【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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40 大天使の輝きで世界が浄化されていく

 

 

 

「ここは……」

「柱が多いね。ライトはある……けど、遮蔽物が多くて視界が通らなさそうだ」

 

 俺達二人はスナイプ先生と共に、演習試験の会場に到着した。

 天井の高い室内。柱がいくつもあり、それが視界を奪っている。

 ただこれ俺には通じないよな……もしここでかくれんぼでもしようってんなら俺が勝つ。

 

「幾野。葉隠。まずはルールを説明する」

「うす」

「はい!」

 

 スナイプ先生が銃の調子を確認しながら、今回の試験についての説明を始めた。

 説明はまとめると以下の通りだ。

 

 ・制限時間は30分

 ・生徒側の目的は、「ハンドカフスを教師に掛ける」or「どちらか一人がステージから脱出」

 ・格上相手に戦うか逃げるかの判断を問われる

 

 ……以上。

 しかし、それを聞いた時点で俺も葉隠ちゃんも、この試験が余りにも簡単すぎると感じていた。

 

 なにせ、俺がいる。

 逃げることが許可されているなら一瞬だ。俺がダイブワイヤーを使って出口に向かって飛べば、それを誰も止められない。

 葉隠ちゃんも同じ考えに至ったのか、俺の方を見て首を傾げている。

 ()()()()()()()スナイプ先生が、説明を続けた。

 

「……まぁ、ここまでが他のメンバーがやる演習内容だ。だが、お前らペアはさらにルールを課す」

「あー……来ると思った」

「……センちゃんがいるから、ですか?」

「そうだ。……はっきり言おう、幾野。お前の個性は強い。そしてお前はそれを自分で伸ばし、うまく活かす使い方ができている。教師陣の誰が……いや、全員でお前相手にこの試験をしても、誰もお前を捕まえられない」

 

 続けた説明の内容は、やはり俺という存在への注意。

 スナイプ先生が褒めてくれるのは嬉しいが、しかしそれで葉隠ちゃんに迷惑が掛かるのは嫌だな。んにゃぴ。

 

「だが、お前の個性でも難しい事はある。この試験はそれを見るために、さらに難易度を上げる」

「えぇ……いや俺はいいんすけど。葉隠ちゃんまでそのルールに沿うのはちょっと……」

「わ、私は大丈夫だよ! 頑張るよ!」

「安心しろ、葉隠の成績も難易度上昇を込みで査定する。決して条件未達成であっても無条件で赤点とはならん……成長を見るのが試験だからな。さて、では追加ルールの説明をする」

 

 その点だけ一応口に出したが、葉隠ちゃんはやる気満々だし、スナイプ先生もそこは考慮してくれるとのこと。

 まぁそれならとりあえずええやろ。ルールを良く聞こう。

 

「まず幾野、お前はハンドカフスを利用できない。葉隠の分だけを支給する。同時に、教師への直接攻撃を禁ずる」

「……ま、俺が触れたら基本終わりですもんね。……考えるに、俺が肉弾戦や締め技で対処できないヴィラン……脳無とか、そういう相手をするときの動きを見たがってます?」

「お前は頭も回るな。そう捉えてもらっていい……そして条件二つ目、この試験に脱出による合格はない」

「マジか」

「え、私も!?」

「ああ。つまりこの試験で勝利条件を満たすには、葉隠が俺にハンドカフスをつけるか正面から打倒するしかないという事だ」

 

 中々にシビアな条件じゃねーか。

 まず俺は脱出不可、直接の攻撃不可。防御とか支援はいいんだろうけど、これだけでやれることが随分と減る。

 そして葉隠ちゃんも同時に脱出不可ときた。これは困るな。

 つまり、俺達はこの室内で、スナイプ先生と籠城戦をしなければならないというわけだ。

 そして、そんなシチュエーションに至り、俺は一つ心当たりを覚えた。

 

「…………成程ね。俺に何をさせたいか何となくわかりましたよ」

「え、どゆこと?」

「それ以上は相談時間で二人で話せ。……最後に幾野、一つだけ伝える」

「なんすか?」

「この試験は、本来は二年でやる内容だ。そして去年の二年生の中で、()()()()()だけはお前と同じ条件を足されている」*1

「……!! ……そっか、スナイプ先生は今の3年の担任ですもんね」

「え、どなたさま……?」

 

 俺はこの条件を出されて、俺に求められている内容に何となく気が付いた。

 物申したい気持ちもあるが、続くスナイプ先生の言葉に俺の反論は許されなくなった。

 ……なるほどね? ミリオ兄さんの個性なら確かに、この条件は俺同様に速攻で勝利できる。

 だから俺と同じようなハンデを背負ったってことか。いや、むしろ俺にその条件を当てはめて適用させたって感じかな。

 

「通形ミリオはこの条件を呑み、見事に試験を突破した。……あえて聞こう。お前はこの条件を呑むか?」

「言い方ズルくないっすか? ……やりますよ。ミリオ兄さんが突破した試験で俺が怖気づけるわけがないでしょ?」

「いい顔だ」

「兄さん!? センちゃんお兄さんいたの!?」

 

 俺は試験内容の変更に了解の返事をする。

 後で葉隠ちゃんには説明しておこう。ただの従兄だから別に驚くことはないと思うけどね。

 

「なお、俺は超圧縮おもりをつけて動きは鈍らせるが……銃は使う。ゴム弾だが距離次第で骨も折れる威力だ。手加減はしない」

「ひぃ……!?」

 

 小さく悲鳴を上げる葉隠ちゃんの方をちらりと見てから、スナイプ先生が体重の半分の重量を装着するのを見る。

 なんか見覚えあんなあれ。

 あー。あれだ。

 

「……そのおもり発目ちゃんデザインのやつだ」

「ああ、デザインコンペで発目のが採用されたと聞いたな。知っていたのか?」

「一緒にデザイン考えたんで」

「え!? 発目ちゃんってあの体育祭の!? ……センちゃん? 詳しく話聞かせてくれる??」

「いや別になんも変なことはしてないですわよ?」

「痴話喧嘩は後でやれ。この試験が終わった後にな……10分の相談時間を設ける。その後、スタートの合図とともに開始だ」

 

 俺は葉隠ちゃんに問い詰められながらも一度出口側から離れた方の入り口に向かい、この試験に臨む作戦の相談に入った。

 

 


 

 

「まずゴメン。俺のせいでなんか試験難しくなった」

「センちゃんが謝る事じゃないよー! それに、勝利条件達成しなくてもちゃんと評価はするって言ってたし! やったる!!」

「うん……まぁそうなんだけどさ……」

 

 いったん入り口から外に出て葉隠ちゃんと作戦会議をする。

 俺のせいで余計な条件まで付けられて、葉隠ちゃんは俺を怒っていい立場なのにその顔は笑顔だ。やってやるぞという意気が見える。やはり大天使……結婚したい……。

 

 と、そんな甘い考えばかりしてはいられない。

 この試験は、間違いなく……

 

「……葉隠ちゃんが優先的に狙われることになるだろうな」

「え!? ……あ、でもそうか! センちゃん攻撃が効かないし!」

「いや、それも原因の一つなんだけど……違うんだよ、多分そういうことじゃない」

「へ?」

「この試験、俺から見ると明らかに意図してるものが見えるんだよね。頭に来るけど」

「……どういうこと?」

 

 俺は先ほどのスナイプ先生の説明で、はっきりとこの試験が条件戦になっていることを察した。

 それは、俺にとっては無敵の個性を持ってもどう動くべきか悩まされるもの。

 USJで、オールマイトが来なかったら果たせなかったこと。

 

「脱出が許されない……つまりマジのヴィラン戦の現場で、チームアップを組んだヒーローとどう連携するかがまず一つ。仲間を見捨てて一人だけ逃げるなんて出来ないっしょ?」

「ふむふむ?」

「……で、もう一つ。そのヒーローが()()()()()()()、俺が逃げ出さずにどう助けるかってところを見てるんだと思う」

「ふむ……え?」

 

 俺は葉隠ちゃんに俺の推理を述べた。

 恐らくはミリオ兄さんも同じような理由でこのルールを課されたのだろう。

 俺たちの個性は自分に向かう攻撃には無敵だが、どうしても誰かを守るという点では増強型の個性や火力型の個性に一歩劣る。

 もし相手がUSJで出てきた脳無並みのタフネスを誇った場合、市民や仲間を守れない可能性があるのだ。どうしたって個性が守りに向いてない。

 まぁ俺には奥の手の個性解除という手段はあるが。

 

 そして、その相方に葉隠ちゃんを選んでいるのも恣意的だ。

 俺は口にこそ出さなかったが、葉隠ちゃんは俺の言葉で察したのだろう。

 

「……つまりそれって……私が、()()()()()役ってこと?」

「表現が強いよ。……でも、俺の相方に葉隠ちゃんが選ばれたのは、そういう部分もある、と思う」

 

 業腹だ。

 これで仮に俺の相方が緑谷や飯田、峰田や轟、爆豪ちゃんなどであれば、どっちも攻撃に回れるから連携という面だけ見ればいい。脱出のスピードでも測れば十分試験になるだろう。

 けれど、葉隠ちゃんをここに入れる理由がそれしか思い当たらない。

 爆豪ちゃんワードセンスで言うならば、足手まといのヒーローを守りながらヴィランを倒すために俺がどうするかって話だ。

 

「……あったま来るー!!」

「だよね、俺もおこだよおこ。トサカに来てる」

 

 葉隠ちゃんがぷんすこと怒っている。手袋がわいわいと高く上がってるからこれは相当怒ってるな。

 もちろん俺も同様の怒りだ。

 まったく舐めてくれている。

 

 俺を、ではない。

 葉隠ちゃんを、だ。

 

 この子がいつまでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

「よし、葉隠ちゃん。スナイプ先生に一泡吹かせよう!」

「ん!! 絶対やってやるー!! どれだけ私が体育祭のあと()()()()()()()()()()()()()見せつけてやるんだから!!」

「授業じゃ使いどころないから見せてなかったもんね。俺は最低限、肝心要なところだけで動くようにするよ。俺の成績は全然気にしないでいい。葉隠ちゃんだけでスナイプ先生ボコっちゃおうぜ」

「了の解です!! 見ててねセンちゃん!!」

「信じてるよ、葉隠ちゃん」

 

 俺は体育祭で彼女の想いを聞いた後、放課後に体育館を借りた時には必ず訓練に付き合った彼女を間近で見てきた。

 立派なヒーローになるために、自分の限界を超えようとする彼女を見てきた。

 職場体験で近接戦闘も覚えて、自分の出来ることをがむしゃらにやってきた彼女を見ていたんだ。

 

 俺の大天使を舐めるなよ。

 俺たちは共に強くなっていけるんだ。

 

 その後、試験開始の時間まで、葉隠ちゃんと作戦を練りまくった。

 

 


 

 

【side スナイプ】

 

 

『レディイイイーーーー……ゴォォーーー!!!!』

 

 試験が始まった。

 俺は柱に身を隠し、幾野と葉隠、今回戦う二人がどのように攻めてくるかを待った。

 無論のこと、二人に対しての対策は万全だ。

 これが葉隠だけであればこちらも装備をいつものままにしていてもよかったが、幾野がいる以上対策は必須だ。

 

(幾野は見えても潜り抜ける。葉隠は見えないが物理は効く。二人を捉えるためにはこれが必要だった)

 

 まず、マスクには改造が施され、サーモグラフゴーグルが搭載されている。

 これで葉隠も幾野も基本的には見えるようになるだろう。

 そして幾野が床下に潜行して攻めてくる場合だが、脚裏には反射音を電気信号で捕捉するサポートアイテムを装着しており、潜行しているとはいえそこに何かいれば足裏に合図が来るようになっている。

 もっとも、これすらも潜り抜けられたら終わりではあるのだが。

 だが幾野は聡い。普段の思春期男子な様子とは打って変わって、戦闘では冷静な判断を行えることは、これまでの事件や体育祭での活躍が物語っている。

 とすればこの試験に求められていることも理解できているはずだ。

 直接攻撃もできないルールにしてある以上、葉隠をどのように守り、かばいながら俺に接敵させ、ハンドカフスをつけるかにこの勝負は掛かっている。

 

(……来たか)

 

 そして試験開始から一分。意を決して、というべきか、とうとう場が動いた。

 サーモゴーグルに頼らない、スナイパーとしての気配察知。それが敏感に相手の動きを捉えたのだ。

 

 影から僅かに顔を出してみれば、そこにはサーモゴーグルを介してこちらに走ってくる人型の赤い塊が見える。

 身長からして葉隠であることは間違いないだろう。赤外線越しだが、髪は幾野ほど長くはなく、尻回りもボリュームがない。

 向こうの陣営には幾野のウォールハックという感知方法もある。葉隠に俺の位置はバレていると思って間違いないな。

 

(だが、俺との距離は100m近くある……15秒で駆け抜けたとしても残弾を全て撃てる距離だ)

 

 俺は個性のホーミングを発動。

 サーモゴーグルの向こう、赤い人型を捕捉。

 確実に狙いを定めて銃を構える。ゴム弾だがこの距離でも肉離れはあり得る威力だ。

 流石に女子相手に顔は狙わないが、その代わり脚を削ぐ。

 

(さあ、どう守る幾野!)

 

 太ももに狙いを定め、引き金を握る指に力を籠めて、ゴム弾を放った。

 BANG!! と音を立てて放たれた銃弾は、見事に()()()()()

 

 ……なんだと?

 

(バカな!? 狙いは外れていない、個性を使ったのだ! それなのになぜ着弾音がしない!?)

 

 俺の個性は『ホーミング』。狙った対象に向けて確実に投げたものを当てる能力だ。

 それは銃撃も対象となる。俺が狙えば、それは必中だ。超圧縮おもりをつけて居ようと影響はない。

 だから、当たらないとすれば考えられる理由は二つ。

 

 撃った相手が幾野であり、個性を発動しているか。

 もしくは、俺の狙った対象、それそのものの位置がズレている可能性。

 

(くっ……!?)

 

 確かめるために再度サーモゴーグル越しの相手を狙う。

 今度は着弾面積の大きい腹部あたりを狙って、二発射撃。

 しかし今度も着弾音がしない。外れたのだ。

 もうお互いの距離は半分程度まで詰められてきている。

 

(ならば、あれは幾野か……!?)

 

 サーモゴーグルでは熱を映像として映す赤い視界しか得られない。

 俺は向かってくる相手を確かめるために、一度体を柱から出して、マスクに装着しているゴーグルをずらし、己が目で迫ってきている相手を見据えた。

 そして、そこには。

 

 ()()()()()()()

 

 いや、正確には空中に手袋と、ハンドカフスだけが揺れている。地面には靴が。

 つまり、俺に向かってきていたのは葉隠なのだ。

 

「なっ……!? なぜ当たらなかった!?」

 

 サーモゴーグルが故障していた? 幾野が何かやったのか?

 わからない。だが、もう情けをかける猶予はない。

 

 今は間違いなく自分の目で葉隠の位置を目視できている。

 いくら透明と言えども、手袋やハンドカフスが見えている以上位置は割れている。

 今度こそ狙いは外さない。

 

 俺は向かってくる葉隠に銃を向け、その上半身の高さを狙う。

 この距離だ。肋骨や胸骨の骨折はあるかもしれんが情けはかけん。

 

 そして、獲物を睨み、引き金を引こうとした、その瞬間だ。

 

「────集光屈折ハイチーズっ!!」

 

「がッ……!?」

 

 葉隠の体が、凄まじい光量で光り輝いた。

 薄暗い室内において余りにも強い光。俺はその眩しさにたまらず目を閉じてしまう。

 なんだ今の光は!?

 そんなことも出来たのか!?

 

「スナイプせんせー!! 覚悟ぉーっ!!」

 

 葉隠に至近距離まで距離を詰められ、俺は次の銃撃は一旦諦め、近接戦闘の構えをとる。

 近づけば、カフスをつけることができる。葉隠は職場体験で近接戦闘にも明るくなったため、遠距離を主とする俺相手には有利に立ち回れる。

 そう思われているならば見当違いだ。

 

 近づかれた時の対処を考えていないほど、プロヒーローは甘くない。

 

「ていっ! やっ……って、っとぉ!?」

「筋は悪くない……! 驚かされたぞ葉隠……!!」

 

 見えない体に、手袋と靴が躍動して攻撃が仕掛けられるが、俺はそれを体術を用いて捌く。

 なるほど、中々に厄介だ。相手の体の動きが見えないため、勘と経験でそれをさばき続けるしかない。

 だが、捌ける程度には動けているという事だ。プロヒーローを舐めるな。

 

「くぅー! おつよいー!!」

「ここまでやれた時点で評価は高い……! だが、俺も容易くやられはしない!」

 

 まさか正面から仕掛けて、接敵を成功させ、格闘に持ち込まれるとは思っていなかった。

 試合前の想像としては、隠れんぼのような……葉隠がいかにして自分にまで忍び寄り、ハンドカフスをつける勝負になるものかだと思っていた。

 幾野をおとりにして、葉隠を近づけると。そして、そうさせないための装備を整えていたというのに、想像の上を行ってきた。

 俺は葉隠を無礼(ナメ)ていた。

 だからこそ改めて気を引き締める。

 

「本気で教師が立ちはだかる試験だ! 悪いがもらった!」

「うわきゃあっ!?」

 

 葉隠の拳を大きく空ぶらせて、姿勢を崩したところで俺は後方に跳躍し、距離を離す。

 これだけ間合いが広がれば、銃撃が可能だ。

 もう一度あの強い光で目くらましをされる前に、脚を打って動きを止める。

 

 今度は迷わずに銃を構え、透明な葉隠の体を捉え、引き金を引く。

 カシュッ、と撃鉄が上がる音がして。

 

 そして、俺の銃は銃弾を放つことなく()()()()

 

「なッ……!?」

「───そりゃないでしょ先生。ここまで葉隠ちゃんが頑張ったんだからさ」

 

 ゴム弾と言えど射出には火薬による爆発を伴う。

 当然、実銃と同様の射撃機構で放たれている。

 そして実銃が暴発する理由は一つ。()()()()()()()()()()()()だ。

 

 俺が銃を撃つ瞬間に、地中から幾野が凄まじい勢いで飛び上がってきて。

 放つ瞬間に己の掌を銃口に潜り込ませて発射口を封じ、暴発を生み出したのだ。

 銃が暴発した衝撃で俺は手と腕に反動を受ける。当然にして激痛と痺れが走った。

 しかも、幾野の手には一切のダメージが入っていない。

 どれほど繊細な個性のコントロールができているんだこいつは……!!

 

 そして俺がこの試験で最大の隙を見せた瞬間だった。

 

「今度こそ隙ありぃー!!」

 

 銃をふさぐために俺の視界に現れた幾野の、その腹からハンドカフスだけが飛び出してきた。

 幾野が放ったのではない。葉隠が幾野の背中から潜り込んで飛び込んできたのだ。

 俺の手は銃の暴発で痺れている。今度こそ見えない拳を受け流せない。

 

 俺の手首に葉隠が仕掛けたハンドカフスがかけられて。

 この試験は、見事に勝利条件を達成されたのだった。

 

 

『───報告だよ。条件達成最初のチームは、幾野・葉隠チーム!!!』

 

 


 

 

「いよっし!! やったぜ葉隠ちゃん!!」

「いやったぁ!! ノーダメージ達成!!」

 

 俺は葉隠ちゃんとぺちーんとハイタッチを交わした。

 ハンドカフスをかけられ、手に軽いやけどを負ったスナイプ先生がそんな俺たちの様子に苦笑を零した。

 

「やられたな……いや、まさかだった。葉隠が真正面から突撃してくるとはな」

「ふふん。葉隠ちゃんの事舐め過ぎですよ先生」

「私はやれば出来る子ですっ!!」

 

 もう一度ハイタッチ。うん、葉隠ちゃんマジ大天使。

 俺はヒーローコスチュームの腰部にある医療キットを取り出して、先生の手当てをしながら、試験内容の検討を行う。

 

「色々と聞きたいことがあるが……まず、最初に俺の位置を察したのは幾野の個性だな」

「ええ。ウォールハックは俺の視界までですが望遠鏡も準備してますからね。それなりにすぐ見つけられました」

「で、インカムで私に場所を教えてくれて、私が突撃しました!」

「そこまではいい……分からないのは葉隠だ。俺はお前対策にサーモゴーグルを準備し、体温でお前を見ていた。だが、俺の狙いは外れた……そこが分からない」

「あ、やっぱサーモだったんすねそれ」

「センちゃんの予想が当たったね!」

 

 俺がここに来る途中のバス内で見たスナイプ先生の新装備。

 葉隠ちゃんを相手にするのだからサーモ関係のゴーグルでは? と予想を立てていたが当たったらしい。

 そして先生も首をひねっている点。なぜ葉隠ちゃんが最初の射撃を回避できたかについて。

 

「葉隠ちゃんはここ最近の訓練で透明化の個性を成長させて、光を操れるようになったんですよ」

「めっちゃ頑張りました!!」

「ああ、最後の全身での発光はそれか。あれもいい武器だ、使いどころ次第では切り札だな……だが、それでなぜ……いや、待てよ? 赤外線を見るサーモグラフを、もしや……?」

「予想の通りっすね。葉隠ちゃん、サーモグラフとかセンサーにも映らないような光り方って言うか……何ていうんだろ。波長をズラす光り方も覚えまして」

「めちゃくちゃ頑張りました!!」

 

 放課後訓練をする中で、俺は葉隠ちゃんの体の光の屈折に注目した。

 透明になっているということは光をどうにかして見えないように屈折させているわけで、それを操作できれば強いのでは、と。

 その結果まず生まれたのが集光屈折ハイチーズなのだが、葉隠ちゃんはただ光り輝くだけでは飽き足らず、あらゆる監視カメラ、センサーを誤魔化せないかと試行錯誤していたのだ。

 センサー関係は俺が発目ちゃんから借りてくれば準備できたからな。今や赤外線やサーモならかなり位置を誤魔化せるようになっている。

 

「で、それで射撃よけながら接近できればスナイプ先生は絶対自分の目で確認するだろうから、そこで集光屈折ハイチーズで目を潰して突撃して制圧しよーって話してて」

「上手くいったね! でもまさか近接戦闘で勝てないなんてー!!」

「ああ……いや、作戦としては悪くない。無論、俺もプロヒーローとしてそうなった時の対処も身につけていたからこそ抵抗できたが、葉隠は透明だから想像以上に捌きにくい。手袋を外していればもっとよかったな」

「あ、一応そこは俺から言ってたんです。手袋有りで仕掛けて、駄目だったら手袋無しに切り替えればさらに捌きにくくなるんじゃね? って。切り札は隠しておくものだと思って……」

「最後にハンドカフス投げる時には見えづらいように外してみたけど……もしかして最初からつけてなければよかった?」

「そこは今後の実戦経験で判断力を培うんだな。だが……最後まで葉隠には驚かされた。この難しい試験で葉隠を中心によくやった。満点だ」

 

 俺達が考えていた作戦も評価されたようで、先生の口から見事に満点の言葉が出た。

 やったぜ!! 葉隠ちゃん見返し作戦大成功!!

 

「やったな葉隠ちゃん!!」

「うん、ありがとー!! ……あれ、でもセンちゃんは? センちゃんも色々頑張ってくれましたよ?」

「ああ……勿論幾野も評価点は高い。まずこの試験の意図をすぐに察したこと。適切な作戦立案。最初の索敵。最後の銃を暴発させた技術……十分な高得点だ。しかし一点だけ感じたことがある」

「む。どういったところでしょう」

 

 俺はスナイプ先生の講評に耳を傾ける。

 

()()()だ。お前は人を助ける事、支援することへの努力は欠かさないが……その分、自分が何としても活躍して一番に、という強い気概が見えない。それは決して悪い事ではないが……緑谷や爆豪、他のクラスメイトと比較しても、どうにもお前は一歩譲った位置で物事を捉える癖があるな」

「あー……反論できないっすね。というか、それを変えようとも思っていないんすけど」

「言っただろう、悪い事ではないと。お前は……誰かを支える事に力を使いたいんだな」

「……ええ。俺の夢は、泣いてる誰かの隣にいられるヒーローですから」

「ん! センちゃんの目標だね! 私はそんなセンちゃんにも負けないくらい輝くヒーローになるっ!!」

「そうか。ならばいい。この難しい試験でお前たちはよくやった。幾野も満点としておこう」

「ヤッター!!」

「今夜はドン勝だよセンちゃん!!」

 

 そうしてスナイプ先生の講評と評価を頂いて、俺達は改めて笑顔でハイタッチ。

 先生の火傷の応急処置も済ませてから、葉隠ちゃんの手袋を回収し、俺達はリカバリーガールの待つ待機所に戻って行った。

 なんかさっき俺達が一番に突破とかアナウンスしてたからな。他のメンバーの試験も見れれば見ておきたいな。

 

*1
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クラネスハインド様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①マブい私服で脳を焼くでセンちゃん

【挿絵表示】


前話の私服センちゃんを描いてもらいました。
すごい精度。筆者が脳内で描いてたセンちゃんがそのままイラストになってたからマジでビビったよね。
市民に顔バレしてるからサングラスの他に髪も弄るよなーとか思ってたらそのまま出てきて……作品への理解度が高すぎる。ありがてぇ!
隣の峰田まで含めて完成された一枚だと思います。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!
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