【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
林間合宿当日。
朝の早い時間に俺達A組とB組の面子はバスが待つ集合場所に集まっていた。
「え? A組補習あるの? つまり赤点取った人がいるって事!? えぇ!? おかしくない!?」
「お前も赤点だろ物間」
「なんで速攻でバラすのかな幾野くんはさぁ!?!?」
いつもの如く病気が発症して煽り始めた物間の口を一言で黙らせてやった。
コイツマジで病気なんじゃないか……? ブラド先生は真剣にカウンセリングとかしてあげるべきだと思うマジで。
「え、なんで幾野が物間の成績知ってんだよ」
「こないだ夏休みに一緒に遊び行ったときに聞き出した」
「合宿直前に新情報出してくるのやめろ!?」
切島がなんでやと聞いてきたので答えたら上鳴が突っ込んできた。なんや、嫉妬か?
物間とはまだ友達関係でしかないし今後もそれ以上になる見込みないが??
「あ、その節はどーもね幾野! 美味しかったよ高級スイーツバイキング」
「ご馳走様ノコ」
「性癖は許されるものではありませんが慈愛の心も持ち合わせる方だと理解いたしました……」
「体育祭じゃなんやかんやあったけどアレで許したわ。また奢ってよね幾野」
「物間のブレーキいつも助かる」
「ん」
「Thank you for the food! Please let me know about more delicious Japanese sweets!」*1
「It's okay, Tsunotori. If you have any trouble with the language barrier, please feel free to contact me.」*2
B組女子たちからもそれぞれ声をかけられ俺は笑顔で応えた。
好感度稼いでおいた甲斐があるってもんですわ。今やB組女子みんなアドレス交換した仲である。
「何があったか説明してもらうぜ幾野よぉ……!?」
「許せねぇよなぁ!? イクノお前オイラに黙って何やったんだよォォォ!?!?」
「センちゃん?? いつの間にB組の女の子たちと仲良くなったの???」
A組の皆から突っ込まれたので俺は肩を竦めて説明し始める。
あれは夏休み突入直前、期末試験が終わったころ。
俺は放課後にB組に顔を出していた。
「おいっすー」
「幾野!? てめぇ何しに来たお前!?」
「B組男子の性癖を───終わらせに来た!!」 ド ン!!*3
「やめろよマジで!? A組の男子からたまに愚痴聞く俺らの身にもなれ!?」
「ってのは冗談。そろそろ体育祭の借りを返そうと思ってさ。いいもん持ってきた……こいつを見な!」
俺は準備してたチケット8枚をばっと見せつける。
先日街中でスカウトされた読モの撮影に協力したらお礼としてもらったチケットだ。後日週刊誌に着こなしのモデルで掲載されるらしい。
「あ、これ駅前のスイーツショップの割引券? 新しく出来た所っしょ?」
「拳藤ちゃんの言う通り。8枚あるから8人分まで俺が奢るんでスイーツバイキング行かない? 期末も終わったしさ」
「どうした幾野なんだお前!? 何企んでる!?」
「失礼な事を言うなよ鉄哲。純粋に体育祭んときはっちゃけすぎたお詫びと交友を深めたいって想いを兼ねてな。全員分でなくて悪いけど」
そう、俺はこのスイーツバイキング半額券をB組に提供することにしたのだ。
A組を誘ってもいいけどA組とは日頃から仲良くしてるしな。
であればB組に提供することで体育祭の騎馬戦の時の暴走をお詫びするとともに交遊も深められる。
悪くない案だと思ったのだ。B組もみんな女子可愛いし。仲悪いままじゃもったいないし。
「ってなわけで8人、誰が来るか選んでくれていいよ。その人たちはタダね、俺が奢る。俺の分は自腹で払うし」
「おー、太っ腹じゃん幾野。いいなー、私興味あったんだよねーあの店」
「スイーツ……夏休みであれば甘露を味わうこともまた学生の使命……」
「あの店めっちゃ人気ノコ。美味しいって噂ノコ」
「ん」
「スイーツ……いいね」
「美味しいスイーツデスか? 興味ありマス!」
「女子の食いつきが凄い」
「あはは……まぁアタシらも女子高生だからね」
取陰ちゃん、塩崎ちゃん、小森ちゃん、小大ちゃん、柳ちゃん、角取ちゃんが真っ先に食いついてきた。
流石の女子力ですわ。拳藤ちゃんもそんな様子を見てあははと苦笑を零すが、すっごい行きたそうな顔をしている。
俺はちらりと男子の方に目をやった。
「で、どうするよ。ここで女子の枠を蹴ってでも参加したい男子はいる?」
「ここで奪いに行ったら完全に悪者じゃねぇか!?」
「スイーツバイキングだもんな。流石に女子を優先してやっていいよ」
「これで幾野に貸し一つとしておけばいいんじゃないかな。後で男子にも何か一つ融通してくれよ幾野」
「骨抜の柔軟性がすごい」
「ま、女子に囲まれて男子がスイーツ食べに行ってもな」
「ん? それは俺に対するディスりかな円場くん?? 自撮り送るぞ???」
「やめ……やめろ!! 取り返しつかなくなるからマジでやめろ!?」
スマホを操作し始めたら円場に必死な形相で止められた。なんや。お前は喜ぶだろ。
まぁ一先ずB組男子も女子に気遣って、女子7人は参加が確定した。
チケットは八枚なのであと一人。
「男子が誰も参加しないなら俺がチケット使わせてもらうけど。誰か来る?」
「じゃあ僕が行こう」
「お、物間」
「キミ一人と女子だけだと何かあった時に守れる人がいないからねぇ!! キミ絶対何かやらかすだろう!? 女子を守るために僕もお邪魔させてもらうとしようかなァ!!」
「そんなことするわけないだろ全く」
「すっごい目が泳いでるよ幾野」
そこに物間がエントリーしてきた。他の男子も女子7人と女子みたいな男子1人に混ざってスイーツバイキングに来る勇気はなかったのか、物間の参加には反対はなく。
結局俺と物間と女子7人でスイーツバイキングに行くことが決定した。
【side 拳藤】
スイーツバイキング当日。
アタシたち女子組は、待ち合わせの場所にみんなで向かっていた。
「女子だけで集まってから待ち合わせ行くようにしたのめっちゃ英断だったと思う」
「あの方がどのような格好で来られるのか分かりませんからね……」
「ん」
「いったん遠目から確認して心の準備をする時間が必要ノコ……」
夏休みということもあって、みんな私服で集まっている。
女子高生になりたてのあたしたちは、そりゃまぁ背伸びした服だって準備はしてるけど、ファッションという意味ではそこまで明るくない。取陰が結構ファッショナブルだけどそれにしたってまだまだ子供だ。
しかしそこで今回のスイーツバイキングの発案者である幾野といきなりばったり出会うのは危険だと考えたのだ。
梅雨ちゃんと峰田がラインで教えてくれた。
私服で来る幾野にはガチで注意しろと。
「どうする? あたしらより女子っぽいコーデで調えて来てたら」
「ありえそー。そん時は爆笑して写メ撮ってやれば喜ぶんじゃね?」
「イクノサン、未だに男の子だと信じられまセン! あのスタイルずるいデス!」
「あれはある意味ホラー」
取陰はまだ余裕がある。まぁコイツお洒落だもんな。今日も7人の中じゃ一番センスある感じの服かも。
柳がホラーだと表現したが幾野の存在は雄英高校にとってのホラーなのではないだろうか。いや今や日本中にとってか?
マジであれとよく長年付き合ってるよ峰田は。尊敬するよ。悪い奴じゃないんだけどさ。
「……ん?」
「ん」
「人だかりができてるノコ……?」
そして集合場所についたアタシたちは、なぜかその場所のまわりに謎の人だかりができているのを見つけた。
駅前の案内看板の前で集合にしていたのだが、その周りで人々がなぜか輪を作る様にその中心を見ているのだ。
え。
いやな予感しかしないんだけど。
そして、私たちは遠巻きにその様子を見て、その中心にいる二人を見つけた。
「今日も暑いなー。物間、お前その服暑くねぇの?」
「それなりに通気性には気を配っててね。キミこそそんなに肌を見せて、日焼けとか大丈夫なのかい」
「紫外線も潜り抜けてるから」
「ハッ。相変らずズルいなキミの個性は」
キメッキメの二人がそこにいた。
「どこの芸能人!?」
「は……? 幾野の服センスやっば。っつかスタイルよすぎ……!? 負けた……!?」
「んん」
「今から私達あそこに行くの?」
「帰りませんか?」
「吐き気してきたノコ」
「二人ともベリークール&キュートね!」
やっばい。
二人のファッションセンスがやっばい。
まず物間。
そもそもコイツ普段の言動がアレだけど顔だけはいいやつだった。
そういえば私服の物間を見るのってこれが初めてだけど、ナチュラルに清潔感のある高級なファッションに身を包んでいる。
そのまま雑誌に載っていても違和感がないほどのイタリアンメンズファッションで調えてきやがった。
え、脚長。顔もちょっとあれ化粧してるか? 顔が良すぎる。マジで??
そして大問題の幾野。
アイツまさかの量産型ファッションでキメてきやがった。
肩を完全に露出させ、胸元はフリルでふくらみがある様な視線誘導を作り、細い腰とクソ長い脚でナチュラルスカートが際どさを醸し出している。
髪型は普段のロングストレートから一転、ウェーブをかけてツインテールにまとめてきている。
しかも幾野の身長が高いから見ようによっては地雷気味なそれがハイセンスなレベルでまとまっている。
顔が良すぎるから上から下までどこを見ても目が奪われる。男だろうが女だろうがあれは見る。
何だよあの脚。細い白い長い綺麗。
何だよあの顔。明らかに化粧してきてるんだけど睫毛なっが。可愛い全振りかよ。
あれが……男……???
いや、そりゃ周りもこんな二人が並んでたら遠巻きに見るわ。
絶対何かの撮影かなんかだと勘違いされるわ。
ふざけんな峰田! もっとちゃんと情報寄越せよ!!
ガチで女装してくる上にこんなに似合ってるなんて想像しないでしょ!?
「……お、みんな来たな」
「おや。まぁ女子は待たせるものだからね、多少の遅刻は目をつぶろうか」
「おーい拳藤ちゃーん! みんなー! こっちー!」
完全にフリーズしてたアタシたちを目ざとく見つけた幾野がこっちに手を振ってやってくる。
やめろよその笑顔可愛いんだよ!?
「アンタさぁ……いい趣味してるわ」
「ん、取陰ちゃんもめっちゃ似合ってるじゃん。このボトムH&M?」
「残念、マウジー。ここのデニム気に入ってんだよね。そっちどこのブランド?」
「WEGO。色んなタイプの服あるし安いから整えやすいんよ」
「どっちも安物だねぇ。僕はフェラガモで今日は整えたよ」
取陰が代表して幾野たちと話してるけどちょっと何言ってるかよくわかんない。
アタシらを置いて会話をするんじゃないよ! まだJK一年目のぺーぺーなんだからさぁ!
「よーし、そんじゃ早速スイーツ行こうぜ。俺も実は初めてだから楽しみだったんだよね」
「ん」
「いたくない……この二人と一緒にいたくないノコ……!」
「慣れるしかありません小森さん……」
「ってか物間、あんた幾野をいつもみたいに煽らないの? こんだけふざけた格好してんのに」
「性別の話はともかくとして、ファッションとしては安物である以外につっつくところが見当たらないからねぇ。ここまで整えられれば僕も何も言えないよ」
「物間にまで認められる幾野の女装はやっぱりホラー……」
「二人ともお似合いデスね!」
「そう表現されるとまるで物間が俺に恋してるみたいじゃん角取ちゃん」
「それだけは誤解だよねぇ!?」
まぁ、でももうこうやって集まっちゃえばあとは腹をくくってタダでスイーツを食べるだけ。
次第に二人の格好にも慣れていったアタシたちは、その後きっちりスイーツを食べまくって女子らしい夏休みを過ごした。
「……ってことがあった。んでスイーツ食べながら物間の成績聞いたら赤点でウケた」
「やかましいなぁキミはぁ! いつも一言余計だよねぇ!?」
「あー……イクノのガチコーデを食らっちまったか。大変だったな拳藤」
「マジでビビったよ。峰田ももっとちゃんと教えてくれよー危険度を」
「教えてもどうにもならないと思って……ってかオイラも呼べよイクノぉ!?」
「B組にワビ入れるのが目的だったからオメーは駄目だ峰田」
「センちゃんのガチコーデ……! 見たかった……!!」
「あ、写真撮ってあるよ。見る?」
「見たい! ありがとー取陰ちゃん!!」
「……は!? これが幾野か!? はぁ!? あ……!?」
「えっ女子にしか見えねぇ!? いや普段もそうなんだけどえっこれえっ!?」
「幾野は男子……!! 幾野は男子……!!!」
「落ち着け!! A組でもいつもみんな混乱してるから大丈夫だ!! 下手に受け入れたり無になるなB組!! ありのままの自分を見失うなよ!?」
「俺たち慣れてっから!! 大丈夫だから!!」
説明を終えて、その話題からB組とA組の距離が縮まる。
取陰ちゃんが見せた写真、俺の女装の完成度の高さにそれを見たB組男子が脳を揺らされ、A組男子がいたわっている。
B組の奴らもそろそろ堕とし時かな。この林間合宿で距離が縮まったら嬉しいね♥次は君たちだよ♥
あと葉隠ちゃんは俺単独の写真が気に入ったらしくて取陰ちゃんから貰ってた。肖像権。
「ん、バス来たね」
「では出発だ!! A組のバスはこっちだ! 席順に並びたまえ!!」
クラス同士の交流が俺を中心に深まることに謎の歓喜を覚えていると出発の時間となった。
飯田委員長の指示でバスに乗る。
「じゃ、またな幾野。合宿所で」
「おう。拳藤ちゃんも委員長のお仕事お疲れ様」
最後にB組代表拳藤ちゃんと挨拶を交わして、俺らA組のバスに乗り、合宿所へ出発するのだった。