【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【side 飯田】
状況は、また厳しくなってしまった。
ステインと接敵後、僕とマニュアルさんが襲われていたヒーローを助けるためにヤツに立ち向かったが、やはりこのヴィランは恐ろしく強かった。
マニュアルさんはプロヒーローということで警戒され、早期に襲われて血を舐められて動けなくなった。
その隙を突いて僕も
だが、そこで緑谷くんが救援に駆けつけてくれた。
彼の動き、フルカウルと呼ぶその俊敏な動きはこの路地裏で万全に発揮される。
峰田くんほどではないにせよ、ステインを相手取るのには十分な速度────だと、思ったのだが。
ステインはそれすら凌ぎきった。
僕たちと戦っていた時には本気を出していなかったのだ。
さらにその後、轟くんも応援に駆けつけてくれたが、人数が増えたことで逆にステインの警戒を生んでしまった。
緑谷くんが一度血を舐められて動きが止まり、轟くんが粘っていたところで緑谷くんが回復。
二人で何とかステインの動きを止めていたが、本気を出したステインがそれを上回る。
僕の体が動かせるようになったところで、緑谷くんも轟くんも血を舐められてしまったのだ。
有効打もいくつか与えていたが、まだステインはヒーロー殺害の意志を捨てていない。
今、動けるのは僕だけで。
僕の後ろには、4人が体を動かせず倒れてしまっている。
「ハァ……見込みがある卵が3人……どけ、そこにいる偽物さえ殺せば俺は去る……」
「ふざけるな!! ここで貴様の凶行を見逃すヒーローがいてたまるか……!!」
僕に出来ることは少ない。
レシプロバーストも使い切り、脚のエンジンは既に冷却装置が故障してしまっている。
緑谷くんの速度も轟くんの炎も氷もしのぎ切ったステイン相手に勝てるとは思えない。
この男の、戦闘中に零していたヒーローに対する信念がそのまま力になっているような執念。
それを、ここで抑えきることはできないのかもしれない。
でも、それでも。
僕はヒーローを目指しているのだから。
退くという選択肢だけはあり得ない。
僕は両手を大きく広げ、後ろの4人をかばうようにステインに立ち向かった。
何があっても後ろの4人はやらせない。
僕が、止める。
「来てみろステインッ!! 僕の命に代えても、友達と先輩ヒーローたちはやらせないッ!!」
「……貴様は助けるために力を使った……認めよう、本物だ……ハァ……だが、悪に立ち向かう以上、力がないものは死ぬ……!」
ステインが刀を構えた。
僕はぐっと睨みつける目と震えそうになる脚に力を籠める。
一瞬後に突撃してくるだろう。何としても、この身を犠牲にしてでも止めて見せる。
きっと兄さんならそうしただろうから。
そんな決意をした瞬間だ。
僕は確かに耳にした。
「────よく言ったぜ、委員長」
その声は、ステインの足元から。
絶対に声が生まれないはずのそこに
ステインの脚に、見覚えのある白い手が絡みついていて。
「────もう大丈夫。俺が来た!!」
幾野くんが、地中からステインを掴み捉えていた。
「幾野くんっ!!」
「ハッ、おせぇんだよ幾野……!」
「最後まで油断するな!! そいつは強いぞ!!」
俺は
先程の飯田の時間稼ぎで間に合った。ギリギリだった。
ウォールハックで現場は確認しながら地中に潜り込んで向かっていたが、もう少し遅ければコイツにみんなやられていたかもしれない。
マジでよくやったぜ飯田。
「貴様……噂に聞く無法の個性の男……! 貴様は名声だけを求める紛い物か……!?」
「初めましてだなヒーロー殺しさんよぉ!! んで死ね!! 俺のダチに何してくれてんだボケッ!!」
「ハァ……! その目、躊躇いない行動、友を想う言葉……」
かつて飯田との体育祭での試合でやったように、俺はステインの背中に回り、チョークスリーパーの体勢を取る。
当然にしてステインは抵抗するが、逃がさない。
今回は俺の脚を地面に潜らせたままステインを捉えている。
こいつがどんなにもがき飛び跳ねようとしても、地面を支点にした俺を振りほどけない。
躊躇いはない。即座に首をチョークで圧迫し始める。
「ガッ……! 本物……ハァ……! 本物か……!?」
「この胸は偽物だよバァカ!! とっとと落ちろやボケ!!」
密着させた体から伝わるのは、コイツ自身も満身創痍であったという事。
緑谷、轟、飯田のA組トップ3の攻撃はコイツ自身もしのぎ切れなかったのだろう。
よくやったぜ3人とも。後ろの二人のヒーローも含めて、よくしのぎ切った。
後は俺に任せろ!
「ッ……ケハッ……ぎ………ィィ……!!」
「締め堕としてやるよクソヴィランがぁぁ……!!」
一切躊躇いない腕力でステインを締め堕とす。
どんなに刀で抵抗しても腕を振り払おうとしても無駄だ。
俺が体に潜れば終わりだ。
「……グ…………────────」
数十秒ほどだったか。頸動脈を締め続けていたにもかかわらずこいつは粘り続けた。
だがその体が人である以上、必ずその時は来る。
ふっとステインの体から力が抜ける。
俺は油断せずにその後もしばらく締め続け、隙を作るために力を抜いたのではないことを確認してから、ようやく腕を離した。
殺しちまったら終わりだからな。だが油断せず、まだステインの体には潜り込んだままだ。
「……墜ちた、か?」
「流石に気絶した……? ……っぽい……?」
「……流石だぜ幾野。じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは……」
飯田の言葉に、ようやく体が動かせるようになったらしい緑谷と轟も続いて、呼吸を落ち着けた。
その後ろの、ヒーローっぽい大人の二人も動けるようになったようだ。
それぞれ裂傷がひどいが、しかし命に別状があるほどのそれは見えない。
マジでよく粘ってたよ。ウォールハックで見ていたが、こいつの動きは俊敏すぎた。
一人も死んでないのが奇跡だと思う。コイツは強かった。
「何があってもいいように俺が出来る限り潜り続けとくが……緑谷、そっちのゴミ置き場に太めのロープがある。それ使おうぜ」
「あ、ウォールハックで見たんだね。うん、わかった」
「さすがゴミ置き場、あるもんだな」
「捕縛術なら俺が覚えてる、縛るよ。しかし悪かった……プロの俺が完全に足手まといだった」
「いやネイティブさん、それを言うなら俺もですよ。天哉くんも……そっちの二人もよく頑張った。幾野くん、だったっけ? キミホントに強いな……」
「マニュアルさんがいてくれたからネイティブさんも助けられたんです。誰が欠けてもこの結果はなかった」
「ってか緑谷、マジでよくメッセージ送ってくれたな。機転利いてたぜ、助かった」
「幾野くんがUSJでやったことを真似ただけだよ。咄嗟にあの時の事が頭に浮かんだんだ」
戦闘が終わり、少し緩和した空気が生まれつつ俺たちはステインをきっちり縛り上げて通りに出る。
するとそこに、駅前での戦闘が終わったのか緑谷の職場体験先のヒーローのお爺ちゃん……グラントリノだっけ。その人がぷんすこ怒りながらやってきて緑谷にキックした。
このお爺ちゃんあざとくない? 峰田みたいで結構好きだわこの感じ。
さらにエンデヴァーから応援要請を受けたヒーローたちも集まってきてくれて、状況を教えてくれる。
「ひどいケガだ、救急車呼べ!」
「おい、こいつヒーロー殺しか!?」
「親父……エンデヴァーがいないのはまだ向こうは交戦中ということですか?」
「ああ! そうだ脳無の兄弟が……!」
「あいつらならほぼ制圧完了して残党いないか探してるところ! マウントレディとその職場体験先の学生が応援に来てくれてね、行動不能にしまくってたよ!」
「お、峰田やったな? よし偉い、後で褒美に自撮り送ってやろ」
「また峰田くんの性癖歪めようとしてる……」
それぞれがヒーローとしての適切な処置、行動を進めていくところで、グラントリノが急に叫んだ。
「伏せろ!!」
「え?」
声に、そして続いて耳に入る羽音に気付いて空を見上げると、飛行タイプの脳無がこっちに猛スピードで突っ込んできていた。
俺の体が咄嗟に動く。
一番そいつに近い位置に俺がいたから。
「緑谷あぶねぇッ!!」
「幾野くん……!?」
一直線に迫られていた緑谷を突き飛ばす。
それで緑谷は逃がせて、脳無が俺に向かって脚で掴んでこようとしていた。
すり抜けるなら容易い事だ。
だが、ここで俺がすり抜けちまえばさらにその後ろにいる轟が狙われてもおかしくない。
アイツの脚を埋めつつ、ついでに空中にいても俺が迎撃できる態勢を作るために────あえて、捉えられた。
「幾野ッ!?」
「心配いらねぇ!! 潜ってる!! コイツは俺が───!!」
飛行脳無の脚に潜り込んで、俺は空に連れていかれる。
だが問題ない。もうこいつの体に潜り込んでいるんだ。
脳無相手にはチョークは効かない可能性があるから、やりたくないが個性の解除で羽根と腕を千切りおとすしかないか。
俺は個性を解除する躊躇いを乗り越えるために一度深呼吸をしてから、改めて脳無の上半身まで潜り登ろうとしたところで。
「────偽物が
ドッ、と。
脳無の脳ミソに、気絶から覚め束縛を解いたステインが短刀をブッ刺した。
目の前で行われた凶行により、脳無の体から力が抜けて墜落していく。
こいつ。
この、ヴィラン。
「粛清対象だ……ハァ……ハァ……全ては、正しき、社会の為に」
涎を垂らしながら、キマりきった顔でステインが言葉を練る。
その声に、形相に、濁り切った信念に、その場にいる全員が。
つい今合流したエンデヴァーやマウントレディ、峰田の動きが、止まる。
「贋物……! 正さねば──誰かが血に染まらねば……!!」
俺は、その震えるような圧を。
「『
「俺を殺していいのは
至近距離から、全力で拳を横っ面に叩き込んだ。
こいつの言ってる言葉が、余りにも意味がなくて悲しくて。
「……このバカがッッ!!」
「てめぇがどんなに高尚な信念持ってようが……ヒーローを
「お前が人殺してヴィランになったら、誰もその言葉を聞かなくなっちまうじゃねぇかよ!!」
「馬鹿が!! そんなにヒーロー社会を想ってんだったら自分がそれを正すヒーローになればよかったんだよ!!」
「やり方間違えやがってよ、馬鹿野郎が……!!」
俺の慟哭を受け止める相手はいなかった。
ヒーロー殺しステインは、今度こそ完全に気を失っていた。
【side 緑谷】
僕たちは、動けなかった。
後から聞いた話なんだけど、この時ヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に刺さっていたそうだ。
誰も血を舐められてなんかいなかった。
なのに、あの場であの一瞬、ヒーロー殺しの放った圧……その呪いのような執念に、地獄のような形相に、誰もが気圧されて動けなかった。
僕達も、プロヒーローも。グラントリノも、後からやってきたマウントレディも峰田くんも、エンデヴァーですら。
ただ、一人だけ。
幾野くんだけを除いては。
幾野くんだって、ステインの言葉を、形相を見ていたはずだ。
心の底から震えあがってしまうほどのそれを。
ヒーローが、轟くんが腰を抜かしてしまうほどの圧を、一番近い距離で受けていたんだ。
そのはずなのに。
まるで、それを無視したかのように幾野くんは動いた。
怒りの拳をステインに叩き込んで、彼の想いを否定せず、彼の現状を否定した。
幾野くんの言葉は正論だ。
僕だって、ステインの言うこと自体は完全には否定はできないけれど、やったことは絶対に間違ってるって思う。
やり方を間違えたんだ。彼はヴィランになってしまった。それが一番の間違いだ。
ヒーローになっていれば、社会を憂う考えだって聞いてくれる人もいたかもしれないのに。
「幾野、くん…………」
でも、僕は。
あの場で唯一、体を動かせた幾野くんに対して。
ほんのわずかな欠片だけ。
─────理解できない恐怖を覚えてしまったんだ。