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小鳥たちが囀り、二日目の朝を伝える太陽が座り込む僕の顔を照らす。
今の状態は『空腹』、『渇き』、そして『カフェイン不足』だった。
持ってきたスナック菓子は全て食い尽くし、ペットボトルの水は数時間ほど前から空っぽだ。誰だよポテトチップス持ってきたやつ。
とりあえず水だ、食料より先に水が欲しい。辛うじて持ち続けているタブレットからはアロナの必死な声が聞こえ、何とか意識は保っている。もしかして僕の人生はここまでなのか?
ヴィランに殺されるわけでもなく、大切な人に看取られる訳でもない。
なるほど、死ぬ時は孤独というのはこういうことなのだろう。
そんな時だ、人生を諦めかけていた僕の目の前に銀色の天使が舞い降りた。
いや、正確には『自転車に乗ってやってきた』って言った方が正しいか。
「……あの…。」
「…大丈夫?」
「……もし君が僕を迎えに来た天使じゃないなら、是非助けて欲しいよ。」
「天使…?」
「…それで、何があったの?事故?それとも通り魔?」
お得意のジョークは調子が悪いみたいだ。
クールな自転車に乗った少女は、困り顔のまま事情を聞いてきた。走り去るよりマシな反応かな。
こうなってはもう恥などない、正直に「空腹と水分不足で死にかけていた。」と事の経緯と共に説明し、納得してもらう。
「…ただの遭難者だったんだね、ホームレスかと思った。」
「あ〜…まぁ似たような経験はあるけど…。」
「色々訳あり?でも餓死する前に見つかってよかった。」
「ホント、心からそう思うよ…。」
我ながら情けない、なんで僕はこう何度も女の子達に助けられるんだ…。でも今は感謝しないと、彼女が居なければ僕はヴァルチャーみたいに干からびてたかもしれないしね。
少女は自転車を停め、首に巻いたマフラーを揺らしながら此方に近付く。手には飲料水を入れるようなボトルを手にしていた。
「これ…エナジードリンク、ランディング用なんだけど…今はそれしか持ってなくて。」
「えっと…コップを……。」
「ああ神よ…。」
何度か神と呼ばれる者に出会ったことはあるが、これほど神に感謝したことはない。きっと、この出会いも神のおかげなのだろう。そう思うしかなかった。
少女が差し出したボトルを受け取り、喉を鳴らしながら一気に飲む。
空腹に突き刺さるエナジードリンクの感覚、こんな事で元の世界を思い出すなんて。水分が身体全体に染み渡り、カフェインが脳をジワジワと活性化させる。なんて心地好い瞬間だろう!
「あ…えっと……うん、嬉しそう。」
「……本当に助かったよ、君は命の恩人だ。」
彼女からすれば大袈裟かもしれないが、僕にとっては言葉通りの意味だった。
彼女の顔がほんのり赤みを帯びているのは…さっき自転車に乗ってたせいかな?マフラーもしてる暑いのかも?
まだ持っていたボトルを返し、一息ついたところで彼女が口を開く。
「…見た感じ、連邦生徒会の人みたいだけど……もしかしてうちの学校…。」
「『アビドス』に用が?」
「察しが良いね、その通り。」
彼女の言葉に頷きながら返事をする。薄々気付いていたが、やっぱりこの子、アビドスの生徒なのか。
と、すれば…。
「…君が手紙をくれた奧空 アヤネ……?」
「ううん、私は砂狼 シロコ。アヤネは同じ対策委員の子だよ。」
ハズレた、まぁとりあえずアビドス生が一人って可能性は消えたね。
けどラッキー、彼女に学校の場所を教えてもらえればスイングでひとっ飛びだ!既に校舎が乗っ取られてなければいいけど。
「それじゃあ、案内する?ここで死にかけてたってことは場所分からないんだよね?」
「気持ちは嬉しいけど…僕は自分の足で行くことにするよ。場所だけ教えてほしいな。」
「ん…わかった、じゃあスマホ貸して。」
スマホ、キヴォトスに来て初めて買ったものだ。元々持っていたスマホはこの土地に適応出来ず、ただの光る板と化してしまい、なくなく新機種を購入することに。だが元のスマホよりは断然性能が良い、SNSも充実しているし何より耐久性が高い。
そんなスマホを渡し、地図アプリに場所を入力してもらった。
「…はい、ロードバイクだとすぐだけど…歩きだとちょっとかかるかも。」
「十分だよ、今日中に着けるなら。」
「えっと…それじゃあ、また後で。」
停めてあった自転車に跨り、誰も居ない道を漕ぎ進むシロコ。その影が見えなくなれば、シャツの袖に隠してあったウェブシューターの引き金を掌に乗せる。数日ぶりのスイング、ちょっと身体に負担がかかるけど、これ以上アビドスの子達を待たせられない。
『先生、もしもの時は私が何とかしますから!』
「ありがとう、アロナ…それじゃ、行こうか。」
タブレットを肩から下げている鞄にしまって、目の前に並んでいる二本の電柱にウェブを飛ばす。そのままゆっくりと下がり、ギリギリまで糸を引き絞ったあと、パッと地面から足を離して糸を引き寄せながら勢いよくジャンプする。中々高く跳べたようで、今までさまよっていたアビドス自治区の一部の光景が目の前に広かった。
最初からこうしていればいい、って君は言うかもしれないけど、もしかしたら人に見つかるかもしれなかったし、何よりこれをやろうと思った時にはほとんど動けなくなっちゃったんだよね。
今は全く人が居ないことが分かったし、四の五の言ってられない状況だからこうして自由に跳べたってわけさ!
…ちょっとお腹にキて辛いけど。
でもそんな姿を見せないのがヒーローってものさ!辛い時は声をあげよう!
「LET'S GOOOOOO!!!」
そうして電柱にウェブを飛ばしながら、スマホに記された場所に向かってスイングする。全身に当たる風が心地よく、ウェブを離した時の無重力感がクセになる。だからスパイダーマンはやめられないんだ。
程なくして校舎が見え、ある程度近づいた所で地面に着地し、あたかも「歩いて来ましたけど何か?」と言いたげな表情で校舎に入ろうとした…のだが。
スパイダーセンスが反応した。
「おい、そこの金髪。」
「……え、僕のこと?いきなり金髪呼ばわりは酷くない…?」
声をかけられ、仕方なく振り返る。後ろに居たのはヘルメットを被った…女の子?それも数人いる。
初対面で金髪って呼んだことはひとまず置いておき、まさかと思いながら言葉を返す。
「…えっと、君たちがアビドスの……?」
「ひゃははは!もしかしてアンタ、何も知らないの?」
と、ヘルメット少女の一人が笑い声をあげる。ヘルメットのおかげで声がこもりそこまでうるさくは無いが、笑い方がちょっとユニークだ。
でもこの口ぶりからするにこの子達はアビドスの生徒では無いのだろう、では一体…?
その答えはすぐに判明した。
「私たちは『カタカタヘルメット団』!訳あってこの校舎を頂きに来たのさ!!」
「カタカタヘルメット団…?なにそのトラックスーツマフィアみたいな安直な名前…。」
このふざけた集団が、アヤネが手紙で書いていた「暴力組織」なのだろう。僕だったらもうちょっとセンスある名前にするんだけどなぁ。
ともあれ、先程の言動が彼女らを刺激したらしい。本当のことを言われて怒るのはヴィランの鉄則だね。
彼女たちは持っていた銃火器を僕に向け、手を上げるように指示した。もちろん僕は応じるよ、だって今の僕はシャーレの先生ピーター・パーカーだからね。
「お前…私たちをバカにしたな?ヘルメット団の恐ろしさを思い知らせて……!!」
「そこまでよ!」
背後から轟く銃声、それと同時に目の前のヘルメット少女が倒れた。
スパイダーセンスが反応してないから、恐らく僕を狙ったものでは無い…だとしたら。
他のヘルメット団と共に後ろを振り向くと、そこには銃火器を持った黒髪の美少女…と。
「シロコ…?」
「ん、助けに来た。」
同じく銃火器を持った銀髪の天使、砂狼 シロコが居た。
*トラックスーツマフィアとは、MARVELに登場する敵組織。詳しくはドラマシリーズ『Hawkeye』を観よう!