【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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77 any%RTAじゃなくて100%RTAだった

 

 

【side ミリオ】

 

 

 状況は悪くない。

 センのウォールハックで見た地形を個性によるワープで移動しながら、俺はエリちゃんの元へ即座に駆け付けた。

 接敵寸前で一度止まり、敵の位置を確認。

 一切のためらいはない。油断もない。

 ファントムメナス。

 瞬時に移動しながらの超高速攻撃で、音本と玄野、隠れていた酒木の意識を刈り取った。

 治崎の意識も刈り取るほどの打撃を与えたはずだったが……コイツの体捌きで僅かに軸を逸らされ、回避されてしまった。

 

「なッ!? 急に……!?」

 

 しかし問題ない。

 本命であるエリちゃんは玄野から奪い取る事が出来た。腕の中に優しく抱え込む。

 すまない、待たせてしまって。

 もう大丈夫! 俺が君のヒーローになる!!

 

()()()()()()()()()に漫画みたいな顔……先日の学生か? こんなに早くたどり着くとは……どんな個性だ?」

「教えるわけないだろう! ここまでだ治崎! 観念しろ!!」

「フン……くたばれ」

 

 治崎が両手を床につき、個性を発動させる。

 ヤツの個性『オーバーホール』。対象の分解と修復が可能な個性だが……センの映像が見せた通り、とんでもない速度で地面が変形する。

 俺の登場で警戒したか、ここまでのルートもコンクリートで埋められてしまった。

 まぁそれはこっちに後からくるセンが気付いて何とかするから問題ない。

 今、俺がするべきことは何か。

 

 第一にエリちゃんの保護。

 第二に治崎の撃退。気を失わせる。

 

 優先順位が難しい。

 エリちゃんを守り切るだけならば、今の俺には難しい事ではない。

 エリちゃんごと壊そうと攻めてくる治崎だが……動きは読める。

 これまでに積み上げた経験から予測し、回避に専念するならばエリちゃんを守り切れる確信がある。

 

 しかし攻めに回ると少し怖い。

 エリちゃんを置いて攻撃に回った瞬間に、そっちを治崎が躊躇いなく攻めた場合……俺が一手遅れる。再び守りに行かなければならず、攻めを継続できない。

 エリちゃんを抱えたまま攻撃に向かうにしても、片手は埋まる。接近することで不意を突かれる可能性もある。

 であるならば、確実な方を選ぶ。

 俺は耐える。

 センが、みんなが、道中のヴィランを打倒して合流するまで耐えるだけだ。

 

「くっ……!! チョコマカと!!」

「悪いけど見え見えなんだよね!! こんなもんかい八斎會のボスってのは!! 程度が知れるよね!!」

「……ゴミがッ!!」

 

 軽くセン譲りの煽りを入れながらも、俺はエリちゃんを抱えて離さずひたすらにコンクリの棘を回避し続ける。

 棘を刺してきたり、ハンマーのように圧迫してきたりとタイミングをずらしてくるけどまぁ大したことはないよね!!

 目線と手を突いた向きで大体読める。これなら峰田くんや爆豪くんの方がよっぽど恐ろしかったよ!!

 

『──兄さん! あと30秒でそっちに全員で合流できる!! 逃げ切って!!』

 

 そんな風に時間を稼いでいれば、とうとうセンから合流の連絡が俺の耳にだけ入った。

 『透過』の都合でインカムを装備できない俺の耳に入る声。距離を無視した連絡だ。こんなことまでできるようになるんだから全く俺の従弟は流石だよね!

 30秒。問題ない。治崎も先ほどから攻め手を失い、コンクリで視界を塞ぐようにして逃げるだけだ。

 なんでそんなことをするのかは読めてるよね!

 俺が気絶させた他の組員を分解修復してたたき起こそうっていうんだろ!?

 さっき気絶させた奴らの位置は把握している。治崎が近づきそうになれば俺が牽制で拳を振るうんだよね!!

 もちろんエリちゃんに影響がないレベルでね!! いったん体を離すけど、すぐにまた助けに行ける距離はキープさ!

 

「がっ……鬱陶しい!! この汚物が!!」

「社会のゴミに言われたくないよね!!」

 

 音本に向かって近づいた治崎の顔面に、渾身の蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。

 触らせるわけにはいかないよね。あと少しだけ時間を稼げば、コンクリを砕いて全員がこっちに集まってくる。

 そうすればイレイザーヘッドの抹消、センの無視、峰田くんのもぎもぎ、緑谷くんの超パワーであらゆる状況に対処できる。

 もちろん最後まで油断はしない。真正面に治崎を見据え、俺はさらに拳を振るうために力を入れて。

 

「─────音本ォォ!!」

 

 そこで治崎が叫ぶ。

 無駄だよね。さっき治崎は音本に触れていない。触らなければ気絶から起こせるはずがない。

 ……と、俺は奴らを侮ってしまった。

 

「───若と!! 共に歩まねばッッ!!!」

 

 音本が目覚めた。

 嘘だろ。

 しっかり意識を飛ばしたはずなのに。

 治崎の声だけで目が覚めたっていうのか。

 

 そこには信念……絆のようなものが感じられてしまって。

 悪は悪なりの絆があり、治崎のピンチに音本が覚醒したのか。

 くそ、体勢が悪い! 振り返る必要がある!

 振り返ってファントムメナスでもう一度音本の意識を飛ばして────と、振り向いた瞬間に。

 

 音本が構えたのは、拳銃。

 それを一瞬の操作で、明らかに弾込めしたのが見えた。

 銃弾を変えた─────個性破壊弾か!?

 

 そして一瞬の躊躇の後、俺がファントムメナスを発動して銃を叩き落とすより早く……奴は。

 エリちゃんに銃口を向けて。

 引き金にかけた指に力を込めた。

 

 

 咄嗟に、飛び込んでいた。

 

 

 ──────助ける!!

 

 

 そう、助けるんだ。

 

 かつて俺が助けられなかった、あの時のセンのように震えるキミを。

 今、ぎゅっと目をつむり歯を食いしばり耐え忍ぶエリちゃんを助けたい。

 

 問題ない。

 ヒーローとは誰かを助けるために体が動いてしまうもの。

 何とでも出来る距離は維持していたのだ。

 

 エリちゃんと音本を結ぶ射線に個性を()()()()()()飛び込んで。

 

 

 そして、一瞬後に放たれた弾丸が。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()に着弾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

……痛ってぇ!! 天喰先輩『思ったより痛くなかった』っつってたのに嘘かよオイ!」

 

 

 

 


 

 

 俺はダイブセンサーに埋め込まれた生体センサーで、音本ほか、ミリオ兄さんが最初に気絶させていた玄野も気絶から目覚めそうなバイタルを生んでいることを捉えた。

 まずい。ミリオ兄さんも初撃の後はエリちゃんをかばいながら治崎と相対していたせいで、現場がコンクリの壁でごちゃごちゃになり、その気配を察しきれていない。

 急ぐ必要がある。

 

「兄さんが倒した敵が起きそうだ! 俺が先行(潜行)する!! 他のメンバーはこのまま直進して最後コンクリぶっ壊して合流!!」

「わかった! 行け、イグジスト!!」

「道は分かってる!! ミリオ先輩とエリちゃんを守って、幾野くん!!」

 

 俺はダイブワイヤーを投擲。

 床に突き刺して、コンクリと地面の中を全速力でスイングする。

 重力すらも上手く無視して、これまでの比較にならない速度で飛び込んでいった。

 これならすぐに接敵できる……と、ミリオ兄さんたちの様子を見ていると、治崎の叫びでやはり音本が目を覚ました。

 ミリオ兄さんは体勢が悪い。虚を突かれた。

 音本がエリちゃんに向けて、恐らくは個性破壊弾を込めた拳銃を向ける。

 それを察したミリオ兄さんが、エリちゃんを助けるために飛び込んで。

 

 だが、俺が間に合った。

 

……痛ってぇ!! 天喰先輩『思ったより痛くなかった』っつってたのに嘘かよオイ!」

 

 ミリオ兄さんの白いヒーロースーツに弾が放たれる寸前に、俺が地面から盾になるように飛び出した。

 そして俺の、兄さんと同じ色のヒーロースーツの肩のあたりに音本が放った弾が着弾。

 

 当然、俺だって弾を無視できない。

 後ろにいるミリオ兄さんとエリちゃんを守るためだ。

 前に撃たれた経験のある天喰先輩が「思ったより痛くなかった」って言ってたからイケるかと思ったけどクソ痛いやんけ!!

 貫通まではしてないけど普通に肩いてーわ!! クソがよ!!

 すり抜けない方にむしろ気ィ遣ったわ!! ちゃんと俺で銃弾止まってよかったわマジで!!

 

「セン!? バカ、お前!? ……っと」

「あ……あ、あ……!?」

「……見覚えがあるな。イグジストと言ったか……ステイン事変の動画の男。……ハハハハ!! 傑作だ!!」

 

 俺がミリオ兄さんと並び立ち、肩に突き刺さった注射器状の弾を抜きとる。

 ミリオ兄さんとエリちゃんが俺の方を心配そうに見ているが……しかし、ミリオ兄さんは気付いたようだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「無敵の個性という噂だったな!! だが今それが無に帰した!! お前が救おうとしたその子の力で!! お前は守ることも出来ず!! 助けに来た少年が力を失ったのだ!! ハハハハハ!!」

「ねぇ兄さん、あのバカどしたん? 急にテンション上がるじゃんコワー」

「さァね。ユーモア足りてないんじゃないかな?」

「────は?」

「ってか兄さん油断しすぎ。きっちりザコは意識落とさないと駄目でしょまったくもー」

「何とでも出来る距離はキープしてたんだよね! 俺はエリちゃんを体で庇うんじゃなくて抱えて跳ねて一緒に弾丸回避するつもりだったんだよね!? 拳銃の弾くらいなら見えるしさ!」

「マジかよ当たり損じゃん俺」

「なん、だと……?」

 

 なんかジョジョ立ちみたいな立ち上がり方をしてテンションアゲアゲで叫ぶ治崎だが、俺とミリオ兄さんはすっかり落ち着きを取り戻している。

 そう────俺のダイブワイヤーとダイブセンサーは、()()()()()()()()()()()()だ。

 俺の個性は消えていない。

 当たり前だ。

 何故なら俺は弾丸そのものを無視せず、体に着弾した瞬間に弾丸に個性を通して()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 注射は嫌いなんだよバーカ。切島が弾いたときと同じ様にそもそも中の液体が出てねぇんだよ。

 

 無敵の個性という噂だった?

 お前の言う通りさ。無敵だよ。

 俺にこんなクソみてぇなもんが効くわけねぇだろ。

 

 そんな無敵の俺と、最強のミリオ兄さんが揃った。

 お前ら勝てると思うなよ?

 

「─────ッ」

「させないよねッッ!!!」

 

 音本が俺が無事であることにようやく思い至り、二発目を撃とうとした瞬間にミリオ兄さんがファントムメナスで突進。

 トリガーを引く時間すら与えない。体勢が整っていれば0.01秒もかからない。

 銃を弾き飛ばし、そのまま拳を顔面に叩き込んで今度こそ根っこから意識を刈り取った。

 

「……理不尽の塊がっ!!」

「エリちゃん、飛ぶよっ!!」

「きゃっ……!!」

 

 治崎が再びエリちゃんに向けてオーバーホールの力を使うが、これは俺もここに来るまでに随分観察させてもらった。

 結局コイツもある意味ではミリオ兄さんと同じで、地面がある所からしか個性を放てない。

 つまりは地面か壁か天井か、そのどこかからしか棘や台座を生み出せないのだ。

 

 だったら俺の速度でもやりようがある。

 俺はエリちゃんを片手に抱えて、もう片手でダイブワイヤーを天井に投擲。

 そのまま跳躍して……天井からぶら下がる形で、中空に待機した。

 ここなら足元からの奇襲は受けない。天井からも同様。

 もし来ても、俺の目でも追える。

 棘が迫ってきた瞬間にそれを足場にしてエリちゃんを守りながら飛べばいい。ワイヤー巻き取ったっていいさ。どうやっても回避はできる。

 

「ハエが……!! ハエ共が、集るな……!!」

「俺らをハエって表現するならお前ウンコじゃん。自覚あるねぇ治崎くぅん!!」

「貴様ッ……!!」

 

 エリちゃんの耳をふさぎながら俺はどんどん煽る。

 コイツ割とメンタル弱いぞ。煽られてプルプルしてんじゃん。蕁麻疹まで出てるし。

 俺と、俺が抱えるエリちゃんに何としても攻撃を食らわせようとして再び鋼を錬金する術師みたいに地面に手を突こうとしたが、お前もしかして忘れてないよな?

 

 俺がこうしてエリちゃんをかばってるってことはさ。

 ()()()()()()()()()()()()()んだぜ?

 

「───ッ!!」

「ガハッ……!!」

 

 ミリオ兄さんが満を持してファントムメナスで治崎に突撃。

 こうなればもう勝負はついた。

 俺は個性でできることが多く、支援で輝くが……タイマンで戦うならば世界最強はミリオ兄さんだ。

 治崎の手による攻撃は無慈悲にすり抜け、緑谷のフルカウル10%をも超える速度でひたすら治崎の顔面に拳を繰り出し続けるミリオ兄さん。

 怖い。自分の事神棚にまで上げるけど、チート個性にもほどがある。

 顔面のマスクすら外れ、治崎がボッコボコにされていく。

 そのまま俺らの分までやっちまえミリオ兄さん!!

 

「トドメだ治崎ッッ!!」

「か、ハッ………その名で、俺を……ッッ───────」

 

 最後にミリオ兄さんのフックが治崎の顎に突き刺さり、完全に脳を揺らした。

 ふっと治崎の体から力が抜けて、意識が落ちる。

 間違いなく落ちた。

 勝った。

 

「─────幾野くんっ!! ミリオ先輩っっ!!」

 

 その一瞬後にデクがコンクリを拳で粉砕して、全員が部屋の中に飛び込んできたが……既に勝負はついている。

 治崎の意識は落とした。音本の意識も再び落とした。

 あとは─────

 

「起きろオーバーホール!!!」

 

 ────そこで気絶から覚めようとしている玄野だけ、だったのだが。

 こいつもまた意地で目覚めた。

 そして個性の針を伸ばした。イレイザーヘッドがそれを咄嗟に『抹消』しようとしたが、しかしそれより先に針が届く。

 

 こいつの個性『クロノスタシス』は、3本の針がそれぞれの特性を持つ。

 長針は、刺した対象の動きを遅くする。

 短針は、一時間ほど刺した対象をさらに遅くさせる。

 そして、秒針は─────逆に、加速させる。*1

 

 そのうち、秒針が倒れた治崎に向かい加速した。

 誰もその動きを止められなかった。俺が体で止めるにしても、まだエリちゃんを抱えていたので咄嗟に動けず。

 そして秒針が突き刺さった治崎が────加速した時間で、気絶から覚める。

 

「くそっ!! 兄さん!! イレイザー!!」

「ああ!! 何度でも落とすだけだ!!」

「抹消を……何ッ!?」

 

 ミリオ兄さんが玄野にファントムメナスで接近して撃破。

 イレイザーヘッドが玄野から目を治崎に向ける、その一瞬の間に……治崎がオーバーホールによる再生で、己と俺達を遮るように壁を作り出した。

 クソが!! しぶとく足掻きやがってよ!!

 

「緑谷!! エリちゃん頼むっ!!」

「っ、うん!!」

「他のメンバーは足元注意!! どっから棘生えてくるか分かんねぇ!!」

「ファントムメナスッ!!」

 

 俺はこっちに駆け寄ってきた緑谷の背にエリちゃんを預けて、壁の向こうにいる治崎をウォールハックで見てダイブワイヤーを射出。

 同時にミリオ兄さんもファントムメナスで再び接近し殴りに行くが……しかし、治崎はそこで決断的行動に出た。

 

 己の体内に、何か薬のようなものを打ち込んだ。

 個性破壊弾? いや、違う。形が違う。

 あれは……ブースト薬か!? どこに隠し持ってやがった!?

 

「ガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 これまでの力の比ではない、凄まじい破壊と再生が地下室を襲った。

 棘が一気に生成される。主な狙いは俺とミリオ兄さんと……なんと、仲間であるはずの3人の体。

 

「全員避けろっ!!」

 

 狙いが俺たちに向いていたからか、何とか全員回避はできたようだ。叫び声を上げたのも身構えられる要素になったか。

 しかし、あのブースト薬はまずい。あれで意識をトバしてる場合、入中みたいに多少のダメージは感じないほどの高揚状態に入ってる可能性がある。

 ミリオ兄さんの拳では意識をトバしきれないかもしれない。

 ならばここはイレイザーヘッドだ。『抹消』はブーストしてようが関係なく個性を解除できる。

 

「イレイザー!!」

「分かってる……!!」

 

 捕縛布を操り跳躍して、壁を超えてイレイザーが視界に治崎を入れようと動く。

 俺もそれを見て援護できるように動こうとして……しかし、視界の端で治崎の行った行動に、俺は吐き気を催した。

 

 あいつ。

 自分の仲間を己の体もろとも分解して、()()()()()()()

 

「……多少は、いい気分だ……」

 

 治崎が目覚める。

 それをイレイザーヘッドが視界に入れる、その寸前に──イレイザーの真横から、これまでの比ではない速度でコンクリのハンマーが生み出され、横弾きに吹き飛ばされてしまった。

 明らかに狙ってた。くそっ、あんな状態でも判断力は据え置きかよ!?

 

「ガハッ!?」

「先生!?」

「クソが! 動きが早すぎるわっ!!」

「止めるしかない!! 全員─────がっ!?」

 

 しかし、秒針で加速して3人の体を取り込み、その上ブースト薬まで使った治崎がまるで暴力の化身のように周囲のコンクリを操り破壊をまき散らす。

 切島も、ファットガムも、峰田も、シンリンカムイも、エッジショットも、サンイーターも、ナイトアイも……ここまで来ているヒーローたちが全員、攻めに回れない。

 いや、攻め手を欠いた。

 攻撃力が足りず、回避しかできない。

 

「……くそっ!! これを予知してたんじゃないんかナイトアイ!!」

()()()()()()()()()()()……!! 治崎が再び目覚めようとは、何故!?」

「言ってる暇はないぞ!! 何とか止めなければ……!!」

 

 ナイトアイが昨日未来予知したミリオ兄さんの未来に、こんな光景はなかった。

 ミリオ兄さんがエリちゃんの元へ辿り着き、治崎たちと交戦。そこに俺ら襲撃組が合流して撃退する……というハッピーエンドで彩られていたはずなのだ。

 なら何故─────いや、今はそんなことを考えてる場合じゃねぇ!!

 

「ミリオ兄さん!!」

「分かってる!! 何としてもアレを止める!!」

 

 ここで攻撃に回れるのは俺とミリオ兄さんだけだ。

 イレイザーヘッドが完全に意識をトバされたからもう抹消は使えない。

 俺たち二人だけがアイツの攻撃を無視して殴れる。

 

 だからこそ、俺とミリオ兄さんは治崎に向かって飛びかかった。

 俺はダイブワイヤーを飛ばしてそのまま巻き取って蹴りを叩き込む。

 ミリオ兄さんもファントムメナスの速度で渾身の一撃を顔面に見舞う。

 

 しかし。

 

「……最早この程度じゃ痛みすら感じなくなった。ゴミ共が……全員死ね」

 

 キマりきった顔の治崎には通じなかった。

 ライトニングBBで電撃を流しても、ミリオ兄さんが急所を狙っても、こいつは痛みを感じていない。

 首を絞めてもいくつもある腕で自分の体を分解修復をして回復しやがる。

 クソがよ。クソ、駄目なのか?

 

 俺もミリオ兄さんも……実を言えば、火力という面では他の個性に一歩劣る。

 どうしても物理的な威力が足りない。まともな人間タイプのヴィランなら一瞬で落とせるが、一線を超えた脳無や異形型個性に対しては火力不足で後れを取ることがある。

 だからこそミリオ兄さんは己の体を極限まで鍛え、俺は電撃など絡め手を準備したのだが……それでは、足りなかった。

 峰田が投擲したもぎもぎも分解される。シンリンカムイやエッジショットも高火力を持っていない。

 イレイザーヘッドには切島が駆け寄ったが相当な重傷だ。あれは……危うい。

 

 どうする。奥の手の個性解除を使って上書きするか。

 いや……駄目だ。頭を上書きしたら確実に殺しちまうし、胴体や腕なんかだと再生される。

 クソ。圧倒的火力で押し切らないとどうしようもない。

 なにか、なにか手は………!

 

「───フルカウル───」

 

 俺達が絶望の色に染まりかけた、その時。

 室内に響く、緑谷(主人公)の声。

 

 

「───100%────!!!!」

 

 

 迸る様な力の奔流。

 緑色の電流が迸り、全身に纏い……否、最早全身が燃え盛るほどの力を緑谷が身に纏っていた。

 

「緑谷ッ!?」

 

 100%。

 お前の力は、オールマイトの力はそこまで引き出したらお前の全身がボロボロになるはずだ。

 普段の練習でも、体が耐えられるのは20%まで。30%まで引き上げようとしてまだその段階にも至ってなかったはずのお前が、100%なんて出したら!!

 俺は思わず駆け寄ろうとして……しかし、その緑谷の背にしがみつくエリちゃんが、角を大きく伸ばして必死に力を籠めているのを見た。

 あれは……エリちゃんも、個性を使ってるのか。

 エリちゃんの個性はわからない。けど、その血と細胞が個性破壊の弾に使われたという事実は知っている。

 停止……もしくは再生? 破壊かもしれない。

 けど、エリちゃんの個性で緑谷が100%を維持できているのは、はっきりと分かった。

 

「……巻き戻す。それが壊理(エリ)の個性だ。使いようによっては人を猿に戻す事すら可能だろう……そのまま抱えていては消滅するぞ。触れるものすべてが無へと巻き戻される! 呪われているんだよそいつの個性は!! 俺に渡せ!! 分解するしか止めるすべはない!!」

「絶対いやだ!!」

 

 最早人を辞めた治崎がエリちゃんの個性を解説する余裕すら見せてくる。

 先程の治崎の攻撃で怪我した緑谷を治そうとして個性を発動したのか……そしてその個性の特性に気付いた緑谷が、フルカウル100%を使うことを思いついた。

 これなら─────この力なら。

 

「緑谷ぁっ!! 絶対エリちゃん離すなよお前ェェ!!」

 

 その様子を見て俺と同じ推理に至った峰田が、もぎもぎをひも状に変形させて投擲。緑谷の体とエリちゃんの体を巻きつけて離れないようにした。

 もう、後は緑谷に賭けるしかない。

 俺とミリオ兄さんにない、超パワーを発揮できる緑谷なら、治崎だって。

 

「ありがとう峰田くん。……エリちゃんの力で、僕の脚が治った。とてもやさしい個性じゃないか……体が戻り続けるスピードが体感できた! じゃあそれ以上のスピードで常に大怪我し続けていたら!! 100%の力も出せる……!!」

 

 緑谷の全身に、真に力が巡り渡った。

 髪は逆立ち、目から緑の炎を零し、全身には赤い亀裂が入ったままで。

 全身にわたるダメージをエリちゃんの個性で戻してもらいながら、吠えるように叫ぶ。

 

「行くぞ治崎……!! 絶対に全員、助けるッッ!!!」

「減らず口をガハァッッ!?!?

 

 目で、追えない。

 唐突に治崎の体が天井に叩きつけられた。

 圧倒的質量を持つ化物を、たったの一撃で天井にまで跳ね上げる緑谷のパワー。

 

 ああ……オールマイトだ。

 間違いない。あの力、あの無敵さは間違いなくオールマイトのそれだ。

 

「あああああああああああああッ!!!」

 

 連打に重ねる連打。

 緑谷が何度も何度も天井に治崎を叩きつける。

 分解させる暇すら与えない。治崎はダメージを負うと分解して回復するが、その隙を突いて緑谷が拳を叩き込み続ける。

 次第に天井に大きくひびが入り、地上まで相当の距離があるはずのそれを───ブチ抜いた。

 

「んなっ!? どんだけ……!?」

 

 建物の外、近くに立っていたマウントレディが驚愕の声を上げた。

 避難誘導は───完了している。

 周囲に市民の姿がないことをウォールハックで見た俺は、個性を使い大声を上げた。

 

『緑谷!! 市民の避難は終わってる!! 叩きつけろッ!!』

「サンキュ、幾野くん……!!」

 

 治崎への連打を止めずにドドドド、と衝撃音を響かせながら、緑谷が打ち上げる角度を徐々に変えていく。

 治崎は最早何もできない。緑谷の100%に追いつけない。

 

 ─────行け。

 

 

「女の子一人助けられないで──みんなを助ける英雄(ヒーロー)になれるかよッッ!!!!」

 

 

 緑谷のスマッシュが治崎に突き刺さり。

 ブチ抜いた大穴の真横に、その巨体を叩き落した。

 

 俺はダイブセンサーで治崎のバイタルを確認。

 ……完全に沈黙。気を失っている。

 

 勝った。

 緑谷の、俺たちの勝ちだ。

 

「緑谷が……治崎をやった! 完全に意識を失わせた!!」

「よしッ!! やったよねデクくん!!」

「っしゃああ!! すげぇぜ緑谷!!」

 

 これでヴィランはすべて撃破完了だ。

 エリちゃんも緑谷の背に。傷はないはずで、救出も完了。

 あとは……大怪我をした相澤先生だけだ。

 これについては俺に考えが─────っと。

 

「……おい、ちょっと待て!? なんか緑谷の様子がヤバくねぇか!?」

 

 割れた天井の先にいる緑谷と、それに背負われたエリちゃんの様子がおかしい事に切島が気付いた。

 見ればエリちゃんの個性が勢いを増して、緑谷が体を壊し続ける100%のそれすら超えて巻き戻し始めている様だ。

 一刻の猶予もねぇな。よし。

 

「何とかイレイザーヘッドを起こせないスか!?」

「厳しい……折れた肋骨で内臓を激しく損傷している! 重傷だ!! 大至急処置しなければ危うい!!」

「くっ……かくなる上は俺がイレイザーヘッドの体内に侵入し、出血点を縫い留めつつ何とか意識を覚醒させて……!!」

 

 相澤先生が見ればエリちゃんの個性は収まるだろう。

 しかし今は重傷で倒れてしまっていて……それに応急処置をしようとしたエッジショットを、俺が止めた。

 

「待ってエッジショット。大丈夫です。俺に任せてください」

「なに? イグジスト、何を……?」

 

 俺はその言葉を残し、ダイブワイヤーを投擲してぶち抜けた大穴から地上へ跳躍。

 そのまま緑谷の横に降り立って、ぽんっと緑谷のお腹を叩きつつ、二人を繋いでたもぎもぎを掴んで『無視させて』、二人を解放する。

 

「ガッ……ッハァッ、幾野、くん……?」

「マジでよくやったぜ緑谷。後は任せな」

 

 ひょいっと俺はエリちゃんのお腹を抱えて、抱っこの状態に。

 角から、全身からあまりにもこの子の個性が漏れており、周囲にまき散らしているが……俺には全く問題ない。

 

 俺だけは、君の隣にいつでもいてあげられる。

 

「エリちゃんお疲れ様! 最後、勇気出して頑張ったな!! 偉いぜ!!」

「あ、あ! おねえさん、駄目! わたし、私の力が止められないの! 死んじゃう!!」

「何言ってんの。ほーら、俺は全然大丈夫だよ。たかいたかーい」

 

 エリちゃんが涙を流しながら、暴走する個性で俺が消えちゃうと叫ぶが、心配することなんもない。

 至近距離でにっこりと笑顔を見せてやって、その頭をポンポンと撫でた。

 

「本当に優しい個性だよ。緑谷の怪我を治して……これからこの力をコントロールできるようになったら、第二のリカバリーガール誕生だな。きっと誰よりも優しいヒーローになれるぜ、エリちゃんは」

「ひっく……ほ、本当に、おねえさん……大丈夫、なの……?」

「もち。あの怖いあんちゃんの言う事なんて信じるなって。大丈夫さ。エリちゃんが助けたいって思う限り……それに向かって頑張る限り、その力は優しい力だ」

 

 エリちゃんを抱っこしながら、地上組のリューキュウやマウントレディ、麗日ちゃん達に近寄らないように手で示しつつ、俺はダイブワイヤーを使ってゆっくりと地下に戻る。

 エリちゃんの個性が励起し続けている今だからこそ、出来ることがあるから。

 

「エリちゃん、最後にもういっこだけ頑張ってもらっていいかな? 助けるんだ。君の力で、誰かを」

「う……う、うん!!」

「えらいぞ。それじゃ……このお兄さんがさ、ちょっと怪我しちゃって。一気に治しちゃってくれる?」

 

 そのまま地下に戻って、降り立つのは相澤先生の前。

 俺の意図を読んだ全員が俺の周囲から離れて、巻き戻しの個性に巻き込まれないようにしてくれた。

 これで遠慮はいらない。

 相澤先生を治してやってくれ、エリちゃん。

 

「じゃ、お願いね。どばーっとやっちゃっていいよ、スッキリしちゃおう。ヤバくなったら俺がちゃんと距離取ってあげるから」

「わ、わかったよお姉さん……頑張る! ……う、う、うううー!!」

 

 相澤先生の近くにしゃがみ、エリちゃんの手を先生の体に触れさせて、巻き戻す。

 口からの出血も落ち着いて、明らかにくぼんでいた胸骨も見る見るうちに治っていく。

 あとは先生の意識が戻れば、先生の『抹消』で見てもらってエリちゃんの個性を止めてハッピーエンドだ。

 

「……う……」

 

 ん。相澤先生から声が漏れた。見れば呼吸も随分落ち着いてるようだ。

 すっかり顔色もよくなったしもう大丈夫かな。

 俺はそっとエリちゃんの腰に手を伸ばし、ひょいっと持ち上げて相澤先生との距離を離す。

 

「……はぁっ、はぁ……! もう、大丈夫……? お兄さん、治った……?」

「ああ、バッチリさ! よくやったぜエリちゃん、お疲れ様!!」

「……よか、った……ぅ……ん……」

 

 そうして力を放ち終えたエリちゃんは、眠る様にすぅ、と目を閉じた。

 助けられたということで落ち着いたかな。先ほどまで溢れていた個性の迸りも無くなっている。自分の意志で個性を閉じられたようだ。

 よかった。あまりに個性を使いすぎると体力の消耗も危なかったからな。

 相澤先生が起きてから『抹消』してもらってもよかったんだけど、その手間が省けたなら何よりだ。

 お休みエリちゃん。本当によく頑張ったぜ。

 

「……っし。じゃ、あとは相澤先生──────」

 

 そして俺は最後に、怪我が完治した相澤先生を起こそうとして。

 

 

「───あれ?」

 

 

 

 あれ?

 

 

 あっ。

 

 

 やべ。

 

 

 ─────相澤先生ちょっと縮んでない???

 

 

 

*1
独自設定。3本の針があるけど原作では長針しか使ってなかったので捏造した。許せサスケ。

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