「今から目標をぶちのめす!!」
『やれるものならやってみやがれぇ!!』
ホブゴブリンと美甘 ネルはビルに並んで急速に落下していた。
落ちるゴブリンをネルが追い掛け、その後ろをゴブリンが呼んだグライダーが追う。ゴブリンは腕の装甲から生えたブレードを構え、ネルは両手に持っている二丁のサブマシンガンをゴブリンに向けて引き金を引いた。
ドドドドドドドドドドドドッ
空気が揺れるほど激しい連射をゴブリンに放ったが、急加速したグライダーがその身を呈してゴブリンを護り、眉を顰めたネルがグライダーごと壊そうと全弾撃ち尽くしたが一部が破損するだけで完全に破壊するまでには至らなかった。
「無駄に硬ぇな……。」
『その程度かァ!?要注意人物だと聞いていたが……大したことないようだねェ〜!』
「だが少しは削れた、なら撃ちまくれば完全にぶち壊せる!!」
サブマシンガンに取り付けられた長い鎖を大きく振りかぶって投擲、グライダーに絡み付いた鎖を、ネルは引っ張りながら器用にリロードした。
落下の速度と引き寄せの速度が合わさり、一瞬でグライダーに取り付いたネルは再びグライダーに銃口を向け、今度はほぼゼロ距離から発砲しようとした……が。
『おおっと!!壊されるのはごめんだよォ!』
ぐりん、と一回転したグライダーは乗っていたゴブリンをネルに向かわせ合わせ、ゴブリンは左腕のブレードを振り抜き鎖を切断した。
「チッ、途中で切られたが距離は十分!てめぇの身体に直接ぶち込んでやるよ!」
ゴブリンの脳天目掛けて再び引き金を引く。
しかし今度は、グライダーから球体型の爆弾が飛び出し瞬く間にネルの目の前で炸裂した。
まずい……アレを正面で喰らったらタダじゃ済まない。行くぞスパイダーマン、もう十分休憩しただろう!
スーツは焦げて色のトーンが若干落ちている、真っ黒にならなかったのが唯一の救いか。黒いスーツには飽き飽きだ。
「こっちだゴブリン!僕が相手をしてやる!」
落下中のグライダーにウェブを張り付け、地面を蹴り上げてゴブリンに急接近する。叫んだおかげかゴブリンはこちらに振り向きグライダーから射出された爆弾を手に取った。
できれば落下するネルを助けたいけど……僕が相手をするなら、絶対にゴブリンを殴らなきゃいけなくなる。ヘイローが付いている限り、彼女は僕の生徒だ。先生として暴力は振るいたくない、けどスパイダーマンとしての僕はヴィランを倒さなければならない。
「……ごめん。」
少しでも罪の意識から目を逸らすために思わずそう呟きながら、僕は拳を握り締めた。
『あァん!?なんだって聞こえないねェ!もっと大きな声で……。』
カチャリ。
ゴブリンが爆弾を振りかぶり、僕がマスクの裏で歯を食いしばったその瞬間、ゴブリンが背を向けていた黒煙の中から炭まみれのネルが飛び出してきた。
「じゃあ聞こえるように言ってやるよ!!てめぇはあたしがぶっ倒す!!」
声を発することもなく、ゴブリンは振り向くよりも前に地面に叩き付けられた。あまりにも素早く、油断していた僕は目で追うのがやっとだった。
飛び出したネルは鎖をゴブリンのに巻き付け、引き寄せると共に蹴りを放ってそのまま地面に落下して行ったのだ。
『ァがッ……。』
「てめぇのタフさはよーく分かった、けどな。あたしの方がもっとタフなんだよッ!」
コンクリートの破片と砂埃が舞い散る中、大地を割るような激しい銃声だけが鳴り響く。僅かに聞こえていたうめき声も、銃声が鳴り止む頃には消えていた。
ゴブリンはついに意識を手放したようだ。
「助けられたみたいだね……ありがとう。」
「おっと待ちなスパイダー野郎、このまま見逃されるとは思ってないだろ?」
ネルに歩み寄るが、返事と共に銃口を突き付けられてしまった。
「まぁ、こうなるとは薄々感じてたよ。捕まえるってんなら逃げるけどね。」
両手を上げて降参の意思表示をするが、ネルはイヤホンから何かメッセージを受け取ったようでチラリと僕を見た後に銃を下ろした。
「……いや、今はまだ質問だけでいい。この気味悪い空飛ぶ妖精はアンタの知り合いか?」
おっ、彼女の感性は僕と似ているらしい。
ネルがゴブリンのマスクを剥ぐと、人相の悪い少女の顔が現れた。やはり生徒の誰かだったのだろう。顔を記録したかったが、下手に動くのは止めておけとスパイダーセンスが鳴ったのでやめておいた。
「同じ格好してる奴は見たことあるけど……その顔は知らないかな。」
「最後にもうひとつ……アンタは何者だ?」
「……僕は親愛なる隣人、スパイダーマンだよ。」
そう、今はまだそう名乗れる。マスク越しににこりと笑って、もう用が無さそうなネルに手を振りながらビルの壁に引っ付けたウェブを引っ張りパチンコのように身体を打ち出して飛び上がった。
ビル街をスイングしている間、僕の頭の中を巡るのはたった一つ。
「もし僕が生徒に手を上げてしまったら……。」
その時はもう、『先生』と名乗ることはできなくなるだろう。
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現場の後処理を行うロボの傍ら、ひと仕事終えたネルはスカジャンに着いた埃を払って周囲を見渡す。そして『ある違和感』に気付いてしまった。
「チッ、またメンドーなことになりそうだ……。」
先程までゴブリンが乗っていたグライダーが、跡形もなく消えていたのだ。それは新たな危機……いや、ピーターにとっては