彼方の空   作:ショ・シンシャ

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感想乞食くん、最後の200レスを遂行すべく頑張ります


賽の目は時に残酷となる

一時間目の授業が終わり、休み時間の間一ノ瀬はこれからの行動方針を考えていた。

 

「……(ふむ、篠ノ之 箒と接触するには不自然な行動は控えるべきか。焦らず、確実に交友関係を持つべきだ。向こうからの接触をするようそれとなく誘導するべき……か?)」

 

「…ーい、おーーーい!」

 

思考の海に沈んでいく一ノ瀬だが、隣の席から声をかけられて現実に引き戻される。

 

「! 織斑 一夏か。すまない。少し考え事をしていた……なんだ?」

 

「挨拶くらいはしねぇと思ってな! 一ノ瀬 五月で合ってるよな? 俺の事は一夏でいいぜ! まぁ2人だけの男性操縦者なんだ。仲良くしような!」

 

爽やかな笑顔でこちらに握手を求める一夏。

少し間を置いて一ノ瀬もその手を握り、一応の返事をした。

 

「……あぁ。よろしく頼む(こいつが織斑一夏か。随分とこの環境に振り回されているようだ)」

 

「あ、そういえば気になってた事があるんだけどさ……その注射器、何に使うんだ?」

 

一夏が気になったもの。

それは一ノ瀬の首にかけられた1本の薬液入り注射器が特徴的なネックレス。

彼は鎖で繋がれたそれを手に取り、正体を説明する。

 

「これは俺の専用機、UFOの『待機形態』だ。……その顔、一夏はISについてあまり知らないようだな。……どの道専用機についてはすぐ授業で教えられるだろうし、今は専用機というモノを持っている証とでも考えておけばいいと思うぞ」

 

「そうか……悪ぃな、説明させちまって。俺、実はISの事がさっぱりなんだ」

 

「……知らないのなら、死にものぐるいで覚えなければならない。そうでもしないと生き残れない……俺が言えるのは、それだけだ」

 

一ノ瀬はそう言って注射器から手を離し、次の授業の準備を進める。

同じ男性操縦者でも、2人の立場は大きく違う。

それを知っているのは……この場の誰でもないだろう。

 

「一ノ瀬も頑張ってるんだ。俺もしっかり勉強しな、きゃ……あり?」

 

一夏も自分の席に戻り、彼の持っている参考書と同じものを出そうとして……固まった。

時間が経てば経つほど彼の顔中から冷や汗が出てくる。

 

(ヤバい……俺、参考書を古い電話帳と間違えて捨てちゃったかもしれねぇ……!!!)

 

次の授業にて、一夏は織斑先生に出席簿でぶっ叩かれる事になる。

冷や汗を垂れ流す一夏をちらりと見る一ノ瀬だったが、すぐに参考書へ目線を戻して自分の事に集中する。

それを、二人の少女が離れた所から見ていた。

 

(一ノ瀬は…あの時交わした約束を覚えているだろうか……)

 

(あの男の子……どこかで会ってる…?)

 


 

2時間目も終わり、次の授業が何なのか確認している一ノ瀬に話しかけてくる女子生徒がいた。

長い髪をポニーテールでまとめた女子生徒、篠ノ之 箒は僅かに顔を赤らめながら一ノ瀬を呼んだ。

 

「一ノ瀬、少し話したい事があるんだ。……その、廊下に来てくれないか?」

 

「! 篠ノ之か(向こうから接触してきたか。想定外だ…しかし、好都合でもあるな)…少し待ってくれ。教科書だけ出しておきたい」

 

「う、うむ」

 

机から教科書だけ出した一ノ瀬は椅子から立ち上がり、外へ向かう箒について行く。

 


 

教室の壁の辺りで立ち止まった箒は、一ノ瀬の方を向いて話し始める。

顔はまだほんのりと紅潮したままで、彼女の心臓はドキドキと高鳴っていた。

 

「その…10年ぶりだな、一ノ瀬」

 

「……あぁ、そうだな。…それにしても、一年も一緒にいなかった俺を覚えていたのか」

 

少し意外そうに聞く一ノ瀬に、箒は何故か恥ずかしそうにしながら誤魔化して話を変える。一ノ瀬は恥ずかしがる箒を怪訝に思うが、すぐに気のせいだと考えた。

 

「わ、私は記憶力がいいんだ。……ニュースでお前の顔が出てきた時は心臓が止まるかと思った。……1つ、聞きたいことがあるのだ。一ノ瀬は、あの時の約束を覚えているか?」

 

「約束……あぁ、確か……っ! う、あぁ…!!」

 

箒との記憶を思い出そうとした一ノ瀬に、強烈な頭痛が突然起きる。

何かがひび割れるような痛みは、彼の思い起こしを中断させるには十分なものだった。

 

「だ、大丈夫か一ノ瀬!」

 

「はぁ、はぁ……いや、大丈夫だ。もう収まった。……そろそろ時間だ、戻ろう」

 

流れを断ち切るように一ノ瀬は教室に戻り、箒も心配そうにしながら続いていく。

 


 

2時間目に続き3時間目も織斑先生が授業を担当するようだが、彼女は何かを思い出して授業を中断する。

 

「この時間では……あぁ、そういえばまだクラス代表を決めていなかったな。授業はそれを決めてからにしよう」

 

生徒達がざわつく中、織斑先生はクラス代表について説明していく。

 

「クラス代表とは…まぁ文字通りの意味だ。来月行われるクラス対抗戦の出場だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……凡その仕事は他の学校での学級委員長と同じだ。自薦他薦、共に構わないぞ。……当たり前だが、やるからには責任をもってもらうぞ」

 

織斑先生が話し終えた瞬間、瞬く間に女子の間で意見が一致した。

 

「はいっ! 織斑くんを推薦しまーす!」

 

「あっ!じゃあ私も織斑君を推薦!」

 

「じゃ私も!」

 

「私も!」

 

元気そうな子の声が起爆剤となり、瞬く間に一夏の推薦が半数を上回った。

一夏が突然の推薦ラッシュに狼狽える中、一ノ瀬はゆっくりと手を挙げる。

 

「織斑先生、俺は自分を推薦します」

 

「む……そうか。他にいないのならば、クラス代表は織斑か一ノ瀬になるな」

 

一ノ瀬はUFOへの不満が大きく、本当なら立候補などしたくなかった。

しかし、上からデータ収集を要求されていたので立候補せざるを得なかった。

UFOの性能について知らされている織斑先生はかなり不安そうにしていたが、一ノ瀬の後ろ盾の弱さから出なければならないということも理解していた。

 

「お待ちください! 納得がいきませんわ!」

 

そう言ってクルクルとした金髪が特徴的な女子生徒、セシリア・オルコットが机を強く叩き立ち上がる。

 

「100歩譲って自薦した一ノ瀬さんはともかく! 珍しいという理由だけで推薦された織斑さんは、クラス代表として相応しくありません!」

 

ここまではご最もな意見だったが、何故か彼女の弁舌は雲行きが怪しくなっていき、次第にエスカレートしてきた。

 

「そもそも、ISについてズブの素人である男がクラス代表などいい恥さらしです! なるべきは実力面において1番優秀である! イギリスの代表候補生であるわたくし以外ありえません!」

 

周囲も近くの生徒同士で顔を見あわせはじめる中、セシリアは決定的に不味い発言をしようとした。

 

「だいたい、文化でも後進的なこの国で──「待って」…ちょっと、今わたくしが話しているのですよ?」

 

セシリアが決定的なやらかしをする直前、簪がそれを止めた。

それを咎めるセシリアだが、簪は気にせず指摘をする。

 

「論点がずれ始めそうだから止めた……それと、聞き捨てならない事も言った。日本の文化は後進的なんかじゃない……今すぐ、発言を取り消して。国際問題になる」

 

「! …………申し訳、ありません。今のは言いすぎました。発言を撤回します」

 

彼女の指摘で頭が冷えたのか、セシリアは失言をすんでの所で撤回できた。

教室の空気が何とも言えぬ微妙な中、簪もゆっくりと手を挙げた。

 

「……でも、実力で決めるべきというのは賛成。私も日本の代表候補生だから立候補する」

 

「……わたくしも自薦いたします!」

 

簪とセシリアも続いて立候補し、これ以上の立候補者、被推薦者は居ないと判断した織斑先生は手を叩いて締めくくる。

 

「ふむ、他にはいないようだな。では一週間後、ISの試合をアリーナで行う。それと試合方式なのだが、いくらなんでも6試合は多すぎる。時間は有限である以上できるだけ減らしたい。4人の中でタッグを作り、勝利したタッグが決勝に進むという方式で行くぞ。これなら2試合で済む。何か異論は?」

 

「お、俺も!? ……いや、ここで引き下がる訳には行かねぇよな。なんでもないです!」

 

しっかり自分も含まれている事にまた狼狽えてしまう一夏だが、周囲から発される期待の眼差しには勝てなかった。

覚悟を決めた一夏をほんの一瞬、刹那の間だけ優しい目で見た織斑先生はポケットからあるものを取り出す。

 

「えっと、千冬ね…織斑先生、それってサイコロ…です、よね?」

 

珍しく姉に対して敬語になった一夏の見ている先である織斑先生の掌には、黒の10面サイコロと白の10面サイコロがあった。

 

「ちょうど数日前、知り合いから貰ってな。折角手元にあったのだから平等にこれで決める。……そうだな、これを振って偶数が出たら織斑はオルコットと、奇数が出たら更識と組ませる」

 

軽い説明をした織斑先生は白色の10面サイコロを教卓の上に転がし、山田先生と候補者4人に見せる。

 

「出た目は……『1』だな。織斑は更識と、一ノ瀬はオルコットとタッグを組んでもらう」

 

賽の目は時に残酷な振り分け方をする。

4人の関係を知るものからすれば、恐らくそれは最悪の組み合わせだと言っただろう。

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