Spider-Archive   作:ネギャー

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第二十一話 別れて、出会う。

 

「グウェン……?」

 

「な、なんで私の名前知ってるの!?」

 

 間違いない。この声、この髪、この瞳。

 紛れもないグウェン・ステイシー、彼女そのものだ。違いがあるとすれば、ボロボロの制服と腰に着けたガンホルダー、そして頭に浮かぶ丸いヘイロー。

 

「なんでこんな所に……。」

 

「?……私、先生と知り合いだったかしら?」

 

「何言っ……待って、先生?」

 

 色々と処理が追いつかない。炎渦巻く爆発の中を潜り抜け、グウェンらしき少女はアビドス……強盗団達がいる銀行出口付近へ向かった。

 どうして死んだはずのグウェンがここに居るのか、何故僕の正体を知っているのか、目まぐるしく変わる景色と共に僕の脳はフル回転。

 

「そ、そうだったわ……確か正体を隠していたのよね。まぁ、先生だし私の名前を知っててもおかしくないか……。」

 

 あちらこちらで銃弾が飛び交い、いつ怪我してもおかしくない状況。しかしグウェン(?)は颯爽と危険地帯を駆け抜ける。けれど、戦闘の衝撃で崩れた天井が行く手を阻んでしまう。

 

「うわぁ!?うそ、あとちょっとなのに……。」

 

「君は本物……いや…今はとりあえず、ここから離れよう。僕の仲間たちには…先に逃げるように伝えるから。」

 

 頭痛がする、大量の情報が脳に叩きつけられた影響だろうか。それでもまずは生徒を優先、グウェンに降ろしてもらって、耳に着けた無線機に触れる。えーっと…先生として指示した方が良いか。

 

「……あーあー、みんな聞こえる?目当てのものは入手したらしいから、そのまま退散して!追っ手はバックマンが全部引き受けるから!」

 

『ん、こっちはいつでも退ける。本当にバックマン一人で大丈夫?』

 

「平気平気!僕はもうブラックマーケットから脱出してるから、後でアビドス高校で落ち合おう!バックマンが入手した書類は僕が回収しとくね!」

 

『了解〜、もし何かあったら直ぐにおじさん達を呼びなよー。』

 

 ホシノの返事を最後に通信を閉じ、グウェンに向き直す……うん、何度見てもグウェン・ステイシーだ。けど、容姿以外の何かが違う……そう分かっていても、手の震えは収まらない。

 

「あそこに非常出口があるわ、先生はそこから逃げて。」

 

「ありがとう……でもグウェンはどうするの?」

 

「私は他の仲間たちを助けに行くわ、強盗団にコテンパンにやられて伸びてるから。」

 

 近くに落ちていたアサルトライフルの動作を確認して、弾薬も拾いつつ歩き出すグウェン。

 

「それは……ごめん。でも、一人で行くのは危険だよ、僕も一緒に…。」

 

 そう言ってグウェンについて行く僕を一瞥し、グウェンは此方に詰め寄って来た。

 

「……貴方は先生でしょう?気持ちは嬉しいけど、今は他にやるべきことがあるはず。マーケットガードを全員引き受けるんじゃなかった?」

 

 僕には僕のやるべきことが、そう訴える彼女の瞳は、相変わらず強い意志を持っていた。それでも、1度亡くした恋人が目の前に現れて、その子が危ない場所に駆け出すと言うのだ、止めない訳にはいかない…。

 ……けど、このキヴォトスではピーターである前に責任を背負う先生だ。今はアビドスの皆を助けないと。

 

「分かった……けど、何かあれば直ぐ僕に連絡して。何がなくても…話したいことがあるから、事が落ち着いたらシャーレまで来て。」

 

「……えぇ、分かったわ。それじゃあ気を付けてねスパイダーマン。」

 

「グウェンも…気をつけて。」

 

 僕を見てほくそ笑み、銃声鳴り止まぬ戦場へ駆け出すグウェン。強盗団もそろそろ撤退する頃だろう、そうすればこの戦闘も終わるはず。

 伸ばしかけた手を引っ込めて、僕は非常出口から外に出た。

 

 

 

「奴らは何処だ!さっさと捕まえろ!!」

 

「クソっ、ボス直々の命令だ。ヘマしたらヤベぇぞ!」

 

 わーわー、凄い凄い。数十人単位の集団がチラホラ見える。

 銀行の屋上からブラックマーケットを見下ろし、背筋を伸ばしてストレッチ。よくよく見れば、ロボの警備兵に混じって僕やブルズアイのような生身の人間の姿も確認できる。彼らも僕と同じ世界から来たのか…全く、調べたことが山ほどあるね。

 バッグを置いていた廃ビルまで移動して、中に入っていたスパイダーマンのスーツを取り出す……うん、そろそろ洗濯しないと。とりあえずバックマンはこれで終わりだ。グウェンのことは一旦忘れて……忘れ……ああ、ちくしょうまだモヤモヤする!こんな時はスイングで紛らわせよう!

 それじゃあみんなお待ちかね!スパイダーマンの登場だよ!

 

 ウェブシューターの調子は良し、廃ビルにウェブを引っ付けてスイングだ!勿論バッグは肩から提げてるよ、中にはさっきの書類とシッテムの箱があるから大事にしないとね。

 っと、早速マーケットガードの集団に接近!そこそこの広さがある路地だから、多少暴れても良さそうだ。

 

「HELLO、マーケットガード!もし暇だったら僕と遊んでくれる?」

 

「スパイダーマン!?なんでこんな時に限ってテメェが……!!」

 

 おおっと、僕を見た生身の人間が顔を真っ赤にして怒ってる。

 

「君、もしかしてキャップのライバルだったりする?」

 

 お顔が真っ赤な男を蹴り飛ばし、集団の中心に着地する。銃やら金属バットやら構えて、おお怖い。でもニューヨークっぽさはあるね、ちょっと懐かしいかも。

 

「くたばれスパイダーマン!」

「なんでこっちの世界にもいやがんだコイツ!」

「さっさと殺せ!強盗団よりこっちが優先だ!」

 

「ねぇ、一気に喋ると誰が何言ってるか分からないから、もう一回一人ずつ話してくれない?ちゃんと聞いてあげるからさ。」

 

 返事は銃声、ロボのマーケットガードが放つ弾を避けつつ、ウェブを飛ばして銃を奪い取り、近くの男に投げ付ける。

 呻き声を上げて怯んだ男を蹴飛ばして、隙を見たと言わんばかりに殴りかかってくるロボを裏拳で軽く吹っ飛ばした。

 

「君たちには聞きたいことがあるからちょーっと伸びててもらうよ。」

 

「仕方ねぇ……お前ら!『装甲』使うぞ!」

 

「もしかして新しいギミック?どうせ使いこなせないんだから、使うだけ損だと思うけど。」

 

 僕の煽りも無視して、USBメモリのような機械を取り出したマーケットガード達は腕に装着したガジェットに装着……なんてことはさせず、彼らが取り出した機械を全てウェブで奪い取り、糸でぐるぐる巻きにして放り投げた。

 

「おま……卑怯だぞ!」

 

「いやいや、目の前で何かしそうなんだから止めるのは当たり前でしょ?やるなら静かにやらないとね。」

 

「ああ、その通りだ。」

 

 目の前のマーケットガード達に気を取られていた僕は、背後に立つその男の気配を感じることが出来ず、スパイダーセンスが反応するも男の拳は僕の顔面に迫る。だが、眼前でその拳は何かに弾かれたように逸れ、空を切った。

 

『大丈夫ですか、スパイダーマン!?』

 

 無線機から声が届く、アロナだ。そういえば僕は今バッグの中にシッテムの箱を隠し持っている、アロナバリアが上手く発動してくれたのだろう。スパイダーマンでの戦闘中は離れてることが多かったから、この効果のことをすっかり忘れていた。

 

「…うん、ありがとうアロナ。このままサポートできそう?」

 

『はい!ですが……強力な攻撃を何度も避けているといつか限界が来てしまいます。私のバリアは保険と思ってくださいね!』

 

「オーライ、十分すぎるよ。よろしくね。」

 

 体制を立て直すために数歩退き、奪った機械を近くの壁に張り付けて相手の出方を見る。

 僕を殴ろうとしたスキンヘッドの男と、その背後に二人、その三人は一見なんの変化も無いように思えるけど…後頭部には細い三日月のようなものが浮かんでいた。

 

「ちぃっ…どんな小細工を使ったかは知らないが、この『神秘装甲』を身に付けた俺達には敵わないぜ!!」

 

「神秘…装甲?そんなメルヘンチックなものには見えないし、君たちみたいなゴツイ大人が付けるようなものでもないと思うな。似合ってないし。」

 

 既視感、あれは生徒たちの頭に浮かんでいるヘイローのようなものだ。三人とも同じような形に見えてちょっとだけ差異がある。

 ま、そんなことはどうでもいいけど。僕を囲む他のマーケットガード達は、その三人に任せたようでニヤニヤと不気味に笑いながら観戦している。

 

「この三人片付けたら次は君達だからね?逃げるならさっさとした方がいいよ。」

 

「さっさと掛かって来やがれ蜘蛛野郎!」

 

「はいはい!」

 

 神秘装甲とやらがどんなものか分からないけど、コイツらがアビドスの皆と接触するのは不味い気がする。ここで倒さないと。

 ウェブを放って牽制しつつ、1番近い男に向けてキック!

 

「その程度か?」

 

 放ったウェブは片腕で巻取られ、僕のキックはスキンヘッド男の胴体にヒットした…はずなんだけど、おかしいな。まるで手応えを感じない。カウンターで振るった男の腕はアロナバリアで何とか逸れた。

 

「どうだ!これが神秘装甲の力……」

 

 今度はもっと力を込めて全力キック、男はピンボールのように弾き飛ばされビルの外壁にめり込んだ。なるほど、手加減しなければいい感じか。

 

「テメェ……人が話してる時に攻撃するのはナシだろうが!」

 

「なら、もうちょっと僕のジョークに付き合ってくれてもいいんじゃない?」

 

 同時にかかってきた男二人も、全力パンチと全力キックで応戦。一撃でダウンさせることに成功したけど、これを何十人と相手にしていたらちょっとヤバかったな…。耐久力だけで言えば、並のスーパーヴィランと同じかそれ以上……思ったより危険な代物だな、神秘装甲。

 

「ふぅ…さて、今度は君たちの番……。」

 

 手に付いた埃を払って、くるりと振り返る。僕を囲んでいた集団は、何やら僕を見ながらどよめいていた。あれ、もしかしてそんなに自信あった?一撃ダウンとか酷いことしちゃったかなぁ〜。

 

「……お、オイどうする?」

「どうするって…被害は『向こう』の方がデカいんだから向こうに行くしかないだろ…。」

「でもボスはスパイダーマンも始末しろって…。」

「バカ!コイツはただの囮だ、本命は向こうだったって事だよ!ボスはそれをわかっちゃいねぇ。」

 

「……あーごめん、僕お邪魔だった?ならもう帰らせてもらうけど。」

 

 ヒソヒソと怪訝な表情で話すマーケットガード達。会話全部聴こえてるけど、どうやら僕以外の所に行こうとしてるらしい。

 

『先生、全員ブラックマーケットから脱出したわ!バックマンと書類は大丈夫?』

 

「セリカ、無事でよかった……うん、バックマンも書類も無事だよ。でもアビドスに行くまでちょっと時間かかるかも……ごめんね。」

 

 セリカからの通信でアビドスの皆が無事なことは確認した、であれば、今彼らが話しているのは一体…?

 

「……クソっ!今回は見逃してやる、次は絶対殺してやるからなスパイダーマン!!」

 

「わーお、お手本のような三流悪党のセリフ。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」

 

 そう言って逃げるように走り出すマーケットガード達、全員捕まえてもいいけど、多分ヴァルキューレはブラックマーケットまで介入出来ないだろうし…そもそもマーケットガードが警察代わりなんだけど。

 アレ?もしかして今回は僕がヴィラン?

 

「…ま、僕は見逃さないんだけど……。」

 

 ビルの屋上を飛び交いながら、マーケットガード達の足跡を追う。万が一、アビドスや他の生徒たちに危険が及ぶなら…助けないと。それに、この世界に来た経緯も聞かないとね。

 

 

 

 

 

___ブラックマーケット 【美術館】___

 

 

 マーケットガードを追って来たはいいものの、まさかブラックマーケットにもこんな美術館があったなんて。すぐ襲撃されて美術品全部盗まれそうだけど。

 

「美術品は何個盗られた!?」

 

「1、2、3……4個もやられた!しかも価値の高ぇやつを重点的に狙ってやがる!」

 

「クソ……やりやがったな…。」

 

 まぁ、そりゃそうだよね。美術品は大抵高いものだし、これだけ治安が悪かったら一個や二個盗まれるよ。四個はちょっと多い気がするけど。

 

「居たぞ!!」

 

「お、早速お出ましか…。」

 

 美術品の窃盗、僕が言うのもなんだけど、やっぱり見過ごせないよね。もしかしたら元の持ち主って可能性もあるし、臨機応変に味方する側を見極めよう……。

 

 

 日も落ち月が顔を出す夜、雲の合間から差す月光に照らされたのは、純白の衣装に身を包んだ一人の少女。怪盗と名乗るには些か目立ちすぎでは無いか?と思いつつ、動きに合わせて揺れるマントは少しばかりカッコイイと思ってしまう。

 

「追え追え!!絶対に逃がすな!奴を……。」

 

 仮面で姿を隠すのはヒーローも怪盗も同じ。猫のように軽やかなステップで追っ手を撒く姿は、僕にも覚えがある。

 

「『慈愛の怪盗』を!!」

 

「OMG……」

 

 グウェンの場合は瓜二つだったけど、今回は「雰囲気」が似てるって感じだ。慈愛の怪盗と呼ばれるその少女、此方を見て不敵に微笑む姿は、まさしくあの黒猫怪盗…『ブラックキャット』ことフェリシアにそっくりだった。

 

 

 





キャットウーマン、ブラックキャット、慈愛の怪盗……猫は怪盗になる運命なのでしょうか?
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