魔王の娘ですが、聖女です ー生きたいだけなのに人生ハードモードなんですがー   作:あとらすR

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先生を名乗る者

 リリィがとんでもない魔法の素質を見せつけ、私が魔測晶をうっかり割ってしまうという、二度襲い掛かった衝撃。

 それに対してクルト牧師は困ってしまったようで、私達は一旦家に帰らされることとなりました。

 

「リリィもステラも凄いじゃないか! 二人とも魔法使い様になれるかもしれないなんて!」

「まさか我が家から二人も魔法使い様が現れるとはな!」

 

 ハンナさんもロックさんもまるでめでたいことがあったかのように祝ってくださいます。

 いえ、実際にめでたいことなのでしょう。

 魔法を扱う素質を見出されれば、教会の庇護のもとで教育を受けることができる。前世でいえば、有名大学へのエスカレーターが突然目の前に現れたようなものでしょうか。

 そうでなければ村の中で農民や狩人として一生を終える可能性が高いことを考えると、降って湧いた幸運です。

 リリィは相変わらずマイペースで、周囲の様子もお構いなしに私に抱っこをせがんできます。両手を広げて迎え入れれば、嬉しそうに私の胸に頭を押し当ててそのまま寝息を立て始めてしまいました。

 どんな状況でも発揮されるあまりの尊さに鼻血が出そうです。心臓が飛び出そうなほど脈打ちますが、うるさいとリリィが起きてしまうので静かに、いっそ止まってください。

 ああ、このまま何の問題も起きなければいいのに。そう願いますが、あれだけのことがあって何も起きないはずがありませんでした。

 

 

 

「やあ、君達が噂の魔法使いの卵かい。僕はトレヴァー、教会から依頼されて魔法の講師を受け持ってる流れ者だよ」

「これからはトレヴァーさんに二人の魔法教育をお任せしますので、二人ともよく彼の言うことを聞いてくださいね」

 

 事件から二日後、教会に呼び出された私達はそこで初めての方と出会いました。

 古びたテンガロンハットに使い込まれたマント、くたびれたシャツにズボン、腰に長剣を佩いているといかにも流浪の旅人という風体のその人は、自らを私達に魔法を教える教師だと名乗りました。

 彼の細められた目は何を考えているのかわからない不気味さがあって、警戒心を抱きます。

 魔測晶による測定の結果を見てから手配したにしてはあまりにも早い到着です。前々からこの村に来る予定があったと見る方が自然でしょう。

 それに、ただの魔法使いにしてはあまりにも隙のなさすぎる佇まいをしています。

 少なくとも、私の護衛を務めてくださっていた兵士の方と同格かそれ以上の力を持っているように見えます。

 戦闘に疎い私ですが、これでもフェイルト城で多くの兵士を見てきた身です。それほど外れた推量ではないでしょう。

 つまりこの人はただものではないということ。

 丁寧な言葉の裏に、何か別の目的を隠している。

 

「ステラです。よろしくお願いします」

「……リリィ」

 

 名前を名乗るだけ名乗って私の背後に隠れるリリィは彼を警戒しているのか、それともただ人見知りしているだけか。

 どちらにせよ私の服をぎゅっと握っているのがとても可愛らしいです。

 

「妹がすいません。僕はルッツです。リリィの見守りで来るように言われました」

 

 一緒に来ていたルッツも名乗ります。彼は性格的に人を警戒することとは無縁そうですね。

 トレヴァーさんが私達三人を興味深そうに眺め、何か得心がいったのかほうと頷きました。

 

「なるほど確かに。二人には魔法の教え甲斐がありそうです。それからルッツ君。君は剣士ですね?」

「わかるんですか?」

「剣を振る者特有の掌をしていますからね。どうでしょう、私は剣の心得もありますからあとで教えてあげましょうか」

 

 ルッツがぱあっと顔を輝かせました。

 

「ありがとうございます!」

「いい返事ですね。とはいえ、どうしても二人の魔法指導が優先になってしまいますが」

「いえ、教えていただけるだけでも嬉しいです!」

 

 こうして、私達三人はトレヴァーさんに師事することとなりました。

 

 

 

 この世界の魔法は六つの属性と四つの階級によって分けられます。

 火・水・風・土・白・黒の六大属性。

 低・中・上・理の四階級。

 低級魔法は日常生活から単体で人や魔物を傷つけられる魔法まで幅広く分類される階級。

 中級魔法はさらに殺傷力や発動難易度が高く、魔物や人単体にかなりの影響を及ぼせるものになります。ここまで使えれば一人前として認められるそうです。

 上級魔法は魔法への深い理解が必要で、魔物の群れを一撃で殲滅できる規模のものから軍単位に被害を及ぼせるものまで、一個人で戦局を左右しうるものばかりです。

 理級となれば、死者蘇生や気候操作などもはやこの世の理を操るレベルの伝説的な魔法になります。

 

 ちなみに聖女の力を魔法の観点から解釈しようとすると白魔法の理級に該当するそうです。

 しかし発動に使われるのが人の中に多かれ少なかれ存在する魔力ではないため、厳密には魔法ではないのだとか。

 加えて言えば、ここにも魔族と人間の差が表れているようです。

 人間は中級が使えて一人前ですが、魔族では種族にもよりますが上級は使えて当たり前という価値観でしたから。

 そのうえでそれらをいかにして戦闘や戦術に組み込むかというところで個人の力量差が表れていました。

 

 私とリリィはまず、魔法に関する座学を受けたうえで、低級魔法で魔力を扱うところから始めました。

 

「ステラさん、魔力の流れが大雑把で無駄が多いです。必要な量をスムーズに流すことを意識しましょう」

 

 私は既に魔法を扱えるとはいえ、トレヴァーさんからすると荒削りなところが目立つようで当然のように指摘が入ります。

 その横でリリィはぼーっとしながら最低限の魔力で魔法を扱い、トレヴァーさんをして美しいと言わしめる魔法へのセンスを見せつけています。

 やはり私はただ聖女の力を持っているだけで、他にチートじみた肉体や天性の魔法の才能などを持ち合わせてはいないようです。

 それでも。

 

「ルッツ、もっと打ち込んできなさい!」

「っ! はい!」

 

 ボロボロになりながらも一生懸命に努力を続けるルッツの姿を見て、どうして弱音を吐くことができるでしょうか。

 

 

 

「ルッツ、君は剣士としての才覚に乏しいです」

「……はい」

 

 初めに打ち合った後、トレヴァーさんはルッツに残酷な事実を突きつけました。

 それはモーガンさんにも示唆されていたことですが、本格的に剣を扱える人に言われるのは余計に堪えることでしょう。

 

「剛の剣には力が足りず、柔の剣にはセンスが足りない」

 

 勇者になりたいという彼の願い。それについてこない彼の才覚。

 どうしようもない現実にうなだれるルッツに、しかしとトレヴァーさんは言葉を続けました。

 

「君には何度打ちのめされても諦めない根性と度胸がある。ならばそれを磨きましょう」

 

 いいですか? と彼は続けます。

 

「どんな剣士も一瞬の隙を突かれて致命傷を負えば死にます。魔物も一緒です。だからあなたは相手が隙を見せるまで、しつこく粘る戦いを学びましょう。生きるための戦い方をしましょう。あなたは剣士にはなれずとも、戦士にはなれる」

「……はいっ!」

 

 その時初めて私はルッツの涙を見ました。魔法の才能も、剣士としての才能もない彼に与えられた唯一の希望。

 それがどれほど嬉しいことだったのか、私にはわかりません。

 聖女の力という与えられた力を持つ私が、彼の苦悩がわかるなどと口が裂けても言えません。

 けれど才に恵まれずとも一生懸命に立ち向かう彼の姿は、私の心を焼きそうなほど輝いています。

 聖女の力に目覚めるまで、命の危険に怯えて城の奥に閉じこもっていただけの私とは違う。

 それだけで、ルッツは私にとって尊敬に値するのです。

 

 そうしてトレヴァーさんの指導を受ける日々が一年ほど続きました。

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