ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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正義の味方の仲間に手を出すとは、いい度胸だ(前編)

 事件は収束した。レフィーヤさんは無事に救出され、カーリー・ファミリアの団員たちは、ロキ・ファミリアによって制圧された。

 僕も、捕らえたイシュタルファミリアの主力達に、 真酒 (トゥルーシードル)入りの料理を食べさせ、何故カーリー・ファミリアと手を組んでいたのか、聞き出した。

 その結果分かったことは、イシュタル様は、フレイヤ様に喧嘩を売る為に、あらゆる手段を使って戦力を集めていたという事だ。

 今回カーリーファミリアに手を貸したのも、全てはその計画の一環だったらしい。

 他にも、禁忌のアイテムを取り寄せ、一人の眷属を生贄に、その人の魔法を誰であろうと使えるようにする儀式を企てていたそうだ。

 この時点で、相当重い罰則(ペナルティ)が与えられるのだが、どうにも彼女達すら知らない秘密が隠されているようで、イシュタル様本神を捕らえて吐かせる事が決定した。

 この情報は、ロキ・ファミリアが追っている案件を大きく進展させてゆくのだが、その話については別の機会にしようと思う。何はともあれ、一件落着という訳だ。

 一晩明け、僕達はオラリオに戻ってきた。街を歩けば、いつも通りの喧騒に、少しだけホッとする。

 そんな街中を歩いていると、前方から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ベル様ァアアッ!! 怖かったですっ! 怖かったですぅ!」

 その声の主は、小さな身体を目一杯使って、僕に突進してきた。

 それを受け止めると、僕のお腹に顔を埋め、グリグリと押し付けてくる。

「リリは、リリは本当に不安でした! もしリリがあの変態に捕まってベル様にご迷惑をおかけしたらと思うと、あああああもうダメなんです! 想像しただけで胸が張り裂けそうになるのです!」

 突撃してきたのはリリだった。

 彼女は涙をボロボロ流しながら、何度も何度も顔を擦り付けている。

 彼女がこれほどまでに取り乱すなんて、余程怖い思いをしたんだろう。

 僕は、そんな彼女の頭を優しく撫でる。

「一体、何があったの? 変態ってまさかフレ……いや、なんでもないよ」

 一瞬、あの女神様が思い浮かんだけど、何かするなら直接僕を狙う筈なので違うだろう。多分。

 そもそもフレイヤ・ファミリアには借金もまだ残っているし、このタイミングでこちらの不興を買うような真似をするとは思えない。そもそも、変態っぽい神様なんて、割と幾らでもいるし。うん。

「アポロン様です! あの変態のせいで、リリは大変な目に合いました!」

 そう言って、リリは語り始めた

 

 

─────

 時は遡り、二日前。

 港町へと向かうベル達を見送った後、リリはヴェルフに愚痴を零していた。

「むむむ……ベル様が女性だらけの旅に行かれてしまいました……」

「なんだ、ベルに付いて行きたかったのか?」

「当たり前じゃないですか! 何処の馬の骨とも知れぬ女共に、大切なベル様を任せられますか!? 汚されでもしたらどうするのですか!!」

「保護者かお前は」

 呆れたように溜息をつくヴェルフに、リリは憤慨してみせる。

 というか、都市二大派閥の団員に対して、馬の骨呼ばわりは如何なものだろうか。

 身元という意味ならば、これ以上無いくらいにしっかりしている者たちなのだが。

 

「冒険者なんて皆同じですよ! どいつこいつも裏では人の事を見下しています! あんな奴らに大事なベル様を任せられる訳がないでしょう!!」

「ベルも冒険者だが?」

「ベル様は冒険者である前に正義の味方なんですよ!! 迷宮(ダンジョン)に潜るのもあくまで強くなるためであって、本分は人助けなんです!」

「まぁ、間違ってはいないが……」

 確かに、ベルはそれ程迷宮(ダンジョン)攻略に積極的ではない。

 冒険に興味が無い訳ではないし、寧ろ英雄譚のような冒険に憧れている節もあるのだが、近頃は主な収入がアルゴ仮面としての興行に寄っている上、修行としてもフレイヤファミリアの幹部と闘った方が経験値(エクセリア)効率が良いこともあり、生業とはしていないのだ。

 尤も、上位の経験値(エクセリア)を得るため、時々知り合いの冒険者と共に深めの階層に潜りに行くこともあるのだが。

 それはさておき、リリが言う理屈で言えば他の冒険者にしても、皆が皆本業で冒険をしているわけではないのだが、そこを指摘したところで話が進まないことは明白である。

 

「兎にも角にも、リリ達も強くなって、ベル様を守らないといけません! ヴェルフ様、今日は付き合ってくださいね!」

 強くなりたい。今回の件は置いとくとして、今のままではベルが行くところの全てには同行できない。せめて、自分の身は自分で守れるようになりたいと、リリは意気込んでいた。そんなリリに、ヴェルフは苦笑しつつ答える。

「そうだな。俺もあいつの成す事を近くで見ていたいし、付き合うぜ」

 そうして、二人は迷宮(ダンジョン)へと出発した。今日はタケミカヅチ・ファミリアが中層探索に挑むとの事だったので、そこに同行させてもらう事にしたのだ。

 

 そんな二人を、物陰から見つめる複数名の姿があった

 

「ダメね、リリルカ・アーデが一人になるどころか、タケミカヅチ・ファミリアと合流しようとしてるわ。仕掛けるならここしかないけど……」

 リリ達を監視しているのは、アポロン・ファミリアの団員達。

 彼らは、ベルの関係者を攫い、人質にすることでベルを自派閥に改宗させようと考えていた。

 理由は単純で、アポロンが非常にベルにご執心だからだ。ストライクゾーンが広すぎる彼は、あらゆる下界の子ども達を気に入っては強引過ぎる手段で自派閥に引き入れている。

 そんな彼が最も気に入ったのがベルだった。

 ベルの容姿、性格、能力、そして何より、彼の纏う雰囲気を、アポロンはたまらなく好きになってしまった。

 そんな彼を、どうにか手元に置いておけないかと考えたアポロンは、リリに目を付けた。

 ベルの関係者で一番戦闘力が低いのがリリであり、かつ、彼女を人質にすれば、必ずベルは言うことを聞くだろうと判断したからだ。

 実際、正義の味方を名乗るベルが、リリを見捨てる事など有り得ない。そんな訳で、ベルがオラリオから離れていない内に、リリを誘拐する事が、彼らの目的だった。

 

「仕方ないわね。不冷(イグニス)が居るとなると手間だけど、やるしか無いわ。他の勢力に気付かれる前に終わらせましょう」

「了解」

 そう言って、計画を実行しようとしたその時、隣にいた団員の一人が声をかけてきた。

「ねえ、ダフネちゃん。やっぱりやめない? 夢で見たの。兎さんを怒らせちゃダメだって」

 彼女は震えながら、涙目になっている。どうやら、彼女は先日の悪夢を思い出してしまったようだ。

「ふざけないで。あんたの夢なんかで計画をやめられる訳ないでしょ」

「でも、ファミリアが壊滅しちゃうよぉ……」

 彼女が泣きそうな声で訴えてくる。しかし、信じる事など出来るはずもない。悪夢は所詮悪夢に過ぎないのだから。

 何より、彼女の言葉には呪いが乗っている。聞く者は絶対に信じない、決して他人に信じてはもらえない。彼女の夢は、そういうものだ。

「いい加減にして、カサンドラ! これはもう決定事項なの! ほら、もう行くわよ!」

「あぁ、兎さん……せめて、手荒な報いだけは勘弁してくださぃ……」

 カサンドラと呼ばれた少女は、涙をポロポロ流しながら、計画通りリリ達の後を追った。

 そして、アポロン・ファミリアは行動を開始した。

 

 

─────

「っ! リリ助、敵襲だ!」

 ヴェルフは咄嵯に叫ぶ。

 その瞬間、周囲から矢が放たれ、リリ達に襲いかかった。

 ヴェルフは腰の大刀を抜き、それを弾き飛ばす。

 一方、リリもヴェルフの警報に反応し、即座に彼の傍に駆け寄っていた。そして、荷物から魔剣を取り出し、周囲の冒険者達に氷風を放ちつつ、ヴェルフと共にその場を離脱する。

「あのエンブレム、アポロン・ファミリアですね! まさか、ベル様を!?」

「彼の太陽神様は、すこぶる面食いらしいからな! ベルの奴に一目惚れしててもおかしくねぇが、普通にお前狙いなだけかもしんねーぞ!」

「気色悪い事言わないでください! ヴェルフ様の可能性だってあるんですからね!!」

「ふざけろっ! 俺が男に狙われるタイプに見えるのか!?」

「彼の変態神にそのような常識は通用しません!!」

 軽口を叩き合っているが、リリは今ヴェルフに担がれている状態なので、あまり格好はつかない。しかし、そんな中でも、彼女は周囲をしっかり観察し、的確にクロスボウや魔剣で敵を牽制していた。

 リリは決して非力なだけの小人族(パルゥム)ではない。幼少期より地獄のような環境で生き抜いてきた彼女にとって、この程度の修羅場は未知でも何でもなかったのだ。

「路地裏の狭い道を選びましょう! ベル様の仲間として、無関係の一般市民を巻き込んではいけません! それに、このような広いところでは、数の差に圧倒されてしまいます!」

「こっちも魔剣を使い辛くなるが、仕方ねェか!」

「はい、どの道街が壊れるほど魔剣を振り回す訳にもいきませんからね!」

 正義の味方の仲間として、街の住人の安全を最優先に考える。敵が態々街中で襲撃してきたのも、それを狙ったものだろう。こちらの切り札である魔剣を乱用させない為に、世間体度外視の暴挙を選んだのだ。

 リリの言葉に同意しながら、ヴェルフは建物の屋根に飛び乗り、大きく跳躍する。行く手を阻むように矢が撃ち込まれるも、風の魔剣で矢の雨を吹き散らし、そのまま路地裏へと駆け込む。

 射線が通りづらくなり、矢の密度が減る。しかし、狭い道では当然こちらも逃げ道が限定される。敵はすぐに、退路を塞ぐように続々路地から現れ、ヴェルフ達へ追い縋ってきた。大人しく捕まれ、とでも言っているように。

 

「おいおい、俺たちを単なるベルのサポート要員と思ってんなら大間違いだぜ?」

 そう言いながら、ヴェルフはリリを下ろし、腰から大刀を引き抜く。

 それは、ベルが投影した螺旋状の武器を元に鍛え直し、ヴェルフに流れる精霊の血を通して、彼の力が引き出されるように調整した聖剣だ。

 本来であれば、彼の身には少々過分な剣。それでも、ベルと共に作り上げたその剣は、ヴェルフの手に良く馴染む。

 そしてリリもまた、魔剣をしまい込み、ベルが投影してくれた矢筒を腰に取り付ける。

 その矢は全てが、猟犬の如く標的を狙う魔の剣。本来の使い手でなくとも、その追尾能力は変わらない。クロスボウのサイズに合うように調整された、専用の武器をベルに投影してもらったのだ。

「はぁ……迷宮(ダンジョン)で窮地に陥った時のため、用意して頂いた矢を、こんな所で消費するとは思いませんでした……」

「まぁいいじゃねーか。これはこれで強くなるための試練として丁度良い。迷宮(ダンジョン)なんかに行かずとも、こいつらで強くなれそうだ」

 ヴェルフは不敵に笑いながら、次々と現れる冒険者達を吹き飛ばしていく。元より、彼はLv.2。

 対する相手も、この場にいるのはLv.2以下のみ。武器の性能差を考慮すれば、然程分が悪い戦いでもなかった。

 リリはそんなヴェルフの戦いぶりを見て、自分も負けていられないと、迫り来る冒険者達に矢を射る。

 徹底的に足を狙い、機動力を削ぐ。

 弾かれたところでその矢は魔力が尽きるまで、自動で敵を追跡し続ける。挟み撃ちになるよう計算して放たれたそれらは、確実に敵の数を減らしていった。

 二人の息はぴったりであり、互いの実力を信頼し合ったコンビネーションだった。仲間同士、常に互いをライバル視し、我こそがベルの相棒に相応しいと競い合う二人だからこそ、相手がどう動くかを予測し、連携を取ることができたのだ。

 

「しっかし、次々出てくるな……いい加減この剣を御すのもキツくなってきたぞ……」

「矢の数にも限りがあります。そろそろ誰か助けてくれそうな方と合流できませんかね……」

「もう一度屋根上辺りで火力戦といくか? 出来れば街中で魔剣を乱用したくはないが、人的被害さえ出さなきゃベルの名だって傷つかねぇだろ。こちとら被害者だしな」

 ヴェルフの提案に、リリは少し考える素振りを見せる。確かに、最悪の場合はそれも視野に入れないと不味い。しかし、残された魔剣はどれもこれも火力過多の代物ばかりだ。多少場所を選んでも、一番危険な火属性を避けても、被害を抑える事が出来ないかもしれない。

 本当に打つ手が無くなるその時まで、出来れば魔剣は使いたくない。

 

(というか冗談みたいに言いましたけど、そろそろ本当にリリ達の仕事仲間が助けに来てくれてもいい頃だと思いますが……)

 自分で言うのもなんだが、アルゴ仮面の興行において二人は重要人物である。その興行に一枚も二枚も噛んでいるフレイヤ・ファミリアが、既に騒ぎも大事になったところで動かないのは、少々不自然だった。広いオラリオといえど、第一級冒険者ならさして時間をかけずに、ここまで増援に来れるだろう。と、そこまで考えた時、ヴェルフが何かに気づいたように、リリの傍で呟いた。

「なあ、敵の気配が少し不自然な減り方してねーか? なんていうか、気付いたら一人消えてるみたいな……」

「あっ……成る程、そういうことですか」

 ヴェルフの言葉を聞いて、リリはすぐに状況を理解する。既に助けは来ていたのだ。二人にバレないよう、隠密に。

 何故態々こそこそする必要があったのか。それも、業腹ではあるが理解は出来た。この機会に、試すつもりだから。

 以前ベルに試練と称して、騒動を引き起こし戦わせていたように、今度はベルの仲間である自分達に、試練と称してこの騒動を利用しようとしている。二人でなんとか出来る程度の敵戦力だけをあえて残し、正義の味方の仲間としての矜持を試そうとしているのだ。

(本っ当に……! 上から目線で好き勝手してくれますねぇ……! ですが、一応感謝しておきましょう! 強くなれるなら、今はどんなものでも利用してやりますとも!!)

 そうと決まれば、迷うことはない。身勝手な思惑に、リリは乗ることにした。

 

「そろそろ本命が来る頃と見ました! 少々しんどいですが、ここは気張っていきましょう!」

 リリの言葉に、ヴェルフもまた笑顔を返す。その小さな身体で、強がり半分ではあろうが、最大限の度胸で立ち向かおうとしているのだ。仲間として、これ以上に誇らしいものは無い。

 それから、数秒ほど経った時、二人は遂に敵の首領と相対する。

 

「ふん、非戦闘員でありながら中々やるようだな」

 

 現れたのは、焦茶色の髪色をした美青年。Lv.3の冒険者にして、アポロン・ファミリアの団長を務める男、ヒュアキントス・クリオであった。

「貴様らに恨みはないが、アポロン様の為、捕まって貰う。行くぞ、お前達!」

「ハイハイ。行くわよ、カサンドラ」

 ヒュアキントスの号令に、付き従うように複数の上級冒険者が続く。

 ここからが正念場だと、二人も気を引き締め直す。

「全く、平気な顔して自分達の都合を押し通そうとする。これだから冒険者って人種は嫌いなんですよ!」

 リリは愚痴りながらも、新たな矢筒を準備する。

「まっ、荒くれ者の冒険者にしちゃ、まだ品行方正な方だろ。理不尽なことしてる自覚があるだけ、な! っしゃあ、行くぜリリ助!」

 ヴェルフも張り合うように、大刀に魔力を通し、構えを取る。

 こうして、第二ラウンドが始まった。




虹霓精刀(カラドウルス)
 一説では、聖剣エクスカリバーの元となったともされる螺旋状の剣を打ち直し、ヴェルフが宿す精霊の力を引き出す事に特化させた聖剣。
 無理をすれば、英雄級の一撃を放つことも不可能ではないが、それには大きなリスクが伴う。

赤原猟犬・小(フルンティング)
 血の匂いを嗅ぎつけ、獲物を自らの意思で追う猟犬の如し剣を、リリが扱えるクロスボウのサイズに調整した魔の矢。
 小さい分威力は低めだが、小回りが利き、使い方によっては大きく化ける可能性がある。
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