彼方の空 作:ショ・シンシャ
空が迷子になった日から5日経った。その日の放課後、帰り道にて彼女は簪と自分のそれぞれ入る高校についてお話していた。
「へー! 簪ちゃん、IS学園って所に行くんだ! なんだか名前が藍越学園に似てるね!」
「あ、確かに。…そういえば、空ちゃんはどこの高校に行くの?」
空のちょっと天然な発言に簪は微笑した。
ふと思って出てきた簪の質問に、空は返事に困ってしまう。
空の入るはずだった高校は転移先であるこの世界では最近になって廃校になってしまったのだ。
「あー、その……どうしよう。行きたかった学校、無くなっちゃったんだよね。就職しようにも、高校生でもないのに雇ってくれる所は多くないだろうし……」
つまるところ、彼女は転移によって卒業間近になって進路が振り出しに戻ってしまったのだ。もともと進学を考えていたため、就職も厳しい。
頭を悩ませる空を見て、簪は少し思案する。
(……私の家に無理を言えばIS学園の用務員にでもできるだろうけど、それはお姉ちゃんに迷惑がかかるし……空ちゃんも気にするだろうし……うーん……!!)
(……簪ちゃん、私の事は心配しなくてもいいのに……でも、心が読めるなんて言えないよぉ!!)
しかし、具体的な良い解決策は思い浮かばない。
空は空で別の悩みで頭を抱える中、近くの茂みが動いた。
簪はあの時の事を思い出してビクリと身体を震わせるが、空はもう誰が来たのか見当をつけていた。
そして、茂みからうさ耳をつけた天災博士が出てきた。
「はろはろ〜! また会ったね!」
「あっ、束さん! 3日ぶりですね! 元気してました?」
「うんうん! もっちろーん!」
「あ、あえ……え……?」
元気に挨拶する2人の横で、簪はポカーンと口を開けてしまう。
「あっ、簪ちゃんは初めて会うよね! この人は篠ノ之 束さん! インフィニット・ストラトスっていう宇宙服を作った人だよ!!」
「そうだよ〜? 敬え〜! ぶいぶい! あとあーちゃん、厳密に言うならISはマルチフォームスーツだよ!」
「マルチフォームスーツ! すごいカッコイイ名前です!!」
そういえばと束を簪に紹介する空。束の言葉に彼女は目を輝かせる。
「……まぁ、空ちゃんだし会っててもおかしくない……かな?」
ノリのいい2人を見て、ひとまず自身を納得させる簪。
人生、時には割り切ることも必要なのだ。
「ほうほう! 行くはずだった学校が無くなっちゃって困ってるんだね!」
「そうなんですよ!就職も難しいですし……」
空から事情を聞いた束はうんうんと頷き、指を鳴らす。
「束さんにまっかせっなさーい!! とびっきりにいい学校を紹介するよ!」
「え、えっと……それってどんな所でしょうか?」
イマイチまだ予想がつかない空だが、束は大きな声で答えた。
「ISの生みの親が紹介する所なんてひとつ! IS学園だね!」
「「!!!」」
束の紹介先を聞いた瞬間、空と簪は顔を見合わせる。
「……簪ちゃん!!」
「空ちゃん!!」
感極まった2人は抱きつき合い、感動のあまり涙が溢れる。
「えへへ……! 同じ学校だね!」
「…コネ入学だけど、それでも空ちゃんといれるのは嬉しい……!」
「……あはは! お熱いねぇー!」
抱き合う2人を見て一瞬目を丸くした束だったが、少しして2人を揶揄う。
2人は恥ずかしそうに顔を赤らめ、空は頬をかく。
「束さん! その、ありがとうございます!! えと、えっと! 宇宙開発、頑張ってください!!」
「……その、私からも、言わせてください。……ありがとうございます」
「うん、うん! 喜んでくれて何より! それじゃ、束さんはこれにて! バイバーイ!」
大きく手を振りながら走り去る束に手を振り返す2人は、再び顔を見合わせる。
「……えへへ」
(あっ可愛い♡ このちょっと言葉に詰まっちゃって困り気味に微笑むのとかすっっっっごく可愛い♡ あ…もう、限界……♡)
こてんと首をかしげながらニコリと微笑んだ空を見て、簪はあまりの可愛さに限界オタクと化し……脳をオーバーヒートさせて倒れてしまった。
「か、簪ちゃーーーーん!?」
突然倒れる簪に空が慌てふためく中、世の中も新たな男性操縦者の搭乗に混乱を巻き起こされていた……
とある企業の実験施設の一角にて、1人の少年が立っていた。
彼の視線の先には椅子に座った神経質そうな男がいて、彼が口を開く。
「15番。お前に新たな任務を与える」
「はい、ファザー」
「……何度も言わせるな。確かにお前達と我々を構成する遺伝子は同じ部分が存在する。だが、お前は私の子でもないし、ましてや父親でも無い。……それでは、任務の説明をする」
淡々とした言葉に、少年はなんの疑問も抱かずに返答をする。
まるで機械人形のように命令へと忠実な彼は、一字一句たりとも聞き逃さんと耳を傾け続ける。
男の後ろに映し出されたモニターに、凛々しいポニーテールの少女の顔が映し出される。
「お前には
「いえ、ありません。……訂正します。一つ、彼女に関する情報を思い出しました」
少年の言葉に男は眉ひとつ動かさず、話してみろと促す。
「10年ほど前、彼女と思わしき少女と何度か接触していました」
「……それは本当なのだな?」
体をやや前のめりにして情報の正確性を問う男に、少年は頷くことで肯定する。
「……ふむ、ならばそれも活かして構わない。では、お前の受領するISの説明に移ろう」
映像が切り替わり、モニターには異形のISが映し出される。
「これがお前の受領するISだ。機体名は『UFO』……見ての通り、足も武装も無い」
「……本当に、これが俺の乗機なのですか?」
ISのどの世代にも当てはまらない足も武装も無いISを見て、少年は初めて眉を顰める。
機体には翼と背中に特徴的なスラスターが取り付けられており、機動力の高さだけは確かなようだ。
「フレキシブル・スラスターがもたらす高高度からの高速機動による、友軍ISの緊急戦線離脱を想定して作られたそうだ。装甲などの無駄を全て削ぎ落とし、加速力と運動性のみを追求している。拡張領域のほぼ全てに加速用の推進剤を詰め込まれていてな。まともな武装の搭載も厳しいだろう。積めるのはせいぜい果物ナイフ1本程度だ」
「……流石にこれに乗って戦う、というのは無謀が過ぎるかと」
珍しく不満を隠さない少年を見て、男はリモコンを操作する。
すると、UFOの立体画像にISとしてはかなり小さな脚と、腕部に黒い何かが外付けされる。
「その辺りは既にこれを開発したチームに聞いた。その答えがこの……」
「頼りない脚と、何なのかも分からない部品ですか」
皮肉混じりにそう言いながら、少年はこれから共にする頼りのない相棒を見る。
男もこの機体には思うところがあるようだが、彼らの立場で文句を言うような事は無理だった。
「……あまり文句を垂れるな。我々としてもこの機体を使うのは不本意だが、我が社の機体を増やすのはもう厳しい。外部に頼らざるを得ないのが実情だ」
「……理解しました」
ひとまず不満を押さえ込んだ少年を見た男は、次の話へと移る。
「では次に処方する薬品だが─────」
少年の名は15番。2人目の男性操縦者であり──────鉄の子宮で生み出されたデザインベイビーだ。
彼らは知る由もない。何故15番がIS適正を得たのかを。
彼らは何故なのかを知ろうともしない。
何故なら彼らにとって、結果こそ全てだからだ。
補足:空ちゃんはIS学園とISを完全に別な物だと思ってました。束さんがコネ入学させると言ったところでようやく気がついた模様。