【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
2時間後。
俺は八斎會の事務所の精査を終えて……疲労困憊し、マウントレディに頭を抱かれて胸に顔を埋めて癒されていた。
「……幾野くん、大丈夫?」
「……まぁ、なんとか。すみませんマウントレディ……もうちょっとだけ、こうしてもらってていいですか」
「ええ。ゆっくり休んで」
俺に心配そうな目を向けてくれるマウントレディ。頭を優しくぽんぽんと撫でてくれて、俺はそれに安心を覚える。
先程まで、俺は随分と精神がえぐられるような光景を見すぎて疲れ切ってしまったのだ。
思わず個性を使って事務所に飛び込もうとしてしまったが、それはマウントレディが止めてくれた。
許せねぇわ治崎。マジでよ。
……あんなこと、正気じゃできねぇよ。
「……虐待などという生温いものではなかった。治崎がやっていたのは少女エリの殺害と再生……ヤツの個性『オーバーホール』がそれを成すのか。まさか絶命しても修復するほどとは……肉片や血液を集めて……」
「反吐が出るわ。……サー・ナイトアイ。これは火急の案件よ。早急に
「分かっている。なぜ治崎がそんな行為を行っているのかもある程度アテがある……大至急近隣の有力なヒーローに協力を要請する。私もエリの世話をする構成員の未来を視て解析しきれなかった地下への突入方法を探る。それが分かれば迅速に作戦を練る」
「……俺も、突入作戦には呼んでくださいよ。サー」
ある程度メンタル回復して、一つ頭の中で切り替えてからマウントレディの胸元から頭を上げて、サーを睨む。
本当に嫌なものを見た。虐待なんてモンじゃない。泣き叫んでも切りつけ、分解し、肉片にして殺すほどのそれをしてから……再生する。
その再生も傷が残る程度にして、簡単には逃げ出せないようにしていた。
地獄だ。エリちゃんにとってあそこは地獄でしかない。
一日も早く助け出さなければならない。
……俺の個性なら、潜入まではできる。
ミリオ兄さんも連れて行けば、二人で一瞬でエリちゃんのいる寝室まで行くことは可能だろう。それは容易い事だ。
だがそこからエリちゃんを脱出させることが難しい。俺もミリオ兄さんも、自分以外の人をすり抜けさせることができない。
あれ程広い地下があるとは思っていなかった。地上なら俺が家具や壁などを『自分の物』として認識させて、体育祭で轟を氷山に落としたようにエリちゃんをすり抜けさせながら脱出させることも出来るだろうが……あそこまで深い地下にあるとそれは厳しいだろう。
つまりは他のヒーローとも連携して正面突破するしかない。
その時に俺とミリオ兄さんを絡め手にして、速攻で全滅させてエリちゃんを救出する。
それが一番確実で成功率が高い。絶対に俺はそれに参加する。
「……無理をするな、と……並のヒーローならば君にそう声をかけるのだろうが、私はそんな優しくはない。君の力は見せてもらった。ミリオと同じ、極めて優秀な個性の使い手だ。戦力を削ぐ愚は犯さない。必ずマウントレディと共に呼ぶと約束しよう。君の望み通りにな」
「有難うございます。……急いでくださいね」
「幾野くん……」
「それも約束する。必要以上の情報が取れた、一度事務所に戻るぞ。……よくやった」
俺たちは監視部屋を後にして、一度事務所に戻った。
ナイトアイ事務所に戻り、俺が見た映像を録画したものの一部を全員で確認する。
峰田やミリオ兄さんは見なくてもよいと言われたが二人ともそれを固辞し、全員が血まみれになるエリちゃんの姿を見た。
スナッフ動画そのものだ。画質は正直よくないが、むしろそれでよかったと思う。俺の方でウォールハックの途中から、見えるはずの色をあえて見ないで白黒の状態、昔のそれに戻してしまうほどのものだった。
「────────っ!!」
「これ、日本で起きてることなのかよ……? ひっでェ……!」
「ひどすぎる……こんな……!!」
ミリオ兄さんが泣きそうな顔になる。それはそうだろう。こんな想いをしている子が助けを求めて伸ばした手を、冷静な判断だったとはいえ一度離してしまったのだから。
峰田も血の気が引いた顔でそれを見ていた。峰田のトラウマにならないかが心配だな。そうなったらバブルガールのおっぱいを与えれば治るだろうか。
「このような証拠が出てきた以上、事態は極まった。大至急HNを用いてヒーローを集め、同時に警察にも連絡を入れて令状を出してもらう。2日以内には突入作戦を決行する。センチピーダー、何か新しい情報は?」
「ファットガム事務所から有益な情報がありました。恐らくはこの虐待に関係する内容のそれを……今、情報の裏どり中です」
「急いでほしい。こちらからもファットガムに連絡を入れる。あと近隣で有力なヒーローと言えばリューキュウ事務所か。それと八斎會はヴィラン連合とも関係がある。地下にトゥワイスとトガが存在していた。関係の深いヒーロー……ベテランでもあるグラントリノにも声をかけておくべきだな」
「私の方でHNで連絡入れておきます!」
「ヴィラン連合が絡んでるならちょうどいいわ。私が渋谷で組んだチーム・ラーカーズの二人も呼びます。神野の作戦にも参加したシンリンカムイとエッジショットの二人を。戦力として文句ないでしょう?」
「ああ、ぜひ頼む。明日には打合せ、明後日には突入としたい。時間との勝負だ。動くぞ」
ここまで劇的な証拠が集まればサーも一気に動くことになった。
バブルガールもセンチピーダーもヒーローとの連携や警察への手続きなどで忙しそうだ。
だとすれば。
俺らが今ここでできることは。
「……事務仕事手伝います」
「オイラも。書類関係は多少は明るいんで仕事分けてもらえれば」
「なに? ……ふむ。マウントレディ、二人の事務関係の実務経験は?」
「職場体験でそっちでも働いてもらってたわ。ウチの会計士が絶対にインターン呼んでって毎日五月蠅いくらいに優秀よ。一度教えれば覚えてくれるし仕事も丁寧。私からも推します」
「なるほど。ではイグジストはセンチピーダー、グレープジュースはバブルガールの業務を手伝ってくれ」
「了解っす」
「うっす」
「ルミリオンは私の手伝いだ。マウントレディは他のヒーロー事務所への連絡を主に動いてほしい。今日一日で形にする。一気に動こう」
「「「はい!!!」」」
少しでも迅速に救出作戦が出来るように手伝う事だ。
峰田も俺と同じ考えで、事務関係の仕事の手伝いを申し出る。俺ら二人の明確な長所だからなここは。マウントレディ事務所でマジで色々教えておいてもらってよかった。
泣いてる女の子がいるのに手をこまねいていられない。
ミリオ兄さんもマウントレディも含めて、早急に作戦にかかる処理が進められていった。
俺と峰田は結局、作戦開始まで事務所近くのホテルで寝泊まりすることになった。
当然だな。俺らを送迎してもらう時間も惜しい。全力でやろうぜ。
翌日。
ナイトアイ事務所の2F大会議室に、各地からヒーローが招集されていた。
「あ、幾野くんと峰田くん……やっぱりここに来てたんだ」
「なんでお前らここにいるんだ? マウントレディの事務所って渋谷じゃねぇの? 昨日は急に泊りだって連絡来たけどよ」
「あ、でもあっちにマウントレディさんおるね? そっちも呼び出されたん?」
「ケロ。なんで急に呼び出されたのかしら……?」
近くにある有力ヒーロー、リューキュウ事務所から麗日ちゃんと梅雨ちゃんも一緒に来ていた。ねじれちゃんパイセンも一緒だ。
ファットガム事務所からは天喰先輩と切島も。
そしてナイトアイ事務所でインターン中の緑谷も呼び出されていた。こいつは当事者だしな。俺がサーに呼ばれてたことも知ってる。
「んー。まぁその辺はこれから説明があるよ。俺らは昨日からサーの元でマウントレディと一緒に働いてる」
「オイラとしては麗日と梅雨ちゃんにはあんま無理してほしく無いところ。エグいヤマだぜこれ」
「え……?」
「ケロ……峰田ちゃんがそこまで言うほどなのかしら」
他に来ている人たちは連合が関わるということでグラントリノと塚内警部。
ファットガムの手に入れた情報、個性消失弾に係わる能力者ということで相澤先生、イレイザーヘッドが。多分俺らA組が多いからその引率って意味でも呼び出しに応じたなこの人。
他にもマウントレディとチームアップしたシンリンカムイとエッジショットも来ている。
戦力は十二分といったところか。
「じゃあ峰田くん、幾野くん。サポートよろしくね」
「はい」
「資料はばっちり配りましたんで」
「ありがと。えー……それでは始めてまいります」
人前で司会を務めるのに若干の緊張を見せながら、バブルガールが会議の司会役を務める。
俺らはサポートだ。緑谷がそんな俺らの様子を見て『いつの間にか僕よりも仕事してる……!?』みたいな顔を見せてくる。
悪いな。俺らは常に一歩先を見てるんだ。モテるヒーローは何でもできるもんだぜ。多分。
どこの女性ヒーローの元にサイドキック行っても重宝される存在を目指してるから俺たち。
「我々ナイトアイ事務所は約1週間ほど前から死穢八斎會という指定ヴィラン団体について独自調査を進めています!! 資料の2ページをお開きください!」
「……全国に支部があるヤクザ集団か。中々詳細にまとめられている」
「ふむ、資料が見やすい。助かるな」
資料を捲るシンリンカムイとエッジショットが褒めてくれた。
それ、俺と峰田で作ったやつです。うれしい。
「おおよそは資料に書かれていますが……追跡調査の結果、まず大きな動きとして組織がヴィラン連合と接触していることが判明。先日の調査で今現在も事務所にヴィラン連合のメンバーがいることを確認しています」
「ん……そこまで調査できているのか。どうやって……ああ、幾野か」
「ええ。死ぬほどイヤなもん見せられましたよ」
「嫌な……?」
相澤先生の言葉に俺が答え、切島が首をひねる。
まぁ一先ず話進めようぜ。否が応でも知ることになるから。
「そのような過程がありましたが……先日、マウントレディ事務所のインターン生、イグジストの調査で火急の事態にあることが判明し、みなさんに協力を求めさせていただきました。資料をお配りしますが……極めて凄惨な写真があります。今日ここに来たばかりの学生の皆さんは所属ヒーローに見るべきか伺いを立ててからそれを見てください。まずはプロヒーローにだけ……幾野くん、峰田くん」
「はい」
「うす。……ねじれ先輩と麗日と梅雨ちゃんは見ない方がいいと思う」
「え? え?」
「怖いわ……何を見てしまったの、峰田ちゃん」
「それほどの事件なの? 不思議」
俺と峰田で折って綴じた資料をプロヒーローの方だけに配る。俺がウォールハックで見た映像の切り取りだ。
エリちゃんが拷問を受けている写真。モザイクはかけてあるが、溢れる血痕や泣き叫ぶエリちゃんの顔だけで吐き気を催すには十分なものだろう。
「……なんや。なんやこれはッ!!!」
「っ……人の所業じゃないわね。貴女たちは見ちゃダメ」
「胸クソ悪ィ……」
「クロにもほどがある……今すぐ乗り込むんじゃダメなのかナイトアイ」
「令状の準備が迅速にやっても今夜になりました。明日の早朝に奪還作戦の見込みです……一先ずは会議を続けます」
プロヒーローたちが皆、その写真を見てこの事態の緊急性をはっきりと味わった。全員の目つきが変わる。
写真を見れていない学生たちに向けて、サーから更なる説明が続いた。
「そこに在る写真は事務所の若頭『治崎』とその娘……と思われる、出生届が出されていない少女エリが虐待されている証拠写真です。イグジストの透視でわかった。個性『オーバーホール』で分解と再生を繰り返し……肉片と血液を集めている。見た限りでは、絶命しても生き返るほどの個性だった」
「─────っ!!」
「は……? ……え? その、さっき資料に出てた個性破壊の弾丸に、その、女の子の細胞を使ってるってことッスか!?」
「え、えええ……!?」
「……そんな、ものを。見てしまったのねセンちゃん……」
説明された内容に、緑谷がビクリと体を震わせ、大量の汗を流し始めた。他の生徒達も顔が真っ青になるほどだ。
そうだろう……そうだろうさ。俺だってこの映像を見た時はそうなったよ。ミリオ兄さんだってそうだ。
お前の、ミリオ兄さんの判断に間違いはなかった。けど、俺達は地獄に再び戻らせるという選択をあの子に取らせちまったんだ。
もう次はミスは許されない。一刻も早く助け出そう。
その後は資料の情報を全員で共有し、既に虐待のはっきりした証拠を取れて警察を動かせていること、個性破壊の弾丸の計画がどこまでのものかは不透明だが今は確実に治崎とエリちゃんが本部にいることなどから、迅速かつ確実に、一度の襲撃で叩くことを説明した。
「───あのー。一つ良いですかサー・ナイトアイ」
「なにか、イレイザーヘッド」
「貴方の個性で未来を予知出来るなら俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか。このままでは少々合理性に欠ける。イグジストの個性で建物の内部構造を完全に把握できて、組員の人数まで把握できているとはいえ……作戦が成功するかまで見るのであれば、それを元にさらに対策を立てられるのでは? イグジストの未来を視れば襲撃作戦中の相手の動きなども分かるでしょう」
「それは……できない」
全員から明日の襲撃について納得を得たところで、相澤先生がサーに質問をかけた。
俺を見れば今後の流れが見えて、さらに作戦成功の確率を上げられるのではないかと。
しかしサーの答えは芳しいものではない。
予知の性能を説明しながらも、その案にかかる懸念点を述べる。
「イグジストの場合、ウォールハックの視界を私まで見れるわけではない……イグジストのすぐ近くからの視点で何をしているかしか見れない。さらに言うと、イグジストは他者の個性すら無視するという能力があるため、一度個性を解除してもらった姿を見たとしても、再度張り直した時点で私の未来視が無視されればそこまでの映像しか見れない可能性が高い」
「……あー。それはあり得ますね。俺、流石に未来視をずっと許可するほどの無視の調整は出来なさそうですし」
「なるほど……だが、それなら別の人を見ればいい。俺でもグラントリノでも……作戦の成功率が上がるならそうするべきだ」
「……それを見ることで、死が見えてしまったら。誰かの無慈悲な死が待っていたら……どうします」
「それでもとりあえずやりましょう。死すら味わうほどの地獄で泣いている女の子がいる……これが今最も重要よ。手段を選ばないからこそ貴方もイグジストを呼んだんじゃなくて? ナイトアイ」
俺の未来はオート個性による無視があるので見るのが難しいと。
その可能性はこれまでの経験からしてもあると思った。なにせ俺はオート個性を発動している間は、意識しないと自分に害になる個性は自動でスルー出来るようになっているのだ。
林間合宿の襲撃の後なんかは実はかなりヤバかった。注射もできないしメスも入らないしで、一定の強さを超える痛みが伴う治療行為を受けられなかったのだ。ある意味俺の明確な弱点だな。
でもじゃあ俺以外の未来を視ればええやんけ、という相澤先生からの追加の質問にサーは言葉を濁した。未来視の果てに身近な死が待っているとなると、それを見た瞬間にその人の死が確定してしまうという事なのだろう。
それは……怖いな。躊躇う理由もわかる。
だが、それでもやはりリューキュウが述べたように、いま最も大切なことはエリちゃんを無事に救出することだ。
であるならば、この作戦に参加する……特にエリちゃん救出の部隊に入る誰かの未来は見ておいて損はないと思う。
「…………少し、考えさせてほしい。誰を選ぶのかも含めて……検討します。明日までには結論を出す。だが、今は明日に控える作戦の成功のため。ご協力───よろしくお願いします」
サーが立ち上がり、会議室にいるみんなに頭を下げて協力を依頼した。
その一言で会議は一つ区切りとなり、その後に詳細な資料を渡したり内容の質疑応答の時間を設けて、一度休憩となった。