【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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171 体育館γとかいう世界最強ヒーロー養成施設

 

【side KUNIEDA】

 

 

 やられた。

 罠に嵌められた。まさかあの男がここまで見事に嵌められるとは。

 しかし起きたことを辿ればAFOであればこうなる可能性に至れたものではないかと……そう感じてしまう。

 何かあるのか? あの男の考えることは高尚すぎて時々よくわからない。

 

 だが。

 

「私を捕獲し損ねたのは失敗でしたね……」

 

 幸いにして私は鉄檻の拘束を逃れていた。

 ヴィラン連合の幹部やAFOを捕らえることに注力しすぎた結果であろう。1000人単位で攻めこんだ我々の内、何人かは鉄檻に入ることなく、その姿を檻の陰に隠している。

 これはチャンス。

 私の個性による苗は肉だけで育つ。さらに根は地中を掘り進められる。

 檻の中の栄養(ヴィラン)をいくつか使えばコンクリの破壊も可能。地面から穴を開ければ味方の脱出も可能かもしれなくて。

 さらに大人数と戦うことが私の大得意な展開。一輪でも咲かせてしまえば花粉によりイモヅル式に増え、根を介して私の手足となるマンイーターが完成する。

 

「む……」

 

 檻の内、死柄木弔とAFOを捕らえた鉄檻がワープゲートで移動させられた。

 あの二人は別の個所で戦うつもりか。

 だがこの盤面、私の存在によりひっくり返すことが可能。

 見れば個性を抹消していた少年もワープゲートで移動した。鉄檻でほぼ全てのヴィランが捕らえられていたから油断したか。

 

 ────花を咲かせて見せましょう。

 

 AFOの裏切り者、青山優雅とその仲間を殺す。

 私達『その他』の対応について現場対処にしたことを後悔させてあげましょう。

 私は根を地中に伸ばしながら、青山優雅を睨みつけるために鉄檻の影から体を出して。

 

「誰ひと

 

 

 

 四肢と肺に穴が開いた。

 

 

 

 

 

「─────ガハッ!?!? な……!? 何ィッ!?」

 

 な。

 何が起きた。

 何が起きたのかッ!?

 

「……ヴィランは喋りたがるんだ」

 

 そう私に呟きを返したのは、顔を伏せた青山優雅。

 その身はコートの下にどうやら改造した、突起を減らしたコスチュームを着用していたようで。

 しかし、青山優雅が下手人だとすればおかしい。私は青山優雅の姿を確かに目にしていた。

 そのために鉄檻から身を出した……心を折る言葉を投げかけた上で、根を張るために。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何をしたのか。

 緑谷出久や幾野潜がいる雄英の学生共の中でも最も弱い男が、何をした。

 

「その気持ち、今はよくわかる……僕もおしゃべりだった。自分の不安をまぎれさせるために口が動くのさ。だから弱かった。A組で僕が一番弱いのさ。力も、心も」

「!? ガッ!? なにッ……ギィィッ!?!?」

 

 青山優雅が喋るたびに、私の体に穴が開く。

 命を取らない、急所を狙わないにせよ……これでは個性を放つ集中ができない。出血も多くなってきた。

 まずい、個性が使えない。

 

 わかった。

 青山優雅、コイツは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!

 

「心をすべて友に明かし、許された時の心の熱を知っているかい。僕はみんなに救われてしまったんだ……だから気付いた。僕が輝く必要はなかった。みんながもう眩しいから、みんなでもっと輝ければよかったんだ。それに気付けたときに()()()()()()()()()。『ネビルレーザー』は輝きを失い『ノンイグジストレーザー』となった。ビームの軌道が見えるのなんてアニメの話さ」

「貴様……ッ、青山優雅ッ、貴様ァァァァ!!!」

「僕はA組で一番弱い。……けど、訓練では試合が始まったら一瞬でも油断したら負けるんだ。だから油断しない。僕たち(A組)は油断しない。相手の油断を見咎めたら条件反射で狙うようになっている。幾野くんがそうさせた……。タルタロスのダツゴク、KUNIEDA。大量殺人を犯した遺体蒐集家。貴方はA組の誰よりも弱かったね」

 

 ヤツの口から異常な言葉しか漏れてこない。

 見えないレーザーだと?

 それでもクラスで一番弱いだと?

 この男が……こんな男がクラスで一番弱い?

 

 待て。

 そもそも何故私は油断した?

 青山優雅が愚かな裏切り者だというだけで見下していたのか、私は?

 

 食らってみて初めて分かるこの個性の恐ろしさ。

 構えも取らずに自由自在の方向に放てる、銃弾よりも速い高火力のレーザービーム。

 相対した瞬間に放たれて、それを回避することなど出来るはずもなく。

 さらに光らず放つ予兆すらなければ必殺じゃないか。

 

 こんなのと常に訓練し続け上回っていたA組というクラスはどれほどの化物が集まっているのか。

 

「クッ─────」

「次」

 

 見えないレーザーに顎を打ち抜かれた。

 今度は貫通しない。神速の拳で殴られたかのような衝撃をもって私の脳を存分に揺らした。

 世界がぐるりと回り、意識が落ちようとする中で周囲を見れば……鉄檻でうち漏らしたヴィランが若いヒーロー、雄英の学生たちに次々と制圧されていく様が見えて。

 

 ああ。

 私たちはどうして勝てると思ってここに来たのか。

 罠に嵌められるなどとつゆにも思わず。

 AFOについて行けば勝てると。そう思っていたのに……

 

 そう、思っていたのに。

 

『イグジスト────AFO確保ォ!! 完全勝利!! 繰り返すッ!! イグジストとグレープジュースがAFOを確保したッ!!』

 

 意識が途絶えようとする私の耳に、あり得ない幻聴が響き。

 そして私は意識を闇に落とした。

 

 


 

 

【side エンデヴァー】

 

 

 平和を取り戻すために、己の全てを燃やすと誓った。

 荼毘の件が俺の心の内に大きな歪みを、過去を振り返る弱さを生み出したことは確かで。

 それでも、俺は家族と誓ったのだ。

 優先することは世界の平和であり……荼毘の件は二の次だと。

 確かめたいという想いに蓋をして、平和の為に動いていた。

 

 大きな恩がある少年……幾野潜が無茶をしていた時に、いの一番に雄英に、彼のクラスに情報提供をしたのは俺だ。

 俺の家族を思い遣り、隣にいてくれた少年を俺は助けられなかった。

 だから助けられる相手に頼った。そのことを躊躇わなかった。

 いつか、娘の冬美と愛をはぐくみ……彼の周りには俺と違い女性が惹かれ集まっているが、不義理な男ではない。きっと幸せになり、俺の家族を温めてくれるような少年を助ける事に躊躇いはなかった。

 

 ─────俺はなぜ、燈矢にこうしてやれなかったのだろう。

 

 

『イグジスト────AFO確保ォ!! 完全勝利!! 繰り返すッ!! イグジストとグレープジュースがAFOを確保したッ!!』

 

 

 彼の勝利を()かせるアナウンスが響く。

 AFOの完全確保。その情報はヴィラン側に動揺を与え、我らヒーロー側に無限の活力を生んだ。

 

「っしゃああああああ!! 流石だぜ幾野ォ!!」

「峰田もなんで!? アイツワープゲートに入らなかったよね!?」

「さっき急に姿が消えたから多分幾野が連れてったんだぜ! まったく寂しがり屋がよ!」

「とにかくヨシ!! 首魁の一人はやった!!」

「この調子でここも一気に制圧すっぞ!!」

 

 死柄木とAFOがいなくなったこの場において、誰よりも動きのいい雄英の一年生たち。

 次々とヴィランを一撃のもとに制圧、確保していく。

 戦い慣れている……若い力が世界に光を見せようとしている。

 

 そんな中で、俺だけが己の過去にまだ縛られている。

 

「行きますよエンデヴァーさん!! ここを一気に制圧すれば死柄木の方で戦ってる焦凍くんの応援に行けます!!」

「ああ」

 

 ホークスの声に頷き、俺も赫灼熱拳を纏いヴィランを制圧するが……俺の中にくすぶる、皆を裏切るような思いを捨てきれていない。

 聞いてしまったのだ。

 中二病ヒーロー、オッドアイが殻木から聞き出した情報を、俺だけが聞いてしまっていた。

 

 

 荼毘が燈矢本人であることを俺は知ってしまった。

 

 

 アイツは脳無にされるために遺体を回収されていて……しかし、俺への執着が強すぎて改造に失敗した。

 憎しみの苗床として死体を弄られようとした燈矢は、俺への恨みだけを募らせ、己の死にゆく身体を怨嗟の炎だけで踏みとどまらせていた。

 

 そんな燈矢を俺はどうするべきなのだろう。

 ここ数日、誰にも悟らせずに悩み続けていた。

 

 世界を壊させるわけにはいかない。

 今の……冷と、関係を改善した家族たちも巻き込んではいけない。

 

 俺だ。

 俺の愚かさが燈矢を殺し、アイツに地獄を歩ませてしまったのだ。

 

 だから、俺が。

 

「──────ヒャハハハハハァァ!!!!」

「なッ!? 鋼鉄処女(アイアンメイデン)が赤熱化してッ……!?」

 

 その時が来た。

 この作戦を聞いたときに、俺だけが予想した荼毘の反撃。

 個性を抹消できるのはファントムシーフが見ている時だけ。

 今は死柄木と戦う雄英の方にファントムシーフは移動している。鋼鉄処女(アイアンメイデン)でほぼすべてのヴィランを捕らえ、捕らえ損ねたヴィランも青山ら学生たちが迅速な制圧を進めた時点でワープしていった。

 そうなると鉄檻の中にいるヴィラン共は個性を使えるようになるが、そこも眠り香で眠らせジェントルの弾性で力では破れないようになっている。

 一呼吸でもすれば眠りに落ちる。

 

 だが、既に死んだ体の荼毘が、燈矢が、呼吸を優先などするだろうか。

 

 肺に穴が開いてもなお執念を燃やし続けた燈矢ならば、呼吸せずに堪え続ける選択肢を取る。

 そして俺の火力を受け継いでしまっているならば、鋼鉄処女(アイアンメイデン)程度は燃やし溶かして脱出も可能。

 

 やはりこうなった。

 こうなってしまうことをどこかで望んでいた。

 ヒーロー失格だ。仲間が窮地に陥りそうなこの状況が来ることを、僅かでも望んでしまっていたなんて。

 

 だから、俺はもうヒーローじゃない。

 ただ一人の男、燈矢の父親の轟炎司だ。

 

「ッ、エンデヴァーさんッ!?」

 

 息子の過ちは父親が正す。

 すべては俺一人の責任だ。

 

「───燈矢ァァァァァァ!!!」

「お父さァァァァン!!」

 

 俺並み……いや、俺以上の火力を放ち鋼鉄処女(アイアンメイデン)を破って来た燈矢に向けて突撃。

 燃え盛るその体を抱えて、燈矢の火力も借りて俺は空高く飛び上がって行った。

 

 一人で逝かせはしない。

 俺がいなくても、俺の家族はもう大丈夫だ。焦凍がいて、幾野くんがいてくれる。

 だから、俺はお前と共に逝こう。

 

 すまなかった。

 本当に済まなかった……燈矢。

 その一言を、お前に言いたくて。

 

「燈矢……ほんとうに、すまなかった。俺は駄目な父親だった」

「──────!!」

「お前が……俺を目指して走り抜けて、力を扱いきれずに壊れてしまうのが怖くて怯えてたんだ。ごめんな……ごめんなぁ、燈矢……!! ごめんな……!! 瀬古杜岳行けなくてごめんなァ……!!」

「……クソ、親父……バカ野郎……!! 大嫌いだ……お父さん、なんか……!!」

 

 涙すら一瞬で蒸発する獄炎の中を、俺は太陽を目指して燈矢と共に登っていく。

 お互いの体の熱は高まり合い、いずれ熱に強い俺の肉体も、燈矢の体も灰になるだろう。

 それでいい。焦凍は死柄木を止め、きっと英雄としてこの先俺よりも人を救えるヒーローになるだろう。心も救える優しいヒーローになってくれるはずだ。

 愚かな父はここで己の罪を精算し、お前たちに心配をかけないようにするから。

 俺が失ってしまった息子と共に、逝かせてくれ。

 

「燈矢……許さなくていい。けれど、伝えさせてくれ……本当に済まなかった……」

「お父さん……アハ。アハハァ……なんで、こんな、今……」

 

 炎の熱が体の限界を超え始めた。

 燈矢ももうそれに抵抗していない。お互いに高めあう熱が、お互いの体を焼き尽くそうとしている。

 地上にいるヒーローに被害が向かぬよう、もうお互いの体は空高く、太陽のように地上を照らして。

 懸念していた爆発も起きないだろう。炎の熱は想いを注ぎ込む様にお互いの体に向けられている。

 俺たち二人が燃え尽きて灰になり、終わりだ。

 

 目を閉じる。

 息子の体を強く抱きしめて。

 

 

「─────いや近親ホモ心中とかニッチジャンルすぎでしょ」

 

 

 ふと、義子の下品な言葉が耳に響いて。

 

 そして、俺と燈矢を包む炎の玉は……()()()()()()()()()

 

 


 

 

【side 焦凍】

 

 

「クソ親父……!!」

「きわめてマズい状況と見たぞ轟くん……!!」

 

 雄英高校内で、電磁バリアを張られた中で死柄木と戦っているときに、唐突にその炎の玉は空中に現れた。

 遠目に見えるその玉……間違いなくさっき荼毘らヴィラン共を捕まえてたみんなの所だ。

 炎の玉は青い炎と赤い炎が混ざり合っていて。

 その色を俺が見間違えるはずはない。親父と荼毘の炎の色だ。

 

 ─────やっぱ荼毘は燈矢兄さんだった。

 

 その炎の玉を見た瞬間、俺の中で推測が確信に変わる。

 荼毘は燈矢兄さんだった。しかも、兄さんの意志で動いていた。

 クソ親父がそれを知って、俺ら家族に隠して……向こうで目覚めた燈矢兄さんを、クソ親父が捉えて、自爆させないように空に飛びあがって……罪を償うとか考えて一緒に死のうとしてやがるんだ。

 

 バカ野郎。

 二人ともバカ野郎だ。

 そんなことして誰が喜ぶって言うんだよ。

 自己満足で動いてんじゃねぇ。誰かを笑顔にさせるためにヒーローってのはいるんだろうが!

 

「どうする轟くん!! 死柄木相手に放つ予定だったゼロシフト、君を乗せてアレに近づくために放つか!? 電磁バリアも一部開放が出来るように発目くんが設計していた、死柄木を逃すことなく行ける!! 僕はいつでも行けるぞ!!」

「──────」

 

 俺の隣、一撃を狙い死柄木の動きに隙が出来るのを待っていた飯田が俺を気遣って声をかけてくれる。

 ああ……それもアリだ。

 俺があそこにすぐ辿り着ければ、本気の大氷海嘯で一気に冷やすこともできるだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()

 その確信がある。俺の炎と氷の力はみんなと鍛え続けて、親父に鍛えられて……熱のコントロールで俺よりも上手いやつはいないと自負を持てるほどになった。

 

 ()()

 

「いや、大丈夫だ飯田……サンキュな気遣ってくれて。でも俺たちは死柄木に集中しようぜ。コイツを逃したらそれこそ世界は終わっちまうからな」

「ム! そうか……成程」

 

 俺は飯田のその気遣いを断った。

 大丈夫なんだ。

 飯田も俺の言葉に頷き、冷静さを取り戻す。

 

 そうさ。

 ついさっき、放送が流れてくれたから。

 ()()()()()()()()()()()()から、俺はあいつに任せることができる。

 

()()がよ、こうなるかもしれねぇって前に俺に伝えてくれてた。燈矢兄さんのことはボカしてたけど……で、俺が何とかするから死柄木は頼むわ、って言われてよ。なら俺はアイツを信じるさ」

「ああ、彼の言いそうなことだな。先ほどの放送でAFOの個性抹消にも成功したのだろう。ならば彼は来るな、間違いなく」

「絶対来る。だから俺たちは死柄木を取りこぼさないようにしようぜ」

「ああ」

 

 人に頼ることを覚えた。

 信頼できる相手に心から頼ることを、この雄英で教わった。

 

 俺は幾野を信じる。

 AFOを倒したアイツなら、こっちの状況はダイブセンサーでいくらでも見てんだろ。

 だったらアイツが何とかしてくれるさ。

 俺たち家族が精算するのは、その全てが終わってからでいい。

 

 とりあえずクソ親父はぶん殴って。

 で、燈矢兄さんもぶん殴って。

 そしたら話をしたい。ヴィランになっちまった兄貴だけど、俺は一度も話したことがなかったから。

 

「─────ん、ほらな」

「ああ、流石だ」

 

 第二の太陽とも見間違うような赫灼の太陽が、一瞬にしてその光を、熱を失った。

 幾野だ。アイツが来てくれたに違いない。

 

 

 ────俺の友達は、自分のためじゃなくて他人の為に怒ったり泣いたりできるから。

 そんなあいつだから、太陽だって掴めちまうんだ。

 






(報告)
R18のほうは前中後編で最終話まで投稿しました。



以下、感想欄で生まれた閑話。
レディ・ナガンとAFO対策の練習をするセンちゃんという妄想です。






「……で、私が呼ばれたってワケかい」
「ご協力感謝しますよレディ・ナガン。今のアンタの意志に裏切る気持ちは一切ない……ってオッドアイが保証してくれてますしね。よろしくっす」

 雄英高校のシェルター内、関係者以外立ち入り禁止の区域の一室で俺はレディ・ナガンと相対していた。
 この人に俺の存在をはっきり見せたのは初めてかな。前に緑谷と一緒に出会ったときは俺の個性の暴走で姿も声も感じられなくなってたし。
 初めて見た俺の顔を見てまぁびっくりしてましたね。男子高校生と聞いてヒーロースーツの俺が出てきたらまあそりゃビビるか。
 どうもー♥ センシティブヒーロー『イグジスト』です♥

「アンタの個性が規格外だってのは前の戦いで分かってるからな……ああ、そういえば言い忘れてた」
「ん。なんでしょ」
「……あん時は助かったよ。命を助けられた。緑谷にも……アンタにも大きな恩ができちまった。罪を犯した血まみれの腕だけど……その恩だけは返させてもらうよ」
「ん。一先ずお礼は受け取っときまして……ナガンの罪については俺の方からは何も言うつもりはないですよ」

 椅子に座った状態で俺にお礼を言ってきたレディ・ナガン。
 それ自体は受け取ろう。確かに俺はこの人の命を救ってはいる。
 ただ……まぁ、その先に続いた話については、俺は肯定も否定も出来ない。
 レディ・ナガン。この女が、たとえ心神喪失の状態だったとしても、殺意をもって人を殺したことは事実だから。
 その行為自体を肯定することは、たぶん一生ないだろう。

「……俺の過去については知ってますよね? 動画見ました?」
「あぁ。……個性事故で両親を殺しちまったってな。……それでも前を向けてるお前はすげェよ」
「ども。……で、あん時から俺は誓ってるんすよ。人を殺すのはよくないことです。そこにどんな事情があっても……俺みたいに事故でやっちまっても、貴女みたいに追い詰められた状態であっても……他人の命を奪う権利は、人間にはないんです。俺はそう思ってる」
「…………ぐうの音もでねェよ」
「────でも、罪を償うことはできる」
「っ!」
「俺がこうしてヒーロー活動してるのは……もしかすれば、両親を殺しちまったことの償いなのかもしれないっすね。あの時血に濡れた俺の手を……でも、闇に染めるのだけは違うなって。誰よりも人を救って、天国にいる両親に胸を張りたいんですよね……なんて。……なんか二人っきりだから変なこと言っちまった。いやスンマセン、忘れてください」
「……誰にも言わねェよ、忘れられそうにねェけどさ。……やっぱり眩しいな、お前も」
「ハゲてはねェっすよ!?」
「アホか」

 個性を無視させる訓練を積む前に、ちょっとだけ……レディ・ナガンと他愛もない話をした。
 お互いに、殺したくて殺したわけじゃない。
 俺は事故で。レディ・ナガンは精神的に追い詰められて心神喪失して突発的に。
 そこに悪意はなくても、でもやっぱり人を殺すのは駄目なんだ。その罪は背負っていかなきゃならない。
 でも罪を背負うということが何もしないという事とイコールじゃないんだ。
 俺たちはその力で、誰かを助けられるんだから。

「さ、そんじゃ練習しますか。とりまエアウォークとホークアイ……でしたっけ。何度も無視通しますんで、合図したら個性起動を試してもらって……本気でやってもらったり、色々試させてもらうんで」
「ああ。遠慮しなくていい……私の体を好きに使ってくれ」
「そんな表現されるとちんちんが辛いんですけど!? エロいお姉さんだっていう自覚をもってもっとホラ!!」
「やっぱりアホか」

 さてそれじゃ早速、自分のものじゃない個性を無視する練習を積むために俺は椅子に座ってるレディ・ナガンに手を伸ばす。
 流石に初手からおっぱいダイレクトは怒られるやろな……と空気を読み、肩口のあたりから腕を無視して埋め込むことにした。
 彼女に近づいて、その腕を肩に触れさせる瞬間に……レディ・ナガンが突如動いた。

「っ……!?」
「…………」

 だがそれは、俺の虚を突いての脱出……などと言った後ろめたいものではない。
 そっと遠慮がちに、しっかりと、何かを確かめるように……俺をいたわるかのように、きゅっと俺を抱きしめたのだ。
 確かに伝わる体温が、間近にいるレディ・ナガンの存在を強く意識させる。

 それは俺を慰めてくれているような。
 それは彼女が慰められたがっているような。

 少しだけ、無音の時間が流れて。

「…………レディ。これ以上は……」
「……ん、すまん……何でか知らねェけど……こうしたくなっちまってさ。……迷惑だったか?」
「性欲が我慢の限界を迎えるから離れてください」
「やっぱりアホだな」

 俺の言葉で体を離したレディ・ナガンが、俺の冗談に苦笑を零す。
 その笑顔が、俺にはまるで子供の様な……純真なもののように感じられた。

「悪かった、いきなり抱きしめちまってよ。監獄生活が長かったからかな、人肌が恋しくなっちまってたのかもな……すまん、こっちこそ忘れてくれ。ガキ相手に襲い掛かったなんて噂になっても誰も喜ばねェしよ」
「こんな事態じゃなけりゃそのドスケベボディを堪能する所でしたよ。俺の理性に感謝してもろて」
「ふふっ……今から堪能するんだろ?」
「大人の色香ァ!!」

 結局その後は何度も何度もレディ・ナガンの体に腕を、体の一部を埋めて。
 その度にナガンも意趣返しなのか甘い声を意識して漏らしたりして。

 そんなこんなでAFO対策の練習はバッチリ詰めましたとさ。


 ……いやヤってねぇよ????

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