【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
体育館γにA組の皆とビッグ3が集まる。
俺はねじれちゃんパイセンにほっぺたぷにぷにされながら、A組の皆の様子を見る。
「幾野のいとこなんだよな……」
「僕、ちょっと前に先輩の個性見てる。幾野くんと同じで物に潜り込んで動けるのは確定してるよ」
「全員を相手取っても負けない自信があるというなら似たような個性であることは間違いないだろう」
「幾野と同じで無敵か? ならちっとルール打診しねぇとな」
「物理はともかく個性なら効くかな? 効くならワンチャンあらん? 私の無重力刺されば……」
「速攻が必要ね……」
「今やるか……? 今ならむこう向いてるぜ……?」
ちにうえていた。
うわー怖い。もう全然欠片も油断してないわA組。
まぁなにせ俺のいとこだからな。仕方ない所はある。
俺が普段の訓練でどんだけみんなのサンドバッグして無傷でいるかって話よ。
警戒するのも当然というところだろう。
「ミリオ……やめた方がいい。こいつらA組は幾野の個性と普段から接している。お前の個性はある程度予想できるだろう。峰田だっているんだ」
「天喰先輩俺の後ろから喋らないでください」
「形式的に『インターンはこういう具合でとても有意義です』と語るだけで十分だろう……自信まで失わせることはない」
「メリーさんかな?」
「あ、聞いて聞いて知ってる? 昔挫折してヒーロー諦めて問題起こしちゃった子がいたんだよ知ってた!? 大変だよねー通形、ちゃんと考えないと辛いよーこれは辛いよー?」
俺の後ろで陰キャ爆発させてる天喰先輩が、お前に勝てるわけないんだから自信失わせるなよ、とミリオ兄さんにアドバイス。
ねじれちゃんパイセンも同意のようだ。俺のほっぺ無限にぷにぷにしながら話を続ける。
まぁ、正直な所二人の言うこともわからんでもない。
ミリオ兄さんの実力を知ってる峰田もまぁしんどそうな顔だ。それでも諦めないのは偉いけど。
今のA組がどう頑張ってもミリオ兄さんには勝てない。
俺がそうだから、とかそういう話ではない。
「……その件ですが、僭越ながら一つ提案があります」
「ん! 何かなメガネ君!? 委員長っぽいよねキミ!!」
「A組委員長の飯田です。通形先輩、貴方は幾野くんのいとこだと聞いています……貴方の個性に僕たちは心当たりがある。血が近ければ個性は似通う物ですから」
「ほほーん? いいよ、続けて?」
「で、あるならば……貴方が物理攻撃に無敵であるとも考えられます。そこで提案ですが、かつて僕たちが幾野くんと戦った体育祭の時のように、時間制限を設けさせてください」
柔軟を終えたミリオ兄さんに対して飯田が一つ提案をした。
なるほど、あいつらにとってはそこは譲れない点だろう。
ぶっちゃけ俺と同じなら単純な無双モードで終わってしまう。A組はそれから実力を感じ取ることはするだろうが、それは俺が普段見せている物と大差ない。
であれば、時間制限を設けることで。逃げ切る事も視野に入れて、その時のミリオ兄さんの動きも見れる。
妥当な提案だろう。爆豪ちゃんですらそこに口ははさんでいない。場外という条件は流石にこの体育館じゃ付けられないしな。
むしろ飯田が言いださなければ俺から提案していたまである。
「10分。それを超えて僕たちのうちの誰かが立っていれば、その時は僕たちの勝利ということで如何ですか」
「ははは!! そりゃそうだよね!! 普段からセンに揉まれてるんだ、警戒するか!! ああいいよ!! 時間制限をつけよう!!」
「有難うございます!」
「ただし3分でいいよ!! 10分は長すぎてイレイザーヘッドに怒られるかもしれないしね!!」
「「「……はぁ!?!?」」」
そして飯田が述べた体育祭の時と同じ時間制限、10分というそれにミリオ兄さんは快諾した。
しかしその上で言い放ったのは、3分でいいという挑発。
これには血の気が多い男子勢がキレ気味にガンを飛ばした。
あっはっは。ミリオ兄さんらしいぜ。
確かにな。俺が相手だったら3分と言わず10分でも今なら逃げ切れる奴らも何人かいる。ダイブワイヤー無しでって言う条件でなら。
ああ、けれど─────
「───1分でも長すぎるくらいだ」
「全く同意。人が悪いよミリオ兄さんは」
天喰先輩の呟きに、俺が小声で同意を示した。
俺の従兄だぞ? 弱いわけがないだろうが。
「うん!! じゃあセン、3分測ってほしいよね!! センのスタートの合図で開始!! フィールドはこの体育館内ならどこでも!! 構えなよ、ひよっこたち!!」
「────絶対逃げ切ってやる!」
「ケロ……センちゃんと同じ無敵か試してみるわ」
「やったるー! いとこだからって容赦しないぞー!」
「ヴィランとの戦いだって経験してんだ……俺らだって強くなってる!!」
「ブッ殺したらァ!!!」
俺がストップウォッチを準備している中で、各々が体育館の中央に立つミリオ兄さんに構え出す。
距離を取って逃げの一手を打つもの、適切な間合いで攻撃のチャンスを窺うもの、遠距離から絡め手を狙うもの。
それぞれが先日覚えた必殺技で、自分に有利な間合いで構えだす。
「……イクノ。オイラの骨は拾ってくれよな」
「ああ。久しぶりに揉まれてこいよ峰田」
ストップウォッチを手に構えて、最後にお陀仏を予期する峰田に合掌してから、俺はカウントから高らかに開始宣言をする。
「じゃーいくぞー。3……2……1……スタート!!!」
「がッ……!?」
「ゲホッ!?」
「んん゛☆」
「ゲロッ!?」
「ん゛っ!?」
「────っ」
「ミ゛ッ!!」
遠距離から攻撃を狙っていた轟、耳郎ちゃん、青山、梅雨ちゃん、そしてその傍にいた透ちゃんと八百万ちゃん、芦戸ちゃんがやられた。
一瞬。
まだストップウォッチのタイマーは1秒も経っていない。
だがミリオ兄さんならこれくらいは朝飯前だろう。7人で済ませたというのが現実かな。
でも俺の彼女腹パンしたのは許せねぇよなぁ!?
「な、んでっ!?」
「嘘だろ!? 消えたぞ!?」
「ってか裸ァ!?」
「この人も初手ちんちんかよ!? 幾野の血縁だなマジで!?」
「悪いね!! 俺の個性ちょっと調整難しくてさ!!」
「何した!? 幾野だってそんな瞬間移動できねぇぞ!?」
「すり抜けるタイプの個性じゃないのか……!?」
失礼なことを言うんじゃない上鳴くん。
俺と違ってミリオ兄さんは見せることに快感を得るタイプじゃないからな。やむなくなのだ。
しかし個性を使うとどうしてもジャージである今は服が脱げる。
そして、今脱げたジャージを履き直しているミリオ兄さんの体を見て、みんなが息を吞んだ。
「なんて筋肉──ッ!? まるで山……!!」
「鍛えたからってああはならねぇだろ!? 怖すぎるわ何だあれ!?」
「ミリオ先輩2年前よりマジで仕上がってるッスね!? もうちょいお慈悲くれてもいいんスよ!?」
「ハッハッハ!! 死ぬ気で鍛えたからね!! でも峰田くんの言う通り、少しは手加減しないと何されたか分からないままかもね!! よし、じゃあ次は肉弾戦だ!! 来いよ力自慢!!」
ミリオ兄さんはいつもの漫画顔でハハハと笑って、今度は近接戦に切り替えて構えた。
筋肉が軋むような音すら上げる。
ミリオ兄さんの筋肉が世界で一番磨き上げられていると俺は断言できる。鍛え続けているのだ。
俺という従弟がいたことで、ミリオ兄さんは己を高めることに全てを費やした。
俺に背中を見せてくれるために。
俺に、負けないために。
俺が兄さんといつだって呼べるように。
それに感化され、共に強くなったのが天喰先輩だ。
あちらもジャージに隠れてはいるが筋肉が並大抵ではない。プロヒーローの体が贅肉に見えてしまいかねないほどの絞り鍛え上げた筋肉を搭載している。
俺と峰田のように個性の強みを生かすだけではなく、この二人は己の肉体すら苛め抜いた。
「っ……何かカラクリがあると思うよ……幾野くんの個性の使い方が多岐に分かれてるように、先輩にも応用できる部分があるんだ……分かってる範囲から仮説を立てて勝ち筋を探るしかない! まだ無敵かどうかも確定してないんだ!」
「オオ! サンキュー謹慎明け緑谷! そうだよな、幾野っつー理不尽に毎日鍛えられてんだこっちも!!」
「移動は一瞬だが幾野みてェに掴んだら終わりって感じでもねェ……個性の調整は難しい……攻撃は拳か蹴りで来る……見えなくなったらとにかく回避行動か反撃……加減してっから顔はねェ……腹……」
「地中から飛び出す瞬間移動か……ならば俺は逃げを試みる! 黒影、飛ぶぞ!」
『アイヨッ!』
「僕は駆けまわろう……3分、十分すぎる時間だ!! 新技を試す!! 『レシプロターボ』ッ!!」
「フルカウル、10%……!!」
ミリオ兄さんが反撃を待つ中で、緑谷の言葉でみんなが落ち着きを取り戻す。
まぁな。ガチ組手の時の理不尽さで言えば俺といい勝負。そうしたときに最後まで欠片も諦めずに粘るのが、自分の出来ることをするのがA組の強さだ。
爆豪ちゃんはとにかく冷静に相手の癖を、データを集めている。
常闇は黒影に体を抱えてもらって飛行する『黒の堕天使』で空中で移動することで追撃を逃れんとして。
飯田もまた進化した最高速度『レシプロターボ』で3分間逃げ切る構えだ。体育祭を思い出すぜ。
緑谷もフルカウル10%に。切島も体を固め、他のメンバーも各々が己の個性を活かすように構え直した。
「いいねいいね!! さあじゃあ殴り合うか!! 手を抜いて本気で行くよ!!」
全員が構え終えた途端に、ミリオ兄さんが走り出して襲い掛かる。
だがその速度は、俺が素の力で突撃する時の数倍の速度で、矢のようにA組に解き放たれた。
「なっ、ワープ無しでも速い……!? くっ、シュートスタイルでっ!!」
「まだ動きに無駄が多いよね!!」
ミリオ兄さんが最初に狙ったのは緑谷。
フルカウル10%の速度に
これは組手の練度が余りにも違った。爆豪ちゃんのように爆破での加速を用いなくとも、緑谷の10%ならミリオ兄さんは捕捉できるのだ。
俺がオート個性を使わないと戦えない閉所の峰田の速度でさえミリオ兄さんは素で捌き切れる。
その証拠に今、峰田が全力で投擲したもぎもぎネットボールも一気に距離を空けて回避した。
まぁもぎもぎにぶつかっても俺と同じで個性で何とでもなるんだけどなあの人。
「次はメガネ委員長くんだな!! いい速さだけど機動がまだ直線的だ!! センにもそこをつかれてたよね!!」
「なっ……!?」
移動のみ、『透過』によるワープを使って飯田の目の前に現れた。
飯田の速度は明らかに体育祭の時より速くなっている。今の俺では体育祭の時のように簡単には捉えられなくなっているが、ミリオ兄さんには関係ない。
腹パンで眼鏡が吹っ飛んだ。ご愁傷様。
「君は確か無重力の子だったね!! 許容量は伸びたかい!?」
「んに゛ゃっ!?」
「テープの子! センが移動法教えてもらってたっけ!!」
「テープ間に合わ……ぐえっ!?」
「尻尾の使い方はまあまあだけどまだ体に鍛える余地があるぜ!!」
「ゴホッ!?」
次々とA組が沈んでいく。
飯田をのした後はワープすら使っていない。素の肉体で切島の硬化すらぶち抜くほどの威力の拳をそれぞれに腹パンでたたき込み倒していく。
うーん。流石だわミリオ兄さん。
さて、そして試合が始まって30秒。
最早残っているのは爆豪ちゃん、峰田、常闇だけになっていた。
峰田は一人だけ岩壁が密集した地形に逃げ込み、そこで隙を窺う。
爆豪ちゃんは距離を空けてずっとミリオ兄さんの動きを観察していた。全身から汗が零れるほどの集中を見せている。コイツだけは勝利を諦めていない。
常闇は空中を飛び続けている。残り2分半であれば飛び続けることも可能だろう。
だが。
「空に逃げるってのは考えるよね!! でもごめんなここ室内なんだ!!」
「なっ!? 急に上から────ガハッ!?」
ミリオ兄さんが一瞬透過で沈み込んだ後、凄まじい精度でワープの方向を調整して連続ワープ。
床から壁へ、壁から天井へ一瞬で移動したミリオ兄さんが、天井からまるで槍でも降ってくるかのように超スピードで常闇に向けてライダーキック。
それが直撃した常闇もまた床に叩きつけられてダウンした。
これであと二人。
「さて……次はどっちにする? 一緒に来てもいいよ!!」
「……クソブドウ」
「ああ……どうせ無駄だけどやれるところまでやったるぜ。爆豪、オイラにタイミング合わせ」
「ちったァ粘って死んで来いや」
「なんでだよォ!?」
爆豪ちゃんはここでもまだ
それにツッコむ峰田だが、結局タイミング合わせても一緒だということもわかっちまってるので、泣きながらミリオ兄さんにカモンカモンと手で招いて挑発した。
「はっはっは!! 体育祭優勝者はメインディッシュに取っておこうか!! じゃあ峰田くん!! 久しぶりの訓練だ!! 懐かしいよね!!」
「オイラだって成長してんスよミリオ先輩……!! 前よりは堪えて見せますよオイラぁ!!」
峰田が脚に着けていたもぎもぎを変形させ、脚を覆うブーツのような形になる。
もぎもぎの玉を脚の裏にくっつけて飛び跳ねる『跳峰田』よりも脚の側面やつま先も使えるので、さらに俊敏な動きを繰り出せるそれだ。
同時に両手にももぎもぎグローブを装着。手でも飛び跳ねつつ、ミリオ兄さんに反撃の機会も窺っている。
時間を稼ぐという意味であれば、ミリオ兄さんの速度を唯一経験している峰田が一番だ。
「さぁそれじゃ行こうか!! 峰田くん相手なら俺も
「この地形ならワンチャン逃げ切ってやりますよォ!! 『跳峰田・スクランブル』ッ!!」
峰田が岩壁ゾーンを超高速で飛び跳ね回る。
その速度、スピードで一番と言われるホークスですらこれほどの速さは捌き切れないだろう。俺には峰田の残像しか見えない。
だがミリオ兄さんは、それにも果敢に突撃する。
見る、というよりも視る。
俺達と訓練していた中学時代からさらに伸ばした、ミリオ兄さんの先を読む力。
それが峰田の動きの一瞬にも満たない隙を掴んで離さなかった。
「……っはァ!! いやー緊張したよね!! この一瞬しか隙がないの流石だよ!!」
「…………マジ勘弁んっぶぇ!?」
20秒ほどだろうか、峰田がミリオ兄さんの瞬間移動を交えた攻めを逃れ続けていたがとうとう捕まり、腹パンを受けて沈んだ。
いい勝負ではあったけどな。一瞬だけ峰田が飛ぶ方向の地面が緩んでおり、跳躍に隙があった、ようだ。後から見て分かったレベルだ、俺にとっては。
でもミリオ兄さんはその隙を捉えて掴んだ。どこまで先を読めてるんだよ兄さん。
「さ、じゃあ最後に君だ。爆豪くんだっけ? センにも勝ったその執念、見せてもらうよ!」
「───────来いや」
最後に爆豪ちゃんに向き直るミリオ兄さん。ここまでの時間は50秒と言ったところ。
爆豪ちゃんも素の速度は大したものだが爆破による掌での加速のみだ。10秒はもたないだろう。やはり一分以内での決着か。
しかしあいつ、
考えれば考えるほどアツくなるタイプだよな。訓練でもたまにああなる。そん時の比じゃない量だけど。
それだけミリオ兄さんの脅威を理解してるって所か。真っすぐに相手の力を認めるようになったよなコイツも。
爆豪ちゃんが成長して俺も鼻が高いよ……。
「早速やらせてもら──────」
ミリオ兄さんが会話の途中でワープを使い、爆豪ちゃんの後ろに現れた。
ずっりぃ。意識を会話に集中させてからのこれだ。
そして兄さんが爆豪ちゃんの
一撃だろう。終わったな。肝臓まで割っちゃダメだよ?
「────────後ろ。右」
「───っおおッ!?」
しかし、爆豪ちゃんがそれを避けた。
……え?
────────え?
マジで? なんで避けられたんだアレ??
え? 今爆豪ちゃんなんか掌じゃないところで爆破してなかった?
「ウソだろオイ!? 環だって今のは避けられないよ!?」
「立って左……膝」
「……ッホォイ!? また避けたよヤバいね!? 楽しくなってきちゃうなオイオイオイ!?」
そして爆豪ちゃんがまるで煌くように体の節々から小規模の爆破を起こしてミリオ兄さんの攻撃を避ける。
ここまでで既に三発を回避。
ミリオ兄さんが隙を生むために再びワープを利用して前に回った、次の瞬間に再び後ろに回って拳を振るう。
なお、この時点で正直もう俺にはミリオ兄さんの動きは見えてない。
動いてから「ああ、そんな動きだったな」って分かる程度だ。遠くから見てるのに。
けど。
「見えなくなったら後ろ──────」
そこまで、爆豪ちゃんは避けきって。
でも、そこで限界が来たようだ。
「─────っガッ……!!」
「おおっとォ
爆豪ちゃんが力尽きて膝をついた瞬間に膝を腹に叩き込まれてダウンした。
げほっとむせて爆豪ちゃんが倒れた瞬間に俺はタイマーストップ。
ふむ。1分2秒。
このタイムには天喰先輩もびっくりだ。マジかよ爆豪ちゃん。
最後の粘りヤバすぎん???
「……うわー!! すごいなセンのクラスメイト!? あそこで粘られるとは思わなかったよね!?」
「……いや、俺も予想外」
最後に異様な粘りを見せた爆豪ちゃんに俺は感嘆の吐息を漏らし、模擬戦は終わりを迎えた。
「ギリギリちんちん見えないように努めたけど!! すみませんね女性陣!!」
ミリオ兄さんがジャージを再び身に纏い、腹を押さえてゲロりかけた表情のA組たちにワビをいれる。
いやまぁちんちんについては俺もやってるから大丈夫だろ。A組下ネタ強いから。
「幾野よりちんちんデカかったな」
「ゲハァッ!!」
俺は上鳴の呟きに血を吐いて倒れ伏した。
「おお! 意図せずセンまで倒してしまった! A組全員討伐完了だよね!!」
「あー……まぁ、そうな。入学初日や風呂で見ちまったアレと比べると……」
「やめてやれよォォォ!? いとことはいえイクノとミリオ先輩の体のつくり全然違うんだから手加減してやれ!?」
「あー……センくんそうなんや……」
「せ、センちゃん大丈夫だよ!! 私はセンちゃんくらいの大きさの方が好きだよ!!」
「大声ではしたないですわよ葉隠さん!?」
「グフッ」
「追撃入った」
「死んでる……」
「無敵の男にも弱点があったか」
透ちゃんからの援護という名のトドメを刺されて俺は地に伏した。
ちんちんのサイズでも兄さんに勝てねぇよ俺は……!!
メスボディなんだから仕方ねぇだろうがよ……! デカいわけねぇだろ……!
平均サイズはあるよ……! ミリオ兄さんがデカすぎるだけだよクソがよ!!
「さて……俺の個性強かった?」
「強すぎっス!!」
「センちゃんもだけどすり抜けるのやっぱずるいや!」
「イクノと違ってワープまでしてくるし!! どんな使い方してるんですか!?」
「すり抜けなくても強すぎて恐怖しかなかったわマジ!」
「フルカウルを個性無しで捌かれたの初めてだ……」
「レシプロターボすら捉えられるとは……まだ未熟!!」
俺の個性という前例があったとはいえミリオ兄さんの個性にみんな分からん殺し食らってたので口々に文句を垂れた。
うん、まぁね。俺とは違うベクトルの強さだよねミリオ兄さんは。
「個性は一つで『透過』なんだよね! センの個性と似てるだろ!?」
「あー……元々『潜行』と勘違いしてたけど『無視』ともちっと似てるかも?」
「すり抜けるって意味じゃどっちもチートだよね☆」
「地面に潜ったりしてたのはそれか。でもそれじゃワープしてたあの動きが分からなくない?」
「…………あ、もしかして」
『透過』という個性であるとミリオ兄さんが明かしてみんなが納得と、しかしワープについての首をひねったところで。
しかしそこで緑谷が一つひらめきを見せる。
「もしかして……個性を解除すると、通形先輩は『はじき出される』んですか?」
「おお!? 緑谷くん分析力すごいね!? 実はそうなのさ!!」
「いえ、幾野くんの個性でもそこで特殊な効果があったので……その」
流石緑谷。俺もミリオ兄さんも、個性を『解除』する瞬間の挙動がかなり特殊なことに気付いたようだ。
しかし俺の場合はトラウマともちょっと絡む話……だが、とっくに吹っ切った話でもある。
俺は地に伏した状態から立ち上がり、緑谷ににっこりスマイルを見せた。
「かまへん。言っていいよ緑谷」
「……うん。その、特殊な効果がもし『弾き出される』のであれば、地中に潜った時に個性を解除すれば、ゲームのバグみたいに地表にでてくるんじゃないかって……だから地中からしかワープしてこなかったんだ、と」
「ケッ。見てりゃ分かるだろうが。空中には出てきてねェ……来るなら地中からだ。消えた瞬間に後ろに備えりゃ回避が間に合う」
「緑谷くんも爆豪くんもすごいな!? 説明する必要なくなったな!! アッハハハ!! まァその通り!」
そうしてミリオ兄さんが自分の個性について説明を述べる。
俺に似た個性だが、余りにも調整が難しい事。俺のように雑に服ごと潜れない事。
そしてあらゆるものをすり抜けてしまうので、質量を持ったまま落下の感覚があるだけで、俺のようにウォールハックもできないし、常に発動し続けて調整することも出来ない事。
呼吸もできないし光も見えないし、透過している間は余りにも孤独であること。
「……聞いてっと幾野の個性のほうが使い勝手よさそうだな」
「無視できる範囲が広いもんな。最近は声飛ばしたり重さも無視出来たりしてるし」
「それなのにあれほどの強さ……ケロ、どれほどの鍛錬をすればそこまでたどり着くのかしら」
「まぁ……難しかったよね!! 中学時代は正直俺もビリっけつだったさ!! ……センに会うまではね」
そこでミリオ兄さんが個性を鍛えた経験……少し昔について語り始めた。
俺に出会ったあの頃を。
「えっと、セン。ここにいるみんなは
「うん。……みんな知ってる」
「そっか。いい友達だね! ……まァ、俺はセンのお兄さんみたいなもんだからさ。負けてらんないよね、弟にさ!! だから死ぬほど鍛えた!! センや峰田くん以上にね!! 幼馴染の環と一緒に!! その成果って所かな!! ここに入学してからは個性で後れを取らないために必要な『予測』も鍛えたのさ!! 経験が必要な『予測』をね!!」
そのミリオ兄さんの言葉で、A組の何人かはぐっと鼻を鳴らした。
いい人なんだよ、本当に。心から自慢できる兄さんだ。
俺が目指すヒーローに向けて、いつだって俺の目標でいてくれる。俺の個性に負けまいと、鍛え続けてくれている。
もちろんそれは俺だけのためではないのだけれど……俺はそこに、感謝しかなかった。
「色々前段が長くなったけど手合わせの理由がコレさ! 言葉よりも『経験』で伝えたかった!! インターンにおいては我々は『お客』ではなく一人のサイドキック!! プロと同列として扱われるんだよね!! それはとても恐ろしいよ……時には人の死にも立ち会う! けれど怖い想いも辛い思いもすべてが学校じゃ手に入らない一線級の『経験』!! 俺はインターンで得た経験をさらに力に変えてトップを掴んだ!! ので! 怖くてもやるべきだと思うよ一年生!!」
ミリオ兄さんの演説に、A組のみんながぶるりと震えた。
その言葉に、心構えにみんな感じ入るものが在ったようだ。
優しさの中に強さを。強さの中に優しさを。
誰よりも眩しく輝く太陽のような人が俺のいとこ、ミリオ兄さんだ。
やっぱすげぇぜ……ミリオ兄さん!!
「いやーそれにしても最後の爆豪くんは正直ビビったよね!! アレなんなんだい!?」
「……チッ。俺も実はよくわかってねぇ。アンタは幾野と違って服まですり抜けてねェ……繊細な調整が必要だって読んだ。だから攻撃の癖を少しでも読んで、攻撃何発かスカして頭に血ィ上らせた所に全力で一撃ブチ込めばすり抜けてねェ体のどっかは焼けるかと思って掌に汗溜めて待機してたけど……その影響か知らねェけどなんか手じゃねェところでも爆破できた……ッス。俺もこっから掴んでく……ッス」
「君のその分析力すごいね!? あの一瞬でよくもまぁ!! こりゃ相手するセンも大変だなアハハハハ!!」
模擬戦は終わってみんなで教室に戻る中で、爆豪ちゃんの最後の回避に興味を持ったミリオ兄さんが話しかけた所、爆豪ちゃんの方も兄さんの強さと在り方に思う所があったのかクソ下水じゃない最低限の敬意は籠った口調で話してた。
マジで最後の爆豪ちゃんの回避は何だったんだアレ。緑谷とのガチケンカの時にはそんな事できてなかったよな?
相手が最強だってわかったからこそ出た火事場のクソ力みたいなもんだろうか。
今後の訓練でもアレ出せるように手伝ったろ。そうすりゃ緑谷も奮起してさらに強くなるだろ。
「「「有難うございました!!!」」」
着替え終わり、最後に教室でみんなで御礼を言って、ビッグ3との初の邂逅は終了した。