彼方の空   作:ショ・シンシャ

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好きな人の性別が違うかどうかは大して重要じゃない

「あ、あえ、えぇ……」

 

(えっなにこの子すっっっっごくかわいい!!!!)

 

簪が混乱している中、空は空で別ベクトルで混乱していた。

実は番のいるヒグマは空の顔を見て全てを察し、伏せの姿勢をとって、両手を頬に当てて固まったままの彼女が落ちないようにした。

 

(かわいい! かわいい! えっと、えっと! ……とにかくかわいいんだ! 好き!)

 

ないない尽くしの語彙力から必死に彼女の可愛さを言語化して出力するが、同じような言語しか出力されない。

 

「く、くまに人が乗ってりゅう……」

 

「……はっ! えっと、驚かしちゃってごめん! でもニッチー(熊の名前)は優しいから大丈夫だよ! 人を食べたりなんてしないから! ねーニッチー!」

 

ようやく我に返った空は簪に謝りつつ、熊の顔を優しく撫でる。

少しは落ち着いた簪も現実を受け入れ始め、何者なのか空に聞く。

 

「え、えっと、あなたは……」

 

「ん、私? 私は空! えーっと……あったあった。あの中学校に通ってる、藍井 空だよ! 君の名前は?」

 

空は周囲を見渡して、通ってる学校を指さししながら自分の名前を教える。

 

「わ、私? さ、更識 簪……同じ中学校だよ……」

 

「え、同じ中学校なの!? (あれぇ…? こんなかわいい子がいたら絶対覚えてるはずなのになぁ……」

 

思わず声に出していたのか、空の可愛いという言葉に簪は顔を真っ赤にして驚く。

 

「か、かわっ!?」

 

「あ、声に出しちゃってた? ……えへへ、うん。簪ちゃんは可愛いよ。すっごく可愛い! 好き! ……えっと、えっと……!」

 

空はオタクな男友達から教わった偏った知識と低い語彙力で、それはそれはとんでもない言語を出力した。

 

「お嫁さんにしたい!」

 

「ふぇ? え? ………………えええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

空の乗っているヒグマが気持ちよく昼寝をしている中、簪の驚き100%な叫びが山に響く。

曇りから雨、雨から晴れ、晴れから晴天。

天気は簪の心情を表すかのように、めぐるましく変わっていた。

 


 

「ほら、乗って乗って! ここなら私の家が近いし、服貸してあげる!」

 

「……う、うん」

 

空からヒグマのニッチーに乗るよう促された簪は、恐る恐るニッチーの背中に乗る。

ニッチーは少し身震いさせた程度で、それからは何事も無かったように歩き始める。

 

ニッチーに乗ったまま家に着いた空達は、玄関を開けて中に入る。

 

「ただいまー!」

 

「あら空、また迷子だったの? 今回は苦労したわ〜」

 

「ははっ!そうだな母さん! 探すのは苦労したが、見つけられればこちらのものだ!」

 

「あ、ねーちゃんおかえりー!」

 

「友達の服濡れちゃったから私の部屋で着替えさせるねー! お父さん、一応言っておくけど覗いちゃダメだよ?」

 

ちょっと不思議な発言をした空の家族だが、空はそれも気にせず2階に繋がっている階段へ向かう。

彫りの深い顔立ちの父親に釘を刺しつつ、空は簪の手を引いて階段を上がっていく。

 

「……随分と可愛い子だったな」

 

「あ な た ?」

 

そうぽつりと呟いた空の父親だが、空の母親が肩に手を置く。

降参するように両手を上げた空の父親、ユピテルはこう言った。

 

「いや、流石にな? 娘の友達に手は出さないって……な? ……いや、目が怖いぞ。ほらステイステ────」

 

こいつ、浮気の前科持ちだった。

妻のゲンコツが彼の脳天に炸裂したのは、言うまでもない。

 


 

「どう? きつかったら言ってね?」

 

「……大丈夫。ちょっと大きいけど許容範囲」

 

幸い簪と空の身長・体格はほとんど同じなので、着れないことは無かった。

 

「とりあえず簪ちゃんが着てたやつは洗濯機に入れちゃうねー?」

 

(……この子も、お姉ちゃんの命令で近づいた子なのかな……?)

 

姉に対する僅かな不信感を胸に簪は恐る恐る、洗濯機に着ていたものを突っ込んでいる空に質問をする。

 

「ねぇ、藍井ちゃん……更識 楯無って人は知ってる?(お願い……! お姉ちゃんの命令で近づいたって言わないで……!)」

 

半ば祈るように簪は空が自分の姉を知っているか聞き、不安そうに空の答えを待つ。

 

「更識 楯無……? うーん、知らないなぁ……あっ、名字が同じってことは、もしかして簪ちゃんのお姉ちゃん!?」

 

答えは無知。これ以上に簪が望んでいたものは無かった。驚きに満ちた表情で簪は空の顔を見る。嘘をついているような顔ではなかった。

そして、特撮やアニメによるこれまた偏った知識で簪の頭脳は1つの結論を弾き出した。

 

(あ、この子が私の運命の人なんだ……♡)

 

運命(ダイス神)の悪戯か、簪は同性の空に惚れた。もう少し考えろとツッコミが入りそうだが、本人が運命だと感じたのだから仕方ない。

 

「えへへ、えーっと、こういうのは婚約届が必要なんだよね!」

 

「まだ未成年だから結婚は無理だけど、婚約はできる……」

 

半分暴走気味、半分正気で2人は婚約の手続きを進めていく。

しかし、問題が2つ残っていた。

 

「お姉ちゃん、許してくれるかな……」

 

「あ、私の方もお母さん達が許すかな……」

 

不安要素として、互いの保護者から許可を得られるかが立ちはだかる。

 

「へー、婚約? いいと思うわよ? はいこれ婚約届ね」

 

「ん? 不思議そうな顔をしてるな空! なーに、別に驚きはしないさ! 何故なら私はローマ神話の主し、もごごごご……」

 

「すっげー! ねーちゃん、簪のネーチャンと婚約? するんだ! 結婚と何が違うのか分からないけど、こういうのはオメデトウって祝うべきだよな!」

 

「? ……まぁ、その……ありがとうございます」

 

藍井家からの反応は極めて良好で、反対と言えるものは何一つ出てこなかった。

簪の義父になる(かもしれない)ユピテルが何かを言おうとして妻が口を塞ぐことに少し疑問を覚えた簪だったが、気にせず礼を言って頭を下げる。

 


 

(問題は、楯無お姉ちゃん……)

 

一番の鬼門を突破すべく、簪は気を引き締めて彼女のいる部屋を開ける。

 

「お姉ちゃん……大事な話があるの」

 

「へぇ……隣の子と何か関係のある話なのかしら?」

 

簪の姉である楯無は椅子に座りながら、鋭い目で空の顔を見る。開かれた扇子には『お姉ちゃん疑問』と書かれていた。

それに一瞬たじろぐ空だったが、すぐにいつものにこやかな顔でこう言った。

 

「簪ちゃんのお姉ちゃんなら、私のお姉ちゃんみたいなものですね!」

 

「空ちゃん、端折りすぎ……お姉ちゃん、私……更識 簪は藍井 空ちゃんと婚約します! サインを、してください……!」

 

空の発言に少しツッコミを入れつつ、簪は婚約届を楯無の机に置く。

隣のテーブルで楯無の方に仕えている従者が吹き出しそうになったが、ギリギリ持ちこたえる。

一瞬目を丸くした楯無だったが、すぐに抽斗からペンと判子を取り出してサインをする。

 

「はい、これでOKよ。 後はそっちで市役所に提出してね〜」

 

「……へ? い、いいの?」

 

楯無がサインを終えた婚約届を簪に返すが、彼女はポカンとしたまま本当なのか確かめる。婚約届にはしっかりとサインがされており、保護者の同意もしっかり丸をつけられていた。

簪が何度も婚約届と楯無の顔を交互に見る中、空はこう言った。

 

「えへへ……簪ちゃんのお姉ちゃんならそう言うと思ってました! だって、簪ちゃんの事すっごく心配してそうでしたから!」

 

「簪ちゃん、ちゃーんとこれは現実だから安心して。そのサインも偽物だったりはしないわ……あわわ……あんな事言える子が簪ちゃんと結婚!? 最っ高じゃない!……あっでもまだお姉ちゃん呼びは恥ずかしいかも……でもそれはそれでまた……ブツブツブツブツ……

 

何やらブツブツとそっぽを向いて呟いている楯無に不安そうに質問をする空。

 

「? 何かダメな所でもありました?」

 

「! いや、大丈夫よ! えぇ! なーにも、何一つ問題ないわ!」

 

そして空は焦って正常な思考が出来ていない楯無にあっさりと丸め込まれた。流石は暗部の当主と言うべきか、それとも空が純粋すぎるのか……

 

「……えへへ、お姉ちゃんより先に結婚……♡」

 

「あ……あぁ……ごふっ……」

 

最後の最後でお姉ちゃんの地雷を踏み抜いた簪。

……もしかしたら、3人揃って恋への思考がポンコツなだけかもしれない。

曇らせって苦手?

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  • まぁまぁいける
  • 普通
  • ちょっとにがて
  • 無理無理絶対無理!
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