【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
エリちゃんとの好きな物バトルは1勝2敗の成績に終わった。負けたぜ。
その後、エリちゃんの髪が少し遊んでたので櫛で丁寧に梳いて通してあげていると相澤先生が病室に戻って来た。
「……髪を梳いてあげてるのか」
「ええ。せっかくこんな綺麗な髪ですからね。女の子はおめかししないと」
「ありがとう……イグジストさんの髪もきれい……です」
「サンキュ。お母さん譲りの自慢の髪だからね、褒められると嬉しい」
やはり女の子だからね。可愛い物、綺麗なものの良さは分かるみたいだな。
髪を褒められて俺もにっこり。
でもエリちゃんの顔には中々笑顔は浮かばなかった。
俺の方であえてツッコみどころのある話など振るとそこへのツッコミは鋭かったので才能あるなと感じたんだが、しかし……やはり、辛い思いをしてた期間が長すぎた。
その時の悲しみが、彼女から笑顔の作り方を失わせてしまったのだ。
許せねぇよクソ治崎がよ。潰れろ八斎會! 潰れてたわ。
……見たいよな。
この子の、本心からの笑顔をさ。
「エリちゃん。君はそのうち俺達が通う学園の近くの病院に移ることになる。そうしたら俺達もこれまで以上に会いにくるようにするよ」
「おー! 近くに来てくれるんすね! やった、またいっぱい遊べるねエリちゃん!」
「うん……イグジストさんと、また勝負する……」
「次はもっと楽しめるゲームを考えてくるよ。話してたオセロも準備してくるから!」
「うん」
「……流石だな。もう仲良くなったか」
「ええ。俺はエリちゃんのお姉さんです!」
「おねえさん……!」
「性別を見失うな」
「あ、お、おにいさんとも……また会いたい、です」
「ん。……ああ、勿論俺も来るさ」
どうやらエリちゃんの転院が決まったらしい。
相澤先生がここに来るまでに話してたけど、身よりもないしずっと八斎會本部の近くにいてもアレだしな。
いつまでも入院できないし、エリちゃんの個性の力の源と思われるツノも……少しずつ大きくなってきているとのことだ。溜まってる……ってやつなのかにゃあ。
もしまた暴走してしまったときにイレイザーヘッドが近くにいた方が対処しやすいというのもあるだろう。俺でもいいし。エリちゃんも仲良くなった俺やイレイザーと会いやすくなることは喜んでくれていた。
なお俺とエリちゃんはとっても仲良くなりました。
子供の扱いが実は洸汰くんくらいしかやったことなくて不安だけど全然問題なかったわ。精神年齢がエリちゃんが随分と大人だったからな。話が合った。
……いや俺の方の精神年齢が低い可能性が微レ存?
「じゃあ、今日は帰るけど……近いうちにまた」
「うん、それじゃまたなエリちゃん! 次はリンゴいっぱい持って来るからな!」
「はい! 今日はありがとう、イレイザーおにいさん、イグジストおねえさん。またね」
相澤先生と二人でエリちゃんの頭を撫でて、俺達は病室を後にした。
「んー。想像以上にメンタルは回復してるなって感じましたね」
「俺もだ。……成功体験があったからだろうな。俺の命を救ったことが彼女にとっての救いにもなったか」
俺たちはエリちゃんの病院を出て、タクシーで移動していた。
行き先は近くにあるサー・ナイトアイ事務所。前回の八斎會の事件の後処理を一任していたのでご挨拶でのお伺いだ。
ここにも大分お世話になったな。
すぐに到着して、事務所にお邪魔する。
「というわけで結婚しましょうバブルガール」
「確か彼女いたよねキミ!?」
「変わらないな君は」
「幾野……ほどほどにしておけよ」
「これは俺が敬愛するヒーロー、ミスジョークの真似です。あの人の言動をリスペクトしているだけなんですよ」
「風評被害まで広げていくのかお前は……いや確かに事実アイツはそんなこと言ってたが」
「勿論ショータ先生のご尊顔はミスジョークにも送信済みです」
「嘘だろ」
事務所内にいたバブルガールにあいさつ代わりにジャブを入れた。この人弄ると楽しくて……。
軽快なツッコミを返してくる向こうも悪いところあると思う。
所長の席に座るサーに挨拶して、色々話を聞く。
「まず八斎會だが、無事各地の支部も含めて叩き切る事が出来た。前回の作戦への協力、あらためて感謝する。イレイザーヘッド、イグジスト」
「大したことは俺はできていない。一番働いたのはイグジストだ」
「俺はいい方向でも悪い方向でも大したことしすぎた自覚ありますね!」
「ふ。……あの少女、エリと話をしてきたのだろう? どうだった、彼女の様子は」
「元気そうでしたよ。まだ子供らしい笑顔は見せられてませんが……体調という点じゃ少なくとも落ち着いてるようでした」
「重畳だ。そちらの件はイレイザーヘッド、引き続きよろしく頼む」
「ああ」
とりあえず八斎會は壊滅、組としても解体する流れになったらしい。
前回の襲撃で手に入れた資料から叩けば叩くほどホコリが出てきており、個性破壊弾の件も含めて罪状は余りにも多く警察も全力で取り組んだとのこと。
そっちはひと段落ついて、悪の根はすっかり枯れたという話だ。そこはまず何より。
で、後はもう一つ。気になっていたことを話す。
それはミリオ兄さんから以前に話を聞いていた……サーの個性の件だ。
「……『予知』の個性の調子が悪くなったって聞きましたが。その……大丈夫なんすか?」
「ふむ。確かに……八斎會襲撃の件では私の見た未来は全く別のものになっていた。それ以降に試した物は少なくとも今の今までは問題ない予知だった……の、だが」
「……だが? 何かあったのか、ナイトアイ」
「今朝見たバブルガールの未来が既に変わっている。これで原因は特定できたな、やはり」
「え!? いつの間に見られてたんですか!? どこが変わってるんですか!?」
「君はイグジストに笑顔で挨拶をしているはずだったのだが、何故か涙目になりながら求婚されていた」
「幾野くんどういうこと!?」
「えっ待って俺知らない……ええ? って事はサー、もしかして貴方の予知って……」
「恐らくは……私が見た予知の映像に君が関わるだけでも、未来が不確かなものになるのではないか……という推察が出来るな。襲撃の時に見たミリオの未来も同様だ。私が見た未来は、君が介入するたびに少しずつズレていた」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
俺の個性『無視』は常にオート発動している。以前サーが危惧したことだが……俺自身に予知の個性は効かない。未来の中の俺が予知を無視してしまうことで、確定した未来を視られないだろうという可能性。
しかしそれが、俺以外の他人の予知の中でも、俺が登場した時点で不確定の未来になってしまうかも、という可能性があって。
根拠がはっきりとした話ではない。だが状況証拠は揃っている。
サー・ナイトアイは、俺という存在に出会ってから予知の個性の完璧性を失った、ということか……?
俺は言葉を失ってしまった。なんてこった。
こんな影響があるとは思ってなかった。んん。
「…………」
「まずはっきり言っておこう。イグジスト、これは君が気にする話では全くない。元々私は予知を長くずっと見るということはしていなかったし……君が介入しないであろう未来を視るだけならば影響が出ないのはここ数日で確認済みだ。結局のところ、単純に個性の噛み合いが悪い、と言うだけの話だ。もし今後同じヤマで仕事をする時には私の予知がアテにならなくなるだけだと考えてくれればいい」
「そうは言っても……」
「それとも何か? 君は私が予知が使えなくなるだけで、ヒーローを引退するとでも思っていたのか? 予知頼りの男だとでも?」
「いや、そんなことは欠片も思ってないっすけど……」
サーにじろりと睨みつけられ、俺はその内容を否定した。
サーはもともと、個性で未来を視るだけのヒーローではない。豊富な経験からくる判断力、分析力も武器の一つだ。また、戦闘においても個性とは関係ない磨き上げられた肉体で、特製アイテムを使い増強型の個性を相手にしても優位に戦えるほどの力もある。
力を侮っているわけではない。ただ、俺という存在が彼にとって害になってしまっているのが苦しい。
「……君の力は大きなものだ、ミリオが推すのもわかる。だからこそ、君のその力は私の手の届かないところで困っている誰かの為に使えばいい。私は未来予知自体がなくなったわけでも、大怪我をしたわけでもないのだ。あまり深く考えるな。……君と共にまた事件を解決できないのだけは少々寂しがるかもな、ミリオが」
「……すんません」
「どうした、ユーモアが足りていないぞ。笑いたまえ幾野潜……君の笑顔は人を笑顔にする。ミリオに……ルミリオンに負けないくらい、多くの人を笑顔にできるだろう、君は」
「……っす! そうでしたね! ちょっと笑顔忘れてました!」
「それでいい。マウントレディ達、チームラーカーズの元にインターンに行くのだろう? 東京で存分に名を挙げてきたまえ。油断はしないようにな」
「はい! ……有難うございます!」
俺は謝罪の気持ちではなく、感謝の気持ちでサーに頭を下げた。
思い悩まないように鼓舞してくれたサー・ナイトアイ。やはりミリオ兄さんが尊敬するヒーローなだけはある。優しい、思いやりとユーモアにあふれたヒーローだ。
確かに、個性の噛み合いが悪いヒーローは存在する。もちろんそんな二人が組むことはなくて、別々の場所でそれぞれが活躍すればいいだけだ。
俺が今後サーと組めないということはミリオ兄さんと絡む機会も減ってしまうが、それはそれでいいと思う。ミリオ兄さんはあくまでミリオ兄さんが目指すヒーローの道を歩むのだ。
道が重ならなくとも、お互いの道を尊重しあえる。
俺も、サーも、ミリオ兄さんも、そう在ればよかったのだ。
「何かしら予知が君に絡みそうなことがあれば事前に連絡する。君のこれからを応援しているよ」
「はい! サーもこれからもミリオ兄さんをよろしくお願いします!」
「ああ。任された」
サーがその言葉で見せた笑顔は、とても優しい表情だった。
その後は普通に雄英に帰って先生とも別れ、寮に到着。
夕飯を食べて風呂入って夜の時間。
俺は峰田と共に共用スペースのロビーで髪をケアしながら、インターンの話をしていた。
「オイラの方で今日マウントレディに確認したんだけどよ。チームラーカーズの件」
「ん」
「3人のヒーローがチームアップしたって形だろ? で、それぞれ実績も人気もあるヒーローだから、インターンはそれぞれが二人ずつ、計6人まで参加受け入れしてくれるんだってよ」
「マジ? めっちゃ太っ腹じゃん」
「な。とりまオイラとイクノは確定で来てほしいってめっちゃ会計士さんが電話の後ろで叫んでた」
「ははは。また手伝いに行ってやっか」
髪の潤いをキープするためにアウトバストリートメントを髪につけながら櫛で梳きつつ峰田の話を聞いた。
なんとチームラーカーズでは6人までインターンを受け入れてくれるとのこと。ありがてぇ話だ。
ただ恐らく、単純にパトロールだけやりますよーって話ではないんだろうな。事務力としても人数を整えたいって思いもあるのかもしれん。俺と峰田がその辺頑張り過ぎたからな。間違いなくマウントレディはその辺も期待して俺らを呼んでいると思う。
もちろんマウントレディの力にはなりたいのでその辺は頑張るつもりだが。チームラーカーズに出向するメンバーには事前に相談しといたほうがいいかな。
「イクノとオイラで推薦があればそれは優先的に受け入れてくれるってよ。誰か誘うか?」
「おいおいマジかよ。んー、そんじゃちょっと希望取ってみるか。でも今からだと明日の朝に急に行く感じになっちまうな」
「ああ。急な話だからそれでもいいってくらいやる気ある奴だけになるかな。ま、一回行って見てアレならやめたっていいんだしなインターンは。ダメもとで誘ってみんべ」
そしてなんとマウントレディから、俺らの推薦であれば一年生も優先で受け入れてくれるという条件まで付いてきた。
わぁお。これは多分……俺と峰田を優遇してもらってんな。
マウントレディだけじゃなくてエッジショットやシンリンカムイともこないだの八斎會襲撃で共に作戦に参加して、俺と峰田の力は理解ってもらっている。二人とも大変好感触だった。
厚遇を頂いているのに恐縮しつつも、これはインターン先に悩んでる生徒にはチャンスだろう。経験を積むという意味でもいいものだと思う。
俺はまだインターンに参加した経験のない生徒限定で、一年の知り合い全員にラインでお誘いの文面を送る。今回は先着限定としておこう。
「A組、B組、あと心操と一応発目ちゃんも誘っとくか。先着でー……明日に行くっていう急なスケジュールだけど来たい人ー……よし一括送信っと。さて誰から返事が来るかもう来たわ」
「早っっや。誰から?」
一括でお誘いラインを送った瞬間に返事を示すバイブレーションが返ってきた。
さて誰だろ。一番手は……あ。なるほどね、そりゃそうか。
「俺の嫁からでした」
「この表現よ。まぁ葉隠なら当然だわな、お前と一緒にいたいんだろ」
「けなげな!」(デデデン!)
「首の骨がくだける音を聞きながら死にそうな人間を賞賛する台詞が急に出てきた」
まず透ちゃんから参加希望の返事がきた。
拙速を尊んだのか、「いく」とシンプルに返事が返されたのち、「絶対行きたい!! お願い!!」と返事が返ってきたので、今ロビーで峰田と話していることを伝える。
すぐにエレベーターが降りてきて、その中から現れた透ちゃんが胸に飛び込んでくる。
「わー! インターン先に悩んでたのー! ありがとーセンちゃん! 峰田くん!」
「おおよしよし。透ちゃんは今日も可愛いなぁ」
「人前でこれ見よがしにいちゃつきやがってよぉ。……まーでも葉隠最近めっちゃいい感じで成長してるしな。パトロールで足を引っ張ることはないだろ。事務仕事もやってみないと覚えないし、いい機会だからいっぱい勉強してこよーぜ」
「うん! うおー! センちゃんと一緒に頑張るぞー!」
「あ、俺と峰田がマウントレディ事務所行くからあんま一緒にはならないと思う……ごめんね」
「ええー!? ……いやでもそれでも行くー! エッジショットが隠密行動得意なヒーローだからそっちからいっぱい学ぶ! やったろ!!」
透ちゃんのいい所出たな……。
俺と彼氏彼女の関係ですっかり俺の女ではあるんだけど、その関係に甘んじないというか……俺や峰田についていこうと、さらに成長するためにひたすら努力してくれるのが透ちゃんなのだ。
俺と違う事務所に行くことになろうとも、関係なく全力で取り組むと。恋路ではなく自分が立派なヒーローになるために頑張れる。
やっぱ透ちゃん最高の女……好き……抱きしめちゃう。抱きしめた。
「センちゃんの髪、甘いにおいがするー……」
「風呂上がりだからね。トリートメントに気を遣ってます。透ちゃんの髪も整えよっか?」
「うん、お願い!」
「オイラ今百合の間に挟まる男子の様な疎外感がある」
「後で部屋でやろうね、峰田が見てるから」
「峰田くんなら私は別にいいよー? センちゃんも気にしないでしょ?」
「見せつけプレイやめろ? しまいにゃキレるぞ??」
「ごめんて。……っと、また返信来たな。どれどれ」
透ちゃんといちゃいちゃしてるのを峰田に見せつけたら嫉妬に狂った目で見てきた。ウケる。
まぁ公共の場なのでほどほどにしておいて、そしてまた何人か返事が来たスマホを開いてタイムラインの順に確認する。
「ふむ。心操からまず依頼が来たな」
「心操くんかー! 最近はよく放課後の訓練でも一緒に鍛えてるよねー」
「アイツはヒーロー科じゃねぇから普段は中々インターンの出向先の話もできねーだろな。誘ってやっていいんじゃねぇか」
「だな。『OK。A組の寮のロビーに今から来てくれ』っと。……で、順番で言えばあと瀬呂と上鳴が先着だな」
「おー! A組オープンバカエロ男子が勢ぞろいじゃん!」
「女子からオイラ達ひでェあだ名付けられてた」
「瀬呂は移動方法がシンリンカムイのそれを参考に出来るだろうし、上鳴も前から一回は行ってみてーって言ってたしな。誘ってもいいだろ。ロビーに呼ぶわ」
二人にもロビーに来てもらうように連絡。
すぐに上鳴と瀬呂が降りてきて、少しして心操も合流して6人で集まった。
「んじゃ明日朝8時に出発。新幹線で移動すりゃ1時間程度で着けるから、そっから仕事次第だけど……まぁ夜には帰ってくるようだな。ヒーローコスとかアイテムとか持ってくものは今日のうちに準備しといてな。遅刻厳禁」
「オイラの方で準備しといたほうがいいもんリスト送っとくわ」
「この二人慣れてんなー……助かるけどよ」
「マウントレディから熱烈な引き抜きあったとか言ってたよな前に」
「流石って所か。……で、3人のヒーローに6人が向かうってのは、どういう分け方になるんだ?」
「あ、今回センちゃんと峰田くんはマウントレディの所なんだって、心操くん」
「せやね。他は今決めちゃおう。希望ある?」
みんなでインターンに関する打合せを進める。
ヒーロー事務所と俺らの振り分けだが、まずマウントレディの所に俺と峰田は確定。
で、話し合いの結果、テープと捕縛布で共に空中機動を武器にする瀬呂と心操がシンリンカムイの元へ。
隠密行動の勉強したい透ちゃんと、強い希望がなかった上鳴がエッジショットの元へ出向することになった。
「さて上鳴くん。分かってるね?」
「あー、葉隠にちょっかい出すなってんだろ? 流石に分かってるぜ幾野。俺だって良識あるからよ」
「怪我一つでもさせたら何があってもお前の脳を破壊する」
「なんで俺だけハードモード強要した?」
「ドンマイ」
「瀬呂に言われると頭に来るな!?」
「ドンマイ」
「心操オメーも結構乗るタイプだな!?」
透ちゃんと一緒に出向することになる上鳴にはしっかり釘を刺しておいた。
俺の大天使に傷ひとつでもつけてみろ?
お前の部屋は明日から壁一面に俺の自撮りポスターが貼り付けられてるからな??
さて、そんなこんなでようやく俺のしっかりとしたインターンが始まりを迎えた。
マウントレディに日頃のお礼してこよ!