【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
「ハイ私が来た」
「もうちょっとなんかなかったっすか?」
「喧しいぞ幾野少年!」
ネタ切れ気味のオールマイト先生と共に今日もヒーロー基礎学の授業だ。
まぁ毎回あのテンションで来るのも大変だろうからな。別にいいよ。根っこが真面目なヒーローだからそれは仕方ない。
毎回テンションをずっと高くキープできるのは根っこから狂っている俺とか発目ちゃんくらいだ。
「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた『救助訓練』レースだ!」
オールマイト先生の説明に飯田が適宜質問を入れつつ話を聞く。
一言でまとめると、この運動場γ、迷路のような密集工業地帯で誰が一番速く救難信号にたどり着けるかを競うというものだ。
建物の被害は最小限にと付け足されて爆豪ちゃんが指さされてた。ウケる。
しかしこの授業はなかなかに
早速俺のニューベイビーが輝く授業が来たな。
「おん? イクノ、お前職場体験の時に手首の所そんな形だったっけ?」
「めざとい。これは今朝受領した俺の秘密兵器みたいなもんよ」
以前に手首のあたりに着けていた腕輪飾りが、少々変化しているのを峰田に目ざとく見つけられた。
前は浮き輪みたいな輪っかの形状で、小物を入れるだけのスペースだったが今は違う。
発目ちゃんと開発した『ダイブワイヤー』がここに搭載されているのだ。
形としては……うーん、なんて説明すればいいかな。こう、でっかくなったきのこの山というか。
その先端をカットしたような形のアイテムを、手首から肘先までの腕の部分に埋め込んでいる。
手首のあたりはアポロチョコの黒い部分をでっかくして外周だけ切り取ったような腕輪となってて……文章で説明するの無理!!
まぁそんな感じだよ! 新しいアイテムが出来たんだよ!!
ちょっと重さはあるけどそもそも俺は拳で戦うタイプでもねぇしな。関節の稼働や腕を上げ下げする分にはそこまで問題はない。むしろ腕が重くなってパンチが強くなるまである。
「さて、じゃあ初めの組は……緑谷少年、飯田少年、芦戸少女、瀬呂少年、幾野少年だ!!」
お、一番最初の組か。悪くないね。
しかしメンバーが中々に機動力に恵まれたやつばっかりだ。
緑谷、飯田は言わずもがな、芦戸ちゃんも運動神経あるし酸で溶かして高所も動ける。瀬呂はこの工業地帯なら一番効率よくワイヤーアクションが出来るまである。
ライバルは緑谷か瀬呂かな。飯田も悪くないがここまで密集した建物の地形では中々直線の加速は難しいだろう。
「クラスでも機動力いいやつが多いな」
「一か月前なら緑谷が絶望だったけどねー」
「緑谷さんも体育祭前に目覚めましたからね、ここではかなり速度が出せるかも……」
「芦戸も運動神経すげえぞ! ルート次第だけどいい勝負すると思うなオイラ」
「俺は瀬呂が一位と予想」
「あー……緑谷、飯田、瀬呂の誰かかなー」
「幾野も障害物は抜けられっけど速度がな、短距離ならともかく」
「まっすぐ走るってだけなら幾野と芦戸でいい勝負だもんな」
スタート位置で準備していると他のクラスメイトが何やら一位予想をしている話が耳に入る。
甘いな君達。人は成長するのだよ。緑谷と飯田を成長させた俺が成長しないわけがなかろう。
「……よぉ幾野、今日の訓練はようやく俺が勝てそうだな?」
「ほぉ、言うじゃねぇか瀬呂」
準備運動をしていると、瀬呂がスーツのバイザーを上げてしょうゆ顔でにやりと挑発してきた。
俺に声をかけたことを後悔させてやろうフフフフフ。
発目ちゃんとの愛の結晶にお前は負けるんだよフフフフフ*1。
「じゃあ勝負すっか? 瀬呂が負けたら昼飯奢れよ」
「おー、構わねぇよ? 幾野にゃあ絶対負けねぇし。お前が負けたら何くれんだよ幾野」
「際どい自撮りを進呈します」
「どっちも俺が辛いだけじゃねーか!!」
「そう? じゃあおっぱい揉む?」
「お前スーツ着ながら二度と言うなよそのセリフ!?」
俺が自撮りを提供すると言ったら死にそうな顔するし、偽乳をくいっと持ち上げたら脳が破壊されたような顔をする。
なんや。どっちもお前は喜ぶだろ瀬呂。
「瀬呂くん……幾野くんに口で勝てると思っちゃだめだよ」
「彼を
「喋れば喋るだけ不利になるって私知ってんだ」
「幾野の被害者がどんどん出てくる」
失礼な奴らだ。
俺はいつだって級友の事を想っているというのに。緑谷は今夜自撮り送るからなお前。
さて、もう間もなくオールマイト先生もどこかゴール地点を決めたころだ。
俺たちはスタート地点で構えて、合図を待つ。
見せてやるぜ俺と発目ちゃんの愛の結晶をよォ!!
『START!!!』
【side 瀬呂】
スタートの合図が響き、救難信号の位置を確認して俺はさっそく自分の個性『テープ』を建物に伸ばす。
緑谷と飯田は個性で疾走。芦戸も酸を構えていつでも柔軟に動けるようにしながら走って行った。
だが、俺の方が速い。言っちゃなんだがこの訓練はマジで俺向きだ。
サポートアイテムでは決してできない、ワイヤーアクションによる高速移動。
これが出来るのはうちのクラスでは梅雨ちゃんくらいのもんで、それだって俺よりも射程が短く一本しか飛ばせないから俺に分がある。
俺自身もテープを伸ばして張り付けて移動する術ってのは結構練習してるところもあり、スムーズなもんだ。
「へっ、やっぱ俺向きだぜこの訓練!!」
早速放ったテープが狙った建物の頂上にある給水塔にぴったりと貼り付いた。
よし、そんじゃ巻き取りながら跳躍を────と。
そう、動こうとした時だ。
俺の隣から、まったく同じものを狙って、先端に分銅のような物を付けたワイヤーが放たれていた。
「なるほどね、そこを狙うわけね!」
「……幾野!? いつの間にそんなモン作ったんだよお前!?」
幾野の手首辺りのパーツから、何かが射出されたのだ。
だが、その先端についてる分銅のようなものは明らかに何かに刺したり、くっつけたりすると言った機構ではない。
なんだそれ、新しい武器か? 俺の邪魔をするため? いや、そういう授業でもねぇだろこれ?
一瞬のうちに俺が思考を巡らせていると、幾野が放ったワイヤーが給水塔に向かって飛んでいき。
そして、その丸い先端は───給水塔に潜り込んだのだ。
ぶつかってもいない。貫いてもいない。刺さってもいない。
潜り込んだ。そして、一瞬後にワイヤーがピンと張力を生む。
間違いない、幾野の個性だ。
「お前それっ、ズルゥ!! そのパーツのどこにそんな射出機構ついてんだよ!?」
「企業秘密ってやつ!」
俺は慌ててテープを巻き取り、ワイヤーアクションの為に跳躍を果たす。
しかし幾野も同様に跳躍し、ワイヤーを回収しながら俺と同じような軌道を描いてブランコ運動で移動していた。
マフラーと長髪が靡いててかっけえなコイツのワイヤーアクション!!
「回収までできんのそれ!? マジかよ!? 俺の存在意義無くなるじゃん!?」
「いやこれ俺専用装備だから大丈夫だろ多分! ってか、やっぱこういう動きは慣れてんのな瀬呂! 参考になるよマジで!」
共に空中をワイヤーアクションで走るが、しかしここは流石に俺に一日之長があり、体重移動や回収するタイミングなどで幾野と差をつける。
だがそれだって向こうも速い。ワンアクションだが、先に走り出した飯田、緑谷と並ぶほどには前に出られている。
「くっそ! 欠片も油断できなくなっちまった!! でもまだ俺の方が有利だぜ幾野っ!!」
「どうかな! 俺はもう勝ち確だと思ってるけど!」
俺は次の射出先を選定する。
経験上、この移動はとにかく高くて遠い所につなげば早く動けるってもんじゃない。
次と、その次の射出先も考えながら、時には短い距離を、時には狭い所を抜けるために、この移動法は結構な判断力を必要とする。
単純にブランコ運動を繰り返すだけじゃどっかにぶつかるしな。スパイダーマンはすげぇよ。
そして俺が次の狙いに定めた低い位置にある排水管にテープを飛ばすと、やはり経験不足なのだろう、幾野は随分と遠く、高い位置にある鉄塔の頂点にワイヤーを放っていた。
そこは駄目だ、間違いなくダメ。振り子運動できるルートがほとんどない。
体を引っ張り上げるしかないから遠心力が使えなくて単純に遅くなる。
「ははっ! 素人がすぐにできる移動法じゃねぇんだよなー! 後で教えてやってもいいぜ幾野ちゃんよぉ!!」
「優しいねぇ瀬呂くん♥ でも残念、俺の勝ち。負けた理由を明日までに考えて来てくださいっ!」
しかし、俺が煽った言葉に幾野がにやりと笑い返してきて、そのまま跳躍した。
何だ? バカなのか? どう見たってそっからは飛べねぇぞ?
誰が見たってわかる。
アイツの振り子運動のルート上には幾つも建物が密集していて。
どうやってもぶつかっちまうから、振り子運動は出来なくて────────あ。
あ。
コイツ、
マジ?
「おっ先ぃぃぃぃぃ!!!」
こいつは、幾野の野郎は。
建物なんて関係なく、
「「「「ズッルぅ~~~~~!!!!」」」」
俺の、緑谷と飯田と芦戸の、これを見てるクラスメイトの慟哭が運動場γに響き渡る。
幾野の野郎、建物も壁もなんなら地面も個性でスルーして、なーんもないかのようにブランコ運動で密集地帯を抜けていきやがった。
理論上の最速効率を、こいつはいつでもやれるってことだ。
ってか、何なら地面にワイヤー突き刺しても地中をブランコ運動できるって事か? ズルにもほどがねぇか!?
「汚い……! 流石幾野くん、汚いな!!」
「イクノの個性ズルすぎるよー!! 手加減しろー! バカイクノー!!」
「なんて移動方法だ……! まず発想が凄すぎる、確かに幾野くんの個性なら出来るけどこの移動は常識が邪魔してパっと思いつかない、幾野くんならではの発想……! それにあのワイヤー、放った瞬間に見えた先端は尖ってなかった、ワイヤーロープでの移動ならしっかり突き刺さなきゃいけないのにそこも幾野くんの個性なら埋め込めるから無視出来る……ブツブツ……それで小型化できた? 前に発目さんと騎馬戦の時に使ったあのワイヤーアイテムのサイズが小さくできる限度だって思ってたけどそれすら超えて? でも射出機構と回収機構がどこにも見えない、あの腕輪のような部分に全部入るほどとは考えられない……ブツブツ……いや待て……幾野くんが胸に色々仕舞ってるのと同じように、もしかして腕に射出回収機構を埋め込んでるのか……!?」
俺のほかにあのワイヤーアクションと表現したくない移動方法を見てしまった飯田、芦戸、緑谷もまた文句を垂れている。いや緑谷はいつものになっちまってる。走りながらそれやれるお前もだいぶ個性使いこなしてんな!?
……いやこんなの勝負になるわけねぇだろ!!
アイツだけストレスフリーな最高の空中散歩ができてるじゃねぇか馬鹿野郎!!
「フィニーーーーーッシュ!! 俺が来た!!」
「ウム!! 幾野少年はズルいな!!!」
俺ら4人をすっかり差し置いて、幾野の奴がオールマイトが待つ給水塔にゴールしちまった。
何てやつだよマジで。
ったく、これ以上置いてかれてたまるかってのによ。また先に行きやがった。
なお、最終結果は俺が緑谷にギリ競り勝って二位。
飯田は直線を走る機動力を生かせずに四位、芦戸は流石にこの面子じゃあ分が悪く五位だった。
「皆お疲れ様だ!! それぞれ個性の使い方に幅が出てたな! いい動きしてたぜ!! それでも幾野少年が一位だが……彼の本当に褒めるべきところはあの移動方法ではない!!」
オールマイトの講評が始まり、それぞれ個性の使い方を褒められつつ、続くオールマイトの言葉を聞く。
「自分の欠点をすぐに把握し、それをどうするか考えて、サポートアイテムを開発したことだ!! ヒーローとは個性だけで戦うわけじゃないぜ!! コスチュームに、サポートアイテムに……いくらでも工夫して強くなれる!! それだってヒーローの成長だ!! 自分に足りないものを見つけそれをどう乗り越えていくか、みんなもよく考えるんだぜ!! 無論、アイテムに頼り過ぎもよくないがね!!」
その言葉には、俺もなるほどと頷いた。
俺の長所は機動力や拘束力。ただし短所は火力がないことや防御力に乏しい事だ。
そっちの方にも目を向けねぇとってところか。
ヒーローが得意な場でいつも戦えるわけじゃねぇもんな。気が引き締まるぜ。
「まぁとはいえ幾野少年の移動方法は間違いなく発想の勝利だ!! 私も驚いた!! HAHAHA!!」
「オールマイトにそこまで言われると嬉しくなっちゃいますね♥」
「授業中だぞ幾野少年ンン!!」
コイツマジでよくオールマイトを茶化せるよな。バカなんだな、うん。
「緑谷、何ぼーっとしてんだ?」
「んぁ? あ、うん……ちょっとね」
「大丈夫か? おっぱい揉む?」
「半裸で言わないで!?」
俺はヒーローコスチュームを脱ぎ掛けの状態で緑谷に声をかける。
偽乳はまだ胸部にあり、しかし肩を露出させて肌色マシマシの状態で声を掛けたら流石に最近これに慣れてきた緑谷も動揺するようだ。おもしれ。
「久々の授業で汗かいちゃった☆」
「俺、機動力課題だわー……幾野見てたら余計そう思った」
「情報収集やサポートアイテム開発で補うしかないな」
「それだと普通は後手に回んだよな……峰田や幾野が羨ましいぜ」
みんなそれぞれ今日の授業で課題が見えてきたようだ。
もしアイテムの件相談されるようだったら普通に開発室は教えてやろう。俺もサポート科に教わった口だしな。
発目ちゃんとベイビーを設けるのは俺だけでいいけどなァ!
「……おいイクノ。やべェ事が発覚した。こっち来い」
「ん? 何だ峰田……って、そっち女子更衣室側じゃねーか。向きたくねぇよ」
「いいから来い。ウォールハック発動してねーだろ今」
「なんだよ……?」
そこで峰田が深刻な声で俺を呼ぶものだから、仕方ないと女子更衣室がある側の壁の方に向く。
前に芦戸ちゃんにも言ったように、出来る限りそっちは向きたくないのだが、まぁ最近はそういう方面での信頼度は稼げてることもあって、男子も別にそれで何とも言わないとは思う。
で、そっちを向いて峰田が指さす先を見ると……経年劣化で剥がれたポスターの所に、500円玉くらいの穴が開いていた。
は?
「……え? これ穴だよな?」
「ああ……向こうまで繋がってるかは確認できるはずがねぇけど」
「……は? 大問題だぞこれ??」
いや、これ覗き穴だよな?
これがもし女子更衣室まで貫通してたらやべぇにもほどがない?
完全にニュース沙汰よ?
女子更衣室覗くための穴をこの学園の男子生徒が個性使って開けたって事だろ??
「なんだ、どーしたよ二人とも……」
「上鳴、その辺に触んなよ。余計な疑いかけられんぞ」
「へ? ……あ、うわマジ?」
「飯田。委員長としてすぐに相澤先生に報告してくれ。フツーにヤバイ」
「む……そうだな。僕たちがどうこうするような問題ではない。判った、着替えたらすぐに行く」
「おう。女子には俺から触らないように言っとく。八百万ちゃんの個性なら埋められるかもだけど現場弄っちゃまずいだろうし」
「頼んだ」
「みんなも一先ずこれ他言無用な。相澤先生の判断を待とう」
「おお」
「とんでもねぇバカがいるもんだな……!」
ええ……かなりショック。
こんなことする生徒が雄英にいたんか。
ポスターで隠れてたってことはもしかすると過去に穴開けたのは卒業生かもしれないけど。
でもあれか? 覗き穴として使うってことは女子更衣室側はこれ穴が丸見えなんだよな?
それにずっと女子側で気付かないってのもおかしな話だし開けたの最近か?
テンション下がるわ。何考えてんだこれ開けたやつ。
シンプルに犯罪じゃん。多分個性使っちゃって……うわー……退学で済むのかな。
なんてバカなんだ。性欲方面での頭ステインかよ。
犯罪は駄目だよ犯罪は……普通にグラビア雑誌とかで性欲発散しとけよ。
なおその後こっちの話が聞こえてた耳郎ちゃんが穴の存在に気づいたらしく、でも俺の話も聞いてたみたいで穴は埋めずに先生方の実況見分に任せた。
その日のHRで相澤先生から『報告して偉い、あとは忘れろ』って話が来て、そこでこの件は落ち着いた。犯人捜しは俺たちの領分じゃないしな。
女子を泣かせるようなことする奴マジで許せんわ。峰田も結構ガチギレしてた。わかる。
エロに積極的であっても女子を泣かすようなことはしない。俺と峰田の誓いだ。
「耳を澄ませて目を閉じれば脳内に女子更衣室内のイメージ広がるのにホントバカなやつがいたもんだよな」
「それな。意味のねぇことしやがって全く。リトルミネタが萎えたぜオイラ」
俺と峰田はその日の帰り道、若干テンション下がりながら共に下校するのだった。
峰田がまともになっちまって覗きイベントは発生しません。よかったね女子。
期末前に閑話を一つまみする予定です。
なお授業参観とかのアニメネタはあんまり入れる予定ないです。プールとエキスポくらいかな。