「おはよう、セリカ。」
さんさんと照り付ける太陽…は見えないね、今日は曇のち雨。
みんなと話し合うためにアビドスまで向かっていたんだけど、その途中で見知った顔に出会った。笑顔で話しかける僕とは正反対に、彼女の顔は引き攣っていた。
「な、なによ、なれなれしくしないで!」
「挨拶くらいさせてほしいな…これから学校?」
「私が何しようと、先生には関係ないでしょ。」
フン、と顔を背けるセリカ。これが俗に言うTSUNってやつか。
それしても凄い嫌われようだ、でも話には付き合ってくれるんだよね。
「朝っぱらからこんなところをうろちょろして…ダメな大人の見本ね。」
「僕はこれから学校に行くよ、セリカも一緒に行く?」
「なんでアンタと一緒に行かなきゃならないのよ…それに今日は自由登校日だから、学校に行かなくてもいいの。」
「学校に行く合間に親交を深めようと思ったのに…それじゃあどこに行くの?」
お誘いは断られた、いつもの事さ。こんなの慣れっこ。
でも生徒が行くところは気になるかな、大した理由は無いけど。
「そんなの教えるわけないでしょ。じゃあね、バイバイ。」
「あ…行っちゃった。」
セリカは砂埃を立てながら走り去り、僕は置いてけぼりにされてしまった。
…まぁいっか、生徒のプライベートに踏み込みすぎるのも良くないし…早くアビドスに行こーっと。
誰も居ないことを確認し、電柱にウェブを飛ばしてスイングする。
でも、念の為って事もあるしシャーレから持ってきたスパイダーマンのマスクだけは着けた。大丈夫、使うのはアビドスに行く時だけ…。
…あ、ヤバい。朝食べたハンバーガーがお腹にクる……。
そうして脇腹を抑えながらアビドスに到着し、セリカを除いた四人で色々話し合った…。ほとんど他愛ない世間話だけどね、でもみんな楽しそうだった。
数時間後・・・・・・・・・
さて、今日はもう解散らしいし、昼ごはんでも食べて帰ろっかな。
他の生徒たちは各自で食べるらしい、いつも通り一人飯だ。
…あぁ、アロナは睡眠中。『何かあったらすぐ呼んでくださいね!』って言ってくれたけど、わざわざ起こすようなことは…無いはず。
数十分歩いて見つけたラーメン屋は、漂う匂いからして最高のお店だと分かった。
「…柴関ラーメン…か。」
おっと、僕のお腹はもう限界みたい。生肉を目の前にした虎のように唸り声を上げている。
さっさと入ろうと店の扉に手をかけ、開くと…。
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで…。」
そこには可愛らしいバイト服に身を包んだセリカが居た。
まるでストーカーでも見たかのように目を見開き、口を開けたまま言葉にならない声を小さく呟く。
「な、なんで居るのよ!もしかしてストーカー…。」
「どうしたんだい、セリカちゃん。」
ジリジリと後退り、こちらを指差すセリカ。
そんなセリカに声をかけ、厨房から顔を出す…犬。
流石に驚きはしないが、どうやってラーメンを作ってるのかは気になる。
「……あぁ、いつもセリカがお世話になってます。」
「僕はピーター・パーカー、シャーレの先生として黒見さんたちの手助けをしています。」
「ちょっ…。」
「おぉ、あなたがシャーレの先生…噂は聞いているよ。」
「セリカちゃん、案内してやって。」
咄嗟に返事をして誤解は免れたようだ。
心底嫌そうな顔をするセリカ、けど流石に大将の言葉は無視できず小さな声で僕をカウンター席まで案内してくれた。
店内には僕しか居ないようで、注文をするまで沈黙が漂っていた。
「あ、注文いいですかー?」
「…え、私!?柴大将に直接言えば……。」
「あー、ごめんセリカちゃん。今手が離せなくて…。」
「あ…はい。それでは注文を承ります…。」
僕とセリカの関係性を感じ取ってくれたのか、大将が気を利かせてくれた。渋々僕に近付き、伝票を片手にこちらを見る。
「えっと…それじゃあこのとんこつラーメン一つ。」
「…とんこつラーメン…以上で…よろしかったでしょうか?」
「うん!じゃあよろしくね、セリカ。」
「つ、作るのは柴大将だから!」
たどたどしく注文を受けるセリカ、大将はちょっと笑っている。
ラーメンが届く間、セリカは厨房で洗い物をしていた。なんと僕の目の前で。まさかバイトをしてるとは思わなかった、これも借金返済の為に頑張っていることの一つなのだろう。
セリカは目を合わせたくないのか、ずっと洗い物を見つめて作業をしていたが、僕が声をかけるとすぐに顔を上げた。
「…セリカ。」
「な、何よ!今洗い物で忙しいんだけど!」
「…昨日はごめんね、あの後アビドスのみんなから事情を聞いたんだ。」
少し黙ったセリカは再び洗い物に目を落とし、手を動かす。
「…それで、面倒だから関わりたくないって?」
「セリカにとってはその…不服かもしれないけど、僕も手伝おうと思って…。」
ピタリと手を止め、此方を見るセリカ。パチパチと瞬きをする姿からは「信じられない」といったように見える。
「…なんで?今まで誰も気にしてこなかったのに……。」
「……なんで今更…。」
「…今まで相手にしなかった大人の責任を、僕が果たそうと思って…もちろんそれ以外にも理由はあるよ。第一、生徒の問題は僕が一緒に解決…し……。」
「な…何よそれ…。」
カウンターに置いてあるメニューをぼんやりと眺めながら言葉を並べる。次にセリカを見た時、彼女は顔を伏せていた。
皿を持っている手は震え、鼻をすする様な音が聞こえる。
「…ごめん柴大将、ちょっと外に……。」
「…おう。ゆっくりしてけ。」
彼女も本当は助けが欲しかった、タイミングが遅れただけなんだ。
見向きもしなかった大人のせいで、彼女は気持ちが溢れて涙を流す事になった。
これは僕のような大人の責任だ、しっかり果たさないと。
「…あの子のこと、ちゃんと見てやってくれないかい?先生。」
「…もちろんです、責任を持って皆のお手伝いさせていただきます。」
大将のラーメンはそれはもう美味しかった、その事を伝えたら大将は嬉しそうに笑った。
僕が店を出るまでセリカは戻って来なかったけど、次会った時には何かが変わっているはず…そうだ、時間もあるしアビドス自治区を見て回ろう。もしかしたら何か良い発見があるかもしれない。
あの後、店にはたくさんのお客さんが来たようで、セリカは涙を忘れて働いた。
疲れた様子で夜道を歩き、ため息を零す黒髪の少女。
彼女が今頭に思い浮かべているのは、きっと先生の事だろう。
急に現れ、ヘルメット団を殲滅し、挙句アビドスの借金返済にも手を貸してくれる…何故そこまでするのかセリカには理解しきれなかった。
面倒なことに関わらないのが大人だ、子供なんかマトモに相手しないのが大人だ。
「それなのに…。」
まだ先生のことは認められない、あれだけのことを言ってくれたのに、彼女は己のプライドと先生を天秤にかけていた。
そんな少女に迫る怪しい影、カタカタヘルメット団と呼ばれる連中の残党が背後から忍び寄っていた。
「見つけました、一人のようです。」
「…今がチャンスだな。」
人気の少ない大通りを歩いていたセリカの目の前に、ヘルメット団のメンバーが立ち塞がる。
実力ではセリカの方が上だが、数で押し切られては流石に分が悪い。だが今のセリカには感情をぶつける相手が欲しかったところだ。
「ヘルメット団?また懲りずにやって来たのね…返り討ちにしてやるわ!」
「それは…どうかな。」
背後から銃声が鳴り響き、一瞬だけセリカの体勢が崩れる。
その隙にヘルメット団のメンバーは容赦無くミサイルをぶち込む。
派手な爆発音と共に砂埃が舞い、それが消える頃には地面に倒れるセリカと、いつものスパイダーマンマスクを着けた
「う、うわぁ!?誰だこの変態!?」
謎の男の登場にたじろくヘルメット団、男はスッと屈み、お決まりの口上を口にする。
「…ヘルメット団からセリカを守る男!スパイダーマンだ!!」
…親愛なる隣人、スパイダーマンが参上した。
みんなお待たせ!やっとスパイダーマンの登場…あれ?活躍は次回に持ち越し?
…ごめん、みんな次の話に期待しててね!