【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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92 緑谷お前お祓い行ってこいってマジで

 

 

 文化祭当日の朝がやって来た。

 俺は早めに朝飯を食べてから今日のダンスとミスコンの為の化粧に時間を費やしていた。

 

「ただいま……あれ、幾野くん。もう化粧? 早いね」

「おー、お帰り緑谷。まぁこの後しばらくこの顔だし、買い出しもあるからな。ちょっと変装も兼ねてよ」

 

 朝練から早めに戻って来た緑谷に、髪を弄りながら声をかける。

 今日もオールマイトに呼ばれて朝練するとかほざいてたので俺がオールマイトにアホか!! と直訴して、中止まで行かなくともせめて朝食の時間までには戻る様に確約させたのだ。

 文化祭当日なんすよ? オールマイトはさぁ……(クソデカため息)

 

 日頃から生徒の朝練に付き合うのは偉いよ? それが力を託した緑谷だからこそかもだけどそこはいいと思うよ?

 でも学生が一番楽しみにしてる文化祭の当日の朝まで練習とか何考えてんだよマジ。そこは一日しっかり楽しませてやれよ。ありえんやろ普通に。

 緑谷もオールマイト信者だし特訓フェチなところあるから何も言わず付き合ってるけどさ。普通そこはオールマイトから「今日はいっぱい楽しみたまえ」っつって朝に訓練はさせねぇだろうよ。

 緑谷が大いなる使命を背負ってるのは分かるけど、だからこそ学生らしいことはやらせてやろうよ。オールマイトだってそういう時期あっただろうに。

 んもー。お母さんは緑谷が心配ですよ。これからもちゃんと俺がそういう所は気にしてやろう。

 引子さんの代わりになるのだ。俺が緑谷のママになるのだ……。

 

「……よし、顔出来た。どーよ緑谷、似合ってる?」

「おお……! すごい、普段の幾野くんの可愛い系の顔から一転してすっごいかっこいいよ! 宝塚!」

「ふふん。そうやろそうやろ」

 

 化粧を終えて緑谷に顔を向けて感想を貰ってみた。好評でしたね。

 今回のダンス、俺はあくまでA組男子の一員として踊るつもりだ。だからこそ、女っぽい顔にして脳を揺らす……といういつもの茶化しは遠慮して、ちゃんと男っぽく映えるように化粧した。

 緑谷も言ってくれたけど宝塚とかの男装ってのが表現が近いかな。いや元々男なんだけど、まぁイケメンに顔を仕上げてある。

 これで髪もちゃんとまとめて結い上げてれば性別不詳の顔がいいマンになれるだろう。ミスコンもこれちょっと使うつもりなんよ。

 

「シャワー浴びたら買い出しな。7時半には出るぞー、先にリンゴアメの材料買っておきたいからな」

「ラジャ。すぐ済ませるね」

 

 朝練で汗をかいた緑谷にシャワーを浴びてくるように伝える。

 先程まで練習してたのだろう、エアフォースの為の手袋も外して部屋に戻してきて、緑谷がシャワーを浴びてる間に俺は外出用の変装を整えた。

 顔は変えてもまぁ美形で目立っちまうことは間違いないしな。サングラスと体のラインを隠すカーディガンを羽織る。

 夏場は変装きつかったけど涼しくなったからだいぶやりやすくなった。基本的に厚着になるんだよね変装って。有名人は辛いぜ。

 

「ふわぁ……お、オハヨー幾野。ばっちり顔作ってんなー。そろそろ買い出し?」

「おは切島。ああ、緑谷がシャワー浴び終わったら出かけてくるわ。ワリーけど準備とかはよろしくな」

「おおよ! 任せな!」

「んー……緊張であんま眠れんかったわ」

「ここまで来たら楽しみましょ……あら、センちゃんお早う」

「目が覚めるわーその顔。オハヨー」

「おはおは。朝飯は冷蔵庫にあるからレンジでチンしてどうぞ」

 

 みんなも起き出してきたころに緑谷もシャワーを浴び終えて戻って来たので、俺達は寮を出発した。

 校門に向かう道すがら、様々な出店が並ぶ所を二人で歩く。

 

「おー……出店すっげぇな。みんな張り切って準備してらぁ」

「だね。ワクワクするね……エリちゃん、楽しんでくれるかな」

「くれるさ。きっと」

 

 祭りの前のこの瞬間にしか味わえない不思議な高揚感に溢れてるな。マジで楽しみ。

 そうして俺と緑谷は買い出しに向かった。

 

 


 

 

「食紅事前に買っといてよかったわ。やっぱスーパーにも中々売ってねぇんなー。普段使わないから知らなかったぜ」

「だね……でもリンゴも竹串も買えたし、ロープもバッチリ。文化祭スタートまでには戻れるかな……」

「ん、確かに。スタート合図は聞きたい。時間は……微妙にギリか?」

 

 俺達はバッチリ買い物を終えることができた。

 時間に余裕をもって出たから焦ることもなく、現在時刻はスマホで確認すれば8:30。

 歩いて戻っても15分だから遅刻は絶対ないけど、でも緑谷の言う通りスタートの挨拶は聞きてぇな。出来ればA組のみんなで。

 となると学校についてから寮まで移動する時間もあるし……ちょっと走るか。

 

「うし、んじゃ軽く走るか。涼しいから汗かくほどじゃないだろ」

「うん。それじゃ……」

 

 俺も緑谷も体力には自信あり。小走りで5分程度帰り道を短縮すれば全然問題はないだろう。

 まだ朝で人も多くないしな。

 さて、それじゃお互い片手に買い物袋を抱えつつ、緑谷がちょっと先行して走ってたところで。

 

「……あ、緑谷!」

「っ、っと!」

 

 道に歩いて出てきたコートの長身の男性にぶつかりかけるという事件が起きた。

 おいおい。なにやってんの。確かに壁で相手の方がちょっと見づらくなってるけど、そういう所はよく確認せんとさ。

 

「おっと! 気を付けたまえよ……」

「すんませんでした! コラ緑谷ー、あんま焦んなって……そこまで急いでるわけでもねぇぞ」

「すみません! 驚かせちゃって!」

 

 俺も緑谷も相手に平謝りして……その、姿を見た。

 秋場なのに随分と厚着だ。身長の高い男性と、身長の低いご婦人……んん?

 ……この季節に、この服装? 首元もネックマフラー……?

 いや、女性の方はともかく男性の方がかなりちぐはぐだ。個人のファッションセンスと言われればそうだが……でも、普通あるか? この季節にコートにマフラーまでつけて、二人ともサングラスをかけてるなんて。

 体のラインを隠すような服……まるで、そう。

 まるで俺のように、変装をしているような……。

 

「まったく……ゴールドティップスインペリアルの余韻が損なわれるところだったじゃァないか。さァ行こう、ラ……ハニー」

「ハニー!? ええ私はハニー!!」

 

 そして俺は二人の声で確信した。

 何故確信できたかって? つい最近、その動画を見ていたのだ。

 緑谷に見せてもらった後、動画編集の技術を見るために一通り飛ばし飛ばしだが動画の声を聞いていたのだ。

 

 こいつ、迷惑動画投稿者ヴィランのジェントル・クリミナルだ。

 

 ウォールハックでサングラスを無視して二人の顔を確認。

 特徴的なヒゲに隈の出来てる目。間違いない。

 

「ゴールド……へぇ……あの家、喫茶店かなんかなのかな……はた目にはわかんないな……」

「ん───そうだな。すみません、喫茶店はお洒落な感じでした? 雰囲気よかったら今度彼女連れて来たいなぁ」

「ム! まさか君たち……」

 

 俺は緑谷が天然かまして零した言葉にあえて乗って、相手の油断を誘った。

 ジェントルは紅茶フェチだ。いいアシストだぜ緑谷。この話題にバッチリ食いついた。

 俺は自分が持っていた袋のほうがロープが入っている袋だったことに内心で感謝しつつ、不自然にならない様に片手を袋の中に入れる。

 今は緑谷もエアフォースを撃てるアイテムを持ってきてないし、俺もダイブワイヤーを装備してない。

 生の個性で戦わなきゃならない。

 ジェントルの個性は使い方次第ではスピードも出る個性だ。逃げられたら俺が追えなくなる。

 緑谷のフルカウルでも弾性を上手く使われれば……ワンチャン逃げ切られる可能性がある。

 

 だからまず捕縛する。

 隣にいるラブラバも一緒にな。悪いけど手加減はしねぇ。この後ワクワク文化祭が待ってんだよ。

 

「ゴールドティップスインペリアルが何かを知らなければその発想には至らぬワケだが……君たち! わかる人間かね!! 幼いのに素晴らし……っ……キミ、その髪の色、サングラス……ま、まさ、か……?」

「? え、えっと、僕はそんなに……友達が淹れてくれただけで……あ、あと隣の彼はその、最近動画配信で有名になってるんですけど、まだ学生で……ちょっと、急いでまして……?」

 

 好機。

 俺の変装した顔を見て、ジェントルが正体を察して動揺した。

 そりゃそうだろうな。今ヒーロー動画界隈で何が一番バズってるかっつったらラーカーズ動画だ。

 その中でも俺の顔はよすぎて切り抜きが多発している。

 この町の人なら雄英に俺がいるってのも知ってて、たまに街中で会っても見て見ぬふりしてくれる人もいるが、こいつらは町の外からやって来た侵略者だ。

 驚くだろうさそりゃあ。木っ端投稿者の前に日本で一番バズってる男が目の前に現れたらよ。

 

 悪いがその隙、逃さない。

 

はーい センシティブヒーロー、イグジストですッッ!!

 

 茶化した雰囲気で挨拶すると同時に、袋の中のロープを取り出して目の前のジェントルに投擲。

 ロープ捌きはダイブワイヤーを使う中で覚えたので投擲自体は問題なくて。

 そして、俺はダイブワイヤーじゃなくても、ロープであれば自由に個性を通せる。

 

 つまり───体に埋め込めば、もう逃れられない。

 

「っなにィッ!?」

「幾野くん!? やっぱりコイツ……ッフルカウル!!」

「ジェントル!? 逃げるわよ!!」

「ああ、ラブラバ! こんな何の変哲もないロープごときで……な、んだと!?」

「掴めねぇ、外せねぇ、動かせねぇ。もう逃がさないよジェントル・クリミナル。救世(ぐぜ)を謳うステイン気取りの迷惑投稿者がよ」

 

 俺の自己紹介からの突如の動きに驚いたジェントルはロープを回避しきれなかった。そのまま体に触れた瞬間に個性を通してジェントルの体にロープを埋める。

 同時にここ一番の判断力が磨かれてきた緑谷も、先ほどの紅茶の会話で察したのだろう。即座にフルカウルを身に纏って戦闘態勢に。

 ラブラバが慌てて変装を解いてジェントルに駆け寄るが、もうチェックメイトは済んだ。

 ラブラバ単体に攻撃力はない。ジェントルの個性だけが使い方次第で相当動ける力のあるヴィランだが……このロープはもう離れない。

 そしてジェントルと結ぶロープの先にあるのはこの俺(ジョーカー)だ。

 自分の不幸と緑谷のトラブル体質を呪いな。お前らには何もさせねぇよ。

 

「緑谷! ラブラバの確保! あと周囲の警戒! ジェントルの個性には気をつけろ!」

「っ、うん! ジェントルは任せるよ!」

「ラブラバに手を出すなッ!!」

「ジェントル!! 嫌ァァァッッ!!!」

 

 冷や汗をだらだら流すジェントルに、俺はロープを引っ張って確保。当然重さも無視してる。

 そのまま地面に押し付けて、ロープだけではなく俺の腕も体内に潜り込ませた。脚も地面に埋め込む。

 こうなったらもう逃げられないのはステインの時にやってるからな。問題ない。

 

 ジェントルの個性は触れたものに弾性を与える個性だ。

 それを地面に発動する前に、いや発動しても問題ないように俺はジェントルの両腕を掴んで後ろ手にロープで拘束した。

 いくら地面に弾性を与えようと、地面と俺を結ぶお前は逃がさない。どんなに揺れてもヨーヨーみたいに戻って来たテメェが地面に叩きつけられて傷つくだけだ。

 こんな使い方するもんじゃねぇんだよこのロープは。

 青山曰く、俺らの友情の証なのによ。クソが。

 

「ぐっ……!! 逃げろラブラバ!! 彼女は全く関係ない!! 悪事には加担していないんだ!! 私が無理矢理言う事を聞かせていただけなんだ!!」

「そういうのは警察に言いな。俺らヒーローは捕まえるだけで裁く権利はねぇんだよ」

「ジェントル!! ジェントルー!! 『愛してる』わジェントル!! 『愛してる』!! だから逃げ……きゃっ!!」

「大人しく……してくださいっ!!」

 

 そして緑谷もラブラバを確保した。

 ジェントルが弾性の個性を使ってラブラバだけでも逃がそうとしたが、緑谷もフルカウル15%の力を張り続けられるくらいに成長している。

 凄まじい風圧を生みながら突撃して、常人の目にもとまらぬ速度でラブラバを後ろ手に拘束。

 拘束術も麗日ちゃんから教わってたもんな。ばっちりだぜ緑谷。

 

 

 ………これでもうジェントルもラブラバも逃がすことはなくなった。

 

 

「さて……緑谷、ラブラバこっちにくれ。一緒に俺がずっと潜り込んで拘束し続ける」

「うん。僕は通報を……あ、でも近くにヒーロー事務所がない……」

「ハウンドドッグ先生にかけよう。あの人学校の外パトロールしてくれてるからすぐ来てくれるだろ」

「わかった! ……でも、この二人は多分、間違いなく文化祭への襲撃を狙ってて……大丈夫かな。これで文化祭中止になったら……」

「バカ言え、先生方こそ一番文化祭を開催したい人たちだろ。敷地内に入れてすらいねぇコイツらをきっちり捕まえたんだ。褒められこそすれ中止になるわけねぇよ。急げ」

「そっか……うん、そうだね。……あ、もしもしハウンドドッグ先生。急ぎの用件です。幾野くんと一緒に学校の外に買い出しに出てたら雄英襲撃を目論んでいたと見込まれるヴィランを捕えました。警察にもこの後通報しますが、合流してください……はい、ええ。位置情報送ります……」

 

 緑谷からラブラバを受け取って、お腹のあたりにもう片腕を埋め込んでこっちも逃がさない構え。

 ラブラバがボロ泣きしてるけどふざけんなクソヴィランが。文化祭を潰そうとしたお前らにかける情けなんてねぇわ。

 

「ジェントル……ジェントルぅ……!!」

「……すまないラブラバ。先ほどから君の愛も受け取れているというのに……この少年!! 全く抵抗ができない!! 噂に違わぬ無敵の個性……!! くっ、弾性もこれ以上広げられん……何も出来ない……!! すまない、君の愛が足りないわけではない……この男が無法なのだ!!」

「……無法なのはお前らだろ、迷惑系配信者がよ。意識落とす前に聞くぞ……ほかに仲間は。変装までしてこの町にこの時間にいた目的は雄英襲撃で間違いないか。答えろ」

 

 こいつらの動画は見た。迷惑を起こし続けている二人だが、しかし実を言えば実害という意味では殆ど出ていない。奪った金はその場に置いてってたし、ヒーローや警察以外の一般市民には被害を出してない。

 愉快犯のようにも見えるが、動画で言ってた警鐘を鳴らすという目的でこんなことをやってるのだろう。

 

 いやもうマジでクソバカとしか言えねぇわ。頭ステイン野郎がよ。

 警鐘鳴らしたいならお前がヒーローになってやれよ。バカが。

 人の迷惑になることやって目立つって発想に至るのがマジでただのバカなんだよ。

 

「…………」

「ジェントル……!」

「黙秘か? まぁそれでもいいさ、どうせすぐ警察とヒーローが来る。そん時存分に語ればいい……仲間なんていなさそうだしなアンタら。()()()()()()()()()そういうのいなさそうだったし。良く捕まってなかったよな今まで」

「っ! ……君には分かるまい」

「……何をだよ」

「容姿も整い、自然と人目を集めて……ああ、雄英で主席を取るほど頭脳も明晰! そしてこんなにも()()()()()()を持つ君にはわかるはずもない!! 惨めな男のちっぽけな夢など……! 何もかも神に愛されたように恵まれている幸せなキミに、私の想いが分かるはずもない!!」

「…………」

 

 そして俺が話した何かが逆鱗に触れたらしく、ジェントルが饒舌に俺への嫉妬を、コンプレックスを零し始める。

 ヴィランってそうやって口で攻撃してくるところあるよね。でも俺悪いけどノーダメージなんで。煽り合い強いんで。物間くんっていう親友が鍛えてくれてるから。

 下らない話だ。俺は耳を貸さずにいたのだが……挑発に乗ったバカが一人いてしまった。

 緑谷だ。

 

「───取り消せ、ジェントル・クリミナル」

「ッ!? 少年……?」

「今の言葉を取り消せ……幾野くんが、何も努力しないで今ここにいると思ってるのか!? 恵まれてるだって!? 何も知らないくせにそんな事───!!」

「おい緑谷、ヴィランの言う事正面から受け止めんな……ってか油断すんな。先生たちとヒーローが来るまで気ぃ抜くなよ。逃げられたら面倒だ」

「っ……ごめん。……でも、貴方の言うそれはただの我儘だよジェントル。貴方が本当に動画で言ってたみたいな想いで夢を追って……その女性と一緒に歩みたいと願ったなら。貴方は悪事に手を染めるべきじゃなかった。ステインと同じ手段じゃなくて、保須の動画での幾野くんの正論を受け止めて……ヒーローを目指すべきだった」

「……私は……」

「……嫌よ、嫌!! ジェントルが捕まるなんて嫌ぁぁ……やめてよ、放して!! ジェントルを放してよ!! ジェントルが心に決めた企画なの!! 放せ!! 私の光はジェントルだけよ!!」

 

 緑谷の正論でジェントルが言葉を失ったところで、しかしそこでラブラバが暴れ始めた。

 もちろんそれで俺が拘束を解くこともないのだが……大粒の涙を零す彼女の泣き言は止まらない。

 

「ジェントルが私の全てよ!! ジェントルを奪わないでよ!! 奪わないで!! ジェントルと離れるくらいなら……死ぬ!!!」

「ッ馬鹿野郎が!!」

 

 その一言に一切の嘘偽りがないことを察した俺は決断的行動に出た。

 彼女は本気で死ぬつもりだ。それほどの迫力がその言葉にはあった。

 身動きできないこの状態で死ぬ方法はただ一つ。舌を嚙みちぎる事。

 今、大きく彼女が口を開いた。やる気だ。

 

 させない。

 俺はジェントルに埋め込んでたロープを握った右腕を引き抜いて、左手で捉えていたラブラバの口に諸々を無視して右手を突っ込み、彼女の口にロープを咥えさせた。

 かなり乱暴になってしまったが……やむを得ない。これで少なくとも舌を噛んで自殺することはできなくなった。

 

 ふざけんなよ。

 目の前で二度と誰かに死なれてたまるかよ。

 

「ガッ……ん、もごー!! むごーーー!!!」

「幾野くんっ!? くっ、ジェントルは逃がさない……!!」

 

 二人を掴んでた体勢が悪かった。片足は地面に埋めとかなきゃいけないからもう片足でジェントルを捕えなきゃいけないんだけど、距離があるせいで体勢的にキツい。

 緑谷も通報した後に周囲を警戒してたから僅かに距離がある。

 ジェントルが弾性を使って本気で逃げれば逃げられる……そうしたら緑谷に追ってもらわねば、と。

 一瞬でそこまで考えたところで、しかしジェントルは動かなかった。

 

「……ガハっ……!」

「っ。……なんで、逃げなかったんだ?」

 

 緑谷がフルカウルで再びジェントルの体を地面に押し付ける。

 しかし緑谷は個性を無視できない。ジェントルの個性の使い方次第で弾かれる恐れもある……のに。

 ジェントルは動こうとしていない。

 逃げようと、しなかった。

 

「……ジェントル。アンタ、ラブラバの事を置いてけなかったのか」

「そうだ……こんな私の事を愛してくれた彼女を……いや、私が騙して洗脳していた彼女に申し訳がなくてね。女性を置いて逃げるのは紳士ではない。よく止めてくれた、イグジスト……」

「へんほふ……へんほふー……!!」

「……ジェントル、貴方は……」

「…………こうして間抜けにも捕えられ、ラブラバの叫びを聞いてようやく目が覚めるのだからやはり私は道化だったのだろうな。……イグジスト」

「何だ」

「君の事情も知らずに冒涜したことを謝罪する。かつてヒーローを目指し夢破れた落伍者の、下らぬ嫉妬からの言葉であった」

「っ」

「……自首する。だからどうか、ラブラバに……相場愛美に恩赦を……!」

「へんほふぅぅ……!!」

「…………ちっ。そういうのは警察の前で言えっての」

 

 ああ、くそ。ホントに馬鹿な奴らだなコイツら。

 そんなに真摯にお互いを愛してたんならどっちかが言えよ。やり方変えましょうってよ。

 悪い事だとわかってるから動画にまでして目立とうとしてたくせに、ヤバくなってから反省するんじゃねーよ。

 ()()()()()()()()って。()()()()()()()()()()()()()()()()が。視野狭窄しやがってよ。

 

 ……俺も()()()()()()()があるから気持ちが分かっちまうじゃねーか。

 

 バカが。ただただバカな男だ。

 くそ。後味悪い。

 

「……ガルルァ!! 幾野!! 緑谷!! そいつらカァ!! ヨク捕えたァァ!!」

「話ノ通リ、迷惑投稿者ジェントルトソノ付キ人ノラブラバカ。警察モスグニ来ル……無駄ナ抵抗ハスルナ」

「……ハウンドドッグ先生。エクトプラズム先生も……」

「……いったん二人の意識落とします。あと任せますよ」

 

 そこで緑谷が呼んでた先生方が到着した。多分エクトプラズム先生は分身の方だろうけどな。これで引継ぎは完了と見ていいだろう。

 これ以上俺達がこの場でコイツらと話しても多分いい方向には転がらない。

 俺はラブラバと、その隣で緑谷に押さえられているジェントルの首元に手を伸ばす。

 でも最後にふと、意味のない言葉が口から零れた。

 

「……アンタたちの動画、俺全部見たんだけどさ」

「……」

「……」

「動画の作り方はマジで上手かった。参考にしたいくらいだったよ。……罪を償って、その後ちゃんとヒーロー目指すんだったら……そん時はコラボ動画一本くらい呼ばれてやるよ」

「……ああ、その日を楽しみにしよう、イグジスト」

「~~……!」

 

 二人の頸動脈を押さえる。

 

 1。

 2。

 3。

 

 ────落ちた。

 

 


 

 

「緑谷お前マジで今度お祓い行ってこい」

「僕の視点からするとそっくりそのまま君に同じ言葉を返せるよ??」

「するどい。……二人でお祓い行くか、真面目に」

「……そうだね」

 

 その後の顛末。

 警察が到着するまでの間に俺と緑谷は先生方に事情を説明した。

 動画を見ていたことでヴィランであることがわかり、変装していたことや先日に上げてた犯行予告動画もあって、雄英襲撃を企んでいた可能性があると。

 なのでまず捕えて事情を聴いたがおおむね黒。そもそもヴィランだったのできっちり捕まえたと。

 ただちょっと話した感じでは反省の色は見えたので、警察への引き渡しは穏やかにお願いしたいと。

 んで俺らこの後文化祭の出し物に出たいので事情聴取とか引継ぎはマジで全部お願いしていいですか、と。

 

『……結果として()()()()()()()()。仮免とはいえ見事なヒーロー活動だ。俺達が守るべきものを代わりに守ったお前らをこれ以上拘束する理由はない』

『A組ノ出シ物ハ10時カラダッタカ……マダ充分ニ時間ハアルナ、早ク行ケ。イレイザーヘッドカラ話ハ聞イテイル……女ノ子ヲ笑顔ニスルノダロウ。モウ一ツ、シッカリヒーロートシテ活躍シテコイ』

 

 この先生方の有難いお言葉ったらなかったよね。

 俺たちは頭を下げて、警察に二人の引き渡しが完了した時点で撤収。

 時間にして30分ほど食っちまったので結局文化祭のスタートアナウンスは聞けなかったのだが……A組の出し物には余裕をもって間に合った。

 雄英襲撃未遂事件があったことは不安を広げかねないので当然だが箝口令を敷かれている。

 まぁ俺も緑谷も怪我一つしてないし服も顔も乱れてない。バレへんやろ。

 唯一ロープにラブラバの噛み跡がついてるけどバレへんやろ多分。

 指摘されたらロープの強度を試すために緑谷を亀甲縛りしようとしたら抵抗されたって言えばいいやろ……。

 

「おせぇぞイクノ! 緑谷も! どこまで買い出しに出てたんだよお前らァ! エリちゃん来てくれてるぞ!!」

「悪い悪い!! ちっと街中でファンに捕まっちまってよ! エリちゃんも待たせたね! もう大丈夫、俺が来た!」

「わ……!? イグジストお姉さんが、お兄さんになってる……」

「ごめんね、ロープとかはしっかり買えたから! 準備は!?」

「もうみんなバッチリ! じゃあ全員揃ったから円陣組んでから体育館行くよ!!」

「っし! やるぞやるぞ!」

「ここまで来たらもう出たとこ勝負だ!! 頑張ろうぜ!!」

 

 寮でもう間もなく準備で出発するA組と合流できた。

 相澤先生とミリオ兄さんもエリちゃん連れて挨拶に来てくれてた。間に合ったな、あぶねぇあぶねぇ。

 とはいえゆっくりなんて当然してられない。

 みんなの一か月の頑張りを全部ぶつけて音で殺るために、俺らは円陣を組んで最後の気合を入れる。

 

「Aバンド────」

 

「「「プルスウルトラァッ!!!」」」

 

 

 俺たちの文化祭が、幕を開けた。

 

 

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