【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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31 メガネを割るのは一度までは義務みたいなもん

 

 

 

「オイラはマウントレディ!!」

「オイラもマウントレディ!!」

「峰田ちゃんとセンちゃん、またやらしいこと考えてるわね」

「そうだよ」

「違ぇよ!?」

 

 職場体験も数日後に控えた朝のHR前の教室でクラスの皆とだべっていた。

 俺は峰田と共にマウントレディの元へ職場体験をする形で申請した。

 そこに決めた主な理由としては、デビューから短期間で一気に人気を集めており、まだソロ活動なことなどから、その辺りのコツや苦労話が聞けそうだったからだ。あと若いし美人だし。

 なお俺にはちゃんとマウントレディからオファーが来ていたが峰田は受入れ可の事務所からあえて選んでいた。

 お前も結構指名あっただろうがよ。多分指名の中に女性ヒーローがいなかったんだろうな。ウケる。

 

「芦戸もいくつかオファーあったよね」

「それな。ちょっと微妙ー! でも断るのも申し訳ない! うーん! 悩む!」

「デクくんはもう決めた?」

「まずこの320件もオファーを出してくれたヒーローたちの得意な活動条件を調べて系統別に分けたあと事件・事故解決件数をデビューから現在までの期間でピックアップして僕が今必要な要素をもっとも備えてる人を割り出さないといけないな……こんな貴重な経験そうそうないしオファーを頂けてるだけでもありがたいから慎重に決めるぞ事件がない時の過ごし方なども参考にしないといけないなああ忙しくなるぞうひょー」

「また始まってら」

「戻って来い緑谷」

 

 緑谷が安定の高速詠唱(オナニー)芸を見せている。

 クラスの皆を見てみればおおよそは行き先を決めている様だ。

 梅雨ちゃんは水難に係わる所に行くらしい。一番個性が発揮できるところだもんな。

 麗日ちゃんと葉隠ちゃんはバトルヒーローの事務所だって。ゴリゴリの武闘派だと緑谷が解説してくれた。可能性を広げるために求める強さ、良いと思います。

 

 さて、そんな中で俺が気にしてる二人に声をかけてみることにした。

 まず一人目。

 

()。お前はどこに行くんだ? まだ決めてない感じ?」

「幾野……俺はもう出した」

「ほほう。どこさ」

「親父ん所だ」

「お」

 

 轟。前の体育祭で随分と距離も縮まり、最近は一緒に飯食べたりもする仲になっている。ダチだ。でもこいつ蕎麦しか食わねぇ。

 話を聞いたところによるとお母さんともしっかり話せたとのことで俺もほっこり。

 そして今回の職場体験についても聞いてみると、なんとエンデヴァー事務所に行くという。

 おお、マジか。お母さんに続いて親父さんとも歩み寄り始めるのか。

 

「……前にお前言ってたよな、親父と話してみたら意外と普通のヒーローだったって」

「ああ、体育祭の控室前のあれね? そだね、俺が素で話した限り、普通に人格者に見えたよ」

「俺は……あのクソ親父の家ん中での顔しか知らねぇ。これからどうしていくか決めるためにも……まずは親父のヒーローやってる姿も見ねぇとって思った」

「そっか。……いいんじゃねぇか? 腐ってもナンバー2ヒーローなんだ。吸収できることは多いだろうしな。頑張れよ、何かあったらいつでも相談しろ」

「おお」

「エンデヴァーさんに『先日は大変お世話になりました♥』って俺が言ってたって伝えといて」

「ああ」

「俺のアドレスも教えていいから。あとでメッセージ貰えるようにお願いしてくれる?」

「わかった」

「あとバーニンさんとも出来ればアドレス交換したい」

「伝えとく」

「轟お前もうちょっとノーと言える日本人になれよォォォ!?」

 

 俺が轟にエンデヴァーとバーニンさんへのパイプつくりのお願いをしていたら峰田がツッコんできた。

 なんや。折角できた縁やぞ。悪い意味じゃなくてナンバー2ヒーロー事務所と関係出来たら今後のヒーロー活動に有利にしかならないだろが。

 

 さて、まぁそんな感じで轟の行き先は確認できた。

 次は……飯田だ。

 

 飯田。

 どうにもやはり今週に入ってから……お兄さんのインゲニウムが倒れてからというもの、いつもの調子ではないように見える。

 心配の意味も込めて声をかけた。

 

「飯田はどこ行くんだ? もう決めたのか?」

「……ああ。マニュアル事務所にしたよ」

「……マニュアル?」

 

 聞いたことのないヒーロー名だ。

 俺の、緑谷に教えてもらった程度の付け焼刃のヒーロー知識ではその名前に心当たりがない。

 妙だな。飯田ならあれ程オファーを貰えていたのだから、ある程度有名なヒーローからも指名があったと思うのだが。

 

 それどこのどんなヒーロー? と聞こうとしたところで始業のチャイムが鳴ってしまった。速攻で席に戻り相澤先生を迎えるクラス一同。

 仕方ない、緑谷にマニュアルについて教えてもらったうえでまた話聞いてみるか。

 

 


 

「ヒーローマニュアル? それは……東京のノーマルヒーロー『マニュアル』かな」

「流石は緑谷」

「確か水を操る系の個性だったと思うよ。あまりランキングは高くないけど……しっかりとした誠意ある対応でアンケートの平均評価は高かったはず」

「飯田がそこ行くんだってよ。あ、今日のかつ丼旨そうだな。カツ一切れちょうだい♥?」

「そんな声出さなくてもあげるよ? その代わりから揚げ貰うね。……でも、飯田くんがそこに行くんだ……」

「うまみ。……ん? 何か思うところある?」

「いや……確か、マニュアル事務所は東京の保須市にあったはずなんだ」

「ふんふん?」

「───インゲニウムが、『ヒーロー殺し』ステインにやられた地区だ」

「────────────」

 


 

 

 放課後。

 

「飯田、一緒に帰ろうぜ!」

「幾野くん……ああ、構わない」

 

 俺は教室を出る飯田に声をかけ、共に帰ることにした。

 もちろん、話を聞くためだ。

 こいつがわざわざマニュアル事務所に行くことにした、その件を。

 

「なぁ飯田」

「何だ?」

「マニュアル事務所行くんだよな……あれか? お兄さんと何か関係のある所なのか?」

「……いや、特段そういうものはない。でも誠実な仕事をするヒーローでね、それを学びに行きたいんだ」

()()()()()?」

「っ……」

 

 仕掛けた上でまっすぐに切り込んでいった。

 こいつは今、きっと、迷っているから。

 俺にも緑谷にも、誰にも職場体験の行き先を積極的に言おうともしない。お兄さんの件も。

 体育祭前と様子が違いすぎる。

 

「……保須市。お兄さんがヒーロー殺しにやられちまった所だよな」

「……」

「……飯田、お前どうするつもりなんだ?」

「……君には関係のない事だろう」

 

 隣を歩く飯田の語気が強くなった。

 どうしたよ飯田。どうしちまったんだ。メガネが曇ってんのか。

 お前、そんなこと言うやつじゃなかっただろ。

 

「関係ないわけあるかよ」

「僕の家庭の話で……」

「飯田。お前は俺とか緑谷とか、ダチの肉親が凶悪なヴィランにやられたって聞いて、それでダチが塞ぎ込んでて、でも関係のない話だから知りませんって言うのか? 言わねぇよな?」

「っ! それは無論、そうだが……!」

「なら俺も言わねぇの。……話聞かせてくれよ。お前がどうしたいのかをよ」

 

 飯田の反論は余りにも簡単に覆せた。

 当然の話だ。ダチが塞ぎ込んでたら話を聞いてやりたくなる。力になってやりたくなる。

 隣にいてやりたい。

 余計なおせっかいがヒーローの本質だからこそ。

 

「…………僕は、ヒーロー殺しが許せない」

 

 そして、飯田が零した言葉は漸くの本音なのだろう。

 苦々しく表情が歪み、言葉を紡いだ。

 

「兄さんは……兄は、下半身不随になるだろうと医者に言われた」

「!? ……マジかよ……!?」

「ヒーローらしからぬ感情だとはわかっている……だが、僕はあいつが許せない。だから……無駄なことかもしれない、それでも今は……追わずにはいられない」

 

 そこで俺は初めて、飯田のお兄さんが想像以上の重傷であったことを知った。

 下半身不随。マジかよ。間違いなく人生を大きく変える後遺症だ。

 ヒーローを続ける事なんてできるはずもない。何て悲劇だ。

 生きているからまだよかった──と俺の口から言えるはずもない。

 ()()()()()()()()()()()

 

「飯田──」

「……そんな、理由だ。俺が君たちに話せなかったのは。これ以上は……」

「──よし!! きっちりヒーロー殺しぶっ殺してこいよ委員長!!」

「何を言い出すんだ君は!?」

 

 そして俺は、飯田の言葉に俺の答えを出した。

 隣にいてやりたい。そんな俺の目指すものは、決して相手の感情の否定ではない。

 俺は、家族を想う人間として当然のその気持ちを、肯定する。

 

「違うのか? そういう事だろ? マニュアル事務所で保須をパトロールとかして、ヒーロー殺しを見つけたらぶっ殺すんだろ?」

「それは……! いや、違わない、が……殺すのは駄目だろう!?」

「だってお前そのつもりだったじゃねーか」

「!? 何を言っているんだ幾野くん!?」

「え、さっきヒーロー殺しを許せないって言ったときの目が完全にイッてたからそうなのかなって……」

「……いや、それだけは違うはずだ! 違う……!」

「いやゴメンな飯田? 俺の言いたいことまず言わせてもらうな?」

 

 俺は彼を応援したい、支えたいという気持ちを込めて、俺の言葉をぶつける。

 

「家族が襲われて重傷を負ったわけだ。そりゃ恨むわ。ふざけんなヒーロー殺し、ってなるよ。そりゃなる。誰だってなるさ。俺も同じ立場だったらなるよ」

「……だが俺は……」

「いいから聞けって。なぁ、()()()()()()()()()()()()? 家族を想う気持ちがないヒーローなんていないだろ? 家族じゃなくても、人々を傷つけるヴィランを取り締まるためにヒーローがいるんだからよ。これまでヒーロー殺しが害してきた人がいる以上、アイツは恨まれて当然なんだよ」

「……何が言いたいんだ、幾野くん……」

「いつも話長くなってごめんな? 俺緑谷の事言えねぇわ。まぁ……つまりはさ、視野を狭めず()()()()()()()()()()()()、って話」

「!!」

 

 俺が今飯田に言いたいことはこの一言に集約される。

 こいつが思い悩んで、敵を恨んで、でもそれを俺達に言い出せなかったのは、それが()()()()()()だと思っていたからだ。

 さっきの顔を見る限り、間違いなく思い詰めていた。視野が狭くなっていたんだ。

 

 俺も同じような経験がある。強い負の感情は、周りを見えなくさせる。

 だから、俺が視界を広げてやるんだ。

 

「ぶっ殺すって俺はさっき言ったけど、あれは言うなら爆豪ちゃんのセンスワードみたいなもんでさ。ヒーローとして正しくぶちのめしてくるんだよ。パトロールで凶悪なヴィランを見つけたらまず民間人の安全確保、ヒーローの応援呼んでから接敵。きっちり捕まえて警察に引き渡す。それがヒーローだろ?」

「……ああ。授業で、何度も習ったところだ。まずは市民の救出を……」

「いいじゃんそれで。どこに恥じる部分があるよ? 兄さんを害したヴィランが許せない、だから職場体験で少しでも情報を集めようとしました。そしたらヴィランに出会いました、ちゃんと職場体験先のヒーローと連携して、学校で学んだことを活かしてヒーローとして立派に活躍できたよ。……って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッッ!!」

「お前の速さはクラスで一番だ、それはガチった俺が保証する。そんなお前がきっちりヒーローとして頑張れば、兄さんの仇だってワンチャン取れると思うんだよ。……だからさ、あんま思い詰めんな、ってことを言いたかった。……いや俺これマジで緑谷の事言えねぇな? 話まとめるのヘタクソかよ」

 

 勢いのままに飯田に言いたいことを全部言い終えて、俺は苦笑を零した。

 飯田はあっけにとられたように俺の方を見ているが、俺が言いたかったことは伝わっただろうか。

 いいんだよ。俺はお前の感情を否定しない。

 けど、やり方は間違えてほしくない。

 多分その一歩が、ヒーローとヴィランを分ける境界線になってしまうのだから。

 

「……幾野くん」

「おう」

「君はバカだな」

「俺より中間でいい成績取ってから言え」

「くっ……ははっ。そうだな、前の小テストでは君の方が上だったな」

 

 そして、飯田の口からようやく笑いが零れてくれた。

 この一週間、見えなかったそれを。

 

「……ああ、ようやく僕は、()が見えたよ。君の言う通りだ。視野が狭まっていたらしい」

「メガネ替えたら?」

「ふっ、この眼鏡はお気に入りでね。ああそうだ……僕が、正しく僕であれば、それは恥じるところはどこにもなかった。もっと早く君たちに相談しておけばよかったと後悔しているよ。君が言う通り、マニュアルさんの元でしっかりヒーローをしてくれば、それでよかったんだ」

「おう。……あとここまで焚きつけたけどさ、危険な事には首突っ込んでほしくないってのが本音だからな? 出会わなければそれが一番だ。プロヒーローに任せて、ちゃんと学生するのが俺らの本分だしな。職場体験でマニュアルさんに失礼すんなよ?」

「ああ、それもまさしくその通りだ! 委員長として皆の模範になれるようしっかり学んでくるとしよう!!」

 

 そして飯田のいつものやつ、腕をカクカクと動かして大げさにリアクションをする行動までも出てきた。

 よかった。その飯田が見たかったんだよ。いつもの委員長のやつ。

 俺の言葉が少しでも心の中のもやもやを払えてれば、それが一番嬉しい。

 これでマジで無茶したら眼鏡割るからな?

 

「うし。じゃあ話したい事話せたから俺帰るわ。また明日な」

「ん? ああ……もう駅前まで来てしまっていたか。すまない、付き合わせてしまったな……君の家のほうはとっくに通り過ぎていた」

「気にすんな。今度昼飯奢れよ」

「ああ。また明日」

 

 俺は駅前で飯田と別れ、来た道を戻る様にして家に帰った。

 

 


 

 

 職場体験当日になった。

 俺たち生徒はヒーローコスチュームをもって駅に集まる。

 ここから新幹線やら飛行機やらに乗ってそれぞれが向かうヒーロー事務所に移動するのだ。

 

「オイラ達は東京の渋谷だな」

「ああ。待ってろよ渋谷の若者……俺が性癖歪めてやるからなァ……!」

「お前そろそろ逮捕されるぞ?」

 

 俺と峰田は渋谷にあるマウントレディ事務所へ向かう。*1

 どんな職場体験になるのか今から楽しみだ。パトロール多めだといいな。ヒーローコスチュームで歩き回れる。

 

「幾野くん、峰田くん!」

「ん、飯田」

「オッス。そーいや飯田も東京だっけ?」

「ああ! しばらくは道中一緒だ! 周りに迷惑を掛けぬよう乗車ルールは守ろう!」

 

 先日話した飯田が声をかけてきた。だいぶ眼鏡の曇りはとれたみたいだな。いつもの委員長だ。

 峰田が持ち込もうとしたお菓子を没収する飯田を眺めていると、緑谷と麗日ちゃんが声をかけてきた。

 

「幾野くん、飯田くんも……」

「ウチら行き先遠いから……その、お兄さんの件で」

「ああ。すまない、二人にも心配をかけてしまったな、本当に」

「ホントだよ。安心しろ緑谷、麗日ちゃん。委員長が暴走しないようにちゃんと俺が言っといたし。何かあったら俺と峰田が近いからすぐ話聞きに行けるしな」

「……うん、幾野くんお願いね! 飯田くんも何かあったら言ってね、友達だろ!」

 

 緑谷の言葉と、こくこくと頷く麗日ちゃんに、飯田は正面から二人の顔を見て、言った。

 

「─────()()!」

 

 

 

 俺たちの職場体験が始まる。

 

 


 

 

 途中で飯田とも別れて到着しましたマウントレディ事務所。

 

「フツーのビルだな」

「だな。んじゃ行きますか」

 

 ビルに入り、事務所のインターホンを押す。

 返事があり、ガチャリと扉が開いて、ヒーローコスチュームに身を包んだマウントレディが出迎えてくれた。

 このコスチュームえっちだよね*2

 早速俺たちは挨拶する。

 

「雄英から職場体験に来ました、幾野潜です!」

「ええ、待ってたわ幾野くん! 歓迎するわ、マウントレディ事務所にようこそ!!」

「オイラ、峰田実です!!」

「チェンジで」

 

 対応の差が凄い。

 

「どういうことだよォォォ!? 暴れるぞオイラァ!?」

「いくらマウントレディと言えども親友(ダチ)への侮辱は許せません! おっぱいに触りますよ!?

「待ってアンタたちそういうノリのヤツ?」

 

 なかなかに濃い顔合わせになってしまったな。

 アガってきた。この先不安しかねぇぜ!

*1
独自設定。マウントレディ事務所が原作中でどこにあるか明記されてなかったので渋谷にした。初登場時に緑谷の通学中だったから静岡じゃないかって?細かいことは気にするな。何回も事務所壊れたからより目立つところに移転したんだよ多分。

*2
どの口が言ってんの?

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