【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
仮免試験を終えたその日の夜、ハイツアライアンス。
俺は八百万ちゃんの部屋で、彼女と一緒にベッドの上に身を委ねていた。
……なんて表現してみたが話は単純。
浮気とかそういうんじゃなくて。
「ですから! イクノさんは特に女性への言葉選びが雑過ぎるのです!!」
「はい」
「外見を茶化すようなことを貴方に言われると女性はどう答えたらいいか迷ってしまいますの!」
「うん」
「貴方の性根の優しさはもうA組の皆さまも分かっているのですから、もう少し落ち着いてくださいませ!」
「言うは易し……」
「真面目に言ってますのよ!?」
「ごめん」
説教をされているというだけでした。
今日の二次試験の所で八百万ちゃんを流れで思わず『デカパイ痴女服』と表現してしまったのがたいそうおかんむりだったようで、こうして彼女の部屋で叱られているというわけである。
いや、ホントに今更なんだけど確かに言い過ぎたよね。しかも他校もいるみんなの前で。
雰囲気を柔らかくするためのジョークという意味合いもあったけど言葉選びを間違えました。
俺も素直に反省しているのでこうして大人しく怒られているというわけだ。
でもみんなの目があるロビーとかで怒らないのは八百万ちゃんの優しさだと思う。
俺の部屋に招いてもよかったんだけど普通に八百万ちゃんの部屋に引っ張ってこられて、んで彼女の部屋はその面積の9割を豪華なベッドで埋め尽くされているので、必然としてベッドの上で俺は正座させられているというわけだ。
ふわっふわだから全然足痛くならねぇわこれ。正座の意味。
あと髪を下ろしてタートルネックを着た八百万ちゃんがエロすぎてかなり自制心を試されているところあります。
「まったく……葉隠さんという素敵な彼女ができたのですから少しは落ち着かれるかと思えば、彼女まで染めてしまって。どうしてイクノさんはいつもそうなんですか?」
「俺にもこうなってしまった理由が分からない。我思うゆえに我あり……」
「哲学討論ではありませんのよ!? ……ちょうどいい機会ですわ。以前より気になっていたことがあるのでそこも問い詰めさせていただきます」
「ひぇい。なんでしょ」
「最近のわたくしへの態度です! 林間合宿以降、どうも他の女子の皆さまと比べてもわたくしにだけ無茶振りと茶化しが多くありませんか!?」
「あー……そうかな? そうかも」
「無意識でしたの!?」
八百万ちゃんから更に指摘が入り、ここ最近の彼女への態度について責められた。
そういや確かに、なんか林間合宿辺りから俺、八百万ちゃんに結構冗談言いまくってるかも。
病室でもしこたまおっぱい揉むとか言ったし。女装大会でも無茶振りしたし、仮免試験でもそうだったし、日常でもなんかこう……ジョークを飛ばすハードルが下がってるというか。
なんでやろ。俺もその事実に改めて気づいて、理由を探す。
「んー……なんでだろう。真面目に考えるとこれって言う理由は無くて。あ、勿論八百万ちゃんのこと嫌いとかじゃあ全然ないよ? 大好きだよ?」
「葉隠さんに申し訳ないからその表現はやめてくださいまし!? いえ、そういう感情ではないのもわかってはいますが……ここ最近のわたくしに何か思う所がございましたか?」
「いや、別に否定的な感情じゃなくて、むしろ好意的な感情というか」
「……はぁ」
ちょっと俺の中で考えを整理して、分かりやすく伝えることにした。
「何ていうか……俺ってどうしても性根がガキだからさ。信頼した相手にこう、悪戯とか冗談とかしちゃうんだよね。峰田なんて見てれば分かるでしょ? 俺欠片も遠慮せず茶化すじゃんあいつを」
「ええ……お二人の仲は勿論、見ていればわかりますが。それが……?」
「つまり、信頼できる相手であればあるほどそういう冗談言っちゃうというか。緑谷とか、最近は轟とかだってそうだし……A組みんなに対してもう遠慮しなくていいなって勝手に思ってるところがあって。で、その中でも八百万ちゃんが最近、ホントにこう……信頼できるようになってきたから、変な形で甘えちゃってるんだなきっと」
「し、信頼……!? 冗談が信頼の証でしたの!?」
「難儀なヤツでごめんね」
ベッドをぎゅっときしませながら俺は何度目になるか分からないお辞儀を繰り出す。
「体育祭の頃は中々自分の力を発揮できてなくて迷ってた頃もあったけどさ。期末試験で吹っ切れてから……八百万ちゃんすごいじゃん。I・アイランドでもめっちゃ助けられたし、林間合宿なんか発信機を脳無につけたのはマジで心の底からすげぇ!! って思ったしさ。今回の仮免試験だって、自分の出来る事しっかり分かって全部やれてて、試験で最高得点だったんでしょ? 流石としか言えない」
「急に褒めてきますわね!?」
「褒める所しかないんだもん。で、そんな風に八百万ちゃんが成長して頑張ってる姿を見て……なんか俺ん中で、認めるってんじゃないけど、信頼できる相手だーって勝手に思っちゃってたのかもな。それで距離感を詰めてジョーク飛ばし過ぎてたところあります。なんかごめんね……」
「あ、いえ、そ、そういう事であれば!? むしろイクノさんに高い評価を頂いていたことは嬉しいのですが……ううん、言葉に詰まりますわね! 本当にこういう所ですよイクノさんは!!」
「こうして叱られるのも真剣に俺の事を想ってくれての事だから実は心の中では嬉しいまである」
「ポジティブの塊なんですの!?」
俺の想いをつらつらと吐露した。
シンプルに言えば、コイツいいやつだなって思った相手に俺は遠慮がなくなるのだ。
自分で言って改めて思うけど、俺って寂しがり屋の甘えたがりなんだと思う。信頼できる人に対しては、ガキが気になる子をいじめちゃうように、俺の場合は茶化しが多くなってしまうのだ。
A組みんなに甘えていると言ってもいい。その中でも八百万ちゃんへの信頼が最近は高まってきてるので、それが言動に現れてしまっているのだ。
しかしそれで八百万ちゃんが嫌な思いをしているとなればそれはよくない。距離感間違えちゃったかな。
「うん、八百万ちゃんへの態度はしっかり反省します。今後はちゃんと距離感考える」
「いえ……! その、わたくしも決して嫌ではなかったと言いますか……事情を聞ければ納得もありましたので……」
「天使か? 結婚しよ八百万ちゃん?」
「そういう所ですわよ!? 葉隠さんに申し訳が立たな過ぎますわ!」
「どうして俺は口が先に動いちまうか真剣に俺も分からないところあります」
「もう! ……本当に、イクノさんはイクノさんですわね」
「えへへ」
「……はぁ。もう、叱り疲れてしまいましたわ。今後は時と場合を考えてからかってくださいませ」
「落としどころが優しすぎる……」
「今日の件はラインを越えましたが、普段はそうしたムードメーカーなところも貴方の良い所ですもの。理由も聞けてすっきりしましたわ」
「天使か? おっぱいにダイブしていい?」
「どうしてそこでアクセルを踏みますの!?」
しかし八百万ちゃんは時と場合を考えれば構わないと言ってくれた。
そういう優しい所だよ八百万ちゃん。ママみが感じられてしまっていけません。夜は髪も降ろしてるからそういう色気が凄いよね。
既に彼女がいるので鋼の意志で何もしないけど俺がフリーだったらここからR18シーンに入ったっておかしくなかったんだからね?
そもそも男子を自分の部屋に連れ込んで一緒にベッドに座ってること自体だいぶアレだからね? 流石に今は言わないけど。
この後透ちゃんの部屋に行って何してたかの言い訳と仮免合格の運動をしてこなきゃ。
「ではこれでお説教は終わりです。イクノさんには良い所がいっぱいあるのですから、どうか自制も覚えてくださいませ」
「善処させていただきます」
最後にぺこりと頭を下げて、俺は八百万ちゃんのベッドから降りて部屋を後にした。
どうして人は争いなどするのだろう(賢者)。
俺は八百万ちゃんの部屋を後にして、透ちゃんの部屋に行って、叱られた内容を伝えて、それはセンちゃんも悪いよねと言われて、そうだねと答えて、でも今日の試験はみんな合格してよかったねと喜びあって、哲学討論(比喩表現)して、流石にお互い試験の疲れもあったのでほどほどにしておいて、ウェットタオルとか使って身嗜みを整えて、透ちゃんの部屋から自分の部屋に帰っていた。
エレベーター使うと音でバレるので外壁の中を個性で登って移動しているところだ。
腕時計を見ればそろそろ12時を回る。もう消灯時間だな。
説教タイムもあったからちょっと夜更かししすぎた。みんなもう寝ているころだろう。
「ん…………?」
しかしそんな時間に、何故か扉が開くような音が耳に入った。
なんや? 誰か部屋の外に出てんのか? でも12時近くだぞ?
ここでもし外出でもしようもんなら寮長の監督責任にもなります。申請無しで門限破るのはだめ。
「誰だぁ? 試験合格直後だってのに」
俺は仕方なくウォールハックを発動して、音の原因を探る。
最近はウォールハックの調整がマジで細かいところまでできるようになったからな。みんなの個室は覗かないようにして、通路や公共スペースにいる人影を探した。
ふむ。
建物の中には誰もいない。
「ってことは外か……って、おいおい」
そしてハイツアライアンスの外に目をやれば、今ちょうど玄関を出て二人で歩いていく爆豪ちゃんと緑谷を見つけた。
ちょっと外の空気を吸って、って雰囲気でもない。爆豪ちゃんの方が学園施設に続く道をまっすぐ歩いている。
何やってんだあいつら。深夜のデートか。
全く仮免合格したからってはしゃぎ過ぎだぜ。*1
「仕方ねぇ、追うか」
俺は外壁から体を外に出して、そのまま飛び降りる。
地面に無音で着水してそのまま地中に潜り、二人の後を追って歩き始めた。
途中で出てって二人とも止めたってよかったけどな。
特に爆豪ちゃんの方がなんか……ただの散歩とかそういう雰囲気ではない。ガチの神妙な雰囲気だ。
なら途中で止めるよりは、行くところまで行かせて何したかったのか確認してから止めたって遅くはないだろう。
(結構歩くな……)
夜風が響く中を二人がただ歩き続ける、それを地中から追いかける。
十数分も歩いて辿り着いたのは……グラウンドβ。
俺らが入学して最初の戦闘訓練で使ったところだ。そのビルの前。
緑谷と爆豪がこの学校で初めて戦った場所。
「初めての戦闘訓練でてめェと戦って負けた場所だ……ずっと気色悪かったんだよ。無個性で出来損ないのハズのてめェがどういうわけだか雄英合格して、どういうわけだか個性発現しててよォ」
独白のように爆豪が話す声に、俺はもう途中から顔を出すわけにはいかなくなった。
これは、ただの門限破りではない。
少なくとも爆豪にとっては、何かのケジメをつけるかのような。
「……ヘドロん時から……いや、オールマイトが街にやってきたあの時から……どんどん、どんどん……しまいにゃ仮免まで受かりやがってよ、俺より高得点叩き出しやがって。なんだこりゃあ? なぁ?」
「仮免の点数は実力ってよりも……」
「黙って聞いてろ。……ずっとムカツイてたぜ。けどよ……神野の一件の後、てめェのオールマイトに対しての態度で何となく察しがついた。ずっと考えてた────」
ううん、二人の過去の話から始まって、爆豪としては緑谷にコンプレックスを抱えていたものがとうとう爆発したって感じか?
その辺の関係もここ最近は割と改善してたように見えたんだけどな。少なくとも入学当初ほど爆豪も頭ごなしに緑谷を否定しなくなったし、お互いに認め合う所があったように見えたんだが……。
少ししたら溜まるのかコイツのこじらせ。またストレス発散に組手でもしてやるか? んー、爆豪ちゃんのトリセツが欲しい。難儀な性格してるよなコイツも。
……なんて、俺のそんな呑気な感想は、次の爆豪の一言ですべて吹っ飛んだ。
「───オールマイトから貰ったんだろ。その『個性』」
何だって?
「ヴィランのボスヤロー、あいつは人の『個性』をパクって使ったり与えたりするそうだ。信じらんねぇが……幾野の無敵の個性狙われてたことや猫ババァの一人が個性の消失で活動休止したこと、脳無とかいうカス共の個性複数持ちがいることから考えて……信憑性は高ぇ」
以前俺が爆豪から聞いた話だ。相手には個性を奪う個性がいる。俺の個性も狙われていた。
「オールマイトとボスヤローには面識があった。『個性の移動』っつーのが現実で、オールマイトはそいつと関わりがあって、てめェの『人から授かった』っつー発言と結びついた」
それは初めて聞く話だ。緑谷の個性が『人から授かった』もの……だということを爆豪は聞いていたということか?
分からない。俺も頭が混乱している。
緑谷はホントは無個性で……オールマイトから、力を託された……?
だからオールマイトはああして限界を迎えたって話、なのか?
「オールマイトが力を失って、最後に言った言葉……『次は君だ』。てめェだけが違う受け取り方をした。オールマイトに聞いても答えちゃくんなかった……だからてめェに聞く」
爆豪が次々と言葉を投げて、そして緑谷は────黙ったままだった。
否定をしなかった。
「否定をしねェってこたァ……そういうことだな、クソが……」
それは肯定と同義だ。
全く心当たりがなければ言えばよかった。「そんなの知らないよ」って。爆豪だって今の話は全てはっきり根拠があったわけじゃない。否定されれば、多分深追いはしなかった。
けど、緑谷の生真面目さが……嘘を、つかせなかった。
いや、相手が爆豪だからこそかもしれない。
きっと誰よりも深く付き合ってきた相手だから。
俺は、話を聞いてしまった。
「聞いて……どうするの……?」
「……てめェも俺も、オールマイトに憧れた。なァ。そうなんだよ。ずっと石コロだと思ってた奴がさァ、知らん間に憧れた人間に認められて、強くなって……だからよ」
「戦えや。ここで、今」
「何で!?」
爆豪の胸の内を聞いて、そして話は一気に結論に舵を取る。
「待ってよ何でそうなるの!? いや……マズいって! 自主練とか、トレーニング室でやるべきだよ……! 今じゃなきゃダメな理由もないでしょ!!」
「
爆豪は、気持ちが収まりがつかないんだ。
だからここでそれをはっきりさせたい。
オールマイトに憧れた二人が、いつの間にかオールマイトに力を託された緑谷に対して。
それを上手くは表現できないけれど……確かめたいんだと、俺は感じた。
俺は、なにをしてやれるだろうか。
いや、何もできない。
この二人の関係に、俺はいらない。いないんだ。
爆豪の葛藤に、緑谷の立場に、俺はどんな答えも持っていない。
「……っ、て、ええ!? い、幾野くんまで!?」
「幾野……チッ、乳繰り合ってたんじゃァねェのかよ。盗み聞きしてやがったなクソが」
俺は地中から二人の前に姿を現した。
二人の顔を見る。怒りとも、諦めとも、羨望とも言えるような爆豪の顔と、戸惑いと罪悪感の混ざったような緑谷の顔を。
「悪い。全部聞いてた」
「……っ、幾野くん……で、でも! 今はかっちゃんを一緒に止めて───」
「止めねぇ」
「ええ!?」
俺に爆豪を止めるようにお願いしてきた緑谷に、首を横に振って断った。
もし爆豪の感情が暴走して視野が狭まってるようであれば、轟や飯田みたいに止めてやる選択肢もあっただろう。
けど、俺が今聞いた話には、爆豪なりの筋が通っている物だと感じた。
だから、爆豪の想いを否定しない。
理由を聞いて、立場を聞いて……この私闘に、俺は意味があると捉えた。
寮長とはいえ、ここで爆豪を止める理由がない。緑谷もだ。
二人ともダチだと思っているからこそ。俺はどちらの味方もしない。
でも、それでも。
隣にはいてやりたい。
「ガチでやっていいよ、遠慮すんな。死にかけたら俺が止めてやる」
「幾野くん……!!」
「ハッ……たまには物分かりがいいじゃねェか幾野。いいのかよ、寮長サマがこんな時間に喧嘩するバカを止めなくてよォ」
「止めらんねーんだ、お前らを。……けど、ここにはいさせてくれ。邪魔はしねぇからさ」
「なんで……!」
二人の戦いを見守るために、俺は一歩下がって腕を組んだ。
完全な傍観者になる。
ただ、
もちろん心配はある。こいつらが万が一の過ちを犯さないように、気は張り続ける。
勢いでどちらかが死にかける様な攻撃をしちまったら、距離を『無視』しての『ワープ』を使ってでも止めてやる。
けど、それ以外は手を出さない。
爆豪の想いも、緑谷の現状も否定しない。
それでも、俺はそんなお前らの隣にいたい。
「……聞かせちまったからなァ。立会人もできた……デク、怪我したくなきゃ構えろ。蹴りメインに移行したんだってな?」
「くっ……かっちゃん、マジか……!!」
そして俺が一歩下がったのを開始の合図のように、爆豪が腕をストレッチしながら緑谷との距離を詰めた。
緑谷もまた、口では嫌がりながらもその体は俺と何度も組手したときのように、腰を落として構えを取った。
二人がどうしようもない気持ちをぶつけ合う。
理由のある、意味のない戦いが始まった。
※爆豪ちゃん内心解説
原作ほど緑谷相手に拗らせてはいないんですが、やはりオールマイトと緑谷の個性の関係は気になってました。
でも仮免試験前にそれを緑谷に指摘して調子崩させんのは違うなってなり、無事にお互い合格したので問い詰めることにしました。
ですが二人で夜道歩いてる間に緑谷にムラムラ(怒り)しちゃって原作に近い流れになり、自分の気持ちをぶつけてます。
相手が緑谷だからこそ門限破りにも喧嘩にも付き合わせて生の感情を零してるんですよね。甘えてる。可愛いね♥
センちゃんにバレる可能性も考慮してましたが乳繰り合いは消灯時間前に終わることを(クラスみんなが)知ってるので消灯時間過ぎてから緑谷と寮を出ましたがデカパイ説教のせいで時間がズレでたまたまバレたという裏設定。