【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
「パイスライダー……?」
「パイスライダーとラブサバイバーって似てるな」
「どっちも一ミリもかすってないよセンちゃん」
脳内に謎の汚い忍者ロボがこっちに向かってくる幻影を生みながら、俺は被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行うというその試験内容の説明を聞く。
ふむ。つまりこの神野っぽい状況になったこの被災現場でどれだけ適切な救助を行えるかというものか。
要救助者のプロ、いわゆるスタントマンのような方々「HUC」が怪我人として配置されており、それを救助して採点されるという。へー、面白い仕事あるんだな。
そして説明の最後の言葉を聞いて、俺は発見を得た。
『なお、今回は皆さんの救出活動を
「……え、マジ?」
「ん、どしたんだイクノ」
「いや……今の言い方だとこれ、全員の中から何人が合格するって試験じゃねぇな?」
「おー……そうかもな? 基準値よりも減点されたら終わりってことだから、ちゃんと頑張ってりゃ合格人数何枠までって感じじゃなさそう」
アナウンスの内容を聞いて、今回の試験がいわゆる周囲との勝負ではないことを察する。
そうか……いや、考えればそれもそうか。
一次試験で見てたのはスピード。すなわちここにいる100人はヒーローとしてのスピードは満たしたという判断である。
であれば逆にここにいる才能の卵から、今度はちゃんとヒーローとしてやっていけるかを見るフェーズに入ったというわけだ。
ヒーローが社会に求められている以上、積極的に落としたいということもないはず。これは素質を見る試験か。
ってことはだ。
全員で頑張ればより良い結果が出るって事じゃん!!
「ってか設定が災害地の救助だもんな。これ連携次第で全員合格あるな……よし」
俺はにやりと笑い、残り10分の準備時間にやれることをしておこうと、個性を発動する。
使うのは、寮内アナウンスとかでよく使い、今は使いこなせてる【声が届く距離】の無視。
この控室内にいる全員に、俺の声を耳元で聞かせる。
『えー……急に失礼。俺の個性で声を遠くまで届かせています。テレパシーみたいなもんです。雄英高校一年の幾野潜です。3ヶ月くらい前にヒーロー殺しの正論パンチでバズったやつです』
「おぅわ!?」
「え、耳元から声……!? ってこれイグジスト!?」
「スンゲぇ!? 幾野さんこんなことも出来たんスか!?」
「幾野くん? 何をしようというんだ!?」
それを響かせたところで全員がびくっとして俺の方を向いてきた。
一番部屋の中で目立つ外見だしな。そのまま俺は部屋の中央に歩いていって目立つようにして、話を進める。
『みなさんさっきの試験の説明聞いたと思います。これ、受験生の足の引っ張り合いの試験じゃないです。逆に、いかに連携を取って自分が出来ることをして、迅速に要救助者を助けられるか、正しい救助活動ができるかが試されてます。これがリアルに起きたとして、足を引っ張ってる暇なんてない。だからこそ、俺個人の意見ですけど、ここにいる全員が合格してほしい。みんなで力合わせたい』
俺の考えを述べていく。
俺だって雄英の生徒以外の個性を知らない。それを全部この場で把握することなんてできないだろう。それが出来るのはラグドールの個性『サーチ』くらいのもんだ。
でも、俺が出来ることを教えることはできる。そして、それがみんなの力になるということも、わかる。
だったら全力で俺はみんなを支援する。俺一人だけが頑張るよりも、ここにいる100人が力を合わせた方がより迅速に救助できるに決まってる。
『俺の個性やれること多くて、壁や物透かして遠くまで要救助者がどこにいるのかも確認できます。で、その周辺に救助に行った人に伝えられます。怪我の様子とかも。感知系の個性の方もいると思うんすけど、その人はぜひインカム持ってください。救助しにくい所に人がいれば、それ伝えてくれれば俺が派遣できます』
考えたのは、俺が司令塔になる事。
俺のウォールハックは、必要なもの以外を『無視』して見れるように進化したので、要救助者、倒れてる人を探すことも前より容易になっている。
だからこそ、どこにどれくらい要救助者がいるのかをすぐに見つけて、その近くにいる生徒に伝えることができるのだ。
『無視』の個性伸ばしをしておいてよかった。前の俺じゃあウォールハックの精度も低いし、周りに声を伝えることも出来なかったからこの手段はとれなかった。
『救助活動に慣れてない人とかもいると思いますが、そういう人とも力合わせながら全員で頑張りたいと思ってるんです。この試験、俺は演習と考えずガチの現場としてやるつもりです。要救助者全員を助けたい。こういう場面で怪我した人たちがどれほど恐ろしい思いをしてるか
周りの生徒全員が俺の言葉を聞き届けてくれたのを確認し、俺は最後に俺の想いを伝えた。
助けたいんだ。それがヒーローってもんだろ。なら全員で力を合わせて助けよう。
俺の想いに、みんなは挙手しないという行動で応えてくれた。助かり過ぎるね。
『有難うございます。んじゃ、同じ学校の人とかいれば密な連携は打合せお願いします。感知系の人たちは、俺の方に集まってもらってインカムで俺に報告出来るように……』「……八百万ちゃん。悪いけどインカム人数分。あとカロリーめっちゃ蓄えといて。コキ使うつもりだから」
「そう言われると思って既にこちらに。残り時間はフードファイトですわね、私は」
「助かるよ。……」『えー、うちの学校に何でも作り出せる個性がいます。限度はありますが被災者を寝かせるベッド、医療器具なんかも作り出せるので回復系、治療で活躍できる個性の人がいたらそちらのデカパイ痴女服の子と連携してください』
「余りにも人聞きが悪すぎますわ!? 流石に怒りますわよ!?」
「メンゴ。八百万ちゃんは後方での怪我した人の治療関係任せるからね」
「任されましたが話は終わっていませんからね!? 帰ったらお説教ですわ!!」
「んにゃぴ……」
俺が八百万ちゃんを若干ダシにして緊張をほぐすために冗談を零したら周りから苦笑が零れた。
真剣にやるというのは間違いないが、肩の力も抜いてほしかったからね。八百万ちゃんナイスアシスト。
多分一番こき使うからいっぱい食べといてねマジで。
『俺の個性だと倒れてる場所を見るだけなんで要救助者のトリアージは現地に行った人でお願いします。そういうの慣れてる人声かけあって。出来る限り複数人で動きましょう。ただあまり人数多すぎると細かい所手が届かなくなるんで3~4人くらいのチームで。即席チームアップで動けるかってのも多分この試験見られてますんで。あと俺自身も決して被災地支援慣れてるわけじゃないんで、こういうことが出来たらって意見ある人いたら遠慮なく言ってください。いったん個性切ります』
そうして個性を切る、ということにして一度簡易テレパシーを閉じれば、何人かの3年生、やはりベテランの人から有用な意見を頂き、それも取り入れて改めて全体にアナウンスしたり。
細かい所の調査については、俺だけじゃなくて発目ちゃんが持ってきた万能小型ドローンで熱源などの生体反応が感知できるのでそれも俺の隣で使ってもらって支援に回したり。
チームアップするにも、戦闘力やパワーのある個性をできる限りチームに一人混ぜたり。
俺が寮長として普段からやっているてきぱきとした処理能力で、順次これから始まる試験に向けて準備を整えていく。
「……体育祭の映像を見ているだけだとただの調子のいい変態だと思ったが、彼もちゃんとヒーロー目指してるんだな」
「あー、それ同じクラスの俺らでもたまに思うんで分かりますよ」
「ふざける時ふざけすぎるんだけど、マジなときはほんとマジなんで。悪い奴じゃないっすよ」
「しかしイグジストはやれることが多いな。どのヒーロー事務所でも引く手あまたになりそうだ」
「すげぇっスよね!! どんだけ便利な個性してんスか幾野サン!!」
「幾野だけは特別だ、鍛え上げてる。でもそれを悪用したことは一度もねぇ……優しいやつなんだ」
「ん!! なるほど轟が変わったってのもなんかわかる気がするっス!! ホレそうっス!!」
「それはやめとけ」
「ふーん、ふーん……そういう子なんですねぇ、幾野くん」
「……む? ケミィよ、彼になにか?」
「いーえ、何でも」
周りでも即席でチームを組んだり、これから始まる演習に向けて準備を進めてくれている。
悪くない。やっぱりみんな、ここにいるだけあるな。立派なヒーローの卵だった。
だったら俺も含めて、全員で合格してやろうぜ!!
そして10分が経過して、ジリリリリ、と緊急ベル音が鳴り響くとともにアナウンスが入る。
『ヴィランによる
「演習の
「ヴィランのテロ、と言ったか……幾野くん!」
「ああ! 敵襲も考えられる!」
ヴィランのテロという単語に、俺や飯田……あの時I・アイランドにいたやつらに緊張が走った。
実際にテロの渦中にいた俺達だからこそ感じとる予感。
わざわざそういう設定にしたってことは、どっかで敵襲がある可能性が高い。それも予想しておかねぇとな。
『──一人でも多くの命を救いだすこと!!! START!!』
二次試験が始まった。
『要救助者はざっと目の前だけ確認して約20人!! 倒れて動かない人から歩ける人まで! 都市部中心に多い!! 子供や体の小さい人もいるから見落とさないで!』
俺はさっそくウォールハックで周囲を索敵……いや、救助者を捜索してテレパシーで声を上げる。
目の前の一番近くの都市部に多く配置されてるようだ。 その近くに行った人たちに、壁で隠れて見えないところにいる救助者の位置を伝える。
『緑谷! 目の前の少年とその10m先2時方向の瓦礫の下におじいさん! えっとごめん赤いスーツで黒髪でマッチョの人! 今の向きから右手の方に要救助者……そうそこです! あと誰か空飛べる人いますか! 倒壊したビルの高い所に一名倒れてる! 常闇は先に向かってくれ! お前の今の向きから10時方向100m先の建物! 飛んでる黒い影見つけたら機動力ある人は追って!』
もちろん、全員が全員俺を頼って救助活動はしていない。目で見てわかる人、感知系個性を使って調べる人もいるだろう。
ただ、やはり試験の設定上、見つけにくい要救助者というのが各所に存在していた。俺はそれを案内する係だ。
「イクノさん! 右手のこっちのほうは私のベイビーに捜索をお任せください!! 私も自分の個性『ズーム』で遠くまで見れますし!! ベイビーで生体感知をビンビン捉えますよフフフフフ!!」
「任せたよ発目ちゃん! 索敵が終わったら救護室の処置に回っていいからね!」
「了解です!! では飛んでいきなさい私の小型第三の目ベイビー!! 『
俺の隣に立つ発目ちゃんが万能ドローンを飛ばして手元のコントローラーで操作する。
そしてそんな発目ちゃんの顔には今、かつてI・アイランドでメリッサさんが紹介していたゴーグルに近い形のサポートアイテムが装着されていた。
36種類という現地で紹介されてた機能には及ばないが、それでも20種類の各種センサーを内蔵。熱源感知も出来る上に、ドローンと映像をリンクしてその場にいるように見ることも出来る。しかも周囲にデータを表示までできるという代物だ。
このベイビーの、発目ちゃんの捜索能力をもう疑ってはいない。個性のズームも有用だしな。
俺が左から順にフィールドを精査する中で、右側の精査を任せられるのは助かる。
俺たちが今いるのが会場の端っこだから、ここから全域を見渡して一人も要救助者を見落とさないようにしなければ。
『イクノさん! 救護所の設営完了しましたわ!! ベッドも10個! 医療資材も十分に!』
「ナイス八百万ちゃん!」『えー、もともと控室があった場所に救護所本部を設営完了! 要救助者はそちらに運んでください!! 大怪我してる人がいたら慎重に! 道も欲しいな……!』
『幾野くん、それは俺がやろう。ヘリの離発着場と合わせて道を作る!!』
『助かります士傑のもじゃもじゃの人!』
『イグジスト、想像以上に場所が結構広い! 一時救出場を設定した方がいい!!』
『了解っす!! 悪い轟、控室からだいたい200m地点のあたりでいい、氷で簡単に壁作ってくれ! 前後左右から出入りができて周りからも見えるように……っ流石!! あそこ目印です! さっき話してくれた人確か物作れる個性でしたよね! 簡易ベッドお願いします! 運搬できる個性の人は救護所本部から医療資材をそっちにある程度運んで! ……あ、瀬呂!! その建物崩れやすい状態になってっから気を付けろ!! 周りの人と協力して!』
俺は次々と周りからの情報を集めて、周囲に指示を飛ばし続ける。
今の所、動きは悪くないように見える。要救助者もすでに半数以上は生徒が向かえており、このままいけば全員救助は行けそうな雰囲気だ……が。
当然、そうは問屋が卸さないよな。
BOOOOOOM!!!
「ッ来たか、敵襲……!!」
会場の壁が爆散し、さらにいろんなところで小規模の爆発も起きる。
間違いない、ヴィランの襲撃だ。
ただ、これも予期していた。俺も速攻で指示を飛ばす。
『ヴィラン襲撃!! 救護所付近に多人数と……ギャングオルカじゃねーかアレ!! っ、腕自慢の個性で救出に当たってない人は迎撃に!!』
ただ、ここで相手の名前を言ってしまったのはアレだったか。
出てきたのはヴィランに扮した何人かと、その中心にギャングオルカだ。流石にあれほど有名なヒーローなら俺だって知っている。クソ強いことも。
マジかよここまで難易度上げてくるか。
俺はヴィランが出てきた周囲を見渡し、俺が派遣できそうな戦力を確認する。
『……緑谷!! 轟!! 夜嵐!! お前ら全員迎撃に当たれ!! あと近くにいる真堂さん!! お願いします!!』
とりあえず救助者を運んできてくれてた緑谷と、近くにいた轟、夜嵐、真堂さんを派遣。
こいつらの強さは知っている。夜嵐の能力も聞いたし、真堂さんは一次試験でかなりの個性の使い手だったとA組から聞いてたからだ。
万能の緑谷。炎と氷の轟。風の夜嵐。土の真堂。
風、炎、水、大地……四つのヒーローが揃うとき……サイフラッシュが訪れる……!!
いや訪れないけど。少なくともこれでまず当面のギャングオルカ対策は何とかしてもらうしかない。
爆豪ちゃんも欲しかったけどな。あいつは遠い所で救助中だ。そのまま救助続けててくれ。
『飯田!! お前は守りの要だ!! 救護所にいる人を避難させろ! ヴィランが来たら迎え撃て!! 周りの人も援護お願いします!!』
そしてもう一人、頼りになる男に声をかける。
飯田。こいつはステイン戦で眼鏡の曇りを取った結果、「誰かを守る」というシチュエーションにおいて万全の能力を発揮するようになった。
I・アイランドでも警護ロボ相手に無双したし、林間合宿でも合宿所を守ったと聞いている。
今やこいつは盾だ。誰よりも早く救助に来て守りきる、A組の盾。
そして最後に、俺が一番信頼している男の名を呼ぶ。
『──────峰田ァ!!』
峰田。
お前なら、ここに来てるヴィランを無力化できるだろう。
何をしてくれと指示を出すまでもない。お前の成長を見せてやれ。
『要救助者ももう少しで全員救助できます!! 避難も進んでる! このまま行ける、気張っていこーぜ!!』
最後に俺は檄の声を飛ばす。
実際、未だ誰も声をかけていない放置されっぱなしの要救助者はもういなくなった。
であれば俺も捜索に力を入れる必要はなくなる。
「発目ちゃん、もう捜索は終わりでOK。救護所の方手伝ってきて!」
「了解です!! きちんと治療用のベイビーも持ってきていますからね!! イクノさんはどうするんですか?」
「俺は……後詰めしてくるよ」
随分と助けられた発目ちゃんにも捜索は終了の指示を出し、救護所の手伝いに向かってもらう。
そして俺も周囲への声掛けは続けながらも、ヴィランを止めるためにギャングオルカのいる方角に向かってワイヤーロープを射出した。