ハートラナーはザム星人が放ったビームを交わして散開し、両翼機部に備えられたバルカン砲で多方向から掃射をかけた。恐らくはIS用の武装がベースとなっていると思われるが、若干のチューンナップが施されているであろう事に加え、口径そのものもISのそれより大きいため破壊力は段違いだ。着弾するたび、星人に確実にダメージが蓄積されていく。
いつしか人々は、星人と互角に戦うハートラナーに向けて声援を送っていた。
一夏達も、逃げながらも安堵の様なものを感じていた。
『ラナー1、07式装甲貫通弾で止めを刺せ。』
「ラナー1了解。」
コックピットの中の植松は隊長の言葉に了解すると、機首を星人に向けるとバルカン砲のセレクターを操作して弾頭を貫通弾に切り替え、巨大な目に狙いを定めた。星人も好機とばかりにビームを撃とうとしたが、ハートラナー2機が落としたナパーム弾によって発射が中断されてしまう。
「発射!」
バルカン砲から吐き出された貫通弾がザム星人の目を直撃し、顔を大きく抉る。星人はよろめくと腕を上につき出し、なにやら赤い光線の様な物を放った。射線の近くにはハートラナー1機がいたものの、かわすまでもなくはずれた。
そして、白と黒の悪魔は両腕を力なく垂れさがらせ、地響きを立てて崩れ落ちた。
「ラナー1より本部へ。星人の撃破を確認。」
『了解。15分警戒飛行し、異常が無ければ帰投しろ。』
「ラナー1了解。」
『ラナー2了解。』
『ラナー3了解。』
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
モニター越し、あるいは肉眼でそれを見ていた人々は、自分たちを救ってくれた謎の戦闘機に向けて一様に歓声を上げた。
「はぁ…ったく、一時はどうなる事かと思ったぜ…」
「本当にね…といっても、何も失わなかった訳じゃないけど…」
「あぁ…」
言葉を交わす一夏達の周囲にも、建物だった瓦礫の山や、破壊された兵器の残骸はわずかだが転がっていた。
そんな時だった。
「誰か助けて!」
ふいに叫び声が聞こえた。まだ年端もいかない少年の声だった。
声がしたのは、すぐそばの十字路を曲った所だった。向かうと、恐らく声の主であろう男の子と、それより少し幼いであろう女の子が、瓦礫の下敷きになって身動きが取れなくなっていたのだ。
「大丈夫か!」
一夏がそう言って真っ先に駆けつけ、瓦礫に手をかけて持ち上げようとする。しかし、あまりの重量にすぐに腕が根を上げてしまう。
「僕も手を貸すよ!ISを使って二人で作業すれば、安全に瓦礫をどかせるはず…」
「じゃあ、俺とラウラはその間に二人を!」
「あぁ、頼む!」
一夏は〈白式〉、シャルロットは〈ラファール・リヴァイブカスタムⅡ〉を展開、ハイパーセンサーの力も借り、ゆっくり、出来るだけ安全に瓦礫をどかす。
「さぁ、もう大丈夫だ…」
「痛いところは無いか?」
弾とラウラが無事に2人を引っ張り出すことに成功したのを確認し、一夏とシャルロットもISを解除する。
「ひとまず、無事でよかったな。」
弾がそう言って2人の子供の頭を撫でてやろうとした時だった。
ビルとビルの間から見える空を、光る何かが横切るのが見えた。そして、その一瞬後、恐ろしい揺れがその場を襲った。
「なっ!?」
「うわわっ!」
そして、横のビルの一部が崩落し、多きな瓦礫となって落ちてきた。
「危ない!」
瓦礫の影の中にいた子供達と弾を、一夏はほぼ反射的に突き飛ばした。
そして…瓦礫は逃げ遅れた一夏を、無慈悲に下敷きにした。
「「「!!!!」」」」
弾が茫然とする。
シャルロットの顔から血の色が引く。
ラウラが絶句する。
「…い…ち…か…」
かすれた声を絞り出したのは、シャルロットだった。
「一夏あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
一方、警戒飛行中だったハートラナー各機は、先ほどの揺れをもたらした謎の落下物の正体を探るべく、粉塵の中に目を凝らしていた。
すると、突然金属的な咆哮が響き渡り、煙の中から一筋の炎が伸びた。
ハートラナー1機が避けそこねて左舷部を丸コゲにされ、炎に包まれて近くのビルに突っ込み爆発炎上する。
「田島!北田あぁ!」
植松がその機体に乗っていた2名のパイロットの名を叫ぶ。脱出した様子は無かった。彼らの生存は絶望的だろう。
そして、煙が晴れると、その炎の主の姿が露わとなった。
第一印象は、岩石の龍、と言ったところだろうか。
長い尻尾と首、大きな4本の足を有し、全身がごつごつとした岩石状の甲殻でびっしりと覆われている。胴体中央と頭頂部では、逆三角形型の赤いクリスタルの様な物体が凶悪な光を放っている。
ザム星人が死に際にはなった赤い光は、最後の悪あがき等ではなかった。この、「宇宙鉱石怪獣ドレンゲラン」を召喚するための信号だったのだ。
地球に降り立ったドレンゲランは、ハートラナーを撃墜した火炎放射を周囲のビルに見舞った。最新の高い耐火性を持つはずの建材で出来ているビルが何棟も、一瞬のうちに紅蓮の炎に包まれて燃え散っていく。
「くそっ!隊長、指示を!」
『フォーメーションβ1で攻撃開始!奴にこれ以上街を壊させるな!』
「了解!」
2機のハートラナーがドレンゲラン目掛けてレーザーを叩き込む。しかし、頑強な宇宙鉱石で構成されたドレンゲランの体はそんな攻撃ではびくともしなかった。
しかし、だからといって何も感じていないわけではない。人間で言うなら虫にでも刺されたようなものだ。ドレンゲランが放った火炎放射が、更にもう1機のハートラナーを捉えた。
「中島、今野!脱出しろ!」
『む、無理です!脱出不能…うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
ハートラナーはそのまま道路へ墜落し、アスファルトの地面を抉りながら滑って止まった。
「くそっ…敵はとってやる!」
植松のハートラナーがドレンゲランの周囲を飛び回りながらレーザーバルカンを浴びせ掛けるが、やはり全く効き目が無かった。
もう打つ手はないのか。人類はこのまま、この悪魔の様な怪獣に滅ぼされてしまう以外にないのだろうか。
(一夏…織斑一夏…)
自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、一夏は目を開けた。
そこは、何もない空間だった。上下左右の感覚が全くない真っ白な空間に、彼は浮かんでいた。
「ここは…どこだ…?それに俺、死んだんじゃ…」
すると、突然彼の前に一つの巨大な光が現れた。「光」はやがて大きな人の様な形となり、一夏へと語りかけてきた。
(私の名は、……。君達がM78星雲と呼ぶ場所に居を置く、宇宙の秩序を守るための組織に属している者だ。)
「光」は自らの名前を口にした。何故だか、ある種の安堵や頼もしさを感じる名だった。
「宇宙の…秩序…?」
「光」が頷いた。
(君達の地球を襲った侵略者、ザム星人。私は、その脅威から地球を守るべく派遣されて来た。しかし、どうやら今一歩のところで出遅れてしまったようだ…済まなかった…)
不思議と憤りは感じなかった。自分が死んでいる事をほとんど自覚しているからだろうか。
「俺は…どうなってるんだ…?」
「光」がゆっくりと答える。
(君は、怪獣が落着した際、3人の人間をかばって命を落としてしまったのだ。私はそんな君の姿を目の当たりにし、自らの危険も顧みずに誰かを救おうとする、君の勇敢な行動に心を動かされたのだ。このまま死なせてしまうには、君はあまりにも惜しい。だから、私は君と一心同体となり、命を共有することによって君を救おうと試みたのだ。)
そこまで語ってから少し間を置き、「光」は一夏に問うた。
(一夏…私と共に、地球を守るために戦ってはくれないだろうか…)
地球を守る。一夏にもそれがどれだけ過酷な事なのかは想像できた。しかし、自分が先ほど目の当たりにした、あの圧倒的な破壊。あんな経験をする人がこれ以上増えていいはずがない。世界を守る事がイメージ出来なくても、それが大切な人を守ることにつながるのなら…
一夏は顔を上げ、決然と答えた。
「…あぁ、分かった。」
(ありがとう…)
「光」の言葉に含まれいたのは、感謝だけではなかった。安堵、そしてわずかな罪悪感も。
「俺の事なら気にしなくていいぜ。命の危険にあった事は1回や2回じゃないんだからさ。」
(そうか…君の言葉に感謝する…)
そう言うと、「光」は自らの胸に手をかざし、そこから何かを出現させた。
現れたのは、淡い光を放つ、紡錘形のカプセルの様なアイテムだった
「これは…?」
(〈エストレーラー〉。君ひとりの力では尊い命を守りきれなくなった時、それを使ってくれ。)
浮遊しながらゆっくりと近づいてきたエストレーラーを掴む。すると一夏の手の中で、エストレーラーの中央に埋め込まれた、緑の細長いクリスタルに光が灯る。
一夏はエストレーラーを頭上に掲げ、自らと一心同体となった「光」の名を、精一杯叫んだ。
「ウルトラマン……ネオォォォォォォォォォス!」