【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
体育館のカーテンの裏にAバンドのみんなが集まった。
青山はヒーロースーツ、他はそれぞれ衣装やクラスTシャツに身を包み……あと10分で始まるバンドダンスを見に集まる観客たちのざわめきを聞く。
「満員御礼だな」
「イクノが作ってたフライヤーの効果出てんな。暇な学生殆ど集まってんじゃねぇか?」
「宣伝は実際大事」
前に3年の先輩に教えてもらった業者を使ってバッチリかっこかわいいフライヤーを作って学内にばらまいた結果、開始前で既に満員御礼。
折角なんで校内にある大型スクリーンに遠隔でダンス映像と音を流してもらうように手配までしている。そういう裏方の仕事はインターンで詳しくなったな。裏工作得意になった。
見るやつらは集めた。あとは俺達が音で殺るのみ。
「もうここまで来たらやるだけだな」
「道具や演出はさっき全部確認したし……」
「やば、心臓バックバクだわ」
「恋に落ちたか? 仕方ねぇな、これが終わったらキスしてやるよ上鳴」
「絶対違ェよ少なくともお前に対してじゃねぇよ!?」
「今日のセンちゃんはかっこいいから惚れるのもやむなし! 許す!!」
「話聞いてねぇぞこの彼女!?」
バンド隊でもメンタル弱者側の上鳴がときめいて死にそうになってたので茶化して解してやった。
楽しめ楽しめ。その心臓ドキドキも楽しいもんだろ。俺も中々さっきから胸のときめきがうるせぇよ。
でもまぁ、だからこそさ。すっげぇワクワクしてる。
みんなでやる出し物だぜ。楽しまなきゃ損ってもんよ!!
「……あと10秒か」
「よし……みんな! 楽しんでこう!」
「「「おお!!」」」
舞台から漏れない程度の小声で、Aバンドのボーカル兼リーダー、耳郎ちゃんがぐっと拳を握り、全員がそれに応えるように拳を握り返した。
さぁ、始まりだ。
ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ……
ブザーの音と共に幕が開いた。
「お」
「お!」
「おお」
「始まるぞ」
「きたー!」
「1年ガンバレー!」
「幾野ー!」
「ヤオヨロズー!」
観客たちがにわかに騒ぎ出し、拍手が広がり……そして、暗闇の中から俺達Aバンドが姿を現した。
少し焦らす。
あえて最初は暗闇の中から、そしてシルエットで魅せたのちに…………明暗をはっきり分ける照明が俺達に降り注いで。
ダンス組がみんな、拳を天につき上げたまま構えたポーズで。
そして俺は観客席にはっきりと見つけた。
ミリオ兄さんに抱えられる、エリちゃんの興味津々なその顔を。
見ててねエリちゃん。
───君が二度と悲しまないように笑える、そんなダンスを君に見せるよ。
「いくぞコラァアア!!! 雄英全員ッ!! 音で殺るぞォォォオオッッ!!!!」
KABOOOOOOM!!!!
爆豪ちゃんの啖呵と共に大爆発を天に向けて放ち、そして強く深くバンド隊が音でブッ叩く。
俺たちダンス組も練習し続けた一糸乱れぬダンスで全身で大きく動きを見せる。
ツカミはド派手に。
「ッよろしくお願いしまァーーーーーーーーーっす!!!」
声出しとあいさつを兼ねた耳郎ちゃんの叫びで全員でジャンプ!
「オォ!?」
「いいじゃん!!」
「幾野アレ!? あいつ髪短い!?」
「え!? ウソ超かっこいい!?」
「めっちゃ息ピッタリ!!」
「他もめっちゃ踊れてるじゃん!!」
観客の顔もいいな! ノせた! よしよし調子出てきた!
(ファーストステップが終わったら、次のステップは青山と緑谷のパート! 魅せろよ緑谷!)
尾白が投げる緑谷と青山が絡み、フルカウルの光を纏って青山を天高くぶん投げる。
そして青山が全力回転からのミラーボールだ。
「おー! 人間花火かよー!!」
「あははは!! いいぞー!!」
盛り上がってるな。いいぞいいぞ。
そんで全員がそちらに目を持ってかれた瞬間に、俺がすいっと障子の後ろに隠れつつ床下に潜り姿を隠す。
すぐには気付かれないだろうが、俺は基本的に目立つ。次第に観客があれ? 幾野は? と思うだろう。
そん時を見てろよ。
「……っし、ロープ準備OK。『キツくねぇか青山、行けるか!』
「ウィ☆ 任せてほしいね……☆!!」
舞台裏から梁の上まで潜り移動した俺は、青山に繋がるロープを手に取り距離を無視して声をかける。
舞台袖で尾白が青山に解けない様にロープをぐいぐいと縛りつけている。
返事はよし。ただ一番負担がかかるのは誰っつったらそりゃ青山だ。万が一にも落とさない様に気をつけんとね。
「さァもうすぐサビだ……行くぜ!!」
サビに至る前、峰田と梅雨ちゃんが息ピッタリの曲に合わせたジャンピングダンスで観客を沸かしていた。
梅雨ちゃんが可愛らしく髪を踊らせてトリプルアクセルキメるそばで峰田が跳峰田で縦横無尽に天井と床を跳ね回り、最後に梅雨ちゃんが腕を天に伸ばして峰田をキャッチするというもの。
見せ場だな峰田。ナイス跳躍。かっこいいぜ。
「よっしゃ今だせろろき!!」
「セイ!!」
「おお」
『羽ばたくものよ、光源を上下左右に動かすのです!!』
「っしゃ、俺らも行くぜ青山!!」
「煌めこう☆!!」
演出組の全力の輝きが舞台に放たれた。
轟が氷の足場を縦横無尽に作り出し、瀬呂がテープを大量に投擲。同時に八百万ちゃんもクラッカーのようにテープを放って。切島はダイヤモンドダストを巻き散らして。
俺は青山の重さを無視して引っ張り上げて、梁の上を走り回りながら青山を縦横無尽に動かして輝かせる。
ワアアアアアアアアアッッッ!!!
場内大興奮。いいね、最高!!
さあ俺が梁を一往復したあたりでちょうど曲は二度目のサビ前に。
ダンス組もかなり盛り上げ、先ほどのサビの爆発も少々落ち着いてきたころで、そろそろみんな気付いたかな。俺がいないことに。
お膳立てはOK。
ここで緑谷がサビ前のリズムに合わせて、壇上中央で高々とポーズを決め、そしてフルカウルで一気に跳躍し、梁にダイレクトで着地。
観客の視線がその緑谷の動きを追ったところで……俺が青山のロープを緑谷にパスしたうえで、そのまま舞台のど真ん中に向けて跳躍。
「……あ、やべ」
男装するために結い上げてた髪が落下の勢いで解けちまった。
しまった、空気抵抗も無視しときゃよかった。
早々解けない様に結ってたんだけどさっきのジェントルとの戦いでなんだかんだほつれてたか。
ちゃんと気にしときゃよかったな……いやもーいいやァ! そのままヒーロー着地っ!!
「──────
赤い髪をばさっと広げて着陸し、そこからゆっくりと拳を天につき上げて───場内の喝采を一身に受ける。
もちろん俺が見せる表情は笑顔だ。ヒーローってのは笑顔を作ってやる仕事だからな。
そして俺の目は、ミリオ兄さんが高々と掲げるエリちゃんの瞳と合った。
「……わぁっ……!!」
俺は確かに、それを見た。
何よりも見たかった表情を。
エリちゃんの心の底からの笑顔が、そこにあった。
「美味しい所持っていきやがったなイクノぉ!!」
「セン、流石だよねっ!!」
さぁ、でもまだダンスが終わったわけじゃない。
サビが流れる中、着地した俺の傍に服を煌かせた透ちゃんがやってきて、ダンスのお誘いをするように手を伸ばす。
恭しくお辞儀をして俺が彼女の手を取って、二人でオリジナル社交ダンスだ。
俺の動きは勿論の事、透ちゃんも柔軟性やキレの切れがよい。
以前チアガールしてた時も相当動けてたそれを、この社交ダンスに全て注ぎ込むかのような勢いでめちゃくちゃ動けるようになっていた。
「えへへ、たのしーね!!」
「ああ、最っ高!!」
プロ顔負けのキレッキレのオリジナル社交ダンスを魅せて、透ちゃんのスカートと俺の髪が踊るように翻り全員の注目を再び集める。
そして最後に彼女の腰を抱いて決めポーズをとる瞬間に───個性を発動。
透ちゃんの『透明化』を『無視』させて、素顔を観客の皆様に2秒だけお披露目だ。
「「「「!?!?!?!?!」」」」
はい脳破壊入りましたー!!
俺と透ちゃんの初めての共同作業脳破壊の威力を食らえ!! 二度と見せてやらねーからな!!!
そして二回目のサビも終わって、ここからは耳郎ちゃんの独唱パート。
この瞬間は彼女が主人公だ。
すべてのスポットライトは彼女にあてて。彼女の輝きを静かに照らして。
その間にダンス隊、演出隊が最後の仕込みをする。
梅雨ちゃんは麗日ちゃんを舌で掴んで無重力コーナー担当。
ダンス隊は氷の足場に移動。俺は最後まで壇上なのでポジショニング。
「─────Yea I'll be!!!」
耳郎ちゃんが本当は静かに伸ばすところで腹の底から叫んだ。
ここでアドリブ決めて来たか、カッコよ!!
そしてそのタイミングで舞台の上、右手側を向いてヒーロー着地後の姿勢で待っていた俺にスポットライトが当たり、そこに視線誘導した瞬間に────緑谷が急落下して来てヒーロー着地をキメた。
ワアアアアアアアアアッッッ!!!
背中合わせに俺と緑谷がしゃがんだ姿勢からゆっくりと立ち上がり、ヒーローポーズを決める。
二人のヒーローの姿に観客から更なる大喝采。
そしてそこからは最後のサビだ。
Aバンド全員が、いやもう体育館の中にいる全員が、全力で叫び楽しんで。
そこには笑いと喜びと驚きがあって。
きっと、ヒーローが見せる景色ってのはこれなんだ。
俺はいつか、こんなふうにみんなを。
世界中の人を笑顔にするような、そんなヒーローになりたい。
みんなの隣にいられるようなヒーローに。
最後、人差し指をゆっくりと天に持ち上げてからのラストダンス。
緑谷と並んで最後まで気を抜かずに踊り……そして、両手を大きく高く上げる。
そして、ミリオ兄さんの肩の上で同じポーズのエリちゃんに、満面の笑みを送って。
「あはっ……!!」
エリちゃんも、同じように満面の笑顔を、俺達に見せてくれた。
「我が名はイグジスト────掃除の神なり」
「我はグレープジュース。我の前に塵は無く、我の後に塵は無し」
「一瞬で片づけ終わったな」
「この二人が本気出すとマジでヤバイ」
無事A組の出し物も大反響の結果に終わり、俺達は速やかに体育館を撤収した。
本当は轟が生やした氷とか巻いたテープとか鳩の羽根とか観客の落とし物とか色々片付けたりしなきゃいけなかったんですけどね。
でも俺のミスコンがこの先にあるし。B組の出し物もすぐ始まっちゃうし。
だったら本気出すしかねぇよなァァ!!!
まず俺が無視の個性を全力でブン回して氷の足場をそのまま体育館下の地面に埋め込んだ。
そのうち溶けて水になって雨が降ったのと同じように地面に吸収されておしまい。
室内にぶちまけられたテープ類は峰田がもぎもぎを変形させて薄く細く網戸みたいな状態にして半径20mくらいの範囲をぺったんぺったんしてゴミを全部回収。
5回もやればほぼ全域回収し終えたのでそれを纏めて俺が無視を通してコンパクトにまとめてゴミ捨て場へシュウウウ!! 超エキサイティン!!!
1分で原状回復したった。
「うーし、これで時間作れた!」
「俺B組の演劇見にいこーっと」
「どーする? どっから回るよ?」
「アトラクション系回らね?」
「少し落ち着きたいよ……もう全部やりきっちゃった」
「では喫茶系の出し物の所に行きましょうか耳郎さん。本当にお疲れさまでした」
「みんなホントおつかれー!」
「峰田ちゃん、一緒にどこか回らない?」
「おーええよ梅雨ちゃん。ミスコンまで時間あるしオイラ二年生のやる和風メイド喫茶見に行きたい」
さてそうしてA組のみんなが思い思いに移動しようとしたところで、エリちゃんとミリオ兄さんが合流した。
「よーうオツカレ!!」
「おつかれ……!」
「お、エリちゃん! どうだったい、俺らのダンスは!」
「楽しめたかな?」
「うん……! 最初はおおきな音でこわくって、でもダンスでピョンピョンなってね! ピカって光ってイグジストお姉さんがいなくなっちゃったけど、ぶわーって冷たくなってね! ぷかーってグルグルーって光ってて、デクさんがいなくなっちゃったら、そしたらイグジストお姉さんがでてきて! 女の人の声がワーってなって……デクさんも出てきて! わああっって言っちゃった!!」
先程の、初めて味わった感動を何とか表現したいのか、言葉で思いつく限り次々と情景を思い浮かべて、身振り手振りで体も動かして、満面の笑みを見せてくれるエリちゃん。
ウッ……泣きそうです。その顔が見たかった。
緑谷は実際涙零して袖で拭ってた。
俺たちの旅は無駄ではなかった……!!(例の顔)
「楽しんでくれてよかった……!」
「ウム! だがエリちゃん、これで終わりじゃないぜ」
「え! まだ何かあるの、イグジストお姉さん?」
「ああ、あるぜ────────ミスコンがなぁ!!!」
我が名はイグジスト。ミスコンに地獄と天獄を生む者なり。
覚悟しろ。俺が来た。