【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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55 体が固いやつは頭も固いしちんちんも固い

 

 

 

 悪夢の夜が明けた。

 

 俺は最後の距離を『無視』したことで意識を失い、あの後すぐ合宿所近くの病院に緑谷と共に運ばれた。

 朝のいつもの時間に目が覚めたが、余りの衰弱と腹痛にナースコール押してからもう一回血反吐を吐いた。

 胃の穿孔。穴が開いて胃の中身が零れて腹膜炎も併発していたのだが、俺が個性を張り続けてたせいで輸血や手術ができなかったらしい。

 目が覚めてからそのことに気付いて慌てて個性を解除してから再び激痛で気絶。

 医療を受けられるようになったので緊急手術で腹の中を洗浄。腹腔鏡で傷跡は残らないようにやってもらえたらしい。

 

 んで手術も終わった7時ごろにリカバリーガールがやってきてくれて、治癒で腹の中全部きれいさっぱり治してくれた。マジで有難い。

 緑谷の方も右腕を治してもらっていたが、血狂いマスキュラー相手にそうとう酷使したらしく、少し指と腕の形にゆがみが残ってしまうとのこと。

 今後これを何度も繰り返せば腕が動かなくなると言われてたのを見てうげぇとなってしまった。

 

 で、そこでリカバリーガールから昨晩の事件のあらましを聞く。

 

 生徒40名の内、ヴィランのガスによって意識不明になったのが8名。軽く吸い込んでしまい意識もうろうとなったのが5名。

 戦闘による重軽傷者8名。

 無傷で済んだのは18名だった。

 そして、行方不明1名。爆豪だ。

 プロヒーロー6名のうち、ピクシーボブが頭を強く打たれ重体。

 ラグドールが大量の血痕を残し行方不明。

 

 一方、ヴィラン側は3名の現行犯逮捕。

 彼らを残して他のヴィランは黒霧のワープゲートで姿を消していた。

 

「ひでぇことになっちまったな……」

「うん……」

「ま、でもまだ誰も死んでねえ。……そこはまず、よかったよ」

「うん……」

 

 その日の昼頃。

 俺と緑谷は回復した体をベッドに起こして、共に昼食を取っていた。

 夜に全部腹のものはぶちまけたしリカバリーガールの治癒を受けたのもあってとにかく腹が減っている。

 がつがつと飯を食うが、しかし俺たちの顔色はよくない。

 

 先程、リカバリーガールが治療を終えた午前中の内に、引子さんが見舞いに来てくれた。

 緑谷も俺も、心配をかけてしまったことをただ謝る事しかできなかった。

 俺なんかは以前に「緑谷が困ったら俺が助ける」なんて言っておきながら、緑谷の事を助けることはできなかったんだ。悔しかった。

 緑谷にも、俺にも、引子さんはとにかく心配の言葉をかけてくれて……その優しさが、苦しいくらいだった。

 ただ、同じタイミングで診察に来た医師が洸汰くんが書いたお礼の手紙を持ってきてくれて、それを見て引子さんも緑谷が頑張り誰かの命を助けたことを改めて理解したらしく、少し溜飲を下げてくれた。

 とはいえ心配かけたことには変わりない。後で詫びに何かお返ししないとな。

 

 そしてなによりも……爆豪の事だ。

 俺も緑谷も、目の前で爆豪をさらわれた。

 あと一歩踏み込んでいれば。俺の決断が早ければ。個性を使いこなせていれば、助けられたかもしれない。

 けれど、奪われた。

 自分の無力さが悔しい。これほど何でもできる個性を持っていながら、俺は結局爆豪を助けられなかった。

 

 悔しい。

 力が欲しい。守るための力が。

 でも、それは────────

 

「……おー、緑谷に幾野も! 目ぇ覚めてんじゃん!」

「え?」

「お?」

「心配かけやがってよぉ! 特にイクノ!! お前一晩ずっと生死の境をさまよってたんだからなマジで!!」

 

 昼食も終えたところで、俺達の病室の扉が開き……上鳴がオッスと手を上げてそこにいた。

 続いてクラスのみんながどんどん入ってくる。

 その中に耳郎ちゃんと葉隠ちゃんの姿もあり……俺は、ほっと安堵の息をついた。

 

「よかった、そっちも無事だったんだな……耳郎ちゃんも葉隠ちゃんも」

「うん、今朝目ぇ覚めた。あんまり記憶ないんだけど……幾野が助けてくれたんだってね。ありがと」

「センちゃん、大怪我しちゃったって聞いて……!! 私心配でずっといてもたってもいられなくて……!!」

「いや、俺だけじゃなくて瀬呂やみんなが頑張ってくれた。それに葉隠ちゃん、今はもうリカバリーガールが治してくれたからピンピンだよ。大丈夫」

「センちゃん……」

「あとオナ禁4日目だからちんちんもビンビンだよ」

「ブレーキ!!」

イクノお前よく下ネタ吐けたなァ!? あんだけ心配かけやがって……マジで元気そうで何よりだけどよォ!」

 

 俺が大天使相手にいつもの調子を取り戻すためにストレートを繰り出したら峰田がいつものツッコミのパンチを繰り出してきた。

 ぽすん、と俺のおなかにパンチが当たる。

 少しだけ峰田の顔を見て安心できた。こいつも随分と俺を心配してたのか、目に隈ができてやがる。

 ごめんな。お前も無事でよかったよ。

 

「ケロ、メロン持ってきたわ。みんなで買ったの」

「お、悪いね。あんがと」

「お前らテレビ見たか!? 学校いまマスコミやべーぞ」

「春の時の比じゃねーわあれ」

「マジか。……あー、そりゃそうだよな」

 

 マスコミが来ているという話を聞き、俺は事情を察した。

 今回のヴィラン連合による襲撃事件は、世間から見れば間違いなく雄英側の不手際とみなされるだろう。実際、それを全く違うとは言えない。林間合宿の場所がなぜ知られていたかは分からないが、生徒を危険にさらしたことは事実なのだから。

 しばらくバッシングが酷そうだな。ヴィラン側への怒りに世論が流れればいいんだけど。

 

「迷惑をかけたな緑谷……幾野も」

「ううん、僕の方こそ……」

「俺もぶっ倒れたあと迷惑かけたろ、ごめんな。……A組のみんなで来たのか?」

「ああ。耳郎くんと葉隠くんも今朝意識が戻って、まぁ病衣を見ればわかる通り入院中だが……別状はないときいている。他にも軽傷を受けたものは昨晩入院しているが君達ほどの大怪我はいない。B組にはまだ意識が戻っていない者もいるが、それも命の危険というほどではないようだ」

「だから今ここにいるのは……17人だよ」

「爆豪いねぇからな」

「ちょっ轟……」

 

 常闇の見当違いの謝罪にはこちらからも見当違いの謝罪で相殺しておいた。謝られることなんもない。

 で、話を聞けばA組は爆豪以外はとりあえず全員回復。俺らもまぁ意識はしっかりしてるし怪我もリカバリーガールに治してもらったから、無事だったと言っていいだろう。

 B組はまだ意識が戻ってないメンバーがいるようだが、飯田が命の危険はないと言ってたから、無事に後遺症とかもなく目覚めてくれるといいな。祈ってる。

 

 不幸中の幸いだ。

 後は爆豪さえ怪我無く戻ってきてくれれば……。

 

「……オールマイトがさ……言ってたんだ」

「緑谷?」

「手の届かない場所には助けに行けないって。だから手の届く範囲は必ず助け出すんだって……。僕は手の届く場所にいた……必ず助けなきゃいけなかった……!! でも……ケガして体が動かなかった……!!」

「……緑谷……」

 

 緑谷の慟哭を聞き届ける。

 お前の想いはお前だけじゃない、ここにいる全員がきっと感じていることだ。勿論、俺だって。

 俺たちは助けられなかった。それは事実だ。悔しいよな。

 でも、その悔しさを力に変えるんだ。俺たちは成長するしかないんだから──────

 

「─────じゃあ今度は助けよう」

 

「「「へ!?」」」

 

 しかし、そこで切島から急にカットインが入り……「助けよう」という言葉が出てきた。

 なんのこっちゃ。

 

「実は俺と轟さ……今朝早くに病院来ててよ。そこでオールマイトと警察が八百万と話してるとこ遭遇したんだ」

 

 その声で病室にいる八百万ちゃんの表情が硬くなる。

 続く切島と轟の説明を聞けば、話はこうだ。

 

 昨晩、俺が泡瀬と共にいる八百万ちゃんを脳無が逃げるまで援護した後、俺は爆豪の方に走っていったわけだが、八百万ちゃんは何とそこで機転を利かせて創造した発信機を脳無に埋め込んだらしい。

 それを受信するデバイスを警察とオールマイトに渡したとのこと。

 オイオイ天才かよ八百万ちゃん。

 

「マジか。すげー……あの場でよく思いついたね八百万ちゃん。うわマジでファインプレー。偉い!」

「いえ……そのくらいしか、私は力になれませんでした……」

「……いや、待ってくれ」

 

 俺が八百万ちゃんを褒めたところで飯田が眼鏡を鋭く光らせ、切島を睨む。

 

「……つまりその受信デバイスをもう一つ八百万くんに創ってもらい……乗り込もうとでもいうのか?」

「…………」

 

 飯田の言葉に切島はNOの返事をしなかった。

 さっきの「助けよう」という言葉の意味は、それか。

 

「ッ……オールマイトのおっしゃる通りこれはプロに任せるべき案件だ!! I・アイランドの時のような緊急的な事態ではもはや無い!! 生徒(ぼくたち)の出ていい舞台ではないんだ馬鹿者ッッ!!」

「んなもんわかってるよ!! でもさァ! 何も出来なかったんだ!! ダチが狙われてるって聞いてさァ!! なんっっも出来なかった!! しなかった!! ここで動けなきゃ俺ァヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!!」

 

 飯田の正論に、切島が吠える。

 病室がにわかに騒がしくなった。

 

「切島、落ち着けよ! こだわりはいいけどよ、今回は……」

「飯田ちゃんが正しいわ」

「飯田が、みんなが正しいよ!! でも!! なァ緑谷、幾野!! まだ手は届くんだよ!!

 

 俺と緑谷に向けて、切島が手を差し出してきた。

 俺と緑谷はその間、無言だった。

 

 ……切島、お前。

 

「えーっと……ヤオモモから発信機のヤツもらって、それ辿って自分らで爆豪の救出に行くってこと……!?」

「ヴィランは俺らを殺害対象と言い、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが殺されないとも言い切れねぇ。俺と切島は行く」

「ふっ────ふざけるのも大概にしたまえ!!!

「待て落ち着け飯田……切島の『何も出来なかった』悔しさも、轟の『眼前で奪われた』悔しさもわかる」

 

 轟まで行くとか言い出しやがった。

 お前ら、お前らさぁ。

 

「俺だって悔しい。……だが、これは感情で動いていい話じゃない」

「オールマイトに任せようよ……☆ 戦闘許可は解除されてるし」

「青山の言う通りだ……助けられてばかりだった俺には強く言えんが……」

「みんな爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう……どれ程正当な感情であってもまた戦闘を行うというのなら─────ルールを破るというのなら。その行為はヴィランのそれと同じなのよ」

 

 クラスのみんなが次々と切島と轟を止める言葉を述べる。

 最後に梅雨ちゃんが、表情を曇らせながらもあえてキツい言い方をしてくれた。

 ああ……彼女が正しい。

 

 だが、それでも切島と轟の表情は変わらない。

 緑谷も何だか感化されてんのか、言葉を素直に呑み込んだ顔にはなってない。

 

「……あのさ。まずここ病室な。診察の時間はまだだけど……大声出すなって。他の入院患者に迷惑だろ」

「……スマン」

「すまなかった幾野くん。しかし僕は……」

「飯田が正しい」

 

 そして部屋が静かになった時……俺は、口を開いた。

 

 何のために?

 頭に血が上って視野狭窄を起こしてるダチの目を覚ましてやるためだ。

 俺の得意分野だぜ、そういうところはさ。

 

「ふー……まずな? 切島。お前、今すぐ逮捕されても仕方ねぇ状態だからな? 自覚しろ?」

「は、はぁっ!? なんでだよ!?」

「声大きい。……無資格での個性使ったヒーロー活動の教唆・幇助。しかも計画性あり。ヴィジランテと同じかそれ以下になるからな、今の話? お前ダチを助けるために犯罪者になるつもりか?」

「なっ、違っ、んなことねぇよ……! でも、俺は爆豪を助けたくて……」

「お前さっき、男じゃねーとか言ってたよな。自分が何もできなかった悔しさと無力さを我慢できない憂さ晴らしに、一番被害にあってる爆豪を使うな。梅雨ちゃんがあえてキツく言ってくれた意味噛み締めろって。バカなこと言ってんじゃねぇよ」

「っ……でもよぉ幾野!! お前だってI・アイランドじゃあヴィランを倒してたじゃねぇか!?」

「だから声。あん時だってそもそも最初は飯田達の意見、脱出って方に賛成だったからな? あの島が個性利用OKの治外法権で、かつオールマイトも動けなくてマジで俺らだけしかいなかったから決断しただけだ。今は違うだろ……オールマイトが万全に動けて、警察も絡んで、ヒーローたちが爆豪救出に出てくれる。俺らの出る幕はねぇんだよ」

「でもよ……!!」

 

 俺が俺の理屈で切島を説得したが、まだ呑み込み切れてないか。

 仕方ない。外堀から埋めていこう。

 俺は轟の方に向き直る。

 

「轟」

「幾野……お前が行かねぇって言っても俺は行くぞ」

「その前に俺の言葉を聞け。いいか、俺は今からお前をダチだと信じて、あえてキツい言葉をかける」

「……」

「お前は今、自分の中の正義で、やりたいことを優先して法や倫理を無視してでもそれをやろうとしてるよな?」

「……ああ」

()()()()()()()()()()()、今のお前の眼」

「─────ッッ!!! それは違ッ……!!」

「違わねぇ、同じだよ。お前も切島も、ダチを助けてぇって言うけどよ……分かりやすく例えるぜ? アイスを食べたい(爆豪を助けたい)わけだ。暑いからよ、我慢できなくて。で、コンビニにアイスを買いに行くよな? でも俺達は金を持ってねぇんだ。()()()()()()って言う金をよ。じゃあどうする? 普通は買うの諦めるよな? 家帰って(ヒーロー)買って(助けて)もらうだろ? でもお前らは我慢できないから、アイスを万引きしようとしてんだよ。うまく万引き出来てアイス食べられたらよかったね、バレなければ誰も困らないもんね、ってさ。そのレベルの話だぞこれ」

「…………っ……!」

「だからさ、大人になれよ轟。ルールは守ろうぜ。……キツい話して悪かった」

「いや……すまねぇ。俺も頭に血が上ってたってのはわかった……」

 

 あえて下らない内容に例えてやった。

 爆豪を助けたい(アイスを食べたい)。自分が我慢できないから。

 でもそれをするためのヒーロー免許()がない。

 だから人に迷惑をかけてでもやろうとしてるんだ。

 

 梅雨ちゃんが言った通りだよ。ただのヴィランだよそりゃ。

 プロヒーローがこれから全力で救出作戦をする所になんで俺らが入る余地があるんだよ。

 

「緑谷。まさかとは思うけど、お前も乗り気になってねぇよな?」

「い、幾野くん……僕は……」

「さっき引子さん見舞いに来てくれたよな。……泣くの、ずっと我慢しててさ」

「!!」

「お前、引子さんの前で言えるか? 今から犯罪行為まがいのことしてヴィランの本拠地に学生だけで行きますって。もしかしたら法を犯して、命も危なくなるし雄英も退学になるかもってよ」

「…………僕、は……」

「……さっきさ、引子さん……雄英に通い続けてもいいって言ってくれたじゃねぇか。きっとよほど苦渋の決断でさ。……親孝行してやれよ、な?」

「……うん。ごめん……」

 

 緑谷も落ち着かせる。

 間違いなく一番悔しいだろう、こいつが。

 かっちゃんが狙われていると知って、それでも全力で最後まで足掻いて、駄目だったのだ。

 けれど、お前は洸汰くんを救えた。悪いのはヴィランであって、お前らじゃないんだ。そこを勘違いしてはいけない。

 引子さんだってどれだけ心配かけちまってるか。これ以上何かあったらマジで倒れるぞあの人。

 だからお前だけは個性使ってでも止める。ダチだからな。

 

「八百万ちゃん」

「……はい」

「もし受信機作ったら八百万ちゃんのおっぱいしこたま揉むからね」

「何でわたくしだけ下ネタで諭してきたんですの!?」

「いや、八百万ちゃんなら言わなくても当然わかってると思ってるから。発信機埋めて、受信機をオールマイトたちに渡すところまでは本当に偉いよ。あとは跡を濁さずね」

「……はい。ええ、大丈夫です。今のイクノさんたちのお話でわたくしも決心しましたわ。受信機は作りません」

「おっけ」

 

 そしてトドメに切島たちの話の根幹である八百万ちゃんを抑えた。苦笑を零しながらの返事だったが、これで万が一はなさそうだな。

 結構八百万ちゃんもノセられやすいというか、騙されやすい傾向にあるからな。チアガールの件とか。

 ぐいぐい来られると断り切れないタイプだ。押しに弱い。

 つまり俺も押したらそのおっぱいをワンチャンできるか……!?

 いやそんな雰囲気じゃねーわ今。

 

「……切島」

「……」

「お前の想いは、悔しさは分かるよ。俺だって目の前で助けられなかった一人だ。いや、俺だけじゃない……悔しいのはみんな同じだよ。でも、俺達はヒーロー免許を持ってない。仮免もな。だからこの話はこれで終わりなんだ」

「……でもよぉ……!!」

 

 最後にまた切島の説得に入ったが、しかしどうにも心底では納得しきれてないみたいだな。

 もうそれは仕方ないか……と、俺が思っていたところで。

 

「─────幾野!!」

 

 病室に、B組の鉄哲が飛び込んできた。

 

「鉄哲。どったの」

「瀬呂も……A組も全員いるか! ちょうどいい!! すまねぇ!! 謝らせてくれ!!」

 

 そしてその勢いのまま土下座を繰り出した。

 ごつんと床に額をぶつける音がして、見事な土下座を病室にいるA組全員に見せたのだ。

 

「俺……あの時、とんでもねぇことを口走っちまった!! 頭に血が上ってた……!! 謝りたいんだ!!」

「おいおい、落ち着けって鉄哲」

「あー……あん時のアレか」

「おん? 何があったんだよお前ら」

 

 そして鉄哲の話に俺と瀬呂はその理由に思い至った。

 拳藤ちゃんや小大ちゃんと共に鉄哲がいて、俺と瀬呂が合流したときのあの一件だ。

 峰田の質問に、鉄哲の方から自分の失言を説明して、A組全員がその事情を知った。

 鉄哲が口走ったこと。A組がかつて味わったピンチを、今回の事件をチャンスだと表現してしまったことを。

 

「俺、お前らに嫉妬して……あんなことを言っちまった!! 一晩経って、爆豪が攫われたって聞いて……俺があの時どれだけアホなことを言ってたのかようやくわかった!! マジで済まなかった……!!」

「顔上げろって鉄哲。もう俺も瀬呂もあん時の事は怒ってねえ。……お前の根っこがあの時の言葉じゃなくて、今の土下座にあることは分かったからよ」

「おお、俺も殴っちまって悪かったよ。大したことでもねぇ……あん時にもうお前反省してちゃんとみんな助けてたしさ。後でメシでも奢ってくれりゃいいよ」

「けどよ……俺、自分の感情のままに口走っちまってよ……!! 後悔する所だったんだ!! あれでもし俺が幾野とヴィランに向かってたら、もしかしたらB組の奴の誰かが救えてなかったんじゃねぇかって……!!」

「……っ!!」

 

 土下座の姿勢を崩さぬままに叫ぶ鉄哲の謝罪に、切島が息をのんだ。

 ああ……そうだな。あの時の鉄哲と今の切島の状態は似てるかもしれない。

 感情のままに暴走しかけた鉄哲を、瀬呂が止めた。

 そして今も感情で暴走しかけてる切島を、俺が止めたい。

 

「鉄哲。B組のみんなは無事だったのか?」

「……ああ!! つい今しがた、最後まで昏睡してた凡戸が目を覚ました!! 全員目覚めて、後遺症もなくて済んだって聞いてる……!!」

「そっか、良かったな! そりゃ朗報だ……ああ、その話が聞けただけで十分だ。だから頭を上げろよ鉄哲。お前が今やることは土下座じゃなくて、B組みんなをいたわってやる事だろ。んで、次もし同じようなことが起きちまった時に今度こそ一人も倒れないように……強くなることなんじゃねぇか?」

「…………ああ、そうだ。俺は今回の事件を二度と忘れねぇ! これを糧に強くなって、そんでお前ら()()()が揃ったA組にも勝つ!!」

「ははっ……そうだな、楽しみにしてる。また肝試しもやろうぜ。俺ビビリだけどさ」

「メシ奢んのも忘れんなよ鉄哲!」

 

 鉄哲がようやく顔を上げて、そこに浮かぶ自信にあふれた表情を見て、俺も笑顔を返した。

 B組全員が無事だともわかって本当によかったよ、マジでさ。

 その後鉄哲が律儀にA組一人一人に頭を下げて、病室を出ていった。

 

 そして俺は、切島に最後の活を入れる。

 

「切島」

「……ああ」

「謝罪してスジを通して、悔しさを呑み込んで前を向く……あれが本物の『()』ってやつだと思うぜ」

「……っああ!!」

 

 切島も、今の鉄哲の姿に思う所が強く在ったのだろう。

 コイツらは職場体験が同じヒーローの所で、かなり仲もいいと聞いている。お互いに性格もよくわかっているだろう。

 そして、そんな鉄哲が己の感情に任せた一言を反省し、己の弱さと向き合い、土下座をしてまで謝ってきた姿に……漢気をくみ取ったようだ。

 

「……すまねぇみんな!! 俺がバカ言ってた!! 完全に目ェ覚めた!! 本当にごめん!!」

「いや……僕も声を荒らげて言いすぎた。だが、君が分かってくれたならば何も言うことはない。冷静だった幾野くんに感謝しておきたまえ」

「ケロ、さらに私達が悲しむようなことがなくてよかったわ、本当に」

「ホントだよお前ら! 気持ちはマジでわかるけどよ、余計に先生や俺らに心配かけんなって!!」

「……俺も悪ぃ。頭に血上ってた……」

「僕も……ゴメン、ちょっとその気になってたかも。うん……ごめん」

「いいんだ。俺達も悔しい思いは同じ……でも、この気持ちを忘れずに強くなることはできる。頑張ろう」

「っし一件落着!! じゃあイクノ、メロン食おうぜメロン!! 果物ナイフってある?」

「どうだろ……この病室にはないかも?」

「あ、では私が創造しますわ」

「じゃあ俺が切るか」

「センちゃんは休んでて!!」

「ウチらで切るから!」

「アッハイ」

 

 そうしてようやく零れた切島の本心からの謝罪に、クラスにもようやく張り詰めていた空気が霧散し、和らいでいった。

 まったく。心配するのは爆豪ちゃんのことだけでいいっつーの。

 この事が相澤先生の耳に入れば下手すりゃ全員除籍処分まであったんだからな。俺も峰田も誰にも言ってないけど、相澤先生が去年マジで1クラス除籍処分にしてるのを天喰先輩から聞いて知っている。

 ま、視野が狭まってるやつの隣にいてやって落ち着かせるのも俺が求めるヒーローの姿だからな。

 こんくらいはしないとな。

 

「俺と緑谷は念のためもう一泊して退院だってさ。その後学校に改めて問い合わせて、今後の体育館利用どうなるか聞いたらまた共有するわ。あ、メロンちょうだい葉隠ちゃん?」

「はいセンちゃん、あーん」

「あーん」

「ナチュラルにイチャつくな最近のお前ら!?」

 

 俺はベッドに座ったまま、葉隠ちゃんが差し出してくれるメロンをあーんと食べる。

 うまあじ。葉隠ちゃんの愛が籠もってますわ。

 隣のベッドでは緑谷と麗日ちゃんが同じことしようとして照れてるのか顔が真っ赤だった。初心なやつらめ。

 

「……雄英が今大変な状況だからな。夏休み中は本格的に自粛期間になってもおかしくないかもな」

「どうなるんだろね……あ、今ニュースに明日記者会見やるって出た」

「一先ずは先生方と……あと、ヒーローたちを信じて爆豪ちゃんが無事に帰ってくるのを祈ろうぜ。あのオールマイトが行くんだ、きっと大丈夫さ。だろ、緑谷?」

「えっ、あ、うん……うん! きっとオールマイトなら助けてくれるよ!!」

「ヴィラン連合も馬鹿だよな! オールマイトにUSJで一回こっぴどくやられてんのにまた狙ってくるなんてよ!」

「ステインの件もあって、今回の襲撃でもヴィランが増えてるみたいだったからね……けど、今回はそれを見越して多数のヒーローが配置されるんじゃないか?」

「だろうな。近隣のトップヒーロー全員呼び出すんじゃね?」

「頑張ってほしいな……」

「爆豪無事かな……」

「あの爆豪だぜ? 今頃連合のヴィラン2~3人ぶっ殺してんじゃねぇの?」

「はは、マジであり得そう」

「彼ならやりかねないね☆」

「ラグドールさんも、状況からすれば攫われたんだろうな。そっちも無事だといいけど」

「あー……俺らも早くヒーロー活動できるようになりてぇな」

「仮免取得が今年になってるからそれこそもうすぐだろ。みんなでまた訓練頑張ろうぜ」

 

 その後は俺らの診察に医者が来るまで、少しずつ日常を取り戻すためにお互いに傷をなめあった。

 だが、この傷の舐めあいは弱気につながるものではない。

 きっとさらにみんなでプルスウルトラしていけるものだと信じて。

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の夜。

 俺はマウントレディから一つの連絡を受け取っていた。

 

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