ギリッギリ!!
「あ、先生ー。」
「やぁみんな、ちょっと遅れちゃったかな?」
「時間ピッタリですよ〜。」
時刻は十四時半。柴関ラーメン前で待ち合わせしていた僕らは、全員が集まると共に早速店の中へ入っていった。
時間をズラしたおかげか客は居らず、大将と軽く挨拶を交わしながら向かい合っているテーブル席に座る。
僕が最初に座り、メニューを眺めていたのだが…ノノミとシロコの二人は座る場所をどちらにしようか迷っていた。ちなみにホシノは迷わず僕の目の前に座り、アヤネはその隣に座った。
「…先生、どっちの隣がいい?」
シロコから急に問われ、数秒間彼女と見つめあったあと首を傾げた。
「…え?僕?別にどっちで……。」
スパイダーセンスが反応した。
ここで選択肢を間違えると、とんでもない事になると脳が警鐘を鳴らす。
息を飲み、二人を見つめたあと口を開く。
「えっと…それじゃあノノミが僕の隣に座ってくれるかな?」
「わぁ☆嬉しいです!それでは失礼します…。」
残念そうなシロコ、けどこの選択で合っている…と思う。
僕の豊富な恋愛経験がそう言って…。あぁ、嘘、嫌なこと思い出したから今のナシ。というかホシノが凄いニヤニヤしてる、一番楽しんでるのはこの子なんじゃ?
とりあえずアヤネの隣にシロコが座り、その向かい側に僕とノノミが座ることになった。
「それじゃあ、僕はこの柴関ラーメンを……。」
一人一人注文をし、ラーメンが届く間少し雑談する時間が出来た。
「まさかセリカちゃんがここでバイトをしていたなんてねー。」
「どうやら一、二週間くらい前から働いてたみたいだよ。」
「…というかみんな知らなかったの?」
「うん、ここ最近いない時があったけど理由が分からなかった。」
「これも借金返済のためなんですよね…私達も頑張らないと。」
意気込むアヤネにみんなが頷き、話はまた別の話題に変わる。
「それで〜?先生とセリカちゃんを助けた…スパイダーマン?って人は……。」
「ほら、美味そうな匂いがするじゃねぇか。ここにしようぜ、ボス。」
「ぼ、ボス!?…そ、そうね!ここにしましょう!」
「もう〜、アルちゃんそろそろ慣れなよ〜。せっかくブルちゃんがウチの新入社員になってくれたんだからさ〜?」
「…さっさと入ろう、入口で騒いでたら迷惑。」
「も、もしかして私迷惑ですか!?…迷惑ですみません…こんなところにいてすみません…。」
ホシノがスパイダーマンの話を振ろうとした時、異様な雰囲気を漂わせる一行が入って…き…。
「……ぅ…嘘だろ…なんで……。」
「…先生?どうかしましたか?」
店に入ってきたうちの一人、唯一の男であるソイツは…何度か闘ってきた百発百中の殺し屋『ブルズアイ』だ。見間違えるはずない、奴は素顔を晒して裏社会を生き抜いてきたアウトローだ。
きっと僕の顔は一瞬で青く染まっただろう、こんな所で奴と出会うとは思ってもいなかったから。
「…ん?あぁ、邪魔しちまったか。悪かったな。」
「……それにしても珍しいな、動物やロボットじゃない生身の大人なんて…。」
こちらに気付き、少し離れたテーブル席に向かいながらブルズアイは僕に話しかける。スパイダーセンスの反応が弱いから、僕の正体は知らないのだろう。
「…僕も、初めて見ましたよ。人間の形をした……大人。」
「……おいアンタもしかして…。」
心臓が跳ね上がる。生徒たちは僕の異変に気が付いたのか心配そうな顔で僕を見つつ、臨戦態勢に入った。
「…やっぱりそうだ!アンタ、噂の『先生』だろ?まさかこんな所で会えるとはな。」
「……ッえぇ、そんな大層なものでは無いんですけどね…。」
冷や汗が頬を伝う、彼の連れはもう席に座ってメニューを眺めていた。
僕は生徒たちに目配せで待機するように指示し、再度ブルズアイへ視線を向ける。
彼は少し目を細めたあと、連れの元へ向かったようだった。
「それで、新入歓迎会だっけか?」
「えぇ、そうよ!便利屋の仲間が増えたんですもの、盛大にお祝いしないと!」
「……俺の奢りでか。」
「………ふふふ。」
「社長がもう少しお金を残しておけば…資金のほとんどを人員のために割いたんでしょ。」
「まぁ、アルちゃんアビドスにビビってるし?」
「誰がビビってるって!?全て私の想定内よ!」
届いたラーメンを啜っている間、ブルズアイとその仲間は何やら話し合っていたようだ。距離があったから詳細に聞くことは出来なかったけど、どうやらブルズアイは新しい会社に就職したらしい。
しかも、よりによって僕の生徒が社長の会社だ。帰って彼女達のことを調べないとな…もしかしたら騙されてるのかも。
「先生〜、もう少し味わって食べたらー?」
「え?あぁ…ごめん、ちょっと気になることがあって…。」
「…さっきの人がどうかしたの?先生ちょっと顔が引き攣ってたけど…。」
いつの間にかラーメンのほとんどを食べてしまい、器に見えるのはスープだけだった。
いつもの調子のホシノだが、少し警戒心が高まっているのが分かる。
シロコ達は僕を気にかけているみたいだ…。
僕は、危険から離れすぎていたんだと思う。だからこうして明確な危機が目の前に現れた際、動揺してみんなに心配をかけさせてしまうんだ。
…スパイダーマンはおやすみ、なんてやっぱりできっこないんだ。
ブルズアイの目的はまだ分からない、スパイダーマンか、それとも他の何かか。どちらにせよ彼が良いことをするとは思えない…生徒の為にも、もう一度スーツを着るしかないのか。
「…ううん、大丈夫。あの人ちょっと顔が怖くて。」
「…確かに、強面でしたね。でも人は見かけによりませんし、案外いいひとかもしれませんよ?」
「……そう願うよ。」
微妙な空気の中、ラーメンを食べ終わりお会計しようと席を立った時…。
「よぉ、先生…さっきは悪かった。」
背後から声が聞こえた。
「…いえ、もう謝罪の言葉はいただきましたし。」
「違う、盗み聞きしちまったんだが、俺の事が気になって飯に集中できなかったんだろ?」
「食事時ほど人生で幸せな時間は無ぇ、その邪魔をした詫びに奢らせてくれ。」
「いやそんな…僕はあなたを外見だけで判断して……。」
「…それに、シャーレの先生と仲良くしといた方が色々と『有利』なんだろ?一度申し出たんだ、恥はかかせないでくれよ、先生。」
「……分かりました、それではご馳走になります。」
「そうこなくっちゃな!」
結局、僕と生徒たちの分はブルズアイの奢りになり、生徒達が抱いていた警戒心は少しばかり晴れたようだ。
店を出る間際、ブルズアイは僕に耳打ちをした。
「…アンタが何処から来たか分からないがな、先生。下手なことは首を突っ込まない方がいい……銃弾一発でくたばる生身なら尚更だ。」
「…ご忠告ありがとうございます。次は僕に奢らせてくださいね。」
そうして僕達は店から出て、そのまま解散となった。
僕は真っ先にシャーレへと戻り、ロッカーの奥に隠してあった赤と青のスーツを取り出す。
彼女達に何かあっては遅い、そう考えながら僕はシャーレの権限でブルズアイやその仲間の生徒たちについて調べ始めた…。
「やっぱり美味ぇな、どうやら
「…ねぇ、さっきの制服、アビドスのじゃない?」
「だよね〜、これも運命のイタズラってやつなのかな?」
「……え!?嘘でしょ…!?」
「わ、私も分からなかったです…ラーメンが美味しくてそっちばっかりに…。」
「まぁ、今くらい仕事のことは忘れて楽しく食べようぜ?せっかくのラーメンが勿体無ぇ。」
「…それもそうね!ゆっくり味わいましょう!」
「……はぁ。」
男一人と少女四人、仲良く(?)談笑しながら美味しいラーメンを食べたのであった…。
出会ってしまったピーターとブルズアイ…果たして物語はどこに行き着くのか!!