フィギュアーツのブレイドジャックフォームカッコいい。
次の休日、俺は朱乃さんに呼ばれて、とある場所に向かっていた。そこは町外れにある神社だった。
それにしても今日は忙しくなりそうだ。午後からはイッセーからギャスパーの特訓をしてやってほしいと頼まれている。
しかし、朱乃さんが俺に用事って、いったいなんだろうか?しかも、悪魔なのに神社なんかに入って朱乃さんは大丈夫なのか?
色々と思考をさせながら歩いていると、いつの間にか神社の石段の下まで来ていた。
「いらっしゃい、ハジメ君」
「朱乃さん?」
そして、そこでは巫女装束をまとった朱乃さんがすでに待っていた。
石段を登りながら朱乃さんは言った。
「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」
「いえ、今日は特に予定がなかったので大丈夫でしたから。ところで、俺に何か用がありましたか?」
「……………いえ、大した用ではありませんわ」
そう言ってる割にはいつもより様子がおかしいような。俺の気のせいだったら良いんだけど……。
「そうですか。でも最近慌ただしい中、わざわざ俺のために時間を割いてくれなくてもよかったのに」
「そちらは問題ありません。グレイフィア様がリアスのフォローをしてくださっておりますから、私が抜けても大丈夫ですわ」
そうだったのか。しかし、グレイフィアさんって本当になんでも仕事こなすよな。さすがは魔王の『女王』だ。
「ここは裏で特別な約定が執り行われていて、悪魔でも入ることができます。リアスが私のために無人になったこの神社を確保してくれたのです」
そう言いながら、俺達は鳥居をくぐっていった。
「じゃあ、朱乃さんはここにひとりで住んでいるんですか?」
「えぇ、そうですわ」
つまり、今の朱乃さんは俺と同じような生き方をしてるのか?いや、そうとも限らないか。
「立ち話もなんですから、とりあえず中に上がりましょう」
朱乃さんの先導のもと、神社に入っていった。
◼◼◼
俺は朱乃さんが生活しているという境内の家にお邪魔することになった。和室に通され、いつも通り朱乃さんがお茶を振る舞ってくれている。
「お茶ですわ」
「あ、はい、いただきます」
お茶を一口、二口飲み、俺が一息ついたところで朱乃さんが話を切り出してきた。
「私はリアス以外のみんなに黙っていたことがあります」
「それは……なんですか?」
「………私は堕天使と人間との間に生まれた者なんです」
それはまさかの告白だった。
「……えっ?」
俺はこの時、どんな顔をしていたのかわからない。しかし、朱乃さんはとても複雑そうな、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
「母はこの国のとある神社の娘でした。ある日、怪我を負い倒れていたその堕天使を助け、その時の縁で私を身に宿したと聞きます」
複雑な家庭事情を抱えて生きてきたんだな。俺より酷いのかもしれない。
どんな言葉をかければ良いのか?そんなことを頭の中から探していると、朱乃さんは背中から翼を広げた。
俺の目の映ったのはコウモリのような悪魔の翼とカラスのように黒い堕天使の翼だった。
「悪魔の翼と堕天使の翼、私はその両方を持っています。この堕天使の羽が嫌で、私は悪魔となった。でも、その結果、堕天使と悪魔の羽、両方を持ったおぞましい生き物が生まれた。ふふ、汚れた血を宿す私にはお似合いかもしれません」
自分でそう自嘲する朱乃さん。
「……この話を聞いてハジメ君はどう感じます?イッセー君とアーシアちゃんを殺し、戦争を起こそうとした堕天使をどう思います?」
朱乃さんはそんな質問を訊いてきた。
「たしかに、堕天使についてはあまり良い印象がありません」
そう返すと、朱乃さんは悲しそうな表情になる。しかし、俺はこう続けた。
「でも、今の朱乃さんは堕天使と関係ないじゃありませんか。これからだって朱乃さんのことは俺の大事な先輩であって、仲間であると思っています」
予想外の言葉を聞いたかのように、朱乃さんは驚いた様子を見せた。
「昔、どんなことがあったか俺は訊きません。むしろ、こんな辛い秘密を打ち明けてくれて俺は嬉しいです。俺で良ければ、いつでも愚痴でもなんでも聞いてあげます」
「私は堕天使の血を引いているの。しかも、悪魔に転生した。そんな異形とこれからも今と変わらない付き合いをしてくれるというの?」
「そんなこと関係ないです。それに俺はさっき言ったじゃないですか。俺の知ってる朱乃さんはオカルト研究部の副部長で俺のひとつ年上の先輩です。それに堕天使にも良い奴だっていると思うんです。ただ俺達が会ってきた奴らが偶然悪かっただけの話で……。だから、堕天使についてそんなに気にしないでください。これからだって俺の気持ちが変わることはないですから」
俺が持論を語り終えると、朱乃さんは涙を流していた。……なんか俺、マズイこと言ったか?
しかし、朱乃さんは微笑みを浮かべていた。
「ふふふ、ハジメ君は本当に真っ直ぐですね。それも馬鹿が付くほどの。でも、こんな性格だっただからこそ私は………」
後半の方は声が小さくてよく聞こえなかったけど、多分これでよかったんだろう。
朱乃さんは立ち上がり、俺の方へ近づいてくる。そして、突然抱きついてきた、俺に。
「あ、あの、朱乃さん?」
「もうひとつ、短い昔ばなしを聞いてほしいの」
この状況に困っている俺の耳元で囁くように話し始める。
「そんな家庭だったから私達は2回、襲撃されたことがあるの。最初はあの堕天使がいたから無事に退けられた。でも、その次に襲ってきた時、彼は家にいなかった。あの時は幼いながらも死を覚悟したわ。しかし、私と母はそこで死ななかった。青い鎧を身に包んだ誰かさんが助けに来てくれた。それはハジメ君だった」
………ようやく思い出した。あの時、俺は人を初めて殺してしまった。その記憶をなるべく思い出したくなかったから俺はずっと思い出せないでいたのかもしれない。
「あなたは、名前だけは教えてくれてたから、出会ってすぐに私はあの時の命の恩人であることと、私があなたのことを好きになっていることに気付いた。……ハジメ君は私のことが好きですか?」
さっきとはまた別の意味でのまさかの告白に俺は数分前以上に戸惑っている。
「……ええと~、まぁ………、はい、好きですよ」
俺は悩んだ末に答えを出した。すると、朱乃さんはさっきよりも俺のことを強く抱き締めてくる。
「ホントに?じゃあ、『朱乃』って呼び捨てで呼んでくれる?」
「うっ、それはさすがに……。そんなに馴れ馴れしく呼べないですよ」
「……なら、一度だけでいいから、ね?お願い」
瞳を潤ませながら、上目遣いで懇願してくる。これは断れない……。俺は覚悟を決めて言い放った。
「………朱乃」
「……うん。ハジメ、私嬉しい」
今の声はいつもと違う。おそらく、これが素の朱乃さんなのだろう。いつもとのギャップがありすぎて、いままで見てきたどの朱乃さんよりもかわいい。
「ねぇ、これからはずっと朱乃って呼んでくれる?」
甘えるような声でそんなことを言ってくる。……それは身の危険を感じるような。
\♪~♪~/
不意に、俺のケータイが鳴り出した。
「すみません、少し失礼します」
朱乃さんに降りてもらい席を立った。そして、トイレに入り電話に出た。それは信じられない相手からだった。
『よう、ブレイドの少年。元気かい?』
「あんたは、……アザゼル?なんで俺の番号を知ってるんだよ?」
『まぁ、細かいことは気にすんな。それよりちょっとした頼み事がある』
「また戦えと?それはゴメンだな」
『俺だってそれはゴメンだ。今回はお前さんの持つカードを貸してほしい。全てとは言わん、数枚でいい』
何を言ってるんだ?ラウズカードが返ってくる保証が無い以上、俺が損するだけじゃないか。
『それに対する対価なんだが、悪魔側にできあがった人工神器の一部を渡すことと、今回の会談で和平を結ぶってのはどうだ?』
その言葉に俺の心が揺らぐ。
「和平を結ぶってことは……」
『そういうことだ。これから戦争を起こそうなんて奴は現れない。もっとも、天使と悪魔の連中もそのつもりだろうから、そんなに心配はしていないが』
………ん?ならなんで、人工神器なんてものが必要になってくる?
「戦争が起こらないのならその武器だって不要になるはず。じゃあ、どうして………」
『たしかに言いたいことはわかる。だがな危険な組織の存在が最近になって判明したんだ』
「……それはどんな奴らなんだよ?」
『今はそんな時間は無い。詳しいことは会談の時に話すつもりだ。そして、今回の頼みはこのテロリストどもに対抗するための協力だと思ってくれ』
結局、平和に事は進まないのか。まぁ、三大勢力の総力戦が起こらなくなっただけマシと思っておこう。
「あぁ、そういうことなら協力させてもらう」
『そうか、なら今から駒王学園に向かってくれ』
「わかった」
俺が了承すると会話は途切れた。
◼◼◼
朱乃に断りをいれて、神社を後にした。すごく残念そうな顔をしていたけど。それと2人きりの時限定で呼び方を変えることにした。本人もそれで納得してくれたし、今のところはこれでいいだろう。
駒王学園の正門に着くと、そこにはすでにアザゼルが立っていた。
「おっ、思ったよりも早いな」
「逆に聞くけど、なんで、もうここにいるんだよ?」
俺はあの後、10分もかからずに学校に着いたのだ。
「お前さんならこの条件で呑んでくれると確信していたからな」
鼻からお見通しだったということか。
「ほら、この3枚でどうだ?」
俺はブレイラウザーからダイヤの2、4を。そして、ポケットからダイヤのAを取りだし、投げた。アザゼルはそれを受け取ると嬉しそうに笑みを浮かべた。
「これは良いデータが取れそうだ」
「約束を忘れないでくれれば、俺はそれでいい」
「ははは、そうか。じゃあまたな」
用が済みアザゼルはさっさと帰っていった。自然に会う機会があるし、そこで返ってくればいいだろう。
『ハジメ君。キミは彼のことをどう思っている?』
俺がひとりになったタイミングで、嶋さんが訊いてきた。
(俺はアザゼルが言っていることを信じてみたいと思います。アンデッドにだって悪魔にだって、平和を愛する者たちがいるんだから、堕天使にもそんなのがいたって不思議じゃありません)
『ふふ、たしかにそうだね。私から見ても彼からはそんなに悪意を感じないんだ』
嶋さんがそう言うんだ。きっと、間違いないだろう。
「さて、少し早いけどギャスパーのところに行ってみるか」
俺はそのまま旧校舎に向かうのだった。