻るか? あ、でもだいぶ飛んできたしアメリカの病院ってどこにあるかわからないぞ……ヤバいな!?」
さて、その謎の男は去っていく死柄木をほっとした表情で見送り、そして改めてスターアンドストライプの容体が極めて危険であることを察して急ぎ病院に向かおうとする。
が、なんとこの男、アメリカへの航路も日本への航路も分かっていない。指示通りの方角に飛んでいき、無線でスターの位置までは確認したのだが、そもそも英語がうろ覚えなのだ。
「わ、わ、ヤバい! どうしよ、堪えてくださいねスターさん!? なんとか、なんとかしないと……!!」
その男が日本語で叫ぶその内容はスターアンドストライプには分からない。
だが、繋がれてしまった己の命を絶やす真似はしない。個性を返されてから、崩壊を何とか堪え続けている。
とはいえ時間はない。周辺を飛んでいた戦闘機たちは先ほど死柄木が翼を砕いており、それぞれが海に不時着してしまっている状況で。
このままであればスターアンドストライプの命はなかったであろう。
だが彼女は幸運だった。
「─────いたッ!! 既に戦闘は終わってしまったか……むっ!! スターアンドストライプは生存!! だが死柄木の崩壊を受けてしまっているか!? 大至急救助を……ム、貴様は……
「あ、エンデヴァー! うわ久しぶりに見た! 変わってない! 助かったぁ~……!」
「まだ助かってないぞ馬鹿者ォォォ!!! 日本のセントラル病院にスターアンドストライプを運ぶ!! 塚内警部!! 今の俺のいる座標付近で戦闘機が複数機不時着している、空を飛べる応援とヘリと船を出せ!! クロウラーはスターアンドストライプを抱えて俺について来い!!」
「は、はいっ!」
「ホークス!! 貴様は周辺を警戒しつつイグジストを呼んで死柄木を探させろ!! ベストジーニストはファントムシーフに連絡を取り浜辺で待つように言え!! ファントムシーフはセントラル病院へ
そこに到着した日本の増援が、日本で最も総合的な判断力に秀でるナンバーワンヒーロー、エンデヴァーで。
そしてエンデヴァーとその男……ヒーロー名スカイクロウラー、本名
さらに、崩壊を堪えるスターアンドストライプをワープゲートにより一瞬で運べる男が、黒霧の個性の使い方を練習していた物間寧人がすぐ動ける状態にあったこと。
最後に。
「────プロヒーローイレイザーヘッドの名において、エリちゃんの個性利用を許可する」
「おねえさん、死なないで……!!」
治癒を超える力、巻き戻しによる治療が受けられたこと。
相澤消太とエリが、とある事情でセントラル病院にいたこと。
数多の奇跡をもって、スターアンドストライプは命を永らえる事となった。