青い光は、次から次へとビルを破壊していった。
人々は逃げ惑い、街は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
光を放った壺状の物体は混乱のさなかに姿を消し、攻撃を加えられない自衛隊は歯噛みするしかなかった
「何なのアレ!?」
「とにかく逃げろ!」
一夏ら4人も、人ごみの中を走っていた。
「クソッ、自衛隊が頑張ってくれることを祈るしかないってかよ!」
「アレと戦えれば…」
「一夏、無茶言わないで!いくら専用機持ちでも、僕達一応民間人なんだよ!」
「こうした事態に備えているプロに任せるべきだ!」
シャルロットとラウラが、はやる一夏をたしなめる。確かに彼らも戦う力は持っている。しかし、IS学園で学んでいるのはあくまで操縦技術。実戦におけるドクトリンや対応法などは何一つ知ってはいないのだ。ラウラは一応軍人ではあるが、他国の軍人が割り込んで状況をややこしくしてしまっては意味が無い。
結局、こうして逃げるしかなかった。
その時、街を破壊していた青い光が、突然空中に静止した。
『隊長!』
「うかつな攻撃はするな!様子を見るんだ!」
隊長と呼ばれた自衛隊のISパイロットは、部下や随伴戦闘機部隊にそう指揮した。今までこんな状況を想定できるはずもなかった以上、慎重になるしかない。
すると、光が地上に降り、激しい閃光を放った。
光が消えた時、そこにいたのは…
白と黒の甲殻に覆われた、全高60mの巨体。両手に備えたハサミ状の鉤爪。顔の真ん中で毒々しい光をらんらんと放つ、緑の巨大な目。
地球に降り立ったその悪魔の名は…脳魂宇宙人「ザム星人」。
「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ…」
鉤爪を持った両手をゆらりと持ち上げ、笑い声にも似たしゃがれ声を上げるザム星人。もしそれが本当に笑い声であったならば、きっと矮小な人類を笑っているのだろう。
ザム星人がふいに両手を前につき出し、そして腰で構えた。すると、胸の発光器官から発射された緑色の光線が、コンクリートに覆われた大地を薙ぎ払った。
射線上の建物はすべて吹き飛び、ねじれて溶けた鉄屑と化した車が宙を飛ぶ。人類の繁栄の象徴であったはずの物が次々と消し飛んでいった。
「攻撃開始!あの化け物を食い止めろ!」
『『『了解!』』』
自衛隊が攻撃を開始する。しかし、巨大なる悪魔はその攻撃を全く受け付けなかった。最強の兵器の名をほしいままにしていたISの武器でさえ掠り傷一つ与えられない。
「怯むな!撃ち続けろ!」
ザム星人の周囲を飛び回りながら撃ち続けるIS。少しでも足止めするべく懸命に攻撃する戦闘機。
すると、ザム星人がふいにIS部隊を見やった。そして、巨体からは想像もつかない俊敏な動きで片腕を振り上げた。
腕の軌道上にあったIS1機が、回避できずに直撃を喰らう。
無敵のシールドが紙屑の様に破られ
鉄壁の装甲が原形をとどめないほどにひしゃげ
パイロットが一瞬のうちに潰れた肉塊と化し
武器に満載されていた炸薬が、機体を循環していたエネルギーが誘爆を引き起こし
爆発で捻くれた鉄塊と化したISが
砕けたコンクリートの上に、落下した。
「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
人々の悲鳴が、数倍にも大きな物となった。
中でも女性達の反応は凄まじい物だった。
無敵の超兵器と言われたISが、女性達の現代における優位を決定づけていたISが、自分達の守護者たるISが、いとも簡単に倒されたのだ。精神的なショックたるや凄まじいものだった。
人々が完全に平静を失う中、ザム星人は街を破壊し、自衛隊を蹂躙していった。
鉤爪とビームが次々とISや戦闘機を撃墜し、ようやっと到着した戦車部隊を片っ端から吹き飛ばしていく。
そして。
戦っていたISのうち何機もが、いきなり次々と星人に背を向けてその場を去って行ったのだ。
「き、貴様ら!敵前逃亡するのか!」
『勝てる訳ないじゃないですか!』
『こんなの聞いてないわよ!もう自衛官なんて辞めてやる!』
「クソッ!何と言う事だ…!」
隊長は歯噛みした。彼女らは国民を守る戦士などではなかった。ただISという圧倒的な力に酔いしれていただけの、臆病者にすぎなかったのだ。
そして、彼女はザム星人が自分を視界にとらえるのを見た。
気づけば、戦闘機も戦車も全滅し、ISは彼女以外全機が破壊されるか逃亡していた。
星人が腕をつき出す。胸からビームを発射する前触れだった。
もうおしまいだ。そう思い、隊長は自らの死を覚悟した。
しかし、彼女を待っていたのは死ではなかった。
突如、飛来したビームやミサイルがザム星人を後ろから捉えたのだ。
隊長はそこへ目を向けた。
そこにいたのは、3機の見た事もない戦闘機だった。
SF映画に出てくるような、曲線を多用した未来的なフォルム。白を基調に青いラインが加わった、兵器とは思えないような鮮やかな塗装。機体下部には大きな燃料タンクが備えられ、クリアオレンジのキャノピー越しに2名のパイロットの姿が見えた。
すると、突如彼女のISに通信があった。恐る恐るそれを受ける。
「こ、こちら、航空自衛隊第3IS小隊隊長、葛城裕子!」
『こちら、地球防衛軍GSG所属、対怪獣特捜チーム『HEART』副隊長、植松弘展!こいつは我々に任せて撤退して下さい!』
「し、しかし、その数では!」
『我々は奴を倒すための部隊です。それに、その機体状況では戦えません!』
隊長のISは戦いでボロボロになっていた。武器の弾もほとんど切れかけている。確かに、この植松という男の言うとおりだ。
「…了解。感謝する!」
隊長は基地へと向けて撤退していった。
未知の戦闘機――ハートラナーの機内では、先ほど隊長に通信をかけた男、植松が操縦桿を握っていた。
通信機越しに、隊長である女性の声が聞こえる。
『いいか、HEARTにとっては初めての実践だ。けっして気を抜くな。フォーメーションα3で攻撃開始!』
「ラナー1了解!」
『ラナー2了解!」
『ラナー3了解!」
3機のハートラナーは散り、ザム星人に砲撃を加えていった。