スパイダーマンのスーツを着たまま、アビドス自治区までスイングしていた最中、耳に着けていた無線機から雑音が鳴った。
『失礼します先生、先ほど会議を始めたんですが…借金返済の良い案が思い付かず…。』
『ん、やっぱり銀行を襲うべき。』
『うへ〜、それより他の生徒を拉致してきた方が現実的だってー。』
『スクールアイドルです☆』
『や、やっぱり他の案を考えた方が……。』
「……あー…僕がそっちに行くまで相談しといてくれない…かな?」
どうやらスマホにかかってきた電話を無線機が拾ったらしく、アビドスみんなの声が一斉に聞こえてきた。
セリカの声も聞こえて一安心、そのまま通話しながらアビドスまで行こうとしたんだけど…。
『きゃあ!?』
「……アヤネ?みんな!?」
無線機、そしてアビドス校舎の方から聞こえてきた爆発音と共にみんなの悲鳴が聞こえた。スパイダーセンスも微弱ながら反応している。
『だ、大丈夫です…どうやら何者かに襲撃を受けたようで…。』
「待ってて、すぐ行くから!」
『この反応…ダメです先生!もう校舎は包囲されてます!来たら危険です!』
アヤネの必死な声が聞こえ、校舎近くの廃ビルの屋上に着地し、肩にかけていた鞄はそこら辺に置いておく。
本当だ、見慣れない生徒たちが後者を囲って…あれ?
「…みんな、僕は近くのビルから指示を出す。隠れてるから安心して。」
『ん、了解。』
電話を切り、各々の無線機に繋げて指示を出せる状況であることを伝える。
少し身を乗り出しながら目を凝らすと、人集りの中から特に存在感のある集団を見つけた。
便利屋68だ。
「襲撃者はゲヘナの便利屋68…それとその子分?」
『ゲヘナか〜、ちょっと手強そうだねー。」
人数はそれなりに居るが、ヘルメット団を撃退した僕らの敵ではないだろう…『奴』が居なければ。
「…便利屋68は昨日柴関ラーメンに来てた子達だね、一緒に居た大人も集団の中に居る。」
『えっ!?それって…あのとき奢ってくれた人ですか?』
「…恩を仇で返しちゃうけど、公私は分けないと。これはアビドスを守る戦いだからね。」
便利屋と共にいる男…ブルズアイは社長である陸八魔 アルと話している様子だった。
そして彼は急に会話を止め、顔を上げたブルズアイと目が合ってしまった。
ブルズアイは手で銃の形を作り、僕に向けて不敵に笑った…もう逃げられないと。
「…!やっぱりあの時の…。」
「そうよ!このアビドスを頂きに来たわ!」
「アルちゃんいつも以上に張り切ってる〜。」
対策委員会の面々が校門前に到着し、敵勢力と顔を合わせる。
ピーターの言った通り、彼女たちを襲った主犯格は昨日ラーメンを食べに来た生徒たちだ。
アルは自信満々な様子で、声高らかに宣言する。
それを見てはしゃぐムツキ、未だスパイダーマンのことを見続けるブルズアイ、感嘆するハルカ、全員を一瞥したあとため息を吐くカヨコ。
「ふふふ…何せ今日はブルズアイさんが……。」
「あ、ブルちゃんならどっか行ったよ。『スパイダーマンを見つけた〜』って。」
自信に満ち溢れていたアルの顔は一気に崩れ、あからさまにショックを受けていた。
「ななななな、なっ、何ですってーーーー!!!???」
「あっはは、もしかして聞いてなかったの?」
「…どうする社長、ブルズアイさん頼りだったのなら今すぐ引き返すのも手だけど。」
慌てるアルを見て困惑する対策委員会、だが目の前の敵をみすみす逃すはずもなく、無線機から聞こえてきたピーターの合図と共に発砲した。
「いったぁ!?もうこうなったら私たちでやるしかないわ!いくわよ!!」
「そんな簡単にやられると思ってんの?返り討ちにしてやるからかかってきなさい!」
『みんな気を付けて…ただの傭兵でも数が多いから。』
屋上から指示を送り続けるピーター、真下で行われている銃撃戦は今のところ問題は無い。
このまま順調に行けば無事に追い返せるのだが…。
「…そうはいかないよね。」
「よぉ、スパイディ…ガキを眺める趣味があったとはな。」
「君こそ、女の子と仲良くしてて楽しそうじゃん?」
いつの間にか屋上まで上がっていたブルズアイ、手には見慣れたトランプカードが数枚握られていた。
僕と彼の間には一定の距離が保たれているが、奴にとって距離なんてさほど重要じゃない。
「…それで、今回の君のボスは誰?ノーマン?それともフィスク?」
「……俺のボスは陸八魔だ、アンタの始末は『雇い主』の依頼でね。」
「わーお意外、それ本気で言ってるの?殺人鬼が女子高生の会社に就職…ってことは君、新入社員?」
「まぁそうなるな、茶くらいなら煎れられるから問題ねぇだろ?」
ふむ、機嫌は良さそう。
でも、奴は確実に僕を殺しにくる。スパイダーセンスが痛いほど反応しているからね。
僕は一歩下がり、拳を握った瞬間、奴は手に持っていた五枚のトランプを僕に投げつけて来た!
「ホント好きだよねそれ!大道芸の方が稼げるんじゃない?」
スパイダーセンスに従うまま、僕はトランプを避ける。
しかし、着地した次の瞬間には僕の目の前に無数のトランプがまばらに飛んできていた。
「この際、銃でも使えばいいのに!」
バク転を織り交ぜながらトランプを避けようとするが、右腕の付け根と左の脇腹に軽い切り傷を負ってしまった。あー痛い。
「今は使わない、下のやつらにバレたら面倒だからな。」
『先生!あと少しで追い詰められます!指示を!』
「…そのまま撃ち進んで、スナイパーがいることを忘れずに。」
無線機に手を当て、小声で指示を送る…。
くそっ、ブルズアイのせいで指揮に頭が回らない!
僕がもう一人いれば…あぁ待って、やっぱり今の発言取り消す。僕は一人で十分、そうだろ?そうに決まってる…。
「随分大変そうだな、パーカー先生。」
「なっ…待ってよ、パーカーってシャーレの先生でしょ?」
「…バレないとでも思ったか?アンタがアビドスのガキ共に指示を送ってたのは聞いてたぜ?」
「…あー、最悪。でも君の口をウェブでぐるぐる巻きにすれば良いよね!」
最近スパイダーマンをやってなかったせいで些細なミスが重大なものへと変わってしまう。でも僕の経験上、スパイダーマンの正体を知ったヴィランはそう簡単に世間に公表しない。
あいつの苦しむ顔がー、とかこれを脅しの道具にしてー、とか。まぁ最悪なことには変わりないんだけど。
僕は大きく踏み込み、脆くなった床を強く蹴って飛び上がった。
幸い崩れることはなく、そのままブルズアイへウェブを飛ばす。
「勘違いするな、俺の目的はあくまでアンタの命だ。正体なんざどうでもいい…。」
「へぇ、僕にとっちゃどっちも変わらないと思うけど!」
ブルズアイは隠し持っていたナイフを投げ、ウェブを弾きながら僕の胸を狙う。
けど、スパイダーセンスのおかげでそのナイフをウェブでキャッチでき、そのままウェブと一緒に投げ返した。
ナイフはブルズアイの肩に突き刺さり、ウェブで固定される。痛そー。
「…っグ、まだ終わらないぜ!」
「残念、僕はもう飽きちゃったよ。」
ブルズアイが最後に投げた『丸い何か』を避け、奴の両手をウェブで塞いだ。
勝ちを確信してゆっくりとブルズアイに歩みよるが、奴の不気味な笑顔は未だ健在だった。
「…なぁ、今投げたやつ本当に避けてよかったのか?」
「……何っ!?」
スパイダーセンスが反応した、さっきブルズアイが投げた『丸い何か』、それが脅威となって伝わってくる。
「ソイツは浅黄の『特製爆弾』らしくてな…そんな大きさでも十分な威力を誇る…らしいぜ?」
「なんで君たちは最後の最後でトラブルを起こすのさ!」
『先生、便利屋達は撤退して行ったよ…先生?』
今は無線に構ってられない。投げられた爆弾に狙いを定め、ウェブを飛ばす。
一直線に飛んで行ったウェブは見事爆弾にヒットし、そのまま遥か上空へとぶん投げた。
激しい爆発音と共に、晴天には真っ黒な花火が咲いた。
『…!?先生!無事なんですか!?』
「…あぁ、こっちは大丈夫。さっきの爆発はなんだろうね?」
無線に対応しながら黒い花火を眺めるが…ハッとして振り返った時にはもう遅い。
ブルズアイはその場から跡形もなく消え去っていた。
「……サイアク。」
『先生?何か言いましたか?』
「いや、こっちの話…校舎に戻って対策を立てないと。」
サイアク、今日はスパイダーマンて活躍したのに、一番知られたくない相手にあっさりと正体がバレてしまった。
しかも正体を知ったブルズアイは特に気にしてないのが腹立つ。
…ともあれ、ブルズアイが正体を公にしない限りスパイダーマン業は続けられる……スパイダーマンできるかどうかがヴィラン頼りだなんて、ヤな気分。
「……じゃあ、今からそっちに向かうよ。」
傷口をウェブで塞ぎ、血が滲まないようにしっかりと止血する。
そして鞄の中に入っていた服をスーツの上から着て階段を降りた…。
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