【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
「ぬぁぁぁぁ…………」
俺は決勝戦までの時間を控室で過ごしていた。
轟との戦いを終えた後、相澤先生に名指しで「お前決勝と表彰式その服で出たら除籍」と言われてしまい、仕方なくチアガール服から着替えるために更衣室からジャージを持ち込んで控室に戻ったのだ。
一度A組の観客席に戻ろうかとも思ったが次の試合が爆豪ちゃんと常闇だ。常闇には悪いが、そんなに時間はかからないだろう。相性差で爆豪ちゃんの勝ちだ。
というわけでチアガール服を脱いで一度制汗シートで汗を拭いているときの声が先ほどのやつである。
クール系の制汗シートってなんかひゅっっってしない? 俺だけ?
「うおー!! ついに決勝だねセンちゃー………」
「ん」
俺が上半身裸、下半身はボクサーパンツというほぼ全裸状態で汗を拭いていると、控室にジャージ服が飛び込んできた。
服しか見えていないのと声で分かった。大天使ハガクレ=トールだ。
「んにゃああああああ!? ごめえええええん!?!?」
「訴えたら勝てるかな」
「何でそんなに冷静なの!?」
「いやだって逆に俺の方が葉隠ちゃんの裸見ること多いし……おあいこってことで」
「それはそうだけど恥じらいは持とう!? 早く服きてー!!」
「んにゃぴ……」
大天使の言われるままに俺はちゃんと服を着始める。
別に裸族とかそういうんじゃないんよ? 制汗シートで拭いたところが乾くまで待ってただけだからね。
無事ジャージ服に戻った俺は、頭の後ろ、髪を服の下に巻き込んでるところに腕を伸ばしてばさりと服の下から髪を解放する。
「ふう。……んで、激励に来てくれたの?」
「ん! そうだよ! 個性が強いとはいえ決勝だもん! すごいよー!」
「ありがと。まぁ相性勝ちって所が強いけどね」
「それでもすごいよー! えへへ、私に何か手伝えることある?」
「膝枕して?」
「センちゃんの欲望マンな所出てるよ!?」
折角激励に来てくれた葉隠ちゃんが言う事聞いてくれるというので俺は軽いジャブで返した。
今なんでもって言ったよね?(言ってない)
「え、えっと……その、変なことしなければ、いいよ……?」
「えっ」
「ふ、服の上から膝枕くらいなら……うん……する?」
「あっ……スゥー……それじゃ、お願いします……」
しかし我が心を照らす大天使ハガクレ=トールは何と膝枕OKと返事をくれた。
えっちょっと。マジでOK出されると逆に少し怖気づくといいますか。DT反応が出てしまうと言いますか。
そんなことを考えているうちに控室に備え付けの長椅子の端に葉隠ちゃんが座り、自分の太腿をぽんぽんとしているものだから俺の体はいつの間にか彼女の太腿に頭を預けて横になっていた。
「すっごい速いエントリーだったねセンちゃん!?」
「無意識でした。あっすっごい葉隠ちゃんの太腿柔らかい……天使……」
「は、恥ずかしいからあんまり動かないでね……?」
俺は太腿に後頭部を預けながら天井を仰ぎ見る。
足先だけ靴に沈めてウォールハックを発動し、葉隠ちゃんの顔を見る。
いや見えないわ。視界の半分くらいジャージを押し出すたわわでふさがってるわ。たわわ戦闘力すごい。
「センちゃん、髪綺麗だよねー」
「ん。まぁ……それなりに手入れはしてますし?」
葉隠ちゃんの瞳をじっと見つめていると、手持ち無沙汰になった葉隠ちゃんが俺の髪をしゃなりと指先で弄り始めた。
自慢の髪を褒められてかなり嬉しい。お母さん譲りの赤髪だ。何よりも大切にしているものだ。
「……センちゃんはすごいよね」
「どしたの急に」
「うん……今日の体育祭、私あんまり結果残せなかったなー、なんて。最終競技まで残れなかったし」
激励に来てくれたというのに距離が近まったからか俺にぼそりとそんなことを呟いてくる葉隠ちゃん。
お互いに見つめあう瞳が少しだけ、彼女の長い睫毛が伏せるように揺れるのが見えた。
「競技内容が葉隠ちゃんの個性とは嚙み合いが悪かったかもね。でもあんまり気にすることも……」
「ううん。ヒーローになるためには必要な力だと思うんだ。速く走るのも、戦いも……でも、私は透明なだけで、みんなみたいに強くないから……」
「葉隠ちゃん……」
どうやら随分思い詰めてしまっているみたいだ。
それを俺に零してくれていることに信頼を感じて嬉しい気持ちもある。その信頼に応えられるように俺は葉隠ちゃんの隣に立つ決意をした。
とりあえずネガティブな方向にこれ以上葉隠ちゃんの気持ちが行かないように、手を動かして葉隠ちゃんのおっぱいを下から支えた。
「うひゃぁんっ!? 急に何するの!?!?」
「んげっふ!」
直後に腹パンが襲ってきて、俺のオート個性が発動しないギリギリの力加減で見事に丹田に突き刺さる。
めちゃくちゃ慌てているがそれでも膝枕をキープしてくれてる葉隠ちゃんやはり天使か?
「メンゴ。なんか葉隠ちゃんが下向き始めたから、この大きなおっぱいの重さが原因かと思って支えてあげようって」
「絶対触りたかっただけでしょ!? 流石に私もおこだよおこ!」
「マジでごめんって。……そんな風に元気な姿を見せてくれないと、俺も調子が狂っちゃうわけ」
「あ……その、ごめん! 激励に来たのにこんな……」
「……いいかい葉隠ちゃん。俺はね、葉隠ちゃんに随分と癒されてる。今がそうだし……普段もそう。だから、そんな落ち込んでほしくないのよ」
改めて、じっと葉隠ちゃんの目を見つめながら俺は本心を零す。
「さっきの話だけどさ……強いヒーローなんていっくらでもいるよね。でも、巨大なパワーがなくてもヒーローやってる人だっていっぱいいる」
「う、そ、それはそうだけど……」
「だからさ。大切なのは、葉隠ちゃんが
「……私が?」
「そう。今日一日で少なくとも俺は……それを改めて考えさせられた。俺は、泣いてる誰かの隣にいられるヒーローになりたい」
「!」
「そのためには、勿論力もいるけど、心だって鍛えないとだからさ。そのためにこれからも頑張っていこうって前向きに思えるわけよ。何のために頑張ってるかがはっきりしてるから」
今日一日を通して、俺が強く感じたこと。
ヒーローになる、その
それがはっきりしていれば、何をするべきかが見えてくるのだと。
「葉隠ちゃんがなりたいヒーローの形に力が必要なら、鍛えればいい。コスチュームやアイテムとかも駆使して、訓練すればいい。心が必要なら優しく在れるように努力すればいい。大切なのは葉隠ちゃんがどうなりたいか、だと思うよ」
「私……私は……」
「……この場で答える必要はないよ。けど、葉隠ちゃんが答えをまだ見つけられないなら、俺はそれを見つけられる手伝いをしたい。見つけられたら、今度はそれに向かう努力を一緒に頑張りたい」
「……センちゃん」
「だからさ。今日の体育祭でいい結果が出なくても、これからだよ、って話。言いたかったのはこれね。俺らまだ入学して数か月も経ってないんだから、落ち込んでる暇はないっしょ。プルスウルトラ、だろ?」
だいぶ話が長くなってしまったが、言いたかったことは伝わっただろうか。
結局のところ、俺達はまだまだこれからで。
もちろん今日の体育祭で挫折を味わった生徒も多いだろうが、それを糧に前に歩いていかなければならない。
俺もそう。そして、俺は俺がなりたいヒーローになるために、みんなを
「…………センちゃん、女たらしって言われない?」
「聞いたことないそんな評価」
「……ずるい」
「今日死ぬほど言われたねその評価」
「……んふっ。そりゃ言われるよねー」
「自覚はしてるよ」
葉隠ちゃんは俺の言葉に感じ入るものが在ったのか、先ほどまでのネガる感情は薄れ、いつものように微笑みを見せてくれた。
俺は君のその顔をいつまでも見ていたい。
「もっかい下から支えていい?」
「このタイミングでその発言はおかしいよね!?」
「いや……なんか真面目な話をしすぎて調子が崩れそうで……」
「どうしてそんな難儀な体になっちゃったの!? 駄目だよ!? そんなに私のおっぱい安くないからね!?」
そして隙あらばハガクレ=トールのお胸を支え隊隊長である俺の続く言葉に葉隠ちゃんがまた慌て始める。
可愛い。
こんな彼女がいたら学園生活バラ色やな……体育祭終わったらワンチャン告白してみるか……?
いや今行けるか……? 今かなりいい雰囲気じゃないか……!? 決勝で勝ったら告白してみるか……!?
「─────いよぉーイクノォ!! とうとう決勝だなおま─────」
「あ」
「お」
「────────ごゆるりと……」
告白チャンスを窺っているとまたしても控室のドアが開き、峰田を先頭に緑谷や上鳴や麗日ちゃんや梅雨ちゃんが応援に来てくれたらしい。
だが俺と葉隠ちゃんの体勢を見た瞬間にドアは閉じられた。
「ちょ、ちょっと待ってー!? 誤解!! 誤解してると思う!!!」
「もう誤解されたままでもよくない?」
「ダメだよ!? ほら起きてセンちゃん!! もうすぐ決勝でしょー!?」
「ひどい」
俺は立ち上がる葉隠ちゃんの太腿からぽーいと床に投げ落ちて床の冷たさを頬に感じる。
先程までの柔らかく温かい感触とは大違いだぜ。世間って冷たい。
「峰田くんもみんなも待ってー!! 今のは違うのー!!」
「オイラ何も見てない」
「僕も見てない」
「俺も見てない」
「ウチも見てない」
「ケロ。仲が良さそうで何よりだわ」
「梅雨ちゃんだけ真実の瞳」
俺たちはその後、俺達らしい下らない話をしながら、決勝までの時を過ごした。
【side 切島】
俺は爆豪の控室の前にやってきた。
つい先ほど準決勝で常闇を下し、15分の休憩を置いて決勝戦に向かうクラスメイトの応援に来たのだ。
クラスの他の奴らは大体幾野の方に行っちまった。まぁアイツ人気あるもんな。
俺だって幾野は嫌いじゃねぇ。頭おかしくなりそうな下ネタはアレだが、根本がいいやつだってのは知ってる。委員長決めるときもあいつに投票したし。
ただ、爆豪は俺と共に騎馬戦に挑み、トーナメントでも争った仲だ。USJでも共闘している。
言っちゃなんだが、そんだけ付き合いもあればダチだと思ってる。
口こそクソ下水煮込みの悪さだが、勝利を目指す爆豪の心構えだけは尊敬できる。
「爆豪、入るぞー……っ!?」
そして扉に手をかけて開いた瞬間に、俺は驚愕と困惑を覚えた。
室内から、まるでスチームのようなどろりとした熱気が溢れたからだ。
「……切島か」
「爆豪、おまっ、コレ何だよ!?」
「ウルセぇ。熱気が逃げるからとっとと扉閉めろやボケ」
そう指示されて慌てて扉を閉めて、控室内に入る。
クソみたいな暑さだ。間違いなく30度は超えている。今日は涼しさもある気温なのに、これは異常だ。
見れば、控室に備え付けのエアコンは最高出力で暖房が掛かっており、加湿器もフル稼働していた。
そして、そんな部屋の中央。
上半身裸で手を胸の前に組み、ひたすらにヒンズースクワットをして汗を流す爆豪の姿があった。
「……お前、何してんだ?」
「……、……っ。……男女をブッ殺す準備だ」
俺が声をかけても、スクワットをやめようとしない。
その下半身はジャージを超えて汗がにじみ出ており、足元には水たまりが出来ている。
近くの机にスポーツドリンクがいくつも空になっていることから、水分補給をしながら汗を流しているのだろう。
そして、俺はそこで気が付いた。
スクワットをする爆豪の、胸の前で構える両手。ぐっと握られているそこに、何か布を包み持っている。
汗。手。この爆豪の個性に両方とも関係するものだ。
こいつの個性は確か、手からニトロみてーな汗を出して爆破させてるんだ。
それを、溜めている──────?
「…………あのクソ男女に、負けた」
「……爆豪?」
「障害走でも、騎馬戦でも……男女にも、デクにも、半分野郎にも負けた」
呟くように爆豪が言葉を放つ。
それは俺に向けてというそれよりも、自分に言い聞かせる様な。
「クソが……俺よりも全員、前に居やがって。ブチキレるわ。ふざけんな……麗日だって……」
「…………」
「キレて、頭にきて、キレすぎて……一周回って、見えた」
「……何がだよ」
「俺が、なんで
ぎぃ、とスクワットをするたびに、汗にまみれたジャージがきしむように小さな音を立てる。
俺自身もこの部屋の熱気に汗を流しながらも、爆豪の言葉を聞いた。
「俺は……昔から、変わらねぇ。一番になるんだ。オールマイトも超える一番になる。そのために勝つ」
「お前……」
「もう油断も慢心もいらねぇ。俺が出来ること、やれること全部やってあの男女に勝つ。追加ルールなんて関係ねぇ……勝つ。完膚なきまでに勝つ」
勝つと。
幾野に、あのチート個性の無敵野郎に勝つと。そう言い放った。
上鳴はともかくとして、飯田も轟も逃げることを選択した相手に、勝つと。
爆豪は、その体から立ち上る熱気とは裏腹に冷め切った目で、正面の壁を見据えていた。
そこに、お前は何を映してるんだ。
「……、……っ」
「爆豪……」
「……もういいだろ。邪魔だ、出てけ切島」
それを見て、俺は思っちまった。
お前が、どんだけ前に居るんだって。
俺から見て前に居るお前が、それよりも前に居る幾野に、何を見せてくれるのかって。
「……爆豪」
「……、……っ、……」
もう返事はない。黙々とスクワットを続けている。どうやら己の世界に入ったようだ。
なら俺も長居する理由はない。
ただ、最後にダチに一言だけ。
「……勝てよ! 応援してるぜ俺は!!」
「……チッ」
爆豪の舌打ちの返事がいやに心地よく響き、それを最後に俺は控室を後にした。
涼しい空気が頬を撫でる。
そんな風を感じながら、俺は決勝戦が恐らくはとてつもない試合になることを予感していた。
※爆豪ちゃん原作相違点
原作以上に緑谷にも轟にも幾野にもボコられた上に騎馬戦でも物間ボコれなくてフラストレーション貯まりまくり、キレすぎて一周してスンッ…ってなりました。
ちょっとだけ原作で言う先の方の安定メンタルになってます。
スクワット中ににぎにぎしている布はセンちゃんのおパンツではなく自分のインナーです。