彼方の空 作:ショ・シンシャ
古ぼけた神社の境内のど真ん中にて、空が佇んでいた。
(あれ……ここどこだろ)
学校の帰り、空はまたもや迷子になっていた。というか、ここがどこなのかすらも分かっていない。
今日は簪が生徒会の仕事で遅くなる為、空は1人で帰っていた。
簪は空の方向音痴っぷりをまだ詳しく知らなかった為、1人で家に帰るくらいは出来ると思っていた……が、空は見事に迷った。というか、興味のあるものへすぐ飛びついてあちこちに寄り道するのが原因だろう。
「ニッチーと帰ればよかったなぁ……ん?」
方向感覚だけは勝てそうにもない動物の友達のことを思っていると、ふと誰かの気配がした。
「誰かいるのかな……」
人と思わしき気配のした方に向かうと、巨木の洞の前についた。
そっと木の洞に耳を当てると、何か紙束を漁るような音が、針が落ちる時の音くらいの大きさで何度も聞こえてくる。
「うーん……あ、これって、きっと何か探してるのかも」
空は時たま感じる不思議な感覚に身を任せ、心の声を聞こうと精神を研ぎ澄ます。彼女は困っている人に対してのみ心の声を聞くことができる。ただし、確実に聞ける範囲は半径1m程と非常に狭い。
超能力とかそういうものではなく、特技のようなものだ。
すると、木の下の方から女の人の困ったような心の声が聞こえてくる。
『あれ、ここにやったはずなんだけどなぁ─────……う──ん……どこやったんだっけ……最後にここ使ったの──────忘れち───た……ん?』
(あれ、なんで聞こえなく───)「きみ、誰?」
突然心の声が全く聞こえなくなったと思ったら、突然後ろから声をかけられた。
空がビクリとして振り返ると、機械のようなうさぎ耳をつけた女の人がいた。
「…えっと、あなたは……」
「え、知らないの!? あの天才と言われてやまない篠ノ之 束だよ?」
女性は自分を知っているのは当然ではないのかと言わんばかりに驚き、自分の名前を名乗る。
しかし、空からすれば全く知らない人物でしかない。空は失礼なのを承知で彼女の凄さを聞いてみる。
「えっと……ごめんなさい。篠ノ之 束って有名なんでしょうか……」
「……えっと、まさかとは思うけど、ISって知ってる? インフィニット・ストラトスっていうパワードスーツ。…これくらいは流石に知ってるよね?」
束は恐る恐る、流石に自分を知らなくてもこれは知っているだろうという顔で、自身の開発した今世界の中心となっているパワードスーツ『
「インフィニット・ストラトス……えっと、知らないです。……あ!でも、友達が言ってました! パワードスーツは宇宙服みたいなものだって! ということは、そのインフィニット・ストラトスはすごい宇宙服みたいなものでしょうか?」
「!!!!!」
束は大きく目を見開き、口をポカンと開ける。
返ってきた返答は予想外にも程があるものだった。
「……うん、そうだよ。……簡単に言えば、宇宙服として開発したんだ」
しばらくして束は悲しそうに夕焼けの空を見て話していく。
「でも……ある時日本に大量のミサイルが来て、たった一機で向かって全てのミサイルを撃墜したISは、完璧な
束は今度は空の顔を見て、少し遠い目をしながら呟いた。
「……皮肉だよね。宇宙服を作ったら、それが人類を宇宙に行かなくしたなんて…全く、本末転倒だよ」
束は近くにあった石ころを軽く蹴り、俯いた。
その顔に、僅かな涙が溜まっているのを空は見逃さなかった。
「えっと…私、バカだからよく分からないけど…これだけは分かりますよ! 束さんはきっと、まだ諦めたくないんです!」
「諦めたくない……かぁ。簡単に言うね……もう、世の中は私が変えられない程に変わっちゃった。今更、私1人が動いた程度じゃどうしようもないんだよ?」
束はすでに自分は諦めてると嘯く。
だが、空はどうしようもない大馬鹿だ。
そんな事もお構い無しに彼女はまだ言い続ける。
「私が諦めそうになった時、お母さんが言いました! 『天才でも覆せないものはあるけど、それで諦めたら凡才でも覆せるものすら覆せなくなる』って! それと、お父さんはこう言いました!『すぐ諦めてしまう天才は凡才に負けるが、それは諦めなければ天才は凡才に負けないという事でもある』って! これって、きっと諦めそうな人にかけるべき言葉なんですよね!………まぁ聞いての通り、これ受け売りなんですけど!」
「……ふふっ、あははははは!」
照れくさそうに頬を掻く彼女の顔を見ながら、束は吹き出して大きく笑う。
「え、私の言ってること、何かおかしかったですか!?」
「あー、いや……ふふふ…! そうじゃなくてね!! あーあ! 今まであれこれ考えてたのが馬鹿みたいになってきちゃった!」
慌てふためく空の横で、束は吹っ切れたように、とびっきりのにこやかな笑みを浮かべるのだった。
「ありがとね……私、もう一度だけ宇宙開発…頑張ってみる!」
「えへへ……頑張ってください! きっと束さんならできます!」
2人は日が沈む中、別れを告げてそれぞれ歩みを進める。
そして、空は気がついた。気がついてしまった。
(……あ、束さんにここがどこなのか聞き忘れてるーーーーー!!!)
束の向かった方を見るが、既に彼女の姿は消えていた。
(……とりあえずここに居続けてもダメだし、歩きますか!)
極めて前向きな思考で空も再び歩き始める。
……彼女が自宅に着くのはもう少し先だろう。
『速報です。先程IS学園の発表により、世界初のISの男性操縦者に続く、2人目の男性操縦者が見つかりました────』
「ふっふーん! あんないい子にあそこまで言われちゃったんだ! やるしかないよねっ!」
人参のような枠のテレビを見ながら、束は様々な準備を進めていく。
人類が宇宙に目を向ける日は、案外近いかもしれない。
黒に染まりかけた兎は光を見て、再び白く跳ねた。