【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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50 洸汰くんはおしまい♥

 

 

【side 洸汰】

 

 

 オレは風呂場に続く関係者用通路を歩いていた。

 今日からここに宿泊する雄英のヒーロー科の男どもの見張りに行くためだ。

 

「ケッ」

 

 ヒーローを目指してる、頭にくるヤツら。

 アイツらが大人しく風呂に入るわけがない。

 特に男どもだ。A組とB組、()()()()()()()いる男子が静かに風呂なんかはいるはずがないんだ。

 あれくらいの年齢は、どうせスケベで、隣の女湯を覗こうとしてるんだ。

 マンダレイは「絶対に入浴時間にはお風呂場に近づかないように」なんて言ってたけど、きっとオレにそんなゲスなやつらを見せたくないんだ。

 そうに決まってる。

 

 ヒーローを目指してるって意味じゃ女の子たちも同類だけど、それはそれとして覗きなんてさせるわけにはいかない。

 オレが女の子たちを守るんだ。

 

(今はA組の入浴時間だっけ)

 

 関係者用の通用口を抜けて、オレは風呂場に到着した。

 入浴時間になって数分が経った頃。

 男湯の方はきっとクソ騒がしくしてて、覗きの算段を立ててる頃だろう。

 そんなことはオレがさせない。

 オレが風呂場にいるってだけでも、そういうことをさせない監視としては十分だろう。

 ガキに見られててもなお覗きに行くようなやつがいたら逮捕された方がいい。

 

 俺は男湯のほうに繋がる扉を開けて浴場内に入った。

 夜とはいえ夏の風呂場は随分と蒸し暑いが、それくらいは耐えられる。

 女湯と分ける壁の方に近づくヤツがいたら、個性を使って冷や水を浴びせてやるんだ。

 

 そして、男湯に足を一歩踏み入れて。

 

「─────え?」

 

 その、余りの静けさにあっけにとられた。

 

 13人。

 A組の男子全員が風呂場にいるのは、数えてわかった。

 けれど、その全員が一言も口をきいていない。

 まるで瞑想でもしているかのように、目を閉じて動かずに、静かに風呂に入っていた。

 

 なんだこれ。

 こんな高校生、初めて見た。

 

「…………」

 

 でも、オレのやることは変わらない。

 どうせ目を閉じて静かにしてるのも、女湯の音を聞こうとしてるんだろ。

 サイテーだな。覗くって直接の行為に出ないで、音を聞いて欲を満たすなんて。ヘンタイだ。

 とっとと風呂場から出てけよ、まったく。

 

 オレは浴場に備え付けられてる道具棚から小さめの踏み台を取り出して、それを椅子にして監視することにした。

 かたり、と道具棚を開けた音が静かな浴場に響く。

 それで誰かがオレの方を見たのだろう、どうやらようやくオレがいることに気付いたか。

 

「────って洸汰くん!?」

「え!?」

「何だと!?」

「マジか!? なんでここに!?」

「やべぇよ!? オイ保護者何やってんだよ!?」

 

 踏み台に腰を掛けるオレを見て、男子どもが急に慌てだした。

 ほら見ろ。どうせ覗きの予定を立ててたんだ。それでオレが監視に来て、慌ててるんだ。

 そんなことさせるもんかよ。ざまぁみろ。捕まっちまえ、ヒーロー目指してるようなやつらなんか。

 

「洸汰くん!! 今すぐ風呂場から出ていくんだ!!

「出てけ!! まだ間に合うから!!」

「早くマンダレイさんの所に戻って!!!」

「急げェェェ!?!? お前のためを思って言ってんだぞぉぉぉぉ!?」

 

 風呂から出て慌ててオレを風呂場から追い出そうとまでしてきやがった。

 

「ケッ。どうせてめぇら俺がいなくなったら女湯覗こうとしてんだろ。俺は見張りだ、大人しく風呂入ってろ」

 

 見え透いた魂胆にぺっとツバすら吐きたくなる。

 マジでクソガキどもだなこいつら。女湯にいる()()の女の子たちがかわいそうだ。

 後でマンダレイとあの相澤とかいう先生に言ってやろ。男子が女湯覗こうとしてたって────

 

 

「────あん? なんか騒がしいな、どったの?」

 

 

 そんな声が聞こえた。

 洗い場からもう一人、誰か来た。

 今まで体を洗ってて、遅れて露天風呂にきたんだ。

 

 でも男子13人はもうお風呂に入ってるんだから、ここには誰も来ないはずなのに。

 その、高めの声に、オレは振り返って────

 

「おっ、え、あ……!?」

「お、洸汰くんいるじゃん。どしたん、一緒にお風呂入ろっか♥?」

 

 ────女の子が。

 体にバスタオルを纏った、赤くて長い髪の女の子が。

 なぜか、男子風呂に、来てて。

 

「幾野!! お前マジッお前バスタオルで隠してくんなよ!?」

「いや隠れてる方がむしろ……ダメだろ!? それ駄目だろ!?」

「幾野くん!! 教育に悪いからもう少し髪を洗っていたまえ!!!」

「なんだよお前ら、俺の体ガン見しすぎだろ。タオルとろっか♥?」

「逃げろ洸汰ァァァ!!!! ここはオイラ達が食い止めるからすぐにィィィィ!!!」

 

 はっ、は?

 何が起きてんだ? なんで女の子が男湯に、いるんだ?

 動揺と衝撃で、オレは思わず踏み台から立ち上がって、しかし足元が濡れているのに気づかなくて、ずるっと足を滑らせちまって。

 ずてん! と後ろにひっくり返った。

 

「んぐ! いっ、てて……!」

「おお? おいおい洸汰くん、大丈夫かー? 脚滑らせたか? ケガしてない?」

「イクノお前ェェェ!?」

 

 そしたら、近くにいたイクノっていう女の子が、オレの方に寄ってきてしゃがみ込んでオレの頭を見てくれる。

 近づいてふんわりと髪から香る甘い香り。

 真っ白で、女の子らしい丸みを帯びたふともも。

 整った、かわいい顔。

 それを間近で直視して、カーッと顔が熱くなってしまった。

 

 なんで、なんで女の子が男湯に入ってんだよ!?

 

「……っと、あれれ」

 

 そして、最後に。

 しゃがみ込んだときにイクノのバスタオルがはだけてしまって。

 オレは、目を逸らせなくって。

 そして、見てしまった。

 

 ふくらみがほぼない胸の、薄い桃色の先端と。

 しゃがみ込んだ体の、その向こう。

 

 おまたの、ところに。

 

 

「─────え゛っ?????」

 

 

 

 おち

 

 

 ん

 

 

 

 

 ち

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……あれ。気ぃ失っちったぞ?」

「要救助者一名ッッ!!!」

「トリアージイエロー!! 意識なし!! 命に別状なしッ!!」

「性癖に甚大な被害ありッ!!!」

「僕マンダレイさんの所に連れていく!!! フルカウルッッ!!!」

「幾野は大至急タオルを付け直せ!! 今すぐ!!! 早くしろブッ殺すぞ!?

「んもー物騒ね切島ー。大丈夫だろ、洸汰くんも頭もぶつけた感じじゃなかったし。暑いからのぼせちゃったかな?」

「いいから早くバスタオル巻いて!?」

 

 俺が転んでしまった洸汰くんを介抱しようとしたところでフルカウルを纏った緑谷にかっさらわれる。

 緑谷はそのまま腰タオルというストロングスタイルで洸汰くんを抱えて脱衣所から走り去っていってしまった。

 緑谷お前……それで廊下走るのか。まだB組女子とか全然いるのに。すげーなあいつ。

 そして何故かみんな俺にバスタオルをつけろとおっしゃる。

 

「あ、隠した方が興奮する♥?」

「黙れ」

「口を開かずに風呂に入ってそのまま首まで浸かっていろ幾野」

「耐久風呂か? 俺暑いの苦手なんだよ障子。半身浴でいい? 上鳴となり失礼するね♥?」

「俺のそばに近寄るなァアァァァァァ!!!」

「見ない……僕は見ないよ……////」

「ダメになる……幾野を直視すると俺駄目になる……!!」

「洸汰ァァ……ごめんなぁ……!! 守護(まも)れなかった……オイラ守護れなかったよォォ……!!」

「泣くな峰田……俺達はやれることはやったんだ……」

 

 なんだかすっげぇ阿鼻叫喚。

 おかしいなぁ(欺瞞)。

 俺はただ級友たちと裸の付き合いで汗を流したいだけなんだけどなぁ(愉悦)。

 露天風呂の外枠の岩に腰かけて純白の太腿を晒しながら、ふぅっと髪を手で払ってコンディショナーの甘い香りを振りまく。

 それだけで周囲からみんなが離れていった。なんや。

 

「そもそも俺の体のラインならプールで見たじゃん」

「あの時から言いたかったんだけどお前肌がキレイすぎなんだよ!!!」

「白すぎて眩しいんだわ!! 目が潰れそうなんだわ!?」

「グラビア雑誌の女優よりも肌綺麗なのマジでやめろ!?」

「やだ、嬉しい♥髪と肌は気を遣ってるからもっと褒めて♥」

「風呂に沈め」

「物理的に沈め。晒すな」

「今日のA組過激じゃね? どうしてだと思う轟? ねぇ轟こっち向いて??」

「今はお前の味方してやれねぇ」

「なんで。ねーえー爆豪ちゃーん! なんかみんながよそよそしいんだけどー!!」

「黙って死ね」

「なんで」

 

 ひどいよ……いじめが発生してるよ……。

 いじめでーす!! 相澤せんせー!! いじめの芽が出てまーす!!

 こうなると明日から先生たちと一緒の時間にお風呂になりそうでーす!!!!

 いやB組でもいいな。B組男子とも裸の付き合いで交友を深めたいからな。

 

「コイツを誰も止められない恐怖」

「幾野くんだけ別の時間で風呂に入ってもらうように先生方に意見具申するべきだろうか」

「それやっても男子の時間にも風呂入ってきそうで怖いわ」

「B組が風呂入る時にまた俺も入ったら怒られるかな?」

「逃げろB組!!!」

「マジで活き活きしやがってよぉこいつよぉ!!」

「俺らがLGBTQにいつまでも配慮すると思うなよ!? これ以上やったら出るとこ出るからな!?」

「んっへひひ。悪い悪い、からかいすぎた」

 

 まぁこれくらいにしておいてやるか。

 俺は髪をぐるっと結い上げてうなじを晒して、風呂に肩まで浸かって体を湯舟の中に隠した。

 それでようやくはぁーっと周りからため息が零れて、浴場内は落ち着きを取り戻した。

 

「ってかよぉ……マジで体つき女だよな幾野。どうやって育ったらそうなんだ?」

「さぁね。俺もわからん。いつの間にかこうなってた。身長は中学時代で伸びたけど腰つきは子供の頃からこんなだ」

「神様が性別を間違えたんじゃねぇか……?」

「本人がこの性格じゃなければかなり大変そうだよね……いやこんな性格でよかったのかは分からないけど」

「んー。まぁ体つきと性自認で悩む人も実際いるからな。そういう人たちは素直に大変だと思うよ。俺は弾けたけど」

「急に真面目にLGBTQ語りだすなよ」

「わりと際どい問題だよなー。異形型個性も生まれて、そういう差別も昔は社会問題になったって聞くぜ」

「……そう、だな。今でもそういった差別はゼロとは言えんだろうな…………」

「この身に生まれて恥じる物はないが、そのような目で見られたこともある。人の業よ」

「難しい問題だよねそういうのって……」

 

 なんか急にクソ真面目な話になったな?

 さっきまで全員のテンションおかしかったところで一気に落ち着いたからなんか地の底までテンション落ちてない??

 

「だぁア! クソみてェな話してんじゃねぇ!! とっとと風呂上がって牛乳飲んで歯ぁ磨いて明日に備えて寝っぞ!!」

「爆豪がすっげぇマトモに見える」

「言う通りだな、ちっと長湯しすぎたか」

「よし、出っか!」

「おー、そんじゃ俺も」

「イクノはあと300数えてから出てこい」

「5分も!?」

 

 一緒のタイミングで出ようとした俺は峰田に止められて、仕方なく一人寂しく300数えてから風呂を出たのだった。

 のぼせちゃうよぉ……体、火照っちゃった……♥

 

ごくっ……♥ごくっ……♥……ぷはっ♥……おいし♥

 

 風呂上がりの冷えた牛乳最高だな!

 今俺一人だけどな!!

 何でみんな俺を置いて部屋に戻ってしまったんだろう。寂しい。

 

 なおその後倒れた洸汰くんをマンダレイの所に運んで戻ってきた緑谷と全裸で牛乳飲んでたところで鉢合わせした。

 緑谷の脳はきっちり破壊できたので許したろ。

 聞いたら洸汰くんは一時的なショックで失神しちゃっただけらしい。

 体が無事でよかったな。性癖は責任取れないけど。

 

 なお風呂上がりに何故かマンダレイからめっちゃ微妙な顔で見られた。

 なんでや。俺はなんもしとらんぞ。

 

 


 

 

 夜。A組の男子部屋。

 男子高校生らしく思い思いにエロ話で駄弁って……ということもなく。

 みんな疲れがたまっていたのか、何人かはもう布団で横になっていた。

 

「さて誰の布団に入ろっかな♥」

「マジで逮捕されるぞお前」

 

 冗談を言ったら峰田に突っ込まれた。

 うぅん……まぁ流石にそこは駄目か。俺もぶっちゃけ男の布団に入るのは嫌だ。

 ちなみに風呂上がりに着ている服だが、フツーに黒Tシャツにラフな短パンである。スッケスケのネグリジェも準備してたんだけど峰田による事前の持ち物検査で弾かれた。こやつ。

 ……まぁ俺も随分と眠気はあるし、今日は早めに寝るか。明日も朝早いしな。

 

「あ、幾野くん。ちょっといい……?」

「ん、どした緑谷? さっき見た俺の裸のせいで興奮が治まらないって♥? また脱ごうか♥?」

キレるよ?? 違くて、真面目な話で……ごめん、謝らなきゃいけないことがあって。さっきマンダレイに洸汰くんを預けてきたときなんだけど……話の流れで……」

 

 俺は緑谷が小声で話してきた内容を聞いた。

 どうやら洸汰君の過去の話をマンダレイから聞いた際に、俺の過去も少し話してしまったのだとか。

 

 洸汰君はご両親がヒーローで、二年前に殉職してしまい身寄りもない状態なのだと。

 そこで「幾野くんとおんなじだ……」と零してしまい、マンダレイとピクシーボブには俺が両親がいないことは話してしまったのだと。

 個性事故の話はしてないということだが、ふむ。

 

「や、別に怒ることなんもないわ。俺だって積極的に言うつもりはないけど、隠すつもりもないしな」

「でも……やっぱり、勝手に言っちゃったことは申し訳なくて……」

「いいの。むしろ緑谷にも引子さんにも聞いてもらってる俺の方が有難いんだからさ。マンダレイもピクシーボブも別に嫌な顔しなかったんだろ? 有難いまである。だから気にすんな」

「そう? ……うん、そういうなら。……でも、洸汰くんのことも……僕、何にも言えなくて……」

 

 緑谷にはとにかく気にしなくていいと伝えて、そこで留飲は下がったようだ。

 しかし洸汰くん、ご両親を亡くされてるのか。ヒーローとして殉職されたと聞くが……ううん、残された子供に取っちゃそんなの関係なく悲しいよな。

 むしろすげぇなあいつ。洸汰くんに敬意すら生まれる。俺が母さんと父さんを亡くしたあとなんて一言も言葉を出せないくらいだった。

 まぁ支えてくれた人とか細かい状況は違うけど……それでも、少なくともその場で立ち止まってないのは本当に、すごい。

 

「……洸汰くん、俺も気にしておくわ。俺の経験でなんか力になれる事あるかもしれないし」

「うん……その、僕も、出来ることがあれば……」

「ああ。緑谷のその優しさは引子さん譲りだな。頼りにしてるぜ」

「うん!」

 

 ひそひそ話を終えて、俺と緑谷はともに笑顔を見せた。

 悲しい過去を経験している俺。そんな相手に寄り添いたいと思える緑谷。

 俺ら二人なら、洸汰くんの悩みを、辛さを少しでもなんとかしてあげられるかもしれない。

 明日から本格的な訓練が始まるから勿論そっちに全力だけど、余計なお世話がヒーローの本質だもんな。

 

「じゃ、一緒に寝よっか♥」

「何でそうなるの!?!?」

 

 緑谷の布団を捲って手招きしてやったらオート個性が発動しない絶妙な力加減で蹴っ飛ばされて俺は畳に伏した。

 最近俺への力加減を覚えはじめたなみんなが。悲しいぜ。

 その後は峰田にも突っつかれたので大人しく自分の布団に潜り込んで、目を閉じたらすぐに意識が落ちていった。

 明日もがんばろ。

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