アサルトリリィEDGE   作:Sence023

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次の一手はNext_move



第13話『Next_move』

 二週間後、霞ヶ関・内閣府直属ガーデン運用監査局本部。3階にある待機室の名札を入れ替えた真波は、『LGウォーターシップダウン待機室』と書かれたそれを見上げた。

「これで、一応はレギオン発足か」

 感慨に浸るでも無く、淡々とただただ面倒くさそうにそう言った真波は、侍らせていた渚にファイルを手渡す。ファイルにはレギオン発足を認可する書類があり、そこには『LGウォーターシップダウン』と言うレギオン名が記されていた。

 詩季達の加入で正規構成人数が9名に達し、レギオンとしての成立が出来る様になった為、一応と真波を窓口として申請を進めていた。尚、冨亜奈については元々出向の身なのでレギオンメンバーに入る事は出来なかった。

「公表するのは三朝さん達だけになったんですね」

 名簿の但し書きを見てそう言った渚は、元百合ヶ丘組が公表されない事となったのを見て苦笑を向ける。心底疲れ切った目の真波は、そんな笑みを忌々しげに見返すとトーンの低い声で語る。

「一番の原因はお前だ、姫神。お前、自分が何だったのか分かって無いのか?」

「いいえ。分かっていますよ」

「だったら、しょうもないカマかけは止めろ。ただでさえ対外関係で苛立っているんだ」

 すいません、と笑みは崩さず、真波に帰した渚は、この二週間で起きた出来事を振り返る。先ずあの作戦の翌日、やはりと言うか当たり前だが深夜のヒュージ戦がすっぱ抜かれ、ルドビコでも無い所属不明のリリィが戦闘している事が巷で問題になった。

 問題視してきたのは各ガーデンと彼等の息が掛かった国会議員達で、自分達のあずかり知らぬリリィがいると言う事を彼等は大きな問題として取り上げた。他の諸問題を棚に上げ、騒ぎ続ける彼等を黙らせる為に内閣総理大臣は、件のリリィ達はガーデン運用監査局の所属であると公表。

 真波達ガーデン運用監査局は極秘運用だった渚達の存在をどうやってでも明かさざるを得なくなり、苦肉の策としてそこそこ名の知れた詩季達をメンバーとした小規模レギオンとして世間に公表する事となった。

「……石潰しのクソ共が」

 忌々し気に吐き捨てた真波からはヤニ臭さと強烈な香水の匂いが混じっており、ツヤの失った髪と合わせ、連日勤務の凄惨さを露わにしていた。公表後も、ガーデンや議員からの抗議は止まず、やれ、国家権力の横暴だ、だの、ガーデンの名誉を棄損する行為、だの、と至極どうでも良い事を垂れ流し続けていた。

 特にルドビコからは派遣したリリィをお荷物扱いした事への猛抗議が寄せられていたが、常日頃の貸しを盾に定型文の謝罪で手打ちとなった。最も、ルド女のリリィ達が戦闘をしていてはあの近辺には新しい廃墟が出来ていただろうが。

「とりあえず、その書類は待機室に置いておけ。失くすなよ」

 釘を刺された渚は、一礼を彼女にすると待機室の扉を潜って中へ入っていく。レギオン待機室と名を変えつつも、中身は何ら変わらないそこには各々の趣味ごとをして時間を潰している面々の姿があった。

 部屋の名前と同様に変わったのは、出向者の冨亜奈を覗く全員が同じ意匠の制服を身に着けている事で、華々しさとは無縁な威圧感を放っていた。

「アイネ、これ。監査官から書類を預かって来たよ」

「ありがとう、ナギサ。今日も私達は待機?」

「みたいだよ。大人は大変だね」

 苦笑を浮かべ、差し出されたブラックコーヒーに口を付けた渚は、対岸で紅茶を啜るアイネが探る様な気配を見せているのに気付いた。

「どうしたの? アイネ」

 そう問いかけた彼女は、気まずそうにしているアイネに笑みを向ける。心を落ち着ける様にカップを撫でた彼女は、一息つくと意を決して口を開いた。

「ナギサ。二週間前の戦闘の件だけど。あの時、あなた二刀流で戦っていたわよね? 相模の時の様に」

「……ああ。そうだね」

「私の記憶が正しければ、あなたにレアスキルの覚醒は無かった。その筈。だけど、あの時、あなたは確かに『円環の御手』を使った。どうしてなの?」

 それ以上は分からないと暗に告げるアイネから、視線を逸らした渚はカップをソーサーに置くと意を決し、口を開いた。

「覚醒が無かったのは嘘なんだ。アイネ。誰のものとも違うから、百合ヶ丘の頃はレアスキルと気付けなかっただけで。僕にもレアスキルは在ったんだ。レアスキル『カオスティックトランサー』。接する他者の魂を写し取り、自分のモノにするレアスキル。本質は少し違うけども」

「……魂を写し取る。だから、あなたのサブスキルもインターバルが極端に長い異質なものだったのね。レアスキルはリリィの生き様に影響を受けて発現するから。じゃあ、あの『円環の御手』は?」

「あれは、マリアのモノなんだ。あの子が生きていれば、『円環の御手』を発現する筈だった。それを僕はあの子を殺す事で、彼女のレアスキルを自分のモノにした」

 口の中が乾ききる前に一口含んだ渚は、達観した様な表情で窓の外を見る。何があるでも無い済み切った青空を呆然と見ていた彼女は、ただただ受け入れたアイネに視線を戻す。

「……そのレアスキルには何時気付いたの?」

「あの子を殺したその後に。僕の中のあの子が、教えてくれたんだ。僕のレアスキルはそう言う物なんだって。まぁ、名前は僕が付けたんだけどさ。その、うん。ごめん」

「どうして謝るの?」

「この事を君に、ずっと黙っていたから」

「でも、こうして今話してくれた。それで良いわよ。黙っていたからと、私に大きな災いが降りかかった訳じゃないし」

 そう言い、笑ったアイネに笑い返した渚は、静かに目を閉じるとコーヒーを傾けた。その表情とは裏腹に喜ぶでも無く、ただ空しさを抱いて。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 同時刻、内閣府直属ガーデン運用監査局本部・3F第1会議室。証明が落とされ、薄暗くなっているそこではプロジェクターの薄らぼんやりとした光だけが唯一の光源となっていた。

 身なりを整えた各基幹職の後方、連日の徹夜仕事をこなしていた真波も、化粧で外面を取り繕った上で、この場にいた。

「予定時刻になりましたので始めさせていただきます。本日は各ガーデンの皆様のご要望により臨時開催と言う事で」

『前置きは結構だ、本部長殿。早急に本題に入って頂きたい。我々は貴局のレギオンについて、詳細な説明を求める所存だ』

「はあ、レギオンですか。そう言われましても公表している以上の情報はありませんが」

 すっとぼける本部長は、険しい表情を浮かべる高松学長代理のワイプを見上げる。大方把握している人員と人数が一致しないと言いたいのだろうが、そんな事を糾弾すれば大ダメージを受けるのは彼らの方だ。

 何せ、正式な人数の公表を行えば、彼等が死んだと公表した人間が浮かび上がってくるのだから。

『ルドビコ女学院です。我々としては、今回の討伐作戦について貴レギオンが掠め取る形になったのは遺憾です。我々には東京御三家としての意地とプライドがある。それを汚す様な行為は慎んでいただきたい』

「その件に関しては申し訳ありません。ですが、あの場に置いての監査官の判断には何ら誤りは無いと、我々は審議を重ねた上で結論付けております。所で、話は変わりますが、ルドビコ女学院殿から先のヒュージの解剖結果についてのレポートが届いておりませんが、何かありましたか?」

『現在報告結果をまとめている所です。部下には極力急がせますが、何分、相手は特型ヒュージなのでね。まとめるにも書く内容が多く』

「承知しました。早急にお願いいたします」

『善処します』

 若干の動揺が浮かぶルドビコ女学院の学院長を見上げていた真波は、今後一切出ないだろうな、と内心思っていた。ガーデン側がこちらからの要求をはぐらかすのはこれが初めてでは無く、監査局側としても慣れていた。

 だからと言って黙って看過するほど、こちらとしてもお人好しでは無い。だから、監査局がレギオンを持つ事になったのだ。何が遺憾の意だ、と連勤のストレスと合わせ、彼女は内心毒づく。

 自分の事ばかりを主張し、大層なお題目を掲げて相手の言う事は一切聞かない、年だけ食った老年のガキの相手を、幹部達に任せ、疲労しきった目頭を揉んでいた真波は頃合いと見て終了した事に気付き、形ばかりの一礼をした。

「やれやれ。世論とやらを知らん連中の相手は疲れるな」

 皮肉めいた笑みを浮かべた本部長は、撤収しつつある会議室に居残り、真波達の傍に座った。少数の職員が各機材の片付けや書類の処分などを進める中、井戸端会議でもするかの様なつつましさで、話は始まる。

「三沢監査官。連日の対応、ご苦労だった。我々としても念願のレギオン設立にこぎつけたのも君の手腕あってだよ。最も、その経緯はハプニングみたいなものだったがね」

「その件については、お手数をおかけしました。ある程度予測はしていましたが、ルドビコ側のリークでここまでさせられるとは」

「うむ、まぁ。致し方の無いダメージだ。あの時君達がヒュージの相手をしなければ、今頃高田馬場は火の海だったんだからな。ああは言ったが、ルドビコ側にあの手合いが止められたとは到底思えんよ」

「連中は常設のレギオンを持ちませんからね。臨時編成とやらで時間を食っていたら今頃どうなっていたのか。想像には難くありません」

「全くだ。さて、閑話休題はここまでにして、だ。鮫洲の調査について、進捗を報告してもらおうじゃないか」

 そう言い、秘書から渡されたタブレットを差し出した本部長は、応じる様に端末を当てた真波からデータを受け取る。品川駐屯中に起きたラージ級ヒュージの群体発生と、鮫洲コロニーの壊滅について、詳細がまとめられていた。

「まず、初動で発生したラージ級の大量発生についてですが、周辺でのケイブ発生兆候及び発生後の反応は一切ありませんでした。また、監査官立会いの下に行われた該当地域のエリアディフェンス装置についても、問題無しとの点検結果が届いており、これを受け、私は突如として現れたヒュージ共は普通の個体では無いという結論に至りました」

 手元のスマホを操作し、連動するホロデバイス上の画面をスライドさせた真波は、IFF反応と航空写真を組み合わせた資料を映し出す。

「続いて、鮫洲コロニーへの立ち入り前後のIFF反応及び、航空写真を組み合わせた資料になります。新馬場での対ラージ級戦後、エレンスゲよりレギオン規模のリリィの反応が鮫洲方面へと移動を開始。こちらの撤収後、現場の航空写真に5名のエレンスゲのリリィが映っております」

「航空写真の経過を元に、君達は彼女達が鮫洲の件について後始末を行っていると見ているのか」

「ええ。まぁ、彼女達に自覚があるかはどうでも良いのですが、その後、入れ替わりに防護服を着た集団が何らかの回収作業を行い、その後、原因不明の爆発事故、と言う名目でコロニーは壊滅。ほぼ全ての状況証拠は消えて無くなりました」

 町を覆い尽くす、不自然なほどの爆発を鮮明に写した写真を見せた真波は、消防庁から出された事故調査票を表示する。無論、この調査票が信用に値しない形ばかりのモノである事は明白だった。

「結論としては、ヒュージの発生は人為的、かつかなりの非人道的な手段で発生したものと見ています。類似事例としては、先の西落合の一件です」

「つまりはこの件はG.E.H.E.N.A.絡みと言う訳か。全く、我々政府がおいそれと手出しをしないと分かればこれか。彼等は自分達がどんな意図で国家に生かされているか全く理解していない様だな」

「如何します? 我々だけでも藪ごと焼きますか?」

「いや、それは我々の権限の範疇を超える話だ。とは言え、これは国家安全保障を脅かす重大なインシデント。私から局長を経由して政府へ申し伝えておくよ。藪の除去はそれからでも遅くは無い。とは言え、この一件に関して見逃すと言う事も出来はしない。まぁ、灸を据える位ならこちらでやっても良いだろうな」

「……つまり?」

 口角を吊り上げながら問いかけた真波に、視線で彼女を咎めた本部長は一瞬悪戯を共謀する子どもの様に笑い返す。

「出処について入念に調査を行い、準備期間を設けた上で、見せしめに研究所の一つ吹き飛ばしてやれ、と言う事だ。彼等は国家反逆罪を犯したんだ。頭のおかしな議員先生方もそうそう口は出せんよ」

 それは口約束ながらも明確な攻撃命令だった。ただ、それに付けられた条件としては、連中をぶっ飛ばして良いが、相手は絶対に間違えるな、と言う事だ。今回の鮫洲を壊滅させた連中だけを潰せ。それが攻撃命令に対する絶対条件だった。

 2週間の調査で一応、確定に近い答えを見つけていた。宇佐美ラボだ。元々、対ヒュージ用のBC兵器の開発及びヒュージそのものの生態研究を行っていたそのラボは、無断でヒュージの兵器利用について研究しているとの噂があり、国家の安全を脅かしかねないとしてマークされていた。

「本件の対処法としては、以上で良いかな? では、経過については適宜報告してくれ。では、失礼する」

 そう言い、浅い一礼をした本部長が去っていくのを、立ち上がって見送った真波は姿が見えなくなると同時、椅子に身を沈めた。そっと目を閉じた彼女は、大きく深呼吸をする。

 宇佐美への強襲は間違いないだろう、と課の同僚達が収集した証拠を思い出した彼女は、心底下らなさそうに目を開いた。

(しばらくはあの方面への強行偵察か。戦力補強もやらねばならんし、面倒な話だ)

 人の出払った会議室を見回した彼女は、深呼吸を溜め息に変えて吐き出す。撤収の動きを取る彼女は、本格的に拾ってきた少女達を名目もクソも無い内紛への少年兵として動員しなければならない事実に嫌悪感を抱いていた。

 広い会議室から退室し、施錠をした真波は、何にも塗れないその手を見下ろし、自嘲の笑みを浮かべる。それが大人の仕事だ、と戒める様に呟きながら。




Next_Chapter―――

宇佐美G.E.H.E.N.A.ラボ攻略作戦編

《Operation_Honeycomb_Break》

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