機動戦士ガンダムUC バタフライ・エフェクト 作:しゃくなげ
格納庫のガンダムは、トムラのやつが整備していた。
新型だというのに手慣れたもので、てきぱきとビーム・ガトリングをシールド裏に連結していく。作業にたちあうバナージは、ただただその光景を見つめている。
さすがに、腕がいい。ゼータのときも、助けてもらった記憶がある。
「接続確認、よし。うん、問題なさそうだ」
仕事終了といった余裕の顔があまりにいつも通りで、こればかりは僕も舌を巻く。
メカニックの技術も、月での生活でだいぶ身についたと思っていたのに。
「早いよな、相変わらず。僕だったら、半日はかかる作業だ」
「本職だからね、ジャンク屋に追いつかれたら仕事がなくなるさ」
わけないと、肩をすくめる仕草。それが嫌味ないものだから、腹も立たないというやつだ。
「味方が基地を制圧したら座標地点にこいつをおろして、次の情報開示を待つんだそうだ。アイバンが、護衛につくとよ」
「なんだよ、制圧後の降下なら僕のギラ・ズールにガトリングをくれてもいいだろ。火力不足なんだ、こっちは」
「ダメダメ、アレにも綿密に計算された重量バランスってものが……どうした、バナージ?」
トムラの言葉に、振り返る。バナージのやつはぽかんとした顔をしていて、視線の先にはガトリングがある。
「妙なんですよね。連邦のモビルスーツに、ジオンの武器がフィットするって」
「ああ、それ、前にどこかで聞いたな。ユニバーサル規格……なんだっけ、トムラ」
「ユニバーサル仕様規格品。整備も搭載も統一規格だから、メカニックとしては助かってるよ」
ああ、それだ。
ペイルライダーの改修は、頭部の代替が効かなくて大変だったと聞いた気がする。
「そういう部分では協調できるのに、なんで戦争はやめられないんです?」
「戦争やってるうちに、そういう部分だけこなれていったんだよ。効率がいいってな」
ふたりのやりとりを聞きながら、ガンダムを改めて見上げる。
赤い光は見せず、静かなまま。こうしていると、ジム頭のモビルスーツにも思えるからふしぎだ。
「確かにアナハイムの都合だけれど、現場は助かるよな、ジンロウ」
「まあね。結果的には、現場の都合でもあるよ。でも、面白いな」
「なにがですか?」
向き直ると、大きな目をまたたかせて、バナージは言葉の先を促すように僕を見つめていた。
「僕とは、やっぱり感性が違うなって。おまえは本当に、協調とか、手を取りあうとか、そういうのを考えられるんだから」
「こいつは『自分が一番だって見せつければそれでいい』ってタイプだからな、メカニック泣かせのパイロットさ」
「僕はエースだから、いいんだよ」
バナージのやつ、信じられないって顔だ。
トムラもそれを見て、思わず吹き出している。
「あの、すいません! 専用機だったから、俺はてっきり、マリーダさんがエースなのかなって!」
「いやわかる、うちのエースって言ったらマリーダだよな。着任順ならジンロウは新兵だから、話半分でいいさ」
「おいトムラ、僕はマリーダの教官だぞ、おい。今でもあいつより絶対うまいからな、僕の方が。なんだったらバナージのガンダムだって墜とせる、ガトリングをよこせよ」
それはだめだと笑いながら、トムラは僕のギラ・ズールの整備のために奥の方へ行ってしまう。取り残される気持ちにもなれっていうんだ。
「教官、だったんですね」
結局、これだ。バナージのやつ、気をつかって話題を選んでる。そういう優しさは、いらないっていうのに。
「昔の話だけどさ、ティターンズって連邦の組織に所属していたんだ。そこからアクシズに亡命して、マリーダやユイの……あの子たちの、教官をやってたんだよ」
向けられる視線は、うたがいではなくて、困惑をしているそれだ。
バナージの抱いている違和感の正体は、なんとなくわかっている。それを説明したところで意味がないことも、わかっている。
「僕はほら、少年兵だったからさ。それより、テストは自分でもちゃんとしておけよ」
だから、強引に見えても会話を切りあげた。
辺境の地という表現が、トリントン基地にはしっくりくる。この光景をコックピットの中で見たとしても、今のオペレーターチェアでの感想とそう変わらなかったはずだ。
一年戦争でスペースコロニーの落ちたオーストラリアは、連邦からしても不名誉な土地なのだろう。直感的なものでしかないけれど、復興支援や再開発が進んでいるようには思えない。
防衛戦力も練度が足りなくて、ジオン残党軍の襲撃はあちこちで戦果をあげている様子だった。
「なあ、さっきのあれは、本気かい」
航行の最中に、アレクのやつが問いかけてくる。ガランシェールが待機中だからって、いい気なものだ。
「どれかな」
キャプテンに叱られるのもなんだから、とぼけてみせる。それでも、アレクのやつは食いさがった。
彼が気にしているのは、キャプテンとフラストの会話だ。
ガンダムに刃向かわれたら、ガランシェールでは抑えきれないとキャプテンは言う。その一方で、バナージはキャプテンを信じきっているから心配ないとフラストは言う。
どうだろうと考えて、僕は当然のように言ったわけだ。
「その気になれば、ガンダムでも落とせるってやつさ」
「ああ、本気だよ。性能差があっても、負けないさ。キャプテン、第一派が上陸した。トリントン基地への攻撃、開始してる」
「おっ、無駄口で叱られる前に仕事をしたか」
会話に割り込むやつは、無視だ。キャプテンはいつものようにむずかしい顔をして、報告を受けている。
あちこちの部隊から逐一あがってくる情報は、一方的な勝利を誇らしげに掲げて自慢している。連邦軍など大したことないと、軍人たちが熱っぽく勝利を謳う。
進軍は、順調だ。
順調だった、ここまでは。
「なんだ、これ」
共有された地上の情報に目を通して、違和感に気づいた。戦力の中枢になっているモビルアーマーのリフレクタービットが、不自然な展開をしている。
「どうした」
ひとりごとだったけれど、キャプテンはすぐに反応する。
「ロニ・ガーベイの、シャンブロの様子がおかしい」
僕もまた、隠さずに報告をする。キャプテンは無言のまま、視線だけで詳細を要求する。
「リフレクタービットの配置が、妙だ。この置き方だと、偏向先が」
連邦の基地やモビルスーツではなくて、民間人の避難地域になる。
頭に浮かんだ自分の考えに、背中をぞくりと、なにかが這った。
「キャプテン」
「報告は以上か?」
「以上って、わかるだろ、キャプテンなら」
思考がまとまらないままに、コンソールを見る。更新されていく戦況よりも、ぢりぢりとした不快感がうなじのあたりでうずまいている。
見ているはずだ、キャプテンも。あの目線は、現状を見ている。地上でなにが起こっているのか、見ているはずだ。
熱したナイフでチーズを裂くように、マンションの建材が溶けて、弾ける。ことの始まりを告げるように、あっけなく。
民間のシェルターが四つに割れるさまは、プリンをつぶしたときのそれに似ていた。群衆が逃げ込んでいる先は、コンサートホールだろうか。公共の避難所に、収束したメガ粒子の閃光が降り注ぐ。溶けた飴細工がああなるのを、テレビかなにかで見た記憶がある。
思考がどこかに流れていたせいで、走ってくる足音に反応するのが遅れる。息を切らしたバナージが、ブリッジに飛び込むなり怒鳴り声をあげる。
「なにをやってるんです!」
キャプテンは、答えない。
ただ、冷たい目をしてバナージを見ているだけ。
「ユニコーンを出します。ラプラス・プログラムの封印が解ければ、こんなことを続ける必要はなくなるんでしょう!」
ああ、そうか、そうだった。
これは、あいつを無事に降ろすための制圧戦だ。だったら、降りさえすれば終わるはず。
「だめだ、今出れば対空砲にさらされる。掃除が終わるまで待て」
立ちあがろうとしたのに、キャプテンは認めない。
バナージの感情が膨れあがるのを、感じる。
怒りか、それとも哀しみか。僕では、きちんと把握ができない。
キャプテンは、まるで動じない。取るに足らないことのように、バナージの話を聞き流している。
「掃除って、関係ないひとがたくさん死んでるんですよ! いいんですか!」
「作戦だ、いいも悪いもない」
「キャプテン、どうしたんだ。バナージの言ってることは筋が通ってる、いつもならこんなじゃないだろ、キャプテンは」
キャプテンの反応は、静かで、流れるようで。どうしてバナージに拳銃を向けているのか、理解するのに時間を要した。
冷たくて硬質な音は、聞き覚えがある。初弾を薬室に装填して、安全装置を外す音。精密機械がそうするように、ひとつの乱れもなく、キャプテンは殺意を突きつける。
「ふたりとも、動くな。……バナージ、縛りあげて連れてきた覚えはない。こんなはずじゃなかったと思うのはおまえの想像力不足だ。敵地を制圧するというのはこういうことだ。ジンロウ、任務に戻れ。前線にいたんだ、おまえならわかっているだろう」
「わかってる、わかってるけど、キャプテン」
「おまえはどうして袖付きに加わった、守るものがあったからだろう。もう一度だけ言う、任務を遂行しろ。手を汚せと言ってるんじゃない、受け入れればいい」
言葉が見つからない。
キャプテンが、止めるなと言っているのがわかる。怒りよりも奥にある、真っ黒な怨念をむき出しにして。
呑まれそうになっている。キャプテンが、怨念に耳を貸している。それは、とても哀しいことだ。もう、こんなものは見たくないと思っていたのに。
ああ、くそ、情けない。なにを言えばいいのか、まるで、それがわからない。
あなたには恩がある。キャプテンには、返せない恩がある。だから、こんなのはやめてほしい。
冗談抜きに、この僕が。ひと殺しを遊びにしていたこの僕が、心の底からそう思っていたから、
「関係ない場所を撃って、逃げるひとを踏みつぶして! こんなの戦争ですらない、ただの怨念返しですよ!」
バナージのさけびが、すとんと、胸に落ちた。
「キャプテンはあのとき、インダストリアル7で俺を撃たなかった。こんなこと、平気じゃないはずです!」
やめさせてくれと、バナージがさけぶ。むき出しにした感情をぶつけて、必死になって。
アレクも、フラストも、ふたりを止めようとはしない。ここはガランシェールの中だ、キャプテンを助けるのが道理だ。それでも、大人のふたりは動かない。
「これが戦争だって言うなら、なんで俺を砂漠に連れ出したんです! なんでマリーダさんを助けたんです! ジンロウさんもユイさんも、助ける必要なんてなかったでしょう!」
じゃあ、僕は動くのか。
バナージは人間だ、ノーマルスーツを着ていても、僕なら解体するのに十秒もかからない。
じゃあ、僕は動くのか。恩があるから、正当化していいのか。キャプテンを好きだから助けるのなら、バナージのことはきらいなのか。
考えても、考えても、思考はまるでまとまらない。
ただ、身体は動かない。
動かせないのではなく、動きたくない。そうだ、僕は、動きたくないと思っている。
キャプテンに加勢してはいけないと、今のキャプテンを助けてはいけないと、心というものが思っている。
それよりも、聞きたい。バナージの言葉への返事を、聞いてみたい。脳が誤作動を起こしているのか、そんな欲求さえ生まれている。
「あのひとがあなたをマスターと呼ぶのは、強化人間だからじゃない。俺がそうだったように、キャプテンに心を救われたから!」
「黙れ!」
バナージの身体が、やせっぽちの身体が、人形のように投げ飛ばされる。壁に叩きつけられて、苦しげなうめきがもれる。
なあ、キャプテン。どうして、あの日、あなたが来たんだ。
袖付きにとっての僕は、新型機のテストベッドとして使いつぶす実験体でしかなかったはずだ。悪いようにはしないからと、あなたが言ってくれたのはどうしてなんだ。
「おまえを気にかけたのは『箱』の鍵だからだ。なびかせておいた方が都合がいいと思っただけだ」
髪をつかまれ、バナージが痛みに顔をしかめる。キャプテンは、その鼻先へコンソールを突きつける。
憎しみを突きつけているようで、違う。
一緒にいたせいなのか、なぜだか、わかる。理由はわからないけれど、キャプテンは、バナージを憎んでいるわけじゃない。
それを感じて、心は、もうざわめかなくなっていた。
「こんなのは戦争じゃないと言ったな、目を開けてよく見てみろ! こんなことが起こるのが戦争だ、主義も名誉も尊厳もない!」
そうだね、そうだ。
戦争だからって、そういうやつは絶対にいる。僕だって、きっと、そういうやつの側にいたはずだ。
キャプテンは、必死になっている。バナージの言葉に耳を塞いで、自分の怒りを正しいと、そう認めさせたくて必死になっている。
ああ、だから、本当に哀しい。
次の言葉が、わかってしまう。だめだ、キャプテン。僕も、それは肯定できない。
ニッコのやつを助けられなかったあの日から、僕はさ、怨念ってやつがだいきらいなんだ。
「殺すやつがいて殺されるやつがいるだけのことだ、怨念返しの何が悪い! 俺たちの戦争は、まだ終わっちゃいないんだ!」
「そんなの……ジオンの町を焼いた連邦軍と同じ理屈じゃないですか!」
バナージが、キャプテンを蹴り飛ばす。予想もしていなかった反撃に、屈強な巨体が階段から転がり落ちた。
からからと硬い音を立てて、キャプテンの拳銃が床を滑っていく。あれは危ないから、拾っておいた方がたぶん、いい。
立ち上がって、それだけは拾いに行く。バナージとキャプテンが殴りあう、格闘の音を聞きながら。
冷たい金属の感触を手の中で確かめながら、僕はただ、ふたりを見守っていた。目を背けずに、手を貸さずに。
心をぶつけているだけだから、ひどいことにはならない。それなら、きっと、ぶつけあった方がいい。
「哀しいから、哀しくなくするためにひとは生きているんだって、あんたはそう言った!」
「このガキ!」
殴って、蹴って、突き飛ばして。
格闘の音は乱暴で、耳ざわりで。そのくせ、ふしぎと、いやな気持ちにはならない。
「あんただってわかってるんだ! こんなことしたって、なにも報われないってことを!」
「なんにも知らない、小僧がぁ!」
弾倉を外し、遊底を引いて、薬室の弾丸を抜く。安全装置をかけ直して、キャプテンの銃はコンソールの横に預ける。
途中で、フラストのやつと目があった。くちびるの動きで、なにを言ったのかは読みとれる。
えらいぞ。
なぜ褒められたのかは、わからない。
ただ、胸の奥がざわざわして、うれしくなる。
「俺は、俺たちはこの時をずっと待っていたんだ、今すぐ降りて手伝いたいくらいだよ!」
「だからって、自分が地獄を見たからって、他人にそれを押し付けていいってことは!」
そうだな、バナージ。
うん、おまえの言葉の方が、今の僕は好きだ。
フラストも、アレクも、それにきっと、キャプテンも。
たぶん、きっと、おまえの言葉が好きなはずなんだ。
「こいつをなんとかしろアレク! フラスト!」
バナージに踏みつけられて、キャプテンがさけぶ。
体格でも、経験でも、本当ならキャプテンが負けるはずなんてない。だったら、どうしてこうなっているのかは明白だ。
キャプテンの心が、バナージの言葉に耳を貸している。怨念ではなくて、あいつの言うことを聞いているからだ。
「すいませんが、今手が離せないんで。ご自分でなんとかしてください」
ああ、フラストのやつ、暇そうに伸びなんてしてる。あとで、きっとどやされるぞ、ばかなやつ。
「ジンロウ、やれ! こいつを、退けろ!」
キャプテンから向けられた視線を、真っ直ぐに見返す。
言うことなんて、決まってる。最初から、決まってるんだ。
「なあキャプテン、僕はやっぱり、あなたが好きだ。少し待っててほしい、ユイを呼んでくる。ボコボコにされてるから、きっと腫れるよ、それ」
ぽかんとしたキャプテンの顔があまりにもおかしくて、がらにもなく笑ってしまった。
キャプテンの怒りの声は、バナージの一発で中断する。よかった、僕までどやされずに済んだ。
「わからない……俺には、わかりませんよ。でも、わからないからって、哀しいことが多すぎるからって、感じる心を止めてしまってはだめなんだ」
息も絶え絶えに、バナージが言う。
あいつの言葉を聞いていると、なんだか、泣き出しそうな気持ちになる。そんな機能、とっくに取り除かれてしまっているのに。
「俺は、人の哀しさ、哀しいと感じる心があるんだってことを、忘れたくない! それを受け止められる人間になりたいんです! キャプテンと同じように!」
バナージが、ブリッジから格納庫へと向かって歩き始める。
こどもで、やせっぽちで、背も低いのに。彼の歩みは、ちょうどそう、いつものキャプテンのように力強い。
「なあ、バナージ」
その背中に、呼びかけた。
追いかけて、並ぶことはできないけれど。それでも、言っておきたいことがあったから。
「ありがとう、おまえのおかげだ。やっぱり、怨念返しはだめだよな」
こういう言葉は、やっぱり少し気恥ずかしくて、照れる。
けれど、それでも。
「……はい。俺も、そう思います」
うれしそうに笑ってくれたバナージを見て、心の底から思うんだ。
「僕はさ、おまえと出会えて、本当によかったよ」
地上の戦いは、終わらない。
連邦の部隊は次々と撃墜されて、戦線がじわりじわりとジオン側になっていく。
けれど、きっとそれも、ここまでだ。
「一機、うまいやつがいる。それとも、機体の性能かな。シルエットだけなら、バイアランに見えるね」
残党軍のモビルスーツ、水陸両用だけあって装甲は厚いけれど動きがにぶい。連邦のやつは、上空からの狙い撃ちで数を減らすつもりらしい。
「ちょっと、解説してる場合じゃないでしょ。タオル、冷やしてくれたの!」
ユイにどやされて、ようやく意識をコンソールから引きはがす。
「ごめん、遅れた」
「気にするな、俺の不始末だ。ユイ、もう問題は……」
冷やしたタオルを手渡すと、思いきりにらまれる。
キャプテンも、助け舟こそ出してくれているのだ、けれど。
「あります、あるでしょ。頭の怪我なんだから、もっと大事にして。マリーダが戻ってきたときに、元気な顔して会うんでしょ!」
こっちもこっちでどやされて、男ふたりで黙り込むしかない。フラストとアレクは、さも操縦が忙しいとばかりに真面目な顔をしている。
僕たちの窮地を救ってくれるのは、結局のところ、バナージのガンダムだけだった。
「格納庫、パージ準備完了しました」
フラストの報告に、トムラの通信が割り込む。状況を理解しているから、その声はいつも以上に緊迫している。
「いいんですか! 今降ろしたら、狙い撃ちにされますよ!」
ちらと、フラストが振り返る。
キャプテンはむすりとした顔をして、ユイの応急処置を受けているまま。許可も出さないが、禁止もしない。
その意味は、ブリッジの男連中だけが知っている。
「……『構わん、小僧の好きにさせろ』……ですね、キャプテン?」
念を押すフラストは、うれしそうな顔だ。
「……ふんっ」
居心地が悪そうではあるけれど、キャプテンだってあいつの言葉を否定しない。だから、答えなんて決まっている。
「ああ、くそ、せっかくだから見せてやりたかったな。僕が一番うまいってこと、バナージのやつはまだ信じてないんだ」
通信に交じる、笑い声。
バナージの声は、さっきよりも弾んで聞こえて、心がおだやかになる気がする。
「キャプテン、ガランシェールの皆さん、お世話になりました」
「いいんですかい、なにも言わなくて」
「いいんだよ。今生の別れじゃないんだから、きっとまた会える。キャプテンだって、そう考えているさ」
別に確信があるわけではないけれど、たぶんきっと、そうに違いない。だから、別れはさびしいとも思わない。
肩越しにキャプテンを見ても、返事はない。
よろめきながらも立ちあがって、彼はいつも通りの席へと腰かける。これで、ガランシェールはいつものかたちにまたひとつ近づいた。
「バナージ・リンクス、ユニコーンガンダム、いきます!」
出撃する。
バナージを乗せたガンダムが、戦場へと落ちていく。
その姿に、どうか無事であれと願いながら。
僕はまた、戦況の報告を再開した。