【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
一夜明けて、ここは保須総合病院。
俺達……緑谷、轟、飯田、峰田と俺の学生5人は、ここに入院患者として一泊していた。
「この病院のナースの
「わかる。オイラここに住みたいまである」
「平常運転だね二人とも!?」
俺と峰田が一晩を過ごした感想を述べあっていると緑谷からツッコミがきちんと帰ってきた。
よかったよ飯田と轟だけじゃなくて。ツッコミ不在になるからなそれだと。
「でも、冷静に考えるとすごい事しちゃったね……」
「そうだな」
「まーなんにせよ全員無事でよかったぜ。オイラお前ら3人が傷だらけになってるの見てチビりそうになっちまったよ」
「俺だけ心配されてない」
「峰田くんも相当頑張ってたみたいだな……脳無を3体も行動不能にしたらしいじゃないか」
「そうなんよ! へへっ、オイラの個性の見せどころだったぜ!」
ベッドに座る、体の各部位に包帯を巻いた緑谷、飯田、轟の3人と、特に怪我はしてない俺と峰田。
3人は当然入院が必要だったが、俺と峰田は検査入院だ。
ま、俺達だけ先に帰しちゃまずい理由があるんだろうけどな、大人の。
「それにしても……ヒーロー殺し。多分……僕達には最初、手加減してた。僕の事、殺そうと思えば殺せたタイミングがあった」
「ああ。俺はあからさまに生かされたしな……血は舐められちまったが。飯田もよくあんなのからネイティブさん助けられたな」
「いや、マニュアルさんが隙を作ってくれたからこそネイティブさんを助けられたんだ。僕も歯が立たなかった」
「アイツも最後の方は余裕なくなって本気出してたように見えたしな。マジで俺間に合ってよかったわ」
「オイラいなかったけどそんなに強かったんか。危ねぇ橋渡り過ぎだよお前ら」
ステインとの戦闘について、緑谷の言葉からそれぞれが所感を零す。
俺はともかくとして、ウォールハックで見ていたアイツの動きはマジでクソ速かった。
もし峰田があの場に参戦できていても、得意な閉所とはいえ不覚を取ったかもしれない。
「───おおォ起きてるな怪我人共!」
「まったく心配させて!」
「天哉くん、無事だったか!?」
「グラントリノ!」
「マウントレディも……」
「マニュアルさん……」
そんな話をしていたら病室にぞろぞろと人が入ってきた。
エンデヴァーを除いた俺達の職場体験先のヒーローと、身長が高い異形型、犬の頭をした人だ。
ワンちゃんやんけ!
グラントリノが保須市警察署署長の面構犬嗣さんだと教えてくれた。署長さんでいいか。
「掛けたままで結構だワン」
何だよその語尾あざといかよ。
「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。そちらの峰田くんはヒーロー殺し討伐には混ざらなかったが、脳無を止める活躍をしたと聞いてるワン」
俺たちは軽く頭を下げて、署長さんの話を聞く。
とりあえず、ステインはそこそこの重傷で治療中だと。ただ言い方から察する限り命に別状はなさそうだ。
よかったよ。俺の最後の拳で頸椎損傷とかになってたら後味悪かったからな。
「超常黎明期……警察は統率と規格を重要視し個性を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン」
そして署長が話を続ける。
長ったらしい話だったが……結局、言いたかったことはここだ。
「……資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと。たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン」
ああ、なるほど。
それは確かにまずいよな。でも俺と峰田はちゃんとマウントレディから個性利用許可取ったぞ?
「君たちの内、個性使用許可を得ずに戦闘した緑谷くんと轟くん、およびグラントリノとエンデヴァー。この4名には厳正な処分が下されなければならない」
「え、お前ら何やってんの?! 許可貰ってなかったの!?」
「う、うん……僕は新幹線襲われてから咄嗟に動いちゃって……」
「親父から了解貰わねぇで緑谷のほう向かっちまってた……」
「おバカ!!!」
それはお前らが悪いよお前らがー!!
いやお前らがいなくちゃヤバかったのは事実だけど!
署長さんの言うこともそりゃ仕方ねぇよルールだもん!!
「……いや、僕も幾野くんに諭されていなければマニュアルさんに連携せず一人でヒーロー殺しに向かっていた可能性もある。二人の事を何も言えないな」
「オイラから見てもあの頃メガネ曇ってたもんな飯田」
「……君たちはまだ卵だワン。事情は察するが法とは守ってこそ意味がある」
署長の言葉に、俺達は呑み込み切れない思いもあるが話を受け止めた。
かばってやりたい気持ちも強いが、署長の言っていることに何の反論も返せない。
まぁぶっちゃけ俺は平気だったしというところもあるけど。よかったちゃんとマウントレディとその辺打ち合わせておいて。
「……まァ以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで
お?
風向き変わってきたな?
その後に署長が続けた話はまとめるとこうだ。
今回のステインとの戦闘は目撃者も極めて限られている。
また、学生がステインを倒したことを公表すれば世論は喜び褒め称えるが緑谷たちの処罰は免れない。
だから公表せずにプロヒーローが倒したことにすれば、この違反はここで握りつぶせるのだと。
清濁併せ呑む、素晴らしい柔軟性だった。
「ただ……飯田くん、幾野くんは正式に許可を受けてヒーロー殺しと戦闘しているワン。だから5人が集まるここで話を聞きたかったんだワン」
「あ、そういう事なら俺は全然プロの手柄にしてもらっていいっす。ぶっちゃけ偉かったのは俺じゃなくて堪えた3人ですし」
「僕も同様です。ヒーローとして救助を優先できたとは感じていますが、私怨が欠片もなかったとは言えません。緑谷くんと轟くん、プロヒーローお二人の立場を尊重したご判断を願います」
「オイラどっちでもいいや、駅前での活躍はなかったことにならなそうだし」
「三人とも……うん、ありがとう! 僕も、それでお願いします!」
「初めからそう言ってくださいよ署長……俺もそれでお願いします」
「……ん! 君たちがそう言ってくれるならこの話はここで終わりだワン! 君たちを讃える声はなくなってしまうが……せめてともに平和を守る人間として。ありがとう!!」
これで話は決まった。
俺たちの活躍は人に知られることなく、エンデヴァーたちに助けられたという事になり。
そして峰田の功績だけが世に残る形になった。
ふざけんなお前だけいい思いしやがって。
「っていうか、それなしでも私は監督不行届きで軽い処罰あるんだからね! 特に幾野くん! 適切な判断ではあったけどせめて一声かけてから行きなさい!」
「ホントにそこはごめんなさいマウントレディ! 後で肩とか胸とかもみまくりますんで!!」
「胸は揉まないで!?」
「天哉くん、俺全然力になれなくてごめんな。でも何とかなってよかったよ、全員無事でさ」
「こちらこそ、色々とご迷惑をおかけしました……!!」
その後、お互いの担当ヒーローと一言二言交わし、署長たちは去って行った。
その日のうちに、俺と峰田は退院することになった。
そもそも怪我してないからな。さっきの話を聞かせるために入院させてたってのが正しいんだろうな。
大部屋で、怪我の治療もありもう一日入院していくみんなと話していた。俺らはもう1時間くらいで退院予定だ。
「俺さ……この病院に入院してからずっと疑問に思ってたことがあるんだよ」
「どうしたの幾野くん?」
俺は緑谷に顔を向ける。なんだ、と俺の方を向いてきた轟、飯田、峰田の顔も見る。
それぞれが自分のベッドに腰かけたり体を起こしていたりしている。
この部屋には
「何で俺だけ個室だったん???」
「極めて適切な配慮」
「僕この病院のグーグル評価☆5つけとくよ」
「同じ部屋に君を混ぜないのは英断だったと思う」
「LGBTQに配慮のあるいい病院じゃねぇか」
「お前ら林間合宿楽しみにしてろよマジで」
なんか俺だけ部屋違ったんですけど!!
一人で寂しかったんですけど!!!
まぁその分気兼ねなくシコれたんで昨晩はこの病院のナースの皆様をオカズに抜いたんだけどさ。
戦闘後の一発ってすごい濃いの出るよね。すっきり。
「そういや飯田は診察終わったところだよな。大丈夫だったか?」
「
「結構深い傷だったもんなー飯田。無事で何よりだぜ」
「有難う峰田くん。不幸中の幸いだったと言えるだろう。これで本当のヒーローを目指してこれからも邁進できる」
「一緒に強くなろうね、飯田くん!」
「ああ! 幾野くんにも負けないように、頑張ろう緑谷くん!」
飯田の体も無事ということで、本当に何よりだった。
リカバリーガールがいると言えど大きな損傷は治し切れないからな。
緑谷の手も一時期ヤバかったがフルカウルを覚えてからは治し切れないような怪我はしていない。このまま無事に行きたいところだな。
「緑谷もお前入学してからずっと無茶してんだからもうすんなよ? 引子さんにあんまり心配かけんな」
「あはは……最初の頃、本当に母さん心配してたからね。気を付けるよ」
「引子さんって誰だ?」
「緑谷のかーちゃんだ。オイラとイクノは緑谷んち遊びに行ったときに挨拶してる」
話も落ち着いて、学生らしい雑な話に入って行くところで。
だが、一つ。
もちろん、他意はなかったのだろう。話の流れで、悪気はなくて、それでも。
轟が、不意にそれを口にした。
「──幾野こそ
その言葉に、まず峰田が反応した。
轟にばっと目を向け、狼狽した表情を見せてしまった。
……露骨に反応するなよ峰田。俺が上手くスルーする言葉を考えてたのに。
「……え?」
「……峰田くん?」
「あ、いや、オイラ……」
「……悪い。聞かれたくなかったか……?」
部屋の中の空気が変わってしまった。
これまでなるべく、俺のそういう話はしないように話題を誘導してきた。
聞かれても困っちまうからだ。
俺の家族の話を聞いても、誰も喜ぶことはない。
ああ、でも。
そろそろ、こいつらなら言ってもいいのかもしれない。
「ま、まぁイクノの話はいいじゃねぇか!! それよりもお前らの入院見舞いにどんなエロ本差し入れ─────」
「峰田」
俺は誤魔化そうとしてくれる親友の名前を呼んで、その言葉を止めた。
親友は俺の顔を見て、悲しそうな眼を向けてくる。
そんな顔すんなって。お前がいてくれたから、俺はここに居られるんだからさ。
「大丈夫」
「イクノ……」
「……いい機会かな。轟にも飯田にも家族の話聞いてるし、緑谷の母さんともお世話になってるし。俺も、お前らなら話してもいい」
この部屋にいる峰田を除く3人と、俺は付き合いが深くなっている。
全員が友人……いや、もう親友と表現していいだろう。共に、理解をしあえる仲になっているんだ。
こいつらは本当にいいやつだ。
だから、聞いてもらいたくなったんだろう。
俺の過去を。
「……つまんねぇ話になる。けど、俺はお前らに聞いてほしいって思えるようになった。俺の過去の話、聞いてくれるか?」
「幾野くん……うん。聞かせてほしい。その話を」
「僕への信頼に応えたい。たとえどんな話でも、僕が君を見る目は変わらないと誓おう」
「俺の話も聞いてくれたしな。聞かせてくれ幾野。お前の話を」
「わかった。じゃあ聞いてくれ。とりとめのない話になるけどな────────」
俺は3人に、俺の過去を語りだす。
──────話し終えた。
「……うっ……ぐすっ……そんな……!」
「幾野くん……君は、そんな……」
「……幾野、お前……」
俺にとっては、終わった話だ。
既に、俺の心を救ってくれたヤツがいたから、整理がついた話。
でも、その話を聞いて、緑谷は滝のような涙を流してしまい、飯田も轟も沈痛な面持ちになってしまっていた。
「イクノ……」
「悪いな、つまらねぇ話で。……でも、聞いてもらってちょっとすっきりしたよ」
心配そうに俺を見上げる峰田の頭をぽんぽんと叩いてやりつつ、俺は改めて3人に声をかける。
「緑谷。引子さんのこと、これ以上泣かせるなよ」
「うん……! 僕、心配がげないぐらい、もっど強ぐなる……!」
「またお前んち、遊び行っていいか?」
「う゛ん……!!」
「飯田。ようやく言える……お兄さん、生きててよかったな」
「……ああ。僕は恵まれていたんだな……いっぱい、兄さんと話をするよ」
「お兄さんとも話してみてぇな。ヒーローとしてどんな心構えが必要かとかさ」
「ああ……! ぜひ今度うちにも遊びに来てくれ! 心から誇れる自慢の友人だと紹介させてもらおう!」
「轟。お前は俺とは違う……お前の辛さを分かるとは言えねぇ。けど、もっとお母さんと親父さんと話はしてみろよ」
「ああ。親父も……この職場体験で少し見え方が変わってきた。どうなるかはわからねえが……話せるうちに話しておく」
「よし。ところで轟、お姉さんとかいるか?」
「7つ上の姉さんがいる」
「今度紹介してくれ」
「ああ」
「そこはノーと言えよ轟ィ!?」
最後に轟に声をかけた時にちょっと普段の俺を出したらちゃんと峰田が突っ込んでくれたので助かる。
そのツッコミで緑谷も飯田もくすりと笑いを零して、ようやく室内の雰囲気の硬さが取れてきた。
悪かったな、急に変な話してよ。
「轟のお姉さんだもんな……絶対美人だと思うんだよな……」
「俺も姉さんは綺麗だと思う」
「警戒しろよ轟ィ!? お前もしかするとイクノの
「そうなのか?」
「轟くんの天然が出てる……!」
「幾野くんの欲望マンな所も出ているぞ! 級友の家族にコナをかけるのはやめたまえ!」
「いや普通に挨拶するだけだし。ところで22才ってことは社会人だよな? 何してる人?」
「小学校の先生やってる」
「女教師か……!!!」
「コイツ決意を固めやがった」
雰囲気を切り替えて、その後はいつもの如く下らない話で盛りがったり、お互いの職場体験の話をしたりして。
そして退院の時間も迫ってきたので、俺は一度自分の病室に戻り着替えて荷物を取りに向かったのだった。
【side 峰田】
イクノは一旦オイラ達の部屋から出て行って荷物を取りに行った。
オイラも退院に備えて服を着替えて準備を始める。
「……峰田くん」
一度静まった病室で、緑谷がオイラに声をかけてくる。
いや、見れば飯田も轟も、オイラの方を見ていた。
「君は……もう、ヒーローなんだね」
「峰田くん、僕は君を心から尊敬する。君は立派な人だ」
「俺もだ。お前、すごいやつだったんだな」
「よせよ、くすぐってぇ」
さっきのイクノの話でオイラの中学時代の話も触れたからか、3人からの視線がこれまでと違っちまってる。
そういうのマジでいいから。
オイラはただ、イクノのダチであり続けるだけなんだからよ。
「イクノも言ってたろ? もう終わった話なんだって。今のイクノとこれまで通りにバカな話に付き合ってくれりゃそれでいいんだよ」
「む……そうだな。幾野くんもだが、君の見方も変えることはないか。君は君だし、幾野くんは幾野くんだ!」
「……そうだね。うん、ゴメン。これからもよろしくね、峰田くん!」
「いつか模擬戦付き合ってくれ峰田。俺はお前も超えたくなった」
「轟だけ物騒なんだよなぁ!? オイラの個性火に弱いんだから結果見えてるだろうがよぉ!?」
コイツら3人ともいいやつだ。イクノが信頼して、話をするだけあるなやっぱ。
コイツらなら誰にも漏らすこともないだろう。
クラス全員が無理に知る必要はないし、そういう話の流れになったらフォローしてくれるだろ、多分。
「そんじゃ退院するけどお前らはもう一泊だっけ?」
「うん、そう聞いてる」
「職場体験の一日が削れてしまうな。君たちとの差がまた開いてしまう」
「またすぐ埋めりゃいいだろ。峰田のほうも無理すんなよ、渋谷だと事件も多いだろ」
「マウントレディがちゃんとしてくれてっから多分大丈夫だろ。オイラの個性ならそうそうヴィランに遅れは取らねーさ」
荷物をまとめて着替え終え、オイラは4人部屋を後にする。
しばらく入院するようだったらエロ本を差し入れてもよかったけど明日退院するんじゃあ無駄だな。
またラインとかで連絡するか。
どうせイクノのやつは止めないとコイツらに自撮りとか送りそうだし。コイツらの性癖もオイラが守らなきゃいけねぇや。
「うっし、準備OK! んじゃ行こうぜ、峰田」
「おー。んじゃお先にな、3人とも」
「うん! またね!」
「学校で会おう! さらばだ幾野くん、峰田くん!」
「またな」
イクノも準備を整えて笑顔で病室に入ってきたので、みんなで笑顔を見せあって。
オイラはイクノと一緒に、騒がしかった部屋を後にした。