機動戦士ガンダムUC バタフライ・エフェクト 作:しゃくなげ
ギラ・ズールが爆炎に包まれ、すぐに闇へと消えていく。
先ほどまでの戦闘音がうそのように消え失せて、宇宙は冷たく静まり返っている。
「ジンロウ、応答しろ。聞こえないのか、返事をしろ」
自分の目で見た光景を信じることができず、マリーダはレーザー通信の回線を通じて呼びかける。
返事はなく、無音のまま。
当然といえば当然の話だ。撃墜されたパイロットが応答することなどあり得ない。
「俺は……俺は、なにをしたんだ……?」
目の前のガンダムに、ガンダムのパイロットに、もはや敵意はない。
機械の呪縛から解き放たれたように、聞こえる声は呆然としている。
ふと、肩に触れるぬくもりを感じた気がして、マリーダは背後を振り返る。
それからわずかな間をおいて、彼女は現実を受け入れた。
ばかなことをして。
ジンネマンの胸中には、怒りがあった。
どうだい、マリーダはちゃんと生きているだろう。
そうやって、自慢げに手柄を見せびらかす部下の姿を見てしまったから。
そうでなければ、少年の言葉に安堵を覚えてしまった自分への怒りだ。
「ひとりを生かすために、ひとりが死んで。残った方の身になってみろよ、だから、おまえは……」
それから先は、言葉にならない。
握ったこぶしを振り下ろせないまま、ジンネマンはブリッジの喧騒に身体を預けていた。
別れを告げる声を、ネェル・アーガマのクルーたちも、ガランシェール隊の面々も、誰も彼もが聞いていたという。
しかし、流動するばかりの戦況はそんな些事にかまけているほどの余裕を与えてはくれない。
結果として、面識のないものからはすぐに忘れ去られていくばかり。
あるものは涙ぐみ、またあるものは「そんなこともあったね」と思い出す。
そのていどの、小さな事象だ。
「ねえ、聞こえる?」
つぶやくように、ささやくように。
宇宙の見えない船室にいても、どこにいるのかは感じられる。生きているのが、感じられる。
だから、声が届くと信じて、プルテンは呼びかける。
「そろそろ、帰ってきてよ。もう、そこにいても仕方ないでしょ」
──帰れない。どんな顔をしておまえに会えばいいか、わからない。
ようやくの返事は、そんなもの。
ふっと笑って、プルテンは首を振る。大丈夫だからと、声をかけながら。
「私は会いたい。会って、話したい。聞いてほしいことが、たくさんあるの。聞かせてほしいことも、たくさんあるから」
──けれど、私が、もっとうまくやっていれば。
「ちがうよ、そうじゃない。だから、怖がらないで。マリーダはね、帰ってきていいんだよ。あなたのお父さんだって、待ってるんだから」
これでよかったのだと、プルテンは自分でもおどろくほどに納得できている。
彼が残したかったものが、どんなものだったのか。
それに触れたような気がしたから、心はずっと、穏やかでいられる。
「……私も、さ。マリーダのこと、待ってる。やっと会えた妹と、戦争のないところで、ゆっくりお話してみたい。……ねえ、マリーダはさ、水平線って見たことはある?」
どんなに戦場から遠ざかっていても、プルテンは感じている。
戦争の終わりは、もう、すぐそこまで近づいているのだと。