星喰らいの盛衰   作:彼岸花ノ丘

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別れ
また今度


 ……これが、宇宙の悪魔と呼ばれた種族の末路である。

 

 ツイノアクマ(終の悪魔)の誕生以降、ホシグライの数は減少を続ける。当然だろう。ツイノアクマには繁殖力がないのにあまりの強さ故に数は減らず、無尽蔵の寿命によって比類なき捕食者として存在し続け、尚且つ同じ餌を食べるライバルでもあるのだから。激しい種内競争は生じているのに進化はしない、最悪の袋小路に入ってしまった。

 結局、約百三十億年後に正常なホシグライは絶滅。繁殖能力を持たないツイノアクマだけが残ったが、彼女達も共喰いや飢え、事故や文明との闘争などで死に絶え、更に百億年後に死滅している。

 

 繁栄から三百億年ほどで、ホシグライという種族は絶えた訳だ。

 

 星系文明すらも滅ぼす、無敵に近い肉体を持っていたホシグライ。だが彼女達を滅ぼしたのは、その強過ぎる肉体だ。

 例えば極端な長命でなければ、ツイノアクマの個体数は抑制出来た。繁殖能力がない以上、突然変異の数だけしか存在出来なくなるからだ。そうすればツイノアクマは、ホシグライの個体数抑制要素程度で終わり、ホシグライは衰退こそしても絶滅には至らなかっただろう。

 惑星を破壊するほどの戦闘力も、彼女達を自滅に向かわせた。誰にも止められない力故に、ツイノアクマが誕生した時に彼女達以外にどうする事も出来なかった。またその絶対的強さを維持するため、恒星自体を食べてしまう必要があり、これが他者との共存を不可能にしてしまった。

 止めに、一体の子だけを産むという少産少死の戦略。同種間競争を生き抜く上で最適な繁殖方法は、新たな進化を起こす上では最悪の方法だった。有性生殖により多様性を生み出せない強固な遺伝子構造だった事も、彼女達を自滅に追いやった。

 自分達が辿り着いた進化により、ホシグライは絶滅したと言えよう。

 

 ……それでも三百億年近く種を変えずに栄えたのだから、十分成功者と言えるかも知れないが。

 

 ホシグライ絶滅後の宇宙についても話そう。

 結論から述べると、元の姿に戻っていった。

 

 ホシグライ達の捕食により多くの恒星が爆散したが、星の残骸は残っていた。というよりホシグライが大量に食べたのは主に熱エネルギーで、残骸こと水素やヘリウムは、あくまで恒星の総質量と比べればだが、僅かにしか食べていない。爆発により吹き飛んだが、物質として見れば殆ど喪失はなかった。

 四方八方に飛び散った恒星の残骸は、やがて自らの重力により集まる。水素やヘリウムの集まりである星雲の誕生だ。その星雲も自身の重力により、少しずつだが一点に集まっていく。

 集まった質量が一定量を超え、核融合を起こせるだけの重力を生み出せば、ついに恒星が生まれる。

 一個の恒星が誕生するのに必要な時間は、数十億年ほどだ。ヒトから見れば途方もないスケールだが、宇宙からすれば大した時間ではない。何より三百億年というホシグライの繁栄と比べれば、遥かに短い時間だ。

 百億年も経たないうちに、消えた銀河の多くが再生した。

 

 恒星が再誕すれば、惑星を持った星系も新たに生まれる。惑星の中には、生命が誕生するのに丁度良い位置のものもある。

 誕生した生命は、惑星ごとに独自の進化を遂げていく。似たようなものがないとは言わない。しかし実に多種多様な生物種が生まれた。

 文明を持つほど知能が高い種も複数誕生し、それぞれが社会を発展させていった。中には石器時代に起きた災害で呆気なく滅亡したものもあるが、中には星系を飛び出すほどに発展したものもある。

 宇宙は再び、賑やかなものと戻る事が出来たのだ。

 

 強いてこの時の問題を挙げるとすれば、ホシグライは(銀河や宇宙の年齢から見れば)ごく短時間で一つの銀河を食い尽くしている事。

 このため恒星の爆発時期はどれもあまり差がなく、結果として恒星の再誕時期にも差が出なかった。つまり星系や惑星も同じ時期に誕生し、故に生命も同じぐらいのタイミングで生まれた。

 生命進化の速さは、その生物の遺伝子構造や環境変化、何より『運』により大きく左右される。しかし同程度の進化速度であるなら、知的生命体へと進化する時間も同じぐらいだ。文明の発展速度も似たようなものになる。

 そのためこの時期に存在した文明は、どれも発展具合が似通っていた。「なんらかの存在により文明の種が撒かれた」という『非科学的』な見識が、それなりの説得力を持つほどに。

 

 とはいえそんな些末な問題が残った程度、とも言える。

 元凶がいなくなった宇宙は、元の姿を無事取り戻したと言って良いだろう。ホシグライ達により消えた生命は膨大だが、物質が巡る限り、生命はまた蘇るのだ。

 

 ――――さて。

 

 ホシグライという種族を見て、君はどう思っただろうか?

 正直に言えば、星の爆発にも耐える無敵の肉体や恒星の運行さえも計算する優れた知能、更には不老不死に魅力を感じたのではないだろうか。

 恥じる必要はない。いずれの特性も古来よりヒトが望んできた夢だ。神話の英雄がどんな怪物にも負けないのも、不老不死の霊薬が語られるのも、全てはヒトが望んだからこそ出てくるもの。

 いや、今でも追い求めてはいるのだ。例えば無敵の力、つまり『最強』や『無敵』は、君達の文明では娯楽先品の一ジャンルとして確立している。求めていなければ、それが人気になる事はない。そして医療では次々と病を克服し、寿命を延ばすための研究も進められている。金になるという目論見もあるだろうが、言い換えれば需要があるからこそ金を生む。つまり多くの人間が、老いず死なずを求めている。知能だって高い方が良いと思い、むしろ自分より賢い存在を嫌悪する。

 

 確かに、個体としては理想だろう。負けず、死なず、知略に長けるのは。

 

 しかし個体としての勝利が、種の繁栄を意味する訳ではない。むしろ脆弱な種の方が、後の環境変化で適応出来る事も多い。

 生き残れるのは、強いものではない。環境に合わせ、自らを変えていくもの。

 ホシグライという生物の盛衰が、その事を何よりも証明しているのだ。

 

 

 

 

 

 これで『宇宙の悪魔』についての話は終わるとしよう。

 

 ヒトから見れば恐ろしい存在に見えるかも知れないが、無数に存在する宇宙の中には、彼女達に匹敵する存在というのは少なくない。いや、生命全体から見れば圧倒的な少数派ではあるが……ある程度は見られるものだ。中にはホシグライやツイノアクマを遥かに上回る身体能力を持ち、尚且つ十分な繁殖力・適応力を有した種族もいる。

 とはいえそれらのいずれも、最後には滅びた。

 

 滅びた原因は一つではない。病原体が蔓延した、種内での争い(戦争)が激化した結果、自分達と決定的に相性が悪い種族の台頭……

 だがそれら全てを乗り越えても、最後の最後で、どの種族も滅びた。

 

 何故なら、いずれは宇宙の終わりがやってくるから。

 

 宇宙の終わり方は複数ある。その宇宙がどんな物理法則をしているか、どれだけの質量を有しているかによって全く違う未来が待っている。

 だがどんな終わり方にしても、宇宙に訪れる絶対の滅びに歯向かう手立てなど殆どない。例え死を超越した存在だろうと、銀河さえも破壊する存在でも、宇宙が終われば跡形もなく消えてしまう。

 

 私はこれまで無数の……一個の宇宙に存在する素粒子の総数よりも多くの宇宙を見てきた。

 しかしそれだけの数の宇宙で生まれた生命の中で、宇宙の完全な終わりを乗り越えられたのは、ほんの僅かな存在だけ。

 君達ヒトがそれらの仲間入り出来るかどうかは、まぁ、言わないでおこう。私は未来を予測出来るが、それを伝える事の影響力もよく知っているのだ。未来が変わり、その生き物本来の生態が変化する事は、私の望むところではない。例え君達が跡形もなく滅びようとも、或いは数多の宇宙を征服して他の生物を根絶やしにしようとも、ね。

 

 だからこそ、私はこれまで無数の生命が宇宙と共に滅びていくところを見たのだが。生き物が好きだからこそ、出来ればどのような形であれ宇宙の終わりも乗り越えてほしい。これ自体は、私の本心だよ。

 

 ……ふむ。そうだな。

 次来た時には、宇宙の終わりを乗り越えた存在について話すとしよう。しかも極めて脆弱な、数多の生物の中で最も弱い存在だ。万物を創造する神でさえ抗えない破滅を、誰よりも弱い身体で乗り越えるなんて、興味を惹かれるだろう?

 とはいえ君は、もうそれがどんな存在か知っている。

 

 そいつらの名を君達ヒトの言葉で言い表せば、ポジトロニウム生命体。

 

 即ち君と話しているこの私、我々の一族の誕生と成長について話すとしよう。

 一族といっても、血縁も何もあったものではないがね――――

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