【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
「いーい? ヒーロー活動はねぇ、いかにして暇な時間を過ごすかが重要なのよ?*1」
ソファに横になり、情報誌を読みながらポテチをつまむマウントレディがそんなことを言った。
俺と峰田が職場体験に参加して初日。
まず事務所内の清掃を指示された俺たちは、しっかりとその指示に従っていた。
「なるほど? つまりどんな時でも心に余裕をもって過ごせって事っすね?」
「ねぇ幾野くん貴方どこからそのメイド服持ってきたの? 私より似合ってるじゃない?」
「あ、マウントレディ! トイレと台所と書斎棚と入口まわりと廊下の清掃終わりました! 台所の油汚れや水場のカビは全部オイラの個性で引っ付けて完璧に綺麗にしといたんで!」
「俺は天井の照明に埃が溜まってたんで全部落としときました! 書斎棚の上や机の裏の埃もバッチリです!」
「二人とも仕事が丁寧で早すぎない?」
ピッカピカに生まれ変わった事務所内で、割烹着に身を包んだ峰田とメイド服に身を包んだ俺がふぅーっと一仕事やり終えた達成感で汗を拭う。
掃除の話を俺達にする? 中学時代の3年間をボランティア活動に費やしたのは伊達じゃないんすよ?
主に河原の清掃という名のエロ本探しから始まり、図書館での本修繕サービスの他、学校内清掃とか市内清掃とか掃除関係はめちゃくちゃ得意中の得意だ。
お互いに個性をどのように掃除に活かすかを分かり切っている。高い所は俺、低い所は峰田で手分けして当たって最高効率をはじき出せるまである。
もぎもぎを使えば頑固な油汚れもカビもバッチリとれるし俺の個性は物に潜り込めるので面倒な所の埃を取るのに最適だ。
場数が違いますよ。
なおメイド服は職場体験中にこんなこともあろうかと持ってきていた私物である。
コスプレグッズそれなりに揃えてあります。
「いきなり掃除って言われたからなんかスイッチ入っちゃったなオイラ達」
「このために来たまであるな。満足感すごいわ」
「私が悪かったところもあるけどお願いだから清掃だけで満足しないで? それで報告が学園に行ったら私が怒られるから」
俺はメイド服を着用したままマウントレディと俺と峰田と仮面のお兄さんの4人分のお茶を入れて一息ついた。
「……まぁ、見てわかってもらえたと思うけれど、私はまだヒーロー活動始めて2年目だからそんなに事務所も広くないし、サイドキックもいないのよ。毎日自転車操業でやってるって感じね」
「あれ、そちらの仮面の方は?」
「あ、俺は会計士。一般事務員なのよ、顔のは異形型個性で生まれつきな*2」
「なるほど。幾野です、一週間お世話になります」
「峰田っす。お世話になります」
「ああ。幾野くんに峰田くんだな。掃除ホント助かったよ、清掃員入れる金ないから自分らでやるんだけど普段なかなか隅々までやれなくてね。書類整理まで手伝ってくれてホント助かる」
「この二人有能過ぎない……?」
一般会計士のお兄さんにも挨拶をしておく。
清掃中に書類がなんだか大変そうだったので簡単に整理を手伝っていたのだ。図書館でのボランティアが活きたな。
「ヒーローと言ってもどうしても書類仕事はついてくるわ。ずっとパトロールだけ、ヴィラン退治だけが仕事じゃないし、むしろパトロールする時間は少ない方ね。渋谷はヒーロー事務所多いから。サイドキックが複数名いる大きな事務所ならその辺を手分けしてやれるところもあるけど」
「そういう所もぜひ教えてもらいたくて来てますからね。勉強になります」
「ヒーローは立ち上げてから1~2年の退職率が一番高いって聞くもんなー」
「私は幸いにしてこの美貌とインパクトのある個性、あと力もあったから人気も出たけどね。割とシビアよ、この世界」
「つまり俺は顔がいいから大丈夫ということですね」
「幾野くん自分に自信あり過ぎじゃない?」
「スミマセンいつもこうなんですコイツ……」
メイド服でにっこりと笑って見せたらマウントレディがジト目で見てきた。なんや。顔の勝負なら負けんぞ。
お茶をすすりながら、一先ずの職場体験中の方針について打ち合わせる。
「とりあえず最初の2日はヒーロー事務所がどんなことをしているのか見てもらうために、あえて普段と変わらない一日を過ごしてもらうわ。パトロールは午前の一回と午後の一回。応援要請やヒーロー要請が入ればその限りではないわね。それ以外は事務所で過ごしてもらう。その後は二人の働きを見て適宜考えるわ」
「了解です。事務所ではどんなことを?」
「書類整理……なんだけどそれはだいたいそっちの会計士がやってくれてるから、私は割と暇なの。情報を仕入れるって感じね。だから掃除なんかお願いしちゃったんだけど」
「むしろオイラその書類仕事の方も勉強してぇ」
「俺も。新設のヒーロー事務所がどんな苦労してどんな手続きしてるのかとか見たいですし。出来る限りそこも教えてもらっていいですか? あと棚にある過去の書類のファイルとか見てもいいです?」
「向上心の塊なの?」
「俺は構わないよ。手伝ってもらえるならここ最近溜まってる書類がはけそうだ」
「お願いします!」
「せっかくこうしてお時間を頂いてるわけだし、やれることはやらなきゃな」
「ええ……体育祭の様子からは考えられないくらい模範的……! あ、ちゃんとパトロールには同行してもらうからね! 二人ともその時はヒーローコスチュームでお願いね」
「了解です」
「うっす」
そんな感じで方針が決まった。
折角来たんだ。パトロールだけ、ヴィラン退治に同行するだけなんてもったいないにもほどがある。
個人事務所だからこその立ち上げ直後の苦労の話とか、どんな申請をするのかとか、そういう方も存分に学んでいきたい。
峰田もここは同様の考え。マウントレディの美貌を眺めて眼福に浸りながら仕事が出来るんだぞ? 最高やん。
「あ、そういえばマウントレディ」
「なぁに?」
お茶のお代わりを入れながら俺はそういえばと気になっていたことを聞いてみる。
「確か、プロヒーローが雄英の生徒に指名を入れられるのは2名まででしたよね。どうして俺を選んでくれたんですか?」
「ああ、そんなこと?」
気になったのはそこだ。
マウントレディの仕事はいたって一般的なヒーロー事務所と変わらない。
確かに俺は成績を残したが、俺の個性はそれこそ迅速な現場急行が求められる戦闘よりも被災地支援や潜入などで輝く個性。
そういう仕事を主とするヒーロー事務所からのオファーがめっちゃ多かったのだが、何を理由に俺を選んでいたのだろうか。単純に成績かな?
「顔」
「余りにもシンプル!!」
「え、コイツ男っすよ……?」
「いいじゃない男でも。絶対にその顔は目立つしウケるわ。キャラが立ってるし一目見れば忘れないでしょ? 実際に体育祭でも一番目立ってたものね、幾野くん。その注目度を私は欲しかったわけ。私の人気の為に利用したかったの」
顔だった。面食いか?
だから最初の峰田との遭遇でチェンジとか言いだしたのかこの人。いやわかるけどさ。
「ワンチャンもう一人指名してた轟くんが来てくれれば美男美女侍らせてパトロール行けたのよねぇ……そうなればパトロール2倍に増やしたのに」
「エンデヴァーの息子さんに対してこの貪欲さは見習うべきところあるなオイラ」
「俺も男だから美男美男になるのでは。轟は親父さんのほう行っちまいましたから……でもまぁ俺だけでも十分注目はされると思いますよ、コスチューム自信ありますし」
「へぇ? そういえばまだ二人のヒーローコスチューム見せてもらってないわね……よし! じゃあこれから早速午前のパトロールに行きましょうか! 二人とも着替えてきてくれる?」
「はい!」
「よっしゃ!」
「着替えは隣の応接室使ってくれ。更衣室なくてごめんな」
話の流れで早速俺たちはパトロールに出かけることになった。
峰田と共に応接室でヒーローコスチュームを身に纏う。
俺の全身ぴっちりスーツが若干マウントレディに被るな。でも色が白と黒だしそこまででもないか。俺の方は背中がぱっかり開いてるし。
色合いもいずれデザイン変更してもいいかもな。そういうセンスあるやつ誰かいたかな。発目ちゃんだとなんか余計なアイテム付けられそうで怖い。
「着替えてきました!」
「初めてのパトロールだぜ!」
「まって幾野くん完全に男辞めてるじゃない!?」
「信じられんくらい背中空いてる……」
ヒーローコスになった俺の姿を見てマウントレディがものすごい顔になった。
会計士さんの顔も物凄い事になっている。
その顔が見たかったァ……私に嫉妬するその顔がァ……!
「……いや、幾野くんのコスチュームこれ絶対人気出るわ。もう二度と忘れられないもん俺。悪い意味で」
「会計士さんのお墨付きもらえた」
「罪深い」
「幾野くんのそれは……まぁミッドナイト先輩みたいなのもいるからセーフか! あ、峰田くんはシンプルにいいわね、ポップなキャラクターが出てるわ」
「え!? オイラ褒められてる!?」
「いや俺も峰田のコス割と好きだぞ? 身長低い分なんつーかいい意味でコミカルさと可愛さ出てるじゃん。人気出るデザインラインだと思うけどな」
「はは、グレープ系飲料のマスコットキャラクターとか狙えるんじゃないか? マントとマフラーもイカしてるし」
「褒められ慣れてなさ過ぎて心臓が痛い!!」
俺のコスチュームだけではなく峰田のコスチュームも割と好評を貰えた。
完全に同意。いや、普通にキャラ立ちまくってると思うんよこのコスチューム。
身長が低いのを逆手に取って漫画みたいなデフォルメ効いてるし。
「じゃ、パトロールね。行きながら色々説明するわ。あとパトロール中はヒーローネームで呼び合うのが慣例だからここからはそうします。二人のヒーローネームは? 決めてきたんでしょ?」
「俺は『イグジスト』です」
「オイラ『グレープジュース』です」
「OK。それじゃ行きましょ、イグジスト、グレープジュース。今日は駅前の方を回りましょうか」
初めてのパトロールが始まった。
初めてのパトロールが終わった。
「キタコレ族のカメラが全部幾野くんに持ってかれた……!!」
「元々ねじ曲がってた性癖をさらに捻じ曲げてしまったか」
「罪深い」
とりあえず大きな事件は起きなかった。駐車違反の車を見つけて警察に通報したのと、初めての東京観光で駅前で迷いかけてた家族連れを案内したくらいか。
ご家族の中にいた小さい女の子ににっこり笑顔を返したら喜んでくれて嬉しかった。こういうのもええな。
なおマウントレディには熱心なファンがおり、キタコレ族と呼ばれるカメラ小僧がいるのだが、その人たちは何故か俺の方をめっちゃ撮影してきたのでファンサでポーズをとってやった。
「幾野くんの人気を舐めてた……!! そりゃ選手宣誓もしてあんだけ体育祭でも活躍してたから世間にも顔が売れてるだろうけどこの子と一週間ずっとパトロールしたら私の人気を奪われる恐れが……!!」
「逃がしませんよ絶対パトロールついていきますからね」
「どこから出てくるんだよその執念」
体育祭後の登校日に持て囃されなかったことはまだ根に持ってるからな。この東京でバズるチャンスを逃す理由はない。
実際歩いてたらめっちゃ声かけられてうれしかった。女性の方が声かけてくれる率高くて男性の方は遠巻きに信じられないものを見る目で見てた。ウケる。
いくらでも顔売ってやるからなァ!! 東京を俺色に染めるんだよオラァ!!
「幾野くんがこれだと……4日目に予定してたファッションショーへの同行は避けた方がよさそうね」*3
「待って初耳の情報なんすけど? 死んでもついていきますが????」
「あー、そーいや今週末ファッションショーのイベントありましたっけ。ベストジーニストやウワバミも参加するやつ」
「あら、峰田くん知ってたのね? そうなのよ、そこにお呼ばれしてたからせっかくだし幾野くんたちもって思ってたんだけど……絶対暴走するわね幾野くんが」
「何言ってんすかそんなことしませんって。ちゃんと付き添いしますって」
「100割乱入するだろお前。オイラも行きたいけどイクノを止める方が優先度高いわ」
マウントレディの口からファッションショーに参加するという新事実が判明したが何と俺は参加NGとなった。
クソがよ。俺がユニセックスの服着て歩けばLGBTQの観点からも全員の目を奪えるってのによォ!!
さて。
一通りマウントレディを煽ったところでお茶を入れて一服ついて、今日のパトロールの振り返りに入る。
「マウントレディ。今日のパトロールしながら思ったことがあったんですけど」
「ん、何かしら?」
「基本的に俺達学生って、許可が出ないと個性使用できないじゃないですか。でも正直に言うと、俺達でパトロールする場合、俺と峰田の二人が個性使えないのって相当痛いと思うんですよ。マウントレディが巨大化して対処するにもかなり場所を選びますし」
「あー、大通りを中心に歩いてはいたけどそれとして店の中や路地裏にヴィランが出てきたらマウントレディじゃ中々追いかけらんないよなー。広い場所での超パワーって意味なら最強なんだけどな」
「う゛っ……事実だから反論しづらい……!!」
「巨大化するたび建物壊して赤字運営だったんだよな1年前まで。最近は落ち着いてきたけど、二人の言う事マジでごもっともだよ」
さて、そしてパトロールの中で思った、ということにして俺は一つの許可を貰いに動く。
それはこの職場体験が始まる前から考えていたことだ。
俺達がパトロール中に個性使用する許可を監督者であるマウントレディから貰う事。
「咄嗟に相手追いかけるスピードなら峰田の個性が街中なんで活きます。もぎもぎで遠距離から捕縛も出来ますし。壁の向こう索敵してヴィラン見つけたり潜り込んで相手を止めるだけなら俺の個性が活きます。敵に攻撃されてもご存じの通り俺は無敵ですし。市民の平和を守るためにもどうか個性利用の許可を頂けませんか」
「オイラたちも特段無茶とかするつもりはないし、マウントレディの指示には従うんで」
「うーーーーーん…………」
峰田からも援護射撃があり、マウントレディも真剣に考えてくれている。
まだ学生の身分を危険なことに巻き込むのにためらいを覚えてくれるのは当然だ。大人として、ヒーローとして当然の考えだろう。
しかし、サイドキックがいないマウントレディとしては俺たち二人がただ付き添いをするという勿体なさも理解してくれるだろう。
職場体験なのだ。折角なら深いところまで体験させてもらいたいところだ。
「……わかった、許可を出すわ。た・だ・し!! 必ず私の指示には従う事!! 幾野くんは個性が無敵だからともかくとして、峰田くんは防御力ないし物理攻撃じゃない個性のヴィランもいるんだから絶対に油断しないでね! 何かあったら私の責任問題になるんだから!」
「っ、有難うございます!」
「大丈夫っすオイラビビりなんで! マウントレディの傍から離れませんから!」
「いや市民を助けるための行動はちゃんとしなさいよ!?」
「ヒーローとして身の程を知るのは大切だと思うよ。身の程を知らなくて建物壊してたのがこの子だからね」
「ああ身の程ってそういう」
「2062cmでしたよね」
「結構詳しいわね!?」
「調べて来たんで……」
そしてマウントレディが出してくれた結論に俺達はお礼を述べた。
よし、これで動きやすくなった。
俺たちの活躍を市民に見せる……なんていうそれじゃなく、ちゃんと市民を守れるように。
飯田に発破かけておいて、俺はヒーロー活動なんもできませんでした、なんて言えねぇからな。
立派に活躍して見せるぜ!