彼女たちで解決できるならそれでいい、僕が手を貸すべきなら喜んで助けよう。
…ただ、僕も少しは刺激が欲しいんだ。もちろん彼女たちのお荷物になるのは恥ずかしいが、スーパーパワーを持つ僕はそう簡単に足を引っらない…と思う。
常に危険と隣り合わせで、『友達』と遊んでいた日々とは程遠い。安心で安全な世界…それが退屈なんだ。
いつの日かJ・ジョナ・ジェイムソンが言っていたように、僕はただ人を殴るのを楽しんでいただけかもしれない…。いやいやいや、今更こんなことを悩む必要は無いだろう、いつも同じことを考えて、同じ答えを出してきたはずだ。「僕は大いなる責任を果たすために人を助けてるんだ」って。ベンおじさんを助けられなかった代わりに…ね。
僕は長机の上で両手を組み、シッテムの箱に映る戦場をただ眺めているだけ。時折組んでいた手を解いて、無線機から指示を送る。実際に指揮するより楽だけど、その分手持ち無沙汰になってしまう。
アヤネも同じように補給品を送りつつ支援をして、僕が指示すると同時に特定の物資を届けていた。
程なくして戦闘は終わった。大きな被害が出ず、異常事態は一度も起こらない。作戦は成功した、やったね。
「おかえりなさい!」
「おかえり、みんなお疲れ様。」
「おじさん疲れちゃったから休憩〜、この歳になるとあんまり動けないよー。」
先程の戦闘で確信した、ホシノは間違いなく相当の実力を持っている。タンクとして先頭に立ち、ショットガンで敵を一掃してしまう。見てて気持ちがいい。
そんなホシノはすぐさまアヤネの隣に座り、机に突っ伏した。パワーが強い代わりに体力を消耗しやすいのかな…?でもあれだけの時間動けるのは
その後に続いてシロコ達も帰還し、軽くだけど成功を祝う。
「もう…私たちとそんなに歳変わらないでしょ…。」
「ありがとう、パーカー先生……これで心置きなく全力で借金返済に取り掛れるわ!」
そういえばホシノがよく言ってる『おじさん』って一人称は一体…?まぁ突っ込むのも野暮かな。ドック・オクが言ってたら正気を確かめるけど…あぁ、元々正気じゃなかったっけ。
さて、カタカタヘルメット団も片付けられたし一件落着……。
「…借金返済?」
ありがとう、パーカー先生。なんて言葉につられて聞き逃したけど、今絶対借金返済って言ったよね…?
セリカの顔に「やってしまった」という言葉がモロに出る。彼女は分かりやすく取り乱し、他の面々も何か言いづらそうな表情をしている…。あれ、今の拾っちゃいけなかった…?
「あ…えっとそれは…。」
「ま、待ってアヤネちゃん!!それ以上は…!」
「……いいんじゃない、セリカちゃん。隠すことでもあるまいし。」
「一体何が…いや、言いたくないなら別に……。」
こういう雰囲気は苦手だよ、止めようとするセリカにいつの間にか顔を上げていたホシノが割り込む。ホシノが起きていたことには誰も突っ込まず、話は進んでいく。
「…先生は信頼できる、だから大丈夫。」
「そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」
信頼できる、なんて言い切っちゃうシロコに涙が出そうになる。
けど、セリカの言う通り僕は部外者だ。カタカタヘルメット団を退治して、御役御免。彼女たちにとってはそれで終わりだったはずなのだろう。
けど、彼女たちの反応からして普通の問題じゃない。先生として見過ごせないんだ。
「…セリカ、話だけでも聞かせてくれないかな?何があったか……。」
「…今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気にも留めてなかった!」
「この学校の問題は私たちだけでどうにかしてきたのに…今更大人が首を突っ込んでくるなんて……。」
「そんなの認めない!!」
あぁ、彼女の言葉で理解した。このアビドスの生徒たちはずっと…誰の手も借りられず難題に立ち向かってきたんだ。
僕はいつもそうだ、助けを求められていないのに他人の問題に首を突っ込んで…助けられた時もあるし事態を悪化させた事もある。
走り出すセリカの手を反射的に掴んでしまう、驚くセリカと少し焦ってしまう僕。
離そうと腕を引っ張るセリカだが、無意識に力を込めていた僕の手はそう簡単に離れなかった。その力の強さにも驚いただろうが、今はそんなことを気にしていられないといった様子だ。
「離して!!撃たれたいの!?」
セリカの声につい手を離し、彼女はそのまま走り去ってしまう。スパイダーセンスが反応しなかったから、本気じゃないことは分かる。
その背中を見ながら、僕は少し項垂れた。 今のは少し効いたね。
「先生、大丈夫ですか?」
「ありがとう、ノノミ…。」
「私、様子を見てきます。」
先生失格、なんて言葉を口にしてしまうとますます心配させてしまう。言葉を飲み込み、心配そうな顔で立っているノノミに笑顔を向ける。ノノミは頷いたあと、セリカの後を追って教室から出た。
少しの沈黙が流れた後、アヤネが説明を始める。
「…この学校、借金があるんです。それもかなり膨大で…。」
「そうそう、9億くらい抱えててねー。」
「…正確には、9億6235万円、です。」
「9億……。」
この子達が抱えるにはあまりにも大きすぎる数字、現実味が無さすぎてあまりピンと来ないのがこの問題の恐ろしさだ。
一生かかっても返せるかどうか…。
「それが…私たち『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。」
「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。」
「ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……。」
「そして…君たち五人になった…。」
0%、科学の分野に精通していた僕は何度もその数字を目にしたことがある。『確実』や『絶対』なんて言葉が付くあまり好きでは無い数字だ。結果が決まっているものほどつまらないものは無い。
「はい…学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです。」
「……借金をすることになった理由って?」
「…数十年前、この学区のある砂漠で、砂嵐が起きたのです。」
「この地域では頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。」
「学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。」
「その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした…。」
「しかしこのような片田舎に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず…。」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった。」
母校を想う気持ちが、逆に彼女たちを苦しめるなんて。
しかし、悪徳金融業者か…似たような組織と何度も殴りあってきた気がするよ。
「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。」
「しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどりました……。」
「……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がったのです……。」
押し黙る一同。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています。」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、パーカー先生、あなたが初めて。」
綺麗な顔をこちらに向けて、視線を合わせるシロコ。少し気恥しい。
「……まぁ、そういうつまらない話だよ。」
想像していたよりも、彼女たちは深刻な事態に陥っていた。これに加えて、カタカタヘルメット団の問題も抱えていたのか…。
「もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし。」
「…ここまで聞いたら戻る訳にはいかないよ、僕も一緒に頑張らせて。」
僕の言葉に目を見開くアヤネ、少しキョトンとするホシノ。
当たり前だ、僕は先生だからね。生徒の問題は一緒に解決しないと。
「それって…あ、はいっ!よろしくお願いします、先生!」
「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。」
「それが僕の良いところであり、悪いところでもある…かな?」
「うへ〜、もしかして過去に痛い目にあったりー?」
「…ご想像におまかせするよ。」
ようやく僕の顔にも笑顔が現れた。辛い話ばかりじゃ表情筋が固まっちゃうよ。みんなも笑ってくれて嬉しい限り。
こう言ったからにはちゃんとしないと、無事に借金を返済してみせる。
例え何年かかろうとも、彼女達がこの学校に居続ける限りサポートする。
誰も居ない廊下、ところどころ砂が積もって歩く度に軋む音が鳴る。
ふと立ち止まって窓の外を見たセリカは、どこか寂しそうに小さく舌打ちをした。