【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
二日目、入浴時間。
「何で俺だけ先生たちと一緒に風呂なんスか」
「黙って入れ」
「A組に噂を聞いたB組男子からも怒濤の要望が入ってたぞ幾野……」
俺は何故か一人だけ入浴時間をずらされて、相澤先生とブラド先生と共に入浴していた。
流石にこのお二人は大人なだけあって俺の外見にも何も言わなかった。
俺も先生にダイレクトに性癖破壊に臨むほどのテンションではなく、フツーに髪を洗っている。
髪が長いからコンディショニングの時間がかかるのよね。まぁ先生たちもそこは何も言わないんでいいけど。
「あ、お背中流しましょうか♥」
「黙って入れ」
「頼むから何もせずただ風呂に入ってくれ」
ジャブを入れてもこの反応だよ。
つまんね!!
A組男子もB組男子もいないから俺の体に反応してくれるやつらがいなくてつまんね!!!
まぁいいや。今後またチャンスはあるだろうし。
今日は色々新事実などもあって普通に疲れてるんでたまにはのんびりお風呂に入ろう。
一人暮らしだと狭い風呂しか入れないから足を延ばして普通に入るのもたまにはよきよき。
「ふぁー……沁みる……」
髪も洗い終えて俺は露天風呂に身を浸し、ゆっくりと体を伸ばす。
両隣には先生方。流石に先生たちも疲れはあるようで思い思いに息をついている。
俺らと違って夜の補習まで指導したうえで朝も早いだろうしな。その辺はマジでお疲れ様なんですよ。
「幾野」
「ん、なんすか相澤先生」
「お前の個性の件だが」
「ん」
そうして裸の付き合いをしていると、珍しく相澤先生から声をかけられた。
ラグドールのサーチで判明した新事実。俺の個性が『潜行』ではなく『無視』であったこと。
それについて、なにか先生から話があるらしい。
「伸ばし方について、大したものでもないが一つだけアドバイスだ」
「おお。有難いッス、ちょっとどうしたらいいもんか中々分からなくて。……ってかアドバイスなら普通に昼にくれればよかったのに」
「お前みたいな個性を勘違いしていたケースというのを生徒に持つのは俺も初めてでな……だからついさっき、同じような経験をした
「へー? 俺みたいなヒト他にもいたんスね。どんな方なんです? 有名なヒーロー?」
「いや……元
「はぁん!?」
相澤先生が言うその知人とは、俺と同じように……個性を勘違いしたまま大学生になって、ヒーロー資格を持たぬままにヴィジランテ活動を行い、その中で本来の個性に目覚めたらしい。
ってか元ヴィジランテって。相澤先生の交友関係どうなってんだよマジで。ヒーローやってるとそういう関係も出てくるのか?
「そいつは……そうだな、ヒーローに憧れてるかと思えば、どうにも逃げ腰で遠慮しがちで積極性に欠けるところがあった」
「なんか俺みたいッスね。積極性のところとか」
「筋金入りのスットボケだ。スットボケすぎて危ない橋だろうが何だろうが首を突っ込んでくる。どれだけ仕事の邪魔をされたか数えきれん」
「相澤先生にそこまで言わせるとは」
アドバイスの前に、相澤先生がその知人とやらの人となりを説明してくれる。
内容は聞きようによっては貶しているようなそれだが、しかしそれを語る相澤先生の表情のどこにも険はなく、声も穏やかな声色だった。
どうにも……懐かしんでいるようにも見えた。きっと、知人というよりは友人のようなそれだったのかもしれないな。
「だから電話で話をしても、ただ驚いてすごいすごいというだけで碌なアドバイスも寄越さなかった馬鹿なんだが……ただ一つ、はっきり言ってたことがあるから一応伝えておく」
「ん。先輩の忠言、しっかり聞かねば」
「『まぁその都度テキトーに工夫して、ケガしないように!』だ」
「欠片も参考にならない!!!!」
相澤先生がそこまで言う人だからなんかこう格言みたいなアドバイス来ると思うじゃん!!
適当が過ぎませんかね謎の元ヴィジランテの人さぁ!!
その都度の工夫で何とかなるならもうやってるんだよなぁ!!!
「アイツは人を教えるタイプじゃあないからな。一応、参考になればと伝えたまでだ」
「全ッ然参考にならなかったんですがそれは」
「ふっ。だが……アイツはその『都度テキトーに工夫』をし続けて、最終的にはとんでもない力を持つようになった。……何故だか分かるか?」
「え、なんでです?」
「アイツが常に『誰かを助けたい』と思って行動してたからだ」
「────────」
相澤先生の言葉の重みを感じて、俺は口を噤んだ。
誰かを助けたい。余計なお世話こそがヒーローの本質ならば、彼はそれを貫き通したという事か。
その結果、力を得た。きっと本人が望んだものではなく、必要に駆られたから。
「……必要なときに、必要なことを成せるようにしろ、ってことっすか」
「そう捉えてもいい。出来ることが多い個性に常に求められることだ。お前や八百万なんかは様々なことが求められるだろう……その時に何ができるか、どうすればいいかは常に考えておけ」
「……ッス」
「ふっ。相澤に随分期待されてるな、幾野よ」
俺は相澤先生の言葉に神妙に頷く。
言っていることはすべて正論だ。俺が頭の中でごちゃごちゃ考えてたものに一本の筋を入れられた感じ。
『無視』という個性は間違いなく出来ることが多い。今だって潜行って勘違いしたうえで、自分で言うのもなんだが出来ることがかなり多い。
さらにその枠を広げた時、俺が考えるべきは……『何ができるか』ではなく、『何をするべきか』なのだ。
どんな時にどんな力が必要になるか。目的意識を強く持て、ってことか。
うん、タメになるね。最初からそう言ってくださいよ相澤先生。
「思えばアイツとお前はどこか似てるところがあるな。下らん話をするところとか……」
「入学してから一度でも俺が下らない話をしましたか?」
「どこからこの自信が生まれるのか俺は真剣に理解できん」
「そういってすっとぼけるところも似ているかもな……それに、あいつはゴミ拾いとかの細かなボランティアもよくやっていた。お前も峰田と毎朝やってるらしいな」
「え、マジすか!? うわ急に親近感わいたなぁ!! 紹介してもらえませんかねその人!!」
「割と際どい立場に今はいるからな、そこまでは出来ん。それに彼女もいる。お前みたいな劇薬を紹介できるもんか」
「うわー急にブン殴りたくなってきたなぁその人!!」
「本当に中身はただのエロガキなんだな幾野……クラスが違ってあまり普段は見れんから新鮮だ」
「コイツと真面目に付き合うなよブラド、疲れるだけだ」
「教師のセリフじゃないっすよそれ!!」
「ハッハッハ!! だがお前もこいつのことは随分と気に入ってるだろう相澤。いつも職員室に訓練で体育館を借りに来るのはまるで学生時代のお前を見ているようで……」
「ブラド。余計な事を言うな」
「え、相澤先生って学生時代真面目だったんスか? うわーちょっと想像できないかも!」
「いや、昔っから根暗なやつだったぞ相澤は。まぁ色々あったってことだ」
「それ以上話すな。……補習の時間も近い、もう出るぞ」
相澤先生とブラド先生と、随分と砕けた話ができた。
知人さんの話が出てから、すこし昔を懐かしんだのか相澤先生も普段よりもなんだか話しやすい雰囲気というか。
きっとその知人さんとこんな感じだったのかな、なんて思ってしまえるほどに、今日の相澤先生は優しかった。
これが裸の付き合い(真)か。俺ちょっと昨日の様子反省だわ。
もしまたA組と風呂入る時は大人しくすっか。
風呂以外は今まで通り茶化すけど!!
……うん。
相澤先生から聞いたアドバイスを忘れないようにしよう。
『まぁその都度テキトーに工夫して、ケガしないように』ね。
いいね、そんくらい気が抜けてた方がいいのかもしれん。
努力は欠かさないし真剣にやるけど、焦ることはないんだ。その都度、
俺だけじゃなくて、A組のみんなでな。
その後、俺達は風呂を上がって牛乳を一気飲み。
補習に向かう先生たちと別れて、A組の男子部屋に戻っていった。
三日目の昼。
「よし!! 出来た!! 色まで見える!!」
「おお! やったねセンちゃん!!」
俺は葉隠ちゃんと共に個性訓練をやりながら、一つの新しい技を覚えることに成功した。
「ウォールハックを発動せずに葉隠ちゃんの可愛い顔が見れるようになりました!!」
「やだ、また可愛いなんて言ってー! 照れちゃうよぉ!!」
「金髪で瞳は緑に近い色! お肌は血色のいい白目の肌!」
「私金髪だったんだ!? じっくり見られると恥ずかしい……!」
「あ、照れて顔が赤くなってる可愛い。これからはずっと葉隠ちゃんと目を合わせてられるね、結婚しよ?」
「まだ早いってー!! んもー!!」
「おいそこのバカップル早く爆発しろよォォ!!!」
俺が大天使ハガクレ=トールの照れる顔を正面から見つめていたら峰田からツッコミが入った。
なんや。葉隠ちゃんは俺のもんやぞ。
「緑谷のアドバイスがめっちゃ参考になったな……いわゆる今までの感覚じゃなくて、潜行っていうイメージからオミットすることで『無視』するって感覚を掴む練習!」
「私の透明化の個性だけを『無視』できてるってことだもんね! すごいよセンちゃん!」
「あー……なるほどな、今できてる事から『無視』の感覚を掴みに行ったって事か。でもそれでなんで葉隠が対象なん?」
「俺が葉隠ちゃんの顔と裸を見たかったから」
「裸は余計だよ!?」
昨日相澤先生に言われたことを咀嚼しての一歩目、と言ったところか。
ただただ何かを『無視』しようとして訓練するよりも、何をしなければならないか、それを考えながら個性を使うように努力する。
今の時点ではぱっとなんかすごい重要なそれとかは思いつかないので、一番身近で親しい仲の葉隠ちゃんを見るため、という動機付けをして、さらにこれまで個性でできていたことを応用して特訓した。
その結果、無事俺は葉隠ちゃんの個性を『無視』することで、彼女だけを見ることに成功し、その淡い金色の髪色や瞳の色、肌の色まで見れるようになったのだ。
感動がある。ゲームボーイがゲームボーイカラーになったくらいの感動だ。誰もこれネタ分からねぇな。
「よーしよしよし、一先ずは個性伸ばしの成果が出来た……! この調子でどんどん伸ばしていくぜ俺の個性!」
「うおー!! 私もセンちゃんに負けてられない!! がんばるぞー!!」
「オイラのもぎもぎももっと変化させられるようにならねーとな。変化スピードがまだおせぇわ」
そういう峰田が手に持ったもぎもぎをぐっと握りしめるのを俺は見た。
握りしめた途端に丸いもぎもぎは変形し、棒のような形状になったりブーメランのような形状になったりと自由に形を変えられるようになっている。
お前マジで何がきっかけでそれできるようになった? 怖。
流石だわ俺の親友は。
「……にしても補習組は眠そうだな」
「あー、大変だよね三奈ちゃん達。切島くんも上鳴くんも眠そう……」
「まぁ自業自得ではあるんだけどな。せめて朝はギリギリまで寝させてやろうぜ」
「だな」
相澤先生が指導する補習組の様子を見ればなんか随分と眠そうな様子だ。
大変だな。相澤先生もしかしその辺は容赦しない。昨日の風呂場の様子が嘘のようにいつもの鬼監督だ。
「お前らがなぜ他より疲れているかその意味をしっかり考えて動け! 麗日! 青山! 障子! 耳郎! お前らも赤点こそ逃れたがギリギリだったぞ」
「ギリギリ!」
「心外☆」
「精進せねば……」
「ファイトぉ!!」
そして赤点ギリギリ組もまた檄を飛ばされて意識を切り替える。
「気を抜くなよ。みんなもダラダラやるな。何をするにも原点を常に意識しとけ……向上ってのはそういうもんだ。何のために汗かいて何のためにこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ」
そして、クラス全体にその言葉は広がり、みんなが相澤先生の言葉を聞いた。
俺の原点は、峰田との出会い。
峰田にとっては俺を
緑谷にとっては、轟にとっては、爆豪にとっては、飯田にとっては、葉隠ちゃんにとっては……クラスのみんなにとって、原点とはどこにあるのだろうか。
でも、それを強く持つことがきっと強くなることに直結するんだ。
「……前に、センちゃんが言ってたことと同じだね」
「ん。……ああ、体育祭の時か。確かに近いかも」
「うん。あれ以来、私もずっと意識してるよ……私の原点。だからもっと強くなる!! うおー!! 頑張れ私!!」
「その意気だぜ葉隠ちゃん! よっし、俺も気合入れていくか!」
「オイラもやるぜぇ!!」
引き続きやる気を入れて訓練に戻る。
しばらくまたしても地獄のような特訓を続けていると、ピクシーボブから今日の日程について話が合った。
「ねこねこねこ……今日の晩はねぇ……クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある! ザ! アメとムチ!」
ああ、そういえば今日は肝試しがあったか。B組と対抗でやるようだ。
驚かせる側になったら俺最強じゃない? ひょっこりはん! って地面から出てくれば絶対驚かせられるやつじゃん。
よし。
肝試しを全力で楽しむためにも今は全力で励むのだ!!